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氷の王子は人魚がお好き  作者: セルバ
1/1

はじまりは水面で

作者の趣味全開です。どうぞお付き合いください。

「ようやく捕まえた」



海から俺を引きずり出した男は嗤う。


アイスブルーの瞳を歪ませて。



「もう二度と海になんて帰さないからね」



その熱い身体で俺を抱きしめる。


俺は漣の中で意識を失った。






❇︎







「アルス殿下、この城ももうここまでかと…。本格的に崩れる前に早く脱出してください」



崩壊しゆく海底の城で従者のルークは言った。



ここは海底の人魚の王国。

俺はこの国の第二王子。



永きに渡って陸の人間とは争いが続いていた。


人間は陸の支配だけでは飽き足らず、海までも支配しようとしていたのだ。


最初のうちはなんとか抵抗できていたものの、最近は防戦一方だ。


陸と海では資源の差がありすぎる。


どう足掻いたって負ける戦だったのだ。



こうしている間にも、ほら。



巨大な船から大きな鉄塊が海底に突進して来た。


人間の言葉で


「魚雷」


っていうんだとさ。どうでもいいや。



「俺は、逃げるわけにはいかないんだ」


「しかしこのままではお命が危ないです!」



それもそうだ。

死んだら意味がない。



「ここの王国から生き残っている人魚の避難はすんだのか?」


「はい、既に」


「なら俺も共に行こう。第二王子として人魚族の行く末を見守る義務がある」



父上と兄上もきっと大丈夫だ。


この海のどこかできっと生きてる。



「アルス様、参りましょう!」



ルークに呼ばれた。


行かなきゃ。



人魚はまだ負けてないのだから。






❇︎





それから、王国より少し離れた海に移った。


生き残った人魚の大半がそこにいる。



ルークには止められたが、俺は度々水面に顔を出して人間の様子を伺っていた。



その度にルークに怒られる。



「大丈夫だ。少し顔を出しているだけだから」


「見られたらどうするのです⁉︎ただでさえ貴方は目立つ容姿をされているのに…」


「人間からしたら人魚は珍しいかもな」


「そういうことではありません!…その、アルス様は大変、容姿が美しくあられるので…」



何言ってんのこいつ。



「とにかく、また行ってくるから」


「あっ、お待ちください!」


「1日一回は見に行かないと落ち着かないんだ。すまない」



ルークを振り切るように速く泳いだ。


人魚の中でも泳ぐのは速い方だと自負している。




ただ、今日だけはやめときゃ良かったんだ。


そうすればあの男と会うこともなかったのに。




❇︎




ちゃぷっ



水面から顔を出す。


辺りには大海原が広がるだけで異変はない。

いつも通り。


人間が攻めてる様子も…



あれ?



背後から奇妙な音がした。



ウゴゴゴゴと、地を這うような低い音がする。



やな、予感がする。




それでも振り返ってしまった。


そこには巨大な船があった。



船の先端には一人の男がいる。



金の髪をなびかせた、この世のものとは思えぬほど美しい男だった。



目が合う。



凍てつくような瞳に捕らえられて俺は動けなかっ

た。



人間に姿を見られた。



それだけでも大変なことなのに、俺はその場ですくみあがっていたのだ。





ふと、男が近くにいた従者らしき人に何かを言った。


良くないことを言った気がする。


すると俺のいた方に向かって巨大な網が船上から投げ落とされた。



まるで人間が漁で魚を捕まえるように。



網が俺に覆いかぶさる瞬間、海に潜り込んだ。



自慢のヒレで水を蹴る。




ぐんぐん潜る。


なんとか網をくぐり抜けた。

捕まらなかった。




これで捕まっていたら、と思うとゾッとする。



何をされるのかわかったもんじゃない、人間なんて。





海の底に戻ってルークに


「お変わりはありませんでしたか」


と聞かれた。


捕まりそうになったなんてとても言えなくて、嘘をついた。



今回のことは偶然だ。きっと。



ここから離れていた海面だし、ここの人魚に迷惑をかけることもないだろう。




それからしばらくは平和だった。


貧しかったが、一からまた初めて王国の人々は元の暮らしを取り戻しつつあったのだ。


人魚の王国に笑顔が戻り始めた。


しかし平和というのはあっという間に崩れ去る。



この海にも人間の攻撃が始まったのだ。



本当に、突然だった。


誰も対応できなかった。



元々人数が減っていたのもあって、同胞が次々に死んでゆく。



ルークは最後に俺を抱きしめてから、



「お逃げください」



と、言った。




おい、お前はどうするんだよ。


俺だけ逃げるの?



…さみしいよ。




それでもルークは俺の背を押した。


悲しくて、わけがわからなくて、それでも泳いだ。


どこに向かっていたかなんて全然わからない。



でも泳いだ。



いつのまにか体力は尽きていて、俺は見知らぬ岩部に打ち上げられていた。



あぁ、眠い。



死ぬのかな。




もうどうだっていいや。


せめて、



ルークと…父上と兄上が生きててくれたらいいな。


亡くなった母上に逢えるのなら悪くないかもな。




そう思って目を閉じかけた矢先、誰かの声が聞こえた。


足音とともに。



誰…?




「ようやく捕まえた」


え?



誰かが俺を抱え込む。


体力なんてとっくに尽きていたから俺はされるがままだ。



「もう二度と海になんて帰さないからね」



なんか、信じがたい言葉をかけられた気がする。



そして俺の意識はブラックアウトした。

ありがとうございました。

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