番外編 Part1 魔法遣いの休日(激闘編)
レイナと共にビーチバレーコートに到着したカナエは、コート上のただならぬ雰囲気に不安を覚える。
「逃げずによく戻ってきたわね、センジュレイナ。ヨロイ一族の名誉をかけて勝負だ!」
「ククク、返り討ちにしてくれる。泣いて謝るなら今のうちだよ、ミキ」
「あの~、これってレクリエーションだよね・・・?」
恐る恐る尋ねるカナエに、アドレナリン全開のレイナが即答する。
「ハッ?レクリエーション?何の話?」
一方のミキも完全に眼が据わっている。
「そう、これはもう女の意地を賭けた勝負。どちらかが倒れるまで戦いは終わらない。」
「エッ?」
『話が違うんだけど』とカナエが抗議する前に、勝手に試合は始まってしまう。
「一瞬で終わらせてやる!」
先攻のレイナはオーバーハンドサーブを打った瞬間、ボールに加速度魔法をかける。
加速度魔法の副作用により加熱されたボールは、たちまち炎に包まれ、ミキに襲い掛かる。
「その程度!」
ミキは自分の腕の前に極小の魔法装甲を瞬時に形成し、マッハ0.4まで加速されたボールをレシーブする。
レシーブの瞬間、2つの魔法がぶつかる衝撃とボール自体の物理的衝撃が重なり、大爆発が発生する。
しかし魔法装甲で完全に護られているミキは、大爆発にもかかわらず、かすり傷一つ負っていない。
一方、爆発のとばっちりを受けたカナエは、5mほど吹っ飛んだ上に砂浜を3回転してから、お尻を上にした格好でようやく止まる。
「ヒィー、無理無理、こんなのもうビーチバレーじゃないよぉ・・・」
メイジの才能は皆無の一般人であるカナエにとって、Aクラスメイジ同士の本気バトルに参加するなど、狂気の沙汰である。
ボールを交換し、次のプレーを始めようとしたレイナが、カナエがいない事に気付く。
「カナエ!おまえ審判だろ。早く戻って来いよ!」
「出来るかー!」
カナエとしては、自分が審判だったのも初耳だが、それを突っ込む余裕が無いほど、試合はヒートアップしていた。
最初のプレーでコートに張られていたネットは跡形も無く吹き飛び、コートは単なる砂場と化しているが、当然試合は続行だ。
「私が使えるのは魔法装甲だけだと思ったら大間違いよ!」
ミキは低くつぶやくと、アンダーハンドサーブを相手コートに打ち込んだ。
空高く舞い上がったボールが頂点に達したところで、ミキはボールに質量制御魔法をかける。
質量制御魔法により、わずか270グラムのボールは、たちまち1トンを超える凶器に変貌した。
落下してくるボールをレシーブしようとした寸前、質量制御魔法の副作用である高周波音に気付いたレイナは、とっさにジャンプして、ボールの落下点から飛び退く。
ドーン!!
周囲にビルが倒壊したような轟音が響き渡り、ボールが落ちた砂浜にクレーターが出現する。
「あっっぶなー・・・何すんだよミキ!今のはマジで死ぬぞ!」
「チッ!惜しい」
「あーそう、そういうつもりね・・・上等だ!!!」
ブチ切れた2人が持てる魔法の限りを尽くして戦った結果、コート上ではひっきりなしに爆発が発生し、ズンという地響きと共に地面が揺れ続ける。
「戦争・・・これは戦争だわ」
2人の喧嘩を見慣れているカナエも、ここまでヒートアップした姿を見る事はめったに無い。
こんな調子で3セットマッチでもやられた日には、島の地形が一変してしまうに違いない。
「これはもう、最後の手段を使うしか無いようですね。」
2人の戦いを呆然と見ていたカナエは、ついに伝家の宝刀を抜く事を決意する。
自分が吹き飛ばされないギリギリの距離まで2人に近付いたカナエは、力の限りに叫んだ。
「やーめーなさーい!!!」
カナエの気迫が通じたのか、彼女の声は何とか2人の耳に届く。
「アァ?」
「これ以上続けるなら、今日の夕飯はあなた達の大嫌いなアレにします!!」
「エッ・・・!」
その言葉を聞いた途端、2人の動きがピタリと止まる。
レイナとミキの脳裏に「アレ」の記憶が鮮明に蘇る。
2人の顔色がサッと青くなり、しばらく固まった後、ようやく口を開いたレイナの態度はコロッと豹変していた。
「やっぱり暴力は良くないよね、ミキさん」
ミキもすかさず同意する。
「全くその通り。無闇に攻撃魔法を連発して大喧嘩するなど、軍人として言語道断、あるまじき行為です。」
わざとカナエに聞こえるように大声で会話したレイナとミキは、カナエの様子を心配そうにチラチラ伺っている。
ミキの言う言語道断であるまじき行為を、今の今まで繰り広げていた2人に対して言いたい事は山ほどあったが、カナエはとりあえず矛を収める事にする。
一つ咳払いをしたカナエは、仏頂面で2人に話しかける。
「コホン、まあ今日のところは『アレ』は無しにしましょうか」
「ハアー・・・」
それを聞いた2人は思わず安堵の溜息を漏らしてへたり込む。
どちらかが倒れるまで終わらないはずの戦いは、こうしてあっけなく幕を閉じた。
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クルーが島を出発したのは、日も傾きかけた時刻である。
帰りのヘリコプターの中、自分以外のクルーが爆睡しているのを見渡したユウキは、全員が予想以上に楽しんでくれた事に満足する。
『みんなで行って良かったな・・・』
ヘリは夕暮れの空を、グレートヘイブンへと帰っていくのだった。




