第4話 【ホワイトハウスⅠ】
事件の2日後、ホワイトハウス西棟に位置する大統領執務室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
アンダーソン中将が大統領とその側近に現状を報告する。
「ロバート・ホウ、この男が昨日より欠勤し、連絡が取れません。メインゲートの監視カメラ映像から、この男が事件当日の午後10時に車で実験場から外に出た事を確認しました。彼が犯人と断定して良いと思います。」
「チャーリーは車の中か?」
「カメラ映像から、そこまでは確認出来ませんでしたが、恐らくそうです。」
「単独犯なのか?」
「それはまだ分かりません。背後関係は調査中です。しかしロバート・ホウが1年前から技術者として、核魔法兵器の開発を担当していた事を考えれば、長期的な計画の下、犯行に及んだものと思われます。単独犯の可能性は低いでしょう。」
それまでアンダーソン中将と大統領側近との質疑応答を黙って聞いていたダグラス・ヒューム大統領が初めて口を開く。
「我が国が3年の歳月と50億ドルもの費用をかけて生み出した研究の成果が全て盗まれたという事だな。」
苦渋に満ちた大統領の発言に、出席者の全員が黙り込む。
重苦しい沈黙を破ったのは、当事者であるアンダーソン中将だ。
「まだ間に合うかもしれません、大統領。チャーリーが国外に出る前、最悪でも他国に渡る前に確保すれば我々の勝ちです。」
「どうやって確保する?アメリカ国内ならともかく、犯人が国外に出てしまったら、捕まえるのは容易ではないぞ。」
国家安全保障問題担当のマイケル・スコウクロフト大統領補佐官が即座に異議を唱える。
「この際、同盟国にも協力を求めましょう。協力してもらう以上、ある程度の情報漏洩は避けられませんが、全てを失うよりマシです。」
「アンダーソン中将、君は自分の責任を棚に上げて・・・」
「認めよう」
「大統領!」
「マイク、情報を知られるのが同盟国であれば、まだ傷は浅い。アンダーソン中将の言う通り、全てを失うよりマシだ。」
「ご承認頂き有難うございます、大統領。今回の作戦遂行に当たり、もう一つお願いがあります。」
「何かね?」
「統合参謀本部内に、チャーリー奪還作戦の臨時司令部を設ける事を許可して頂きたい。」
「それは構わないが、司令官の人選はどうする?」
「司令官については、適任者を探す時間が全く無いため、私が兼任します。」
「そうか・・・むしろその方が良いだろうな。聞いての通りだ、アレン。そのように取り計らってくれ。」
「分かりました、大統領。直ちに国防総省に司令部を設置します。」
ヒューム大統領は、国防長官の返答に対して満足げに頷くと、改めてアンダーソン中将に指示する。
「アンダーソン中将、今から君をチャーリー奪還作戦の司令官に任命する。奪還作戦の具体的な内容については、君に一任する。必要とあらば陸軍だけでなく、海軍と空軍の戦力を自由に使って構わない。では中将、直ぐに取り掛かってくれ。分かっているだろうが時間は無いぞ。」
「承知しました、大統領。全力を尽くします。」
大統領執務室を退出したアンダーソン中将を、スコウクロフト補佐官が呼び止めた。
立ち止まったアンダーソン中将の耳元で、スコウクロフト補佐官がささやきかける。
「随分と好き勝手にやってくれたな、中将。これでもしチャーリー奪還作戦が失敗した時は、全ての責任を取ってもらうぞ。君のキャリアもそこで終わりだ。議会の公聴会で君がどんな言い訳をするのか楽しみだよ。」
薄笑いを浮かべたスコウクロフト補佐官は、アンダーソン中将の返事を待たずに去っていった。
アンダーソン中将は、立ち去っていくスコウクロフト補佐官の後ろ姿を無表情で見送る。




