第12話 【2人の想い】
「シオリ!」
ユウキの声が聞こえたのだろう、シオリは直ぐに反応し、小走りで車に近づいてくる。
車を降りたユウキは、近づいてきたシオリの手をしっかりと握り締める。
「ユウキ、来てくれた」
「シオリ、本当にシオリだよね?」
「ウン、本物」
お互いに話したい事は沢山あるはずなのに、それ以上の言葉が出てこない。
2人は笑顔で見つめ合ったまま、お互いの手を握り続けていた。
しばらくして少し落ち着いたユウキは、シオリの母親が涙ぐみながら2人の様子を見つめている事に気付く。
「す、済みません」
急に恥ずかしくなったユウキは、握っていた手をパッと離してしまう。
そのタイミングで、1人の女性がユウキに近づいて来た。
「初めまして、ミカミユウキ君。私はコザクラカナエと言います。よろしくね」
「よろしくお願いします」
ユウキはぺこりと頭を下げる。
「ここで立ち話も何だし、中に入りませんか、お母様もどうぞ」
カナエに案内され、ユウキ達は正面エントランスから中へと入って行く。
そこはホテルのロビーのような空間で、外光がふんだんに取り入れられ、あちこちに植物が配置される事で、心地良い雰囲気を醸し出している。
他には誰もいないロビーのソファーに4人が腰を落ち着けたところで、カナエが口を開く。
「ユウキ君、ここはセーフハウスと呼ばれる場所の一つなの。今、シオリちゃんはここに住んでいます。私はシオリちゃんの身の回りを世話をしているけれど、他にもスタッフは沢山いて、シオリちゃんを護っているわ」
『シオリを護る?』
ユウキとしては、なぜシオリが護られなければいけないのか、理解できない。
いや、そもそも理解できない事だらけなのだ。
まだ中学生のユウキにとって、全てが理解の範疇を超えていた。
ユウキの怪訝そうな顔を見たカナエはにっこりと微笑むと、話を続ける。
「セーフハウスに訪問者が来るのは、とても珍しい事なの。外部の人間がここを訪れたのは、シオリちゃんの御両親を除けば、ユウキ君が初めてよ。
おっといけない、ユウキ君が話をしたいのは、私じゃないよね。
シオリちゃん、今日は天気も良いから、ユウキ君を裏庭に案内してあげたら?
お昼になったら帰ってきてね、皆でご飯にしましょう」
「分かった・・・、ユウキ、こっち」
正面エントランスの反対側、建物の裏側には、よく手入れされた庭が広がっていた。
シオリとユウキはロビーの端にある小さな扉から裏庭へ足を踏み入れる。
裏庭の中央には小さな池があり、魚が泳いでいる。
2人は池の周りを散策していた。
2人きりになっても、シオリは何も話そうとしない。
ユウキは思い切って、一番気になっている事を聞いてみる。
「さっきのお姉さん、ここがシオリの家だって言っていたけど?」
「うん・・・」
「シオリ、いつになったら帰ってこれるの?」
「・・・私は、帰れない」
「帰れないって・・・、じゃあ学校はどうするのさ?」
「学校には、通えない」
ユウキの足が止まり、思わず声が大きくなってしまう。
「何だよそれ!家にも帰れない、学校にも行けない、シオリはこんな所で1人で過ごすって事じゃないか、そんなのおかしいよ!」
そこまで言ってから、ユウキはハッと気付く
そんな事は、シオリだってとっくに分かっているのだ。
ユウキはすぐさま反省する。
シオリは感情表現が不得意なだけで、感情が無いわけではないのだ。
「ゴメン、傷つけるつもりじゃなかったんだ。」
シオリはユウキをじっと見つめて口を開く。
「だから、ユウキを呼んだ。
ユウキがいれば、私は1人じゃない」
シオリの言葉にユウキも笑顔で応える。
「そうだね。離れていても、僕達はいつも一緒だ」




