第19話 【魔法の優位】
潜航テストの翌日、アキヤマ中佐はタナカ少将に呼び出され、再び司令官室を訪れた。
「どうかね?初乗艦の感想は」
タナカ少将の口調は、どこか楽しそうだ。
アキヤマ副指令は、内心苦笑しつつも、努めて真面目に返答する。
「全ての面において、従来の潜水艦とは比べ物になりません。全くの別物というのが、正直な感想です。
もしオシリス級の魔力特化型潜水艦が量産出来れば、我が国は全世界の海を席巻する事になるでしょうね」
「その通り。だが魔力航行の問題があるから、現実には量産は不可能だ。
シオリの話では、魔力航行を行うには、術者と艦が一体になる感覚が必要なのだそうだ。
逆に言えば、その感覚が掴めさえすれば、潜水艦だろうが空母だろうが自由自在に動かす事が出来る。
これについては、中央魔法研究所が極秘で研究しているが、残念ながらシオリ以外に魔力航行を成功させたメイジは存在しない。
しばらく、この状況は続くと見るべきだろう。
オシリスの存在が明かされれば、周辺各国は、なぜ我が国がオシリス級潜水艦を量産しないのか不審に思い、一斉に諜報活動を開始する事が予想される。
彼らがもし、魔力航行と、その唯一の使い手であるハルカワシオリの存在に気づけば面倒な事になる。
もっと面倒なのは、同盟国であるアメリカだ。彼らは日米同盟強化という名目で、オシリスの秘密の開示を求めてくるかもしれない。
その場合、オシリスの秘密を守りつつ、同盟国との良好な関係を維持するため、オシリスの防衛圏には同盟国も含まれる事を、相手に示す必要が出てくる。
そうなれば、アメリカ西海岸までの広大な北太平洋全域がオシリスの防衛圏になる事は避けられない。
予想される事態に対して、現在の我々は全くの準備不足と言わざるを得ない。
今の状態でオシリスの存在が明らかにされ、この地域のパワーバランスに激震が走る事は何としても避けたい。
そのため私は、明日にもグレートヘイブンを離れる。
これまで話した通り、課題は山済みだが、機密保持が最優先のため、安易に人員は増やせない。
それでも君が来てくれたおかげで、私も安心して留守を任せる事が出来る。
私が不在の間は、ミカミ艦長と相談しながら、オシリスの実戦配備の準備を進めてくれ」
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司令官室を退出したアキヤマ副指令は、魔力航行についてタナカ少将が発した「術者と艦が一体になれば、潜水艦や空母を自由自在に動かす事が出来る」という言葉の意味について考える。
それはつまり、ハルカワ大佐が敵国の空母に乗り込むだけで、艦橋を制圧せずに空母を『乗っ取る』事が可能なのではないか?
ついにアキヤマ副指令は、魔力航行の持つ本当の意味に気が付く。
『魔力航行は世界の軍事戦略を根底から引っくり返す可能性を秘めている。その魔力航行の術者である世界唯一のメイジがハルカワシオリ・・・国家の最高機密になるのは当然か』
アキヤマ副指令の脳裏に、タナカ少将の予言がフラッシュバックのように蘇る。
『いよいよ時代が変わるのだ、これからは魔法が優位になる』
『タナカ少将の言われる通りだな、時代は変わろうとしている。その変革の震源こそ、ハルカワシオリなのだ。』
来るべき世界を予見したアキヤマ副指令は、決意を新たにするのだった。
第一部・了




