第4話 【タナカ少将Ⅰ】
戦闘の3週間後、呉に戻ったアキヤマ中佐は、司令部の呼び出しを受けていた。
事件の概要は、帰港前に暗号通信で司令部に報告済みだ。
直接報告のため、群指令室に出頭したアキヤマ艦長は、思わず息をのむ。
そこに待っていたのは群指令ではなく、潜水艦隊の司令官、タナカリュウイチ小将であった。
潜水艦隊の次代のホープとして、同期のトップで艦長に就任したアキヤマ中佐であったが、艦隊司令官と1対1で話をするなど初めての経験である。
「早速だが、先日の戦闘について報告してくれ」
タナカ小将に促され、アキヤマ中佐は緊張しつつも、事件の全容を報告する。
報告の間、タナカ小将は全く驚く様子も見せず、黙ってアキヤマ中佐の話を聞いていた。
報告を聞き終えたタナカ小将の反応は、アキヤマ中佐の予想に反して、ひどくあっさりしたものだった。
「分かった、退出して良し」
「ハイッ」
報告を終えたアキヤマ中佐は、タナカ少将が全く平静だった事に、逆に驚いていた。
そもそも艦長クラスが艦隊司令官に1対1で報告をするなど異例中の異例である。
さらに不自然なのが、タナカ小将の態度だ。
事件を実体験した本人ですら、何かの間違いと言いたくなるような報告なのだ。
司令官が報告内容をあっさり受け入れるなど、通常なら絶対にありえない。
そこまで考えたアキヤマ中佐は一つの結論に達する。
『タナカ小将は何かを知っていて隠している。少なくとも、ふゆしおを攻撃したのが何者かを知っている。』
思考の海に沈んだまま、アキヤマ中佐は司令部のエレベーターを待っていた。
やがて開いたエレベーターの扉から降りてきたのは、驚くべき事にふゆしおを攻撃した潜水艦に乗っていた少女、シオリだ。
ミカミ艦長も一緒である。
二人はアキヤマ中佐が通ってきた通路を戻るように進んでゆく。
『なぜ、このフロアに一般人が・・・?』
軍服を着ていない2人の姿にかすかな疑問を感じつつ、アキヤマ中佐は入れ替わるようにエレベーターに乗り込む。
アキヤマ中佐が「疑問」の答えを知るのは、少し先の話である。




