第10話 【運命の少女】
「ハルカワさん、娘さんは本日より魔法省が保護します」
東京・青梅にある中央魔法研究所
研究所本館の奥まった一室で、政府高官である魔法管理局長の話を聞いているのはシオリの両親だ。
「保護・・・とはどういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味です。娘さん、ハルカワシオリさんは本日をもって日本国政府の保護下に入ります。大変申し上げにくいのですが、娘さんをご自宅にお返しする事は出来ません。このまま研究所内に留まって頂きます。」
「留まるって、いつまで・・・?」
「必要な期間、留まって頂きます。」
「そんなバカな!親がそれで納得すると思いますか?娘を帰さないというなら、きちんと理由を説明して下さい!」
「シオリさんが特別なメイジだから、というのが理由です」
「メイジが特別な学校に入って教育を受けなければならない事は知っています。けれども、それ以外は普通の生活が出来るはずでしょう?なぜ、うちの娘だけが家に帰れない事になるんですか?」
「・・・そうですね、ご両親という立場であれば、秘密を知る権利があるでしょう。ただし、ここから先は国家の最高機密になります。くれぐれも他言なさいませんように」
局長は一旦言葉を切ってから、これ以上はない真剣な表情で話し始める。
「シオリさんが普通のメイジであれば、ハルカワさんの仰る通りです。しかし先週、中央魔法研究所で測定したシオリさんの基礎魔力値は1,748,250マギニュートンを記録しました。これは50年前に魔力値測定が始まって以来、人類史上最高のスコアになります。
最初に地元で行われた魔力値測定では、シオリさんの基礎魔力値は測定機器の限界を超えて測定不能でした。これだけなら、稀に発生する事態です。
ところがシオリさんの場合、2ヶ月前に中央魔法研究所で行った測定でも測定機器の限界を超えてしまったのです。これは我々専門家にとっても全く想定外の事態でした。
我々はシオリさんのために2ヶ月かけて測定機器を改修し、ようやく彼女の基礎魔力値を知る事が出来たのです。
1,748,250マギニュートンという数値は、Aクラスメイジの平均的な基礎魔力値の約5000倍に相当します。
決して大げさではなく、シオリさんは世界の命運を変えうる存在です。
この事実を他国、特に帝国が掴んだ場合、娘さんは誘拐あるいは殺害の恐れがあります」
「殺害・・・!」
シオリの両親の顔がサッと青ざめる。
「シオリさんはあまりにも特別なのです。政府としては直ちにシオリさんを保護し、不測の事態を避ける結論に達しました」
「でもシオリはまだ12歳ですよ!親が必要です!」
それまで黙っていたシオリの母親が思わず感情を爆発させる。
「だからこそです!まだ12歳の娘さんを危険から護るために必要な措置です。ご家族が面会に来られる分には制限はありません。シオリさんは学校には通えませんが、娘さんの生活や教育については、不自由の無い様、出来うる限りの配慮をさせて頂きます。ご理解下さい!」
魔法管理局長はそう言うと、両親に深々と頭を下げるのだった。
30分後、別室で待っていたシオリの元を両親が訪れる。
10日間に渡る測定がようやく終わり、今日こそ家に帰れると思っているシオリは、両親の姿を見てホッとする。
『おとうさん達が迎えに来てくれた。これでやっと家に帰れる。ユウキにも会える。ユウキに何を話そうか?でもユウキに渡すお土産が何もないや。どうしよう』
笑顔で駆け寄ってきたシオリを無言で抱きしめる母親の顔は蒼白だった。
シオリを見つめる父親の顔にも全く笑顔が無い。
シオリは両親のただならぬ様子に不安を覚える。
「おかあさん、私おうちに帰りたい」
「シオリ、ごめん、ごめんね・・・」
抱きしめる力が強くなり、母親の体の震えがシオリに伝わってくる。
『おかあさん、泣いているの?』
母親はただシオリを抱きしめ、彼女の名を呼ぶ。
「シオリ、シオリ・・・シオリ君」
タナカ少将の言葉に、シオリはハッと我に返る。
「ここにいたか、探したぞ」
「紹介しよう、彼女がハルカワシオリ、オシリスの航行と攻撃を担当している。階級は大佐だから群指令と同格だな」
「お会いできて光栄です、ハルカワ大佐」
「うん・・・」
アキヤマ中佐に答礼しながら、シオリは別の事を思う。
『オシリス、私の船。たった一つの私のおうち・・・』




