第9話 【ホワイトハウスⅡ】
事件の6日後、前日に発覚した実行犯の死亡という緊急事態を受け、関係者全員がホワイトハウスに再び招集された。
大統領執務室では、アンダーソン中将が経過報告を行っている。
「現在我が軍は、太平洋上に大規模な捜索網を構築しつつあります。
もし海上で不審な艦船を発見した場合、例え公海上であっても直ちに臨検を行います。
それよりも問題は潜水艦です。海軍に確認したところ、潜水艦の臨検は極めて難しい事が判明しました。」
「何か策はあるのかね?」
「策は一つだけあります、大統領。
今日はそれについて、ご許可を頂くために参りました。」
「分かった。聞こう」
「はい。潜水艦の臨検が不可能に近い以上、撃沈する以外に方法はありません。
とは言っても、太平洋上の疑わしい潜水艦を片っ端から撃沈するわけにもいきません。
それこそ大変な国際問題ですし、戦争になりかねません。
従ってチャーリーを運搬する潜水艦のみを正確に撃沈する必要があります。」
「そんな事が出来るのか?中将」
「チャーリーには遠隔操作魔法で起爆コードを送り込む事が可能です。
起爆コードを送り込めば、チャーリーは強制的に核爆発を起こします。
我が軍は全ての疑わしい潜水艦に対して、起爆コードを送り込みます。
もし潜水艦がチャーリーを持っていれば、チャーリーは爆発し、全てが完全に破壊されます。」
アンダーソン中将が進言する作戦は、詰まるところ核兵器の実戦投入そのものだ。
これはヒロシマ・ナガサキ以降、何度も使用が検討されながら結局は見送られた、アメリカ軍にとって最終手段と言うべき軍事行動である。
当然、ヒューム政権にとって簡単に受け入れられるものではない。
作戦に対して真っ先に疑念を呈したのは、ミラー副大統領である。
「しかしそれは部分的核実験禁止条約に違反するんじゃないのか?」
「ご心配には及びません、副大統領。そもそもこれは核実験ではなく、軍事作戦の一環です。
部分的核実験禁止条約は軍事作戦上の核使用を禁止する条約ではありません。」
「理屈としてはそうだろうが、実際に行えば世界に与える衝撃は大きい。国際的な非難は避けられないぞ。」
スコウクロフト補佐官の指摘に対して、アンダーソン中将はさらに驚くべき対策を進言する。
「事実をそのまま公表すれば、そうなるでしょうね。
国際的な非難を避けるためには『別の見解』を用意する必要があります。」
「別の見解?」
「核兵器を盗んだテロリストが潜水艦で逃走する途中に、誤って核兵器を爆発させてしまったという見解です。」
「中将、君は潜水艦爆発とアメリカ軍は無関係で押し通せというのか!?」
「その通りです、大統領。
この『見解』に説得力を持たせるため、チャーリーの起爆コードの存在は、同盟国にも知らせていません。
しかも証人である潜水艦の乗組員は、チャーリーが爆発する事により、一人残らず死んでしまいます。
物証も証人も存在しない以上、潜水艦撃沈に対するアメリカ軍の関与を外部の人間が証明する事は不可能です。」
アンダーソン中将の進言を聞き終えた出席者は全員が言葉を失い、沈黙が大統領執務室を支配する。
やがて、無言で考え込んでいたヒューム大統領が意を決したように口を開く。
「アンダーソン中将、君の言いたい事は分かった。
他に方法が無い以上、チャーリーの強制爆発による潜水艦撃沈については許可しよう。
撃沈に対する合衆国の見解については、君の意見も参考にしつつ、最終的にはこちらで判断する。」
「有難うございます、大統領。」
ヒューム大統領の決断により、軍事作戦の方針は決定した。
アメリカは今回の事件に対して、核を使用してでもチャーリーの秘密を護る覚悟を決めた事になる。
こうして核兵器の実戦使用の可能性が急速に高まる中、北太平洋の緊張状態はピークを迎えようとしていた。




