番外編 Part1 魔法遣いの休日(キャッキャッウフフ編)
「どうですか」
自信に満ちたユウキの問いかけに、タナカ少将は素直な感想を漏らす
「いや、驚いた」
グレートヘイブンの実験施設の一部である広大な屋外実験場の中央には、シオリがまるで何事も無かったように立っている。
タナカ少将は、たった今、目の前で起こった出来事に驚きを隠せない。
「これほど強力な攻撃魔法を生身の人間が全て撥ね返すとは、
魔法装甲の応用で、こんな事が可能なのか・・・」
「魔法装甲と原理は同じですので、シオリの才能があれば十分に実現可能と予測していました。
結果はご覧の通りです」
「つまり、ほとんど全ての攻撃魔法を無力化する事が出来る訳だな、これならば安心だ」
「ではシオリの自由な外出を許可して頂けないでしょうか?」
ユウキの提案に対して、タナカ少将はしばらく無言で考えた後、渋い表情で話し始める。
「いや、ダメだ。シオリへの個人攻撃は魔法だけとは限らない。
特に人混みがまずい。すれ違いざまに物理攻撃を受けたらどうする。」
「分かりました。タナカ少将、それでは『人混み』でなければよろしいですね。」
「・・・ミカミ中尉、君は一体何を考えている?」
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「イヤッホー!」
カラフルなビキニを身にまとったレイナが、浜辺から海へと突進する。
頭の上に巨大なイルカ型の浮き輪を抱えているとは思えないスピードだ。
ここは北太平洋の赤道付近に位置する孤島である。
書類上は個人所有になっているが、実際には海軍が所有する島だ。
島全体がサンゴ礁で出来ており、三日月型の陸地と陸地に囲まれた内海に分かれている。
内海は波が穏やかな上に水深も浅く、海水浴には最適の環境だ。
赤道直下ならではの強烈な陽光に暖められた内海は、さながら温水プールのように快適である。
「ハァー、超気持ちいい!」
先程まで内海で大暴れしていたレイナが休憩を取りに戻ってくる。
「全員を呼んだ覚えは無いんだが・・・」
ユウキのつぶやきを、レイナは聞き逃さない。
「イイじゃん!どうせシオリがいなけりゃオシリスは動かないんだし、みんなで来た方が楽しいって」
「その通り、心身のリフレッシュは長期的な任務遂行に不可欠です」
ユウキが声のする方に振り向くと、ビキニ姿で腕組みしたミキが仁王立ちしている。
ユウキはミキを半眼で見つめながら話しかける。
「ヨロイ少尉、君まで無理に来なくても・・・」
ユウキの言葉を遮るように、ミキは全力で反論する。
「何を言うんですか、ミカミ艦長!
日照不足が深刻な潜水艦クルーにとって海水浴こそ最適のイベントです!
参加するのは、軍人として当然の責務です!
では、行ってまいります」
ミキは敬礼すると、元気一杯、内海に「出撃」していった。
スレンダーな体型のレイナとは対照的に、ミキは日本人離れしたグラマーなスタイルをしている。
黒という地味な水着の色が、ミキのスタイルの良さを逆に強調する結果となっていた。
「復活!!」
ビーチパラソルの下でコーラを一気飲みしたレイナが、再び海へと走り出す。
「おーい、ミキ」
ミキは声をかけながら近付いてきたレイナの身体を一瞥すると、挑発するように言い放つ。
「それにしても胸までAカップとは、さすがはAクラスメイジ・・・良くお似合いですよ、ぷぷぷ」
「ダジャレかよ!、大体ちょっと胸が大きいからって偉そうに」
「胸があるのも大変ですよ、もう肩がこって・・・ああ、負け組のセンジュ少尉には分からないでしょうが、一生」
「ま、負け組・・・コロス!」
いつもの騒ぎを横目に見ながら、ユウキは隣にいるワンピース水着を着たシオリに声をかける。
「ところでシオリは泳げるんだっけ?」
「泳げる」
「そうか、少し意外だな」
「研究所には私用のプールがあった」
「泳ぐの好きだったんだ」
「いや、それは違う。泳ぎが好きだったのは・・・」
その時、後ろから低い笑い声が聞こえたように感じて、2人の会話が途切れる。
「海、海ですよ、フフフ・・・」
不気味な笑みを浮かべたカナエの目がキラーンと光っている。
背後にカナエのオーラを感じたシオリは無言で固まってしまう。
なぜか顔面は蒼白だ。
「シオリ、どうかした・・・」
ユウキが話しかけながら隣を見ると、既にシオリの姿は無い。
気付いた時には、シオリを小脇に抱えたカナエが内海に向かって全力疾走していた。
「さあ泳ぎますよ、それーっ!」
カナエは小脇に抱えたシオリを、そのまま海面にぶん投げる。
競泳水着を着たカナエは腰に手を当てて戦闘準備万端だ。
3km程先にある内海の対岸には、複数のコテージが建っているのが見える。
カナエは、その中にある一つのコテージを指差すと、海面から顔を上げたばかりのシオリに宣言する。
「シオリちゃん、あれがゴール。どっちが早いか競争ね」
そう言うがいなや、カナエは対岸のコテージに向けて全力で泳ぎ出す。
どうやら反論は一切受け付けないようだ。
「・・・こうなると思った」
シオリは一度ため息をつくと、渋々コテージに向けてゆっくり泳ぎ出す。
「シオリちゃーん!そんなペースでは私に勝てませんよー、早く早く!」
もはや完全にカナエのペースである。
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シオリとカナエが出発して3時間後
「シオリちゃん、起きれる?」
対岸までの往復6km以上の遠泳直後にもかかわらず、カナエはケロリとしている。
もう一往復だって軽くこなせるに違いない。
「・・・無理」
一方、無理やり付き合わされたシオリの方はヘトヘトだ。
砂浜に敷かれたビーチマットにバッタリ倒れこむと、そのまま動けなくなってしまう。
「ハイ、飲み物」
カナエから手渡されたハチミツ入りのお茶で水分補給したシオリは、ひたすら体力回復に努める。
「あれー、どうしたんだシオリ、お腹痛いのか?」
ダウンしているシオリに声をかけたのはレイナだ。
「平気・・・」
「いや、平気じゃないだろ」
隣でシオリの世話を焼いていたカナエが、フォローを入れる。
「ごめんなさい。私がはしゃぎ過ぎたせいで、シオリちゃん、ダウンしちゃったの」
「ダウンしてない」
「いや、ダウンしてるだろ」
「それよりカナエ、ビーチバレーしないか?メンバーが足りないんだ」
「うん、でもシオリちゃんが・・・」
「私は平気」
「でも・・・」
「もう少ししたら、起きられる。大丈夫だから行ってきて」
「分かった、じゃあチョットだけ行ってくるね」
「シオリ、後でな」
「うん」
2人を見送ったシオリは、今まで感じたことの無い不思議な感情に当惑する。
『何故だろう?みんなが楽しいと、私も楽しい』




