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layer0  作者: 運転安全
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霊能力編3

 翌日。

 ふみはマイとの待ち合わせ場所である治安維持館の裏口へと向かった。


「マイー!」

「きたかー!」


 マイはすでに先に到着しており、後に来たふみが遠くから手を振ってみせる。


「ちゃんとかわいい服を着てきたようだね」

「これで大丈夫? layer2からそのまま持ってきたやつだよ?」

「うん、大丈夫」

「マイの服もすごくいいよ。そのままlayer2に行っても大丈夫だよ」

「行かないよ〜」


 それから二人は歩いて駅まで行った。道の途中に、治安維持層地区と常人層地区の境界を現す表示板があったが、それ以外はlayer2のものとほとんど変わらない。車や電車もあり、形さえもlayer2のものと同じであった。

 だが文化が微妙に違うため差異はある。大きく違うのは文字と通貨。他にも完全に一致しているわけではなく、ふみにとっては外国のような感じであった。


「ほとんどlayer2と同じ。どういうことなんだろう」


 二人で歩きながら、ふみが口にした。layer1のテレビは見ることが出来るため、ふみの疑問は初めて思ったことではなかった。

 マイがふみの方を向いて話した。


「治安維持層の活躍のおかげだよ。ふみがいる分析業務の他にも色んな業務が合って、layer2から発達した技術をlayer1に伝達する仕事もある。そういう人たちのがんばりのおかげで、ふみたちがいた世界から、便利なものをこっちに持ってきてるって」

「あー、そうなんですね。でも不思議です。layer1からlayer2に持ってきているわけではないんですね」

「うん、layer2からlayer1へ、治安維持層が持ってきてる。間違いないよ」


 layer間の技術や流行が共有されているため、ふみの服装がlayer1でも普通の服装として認識されているのであった。


 電車の構内でふみが立ち止まる。周りには誰一人いなかった。


「電車は乗ったことある?」

「はい、カードを使った支払いや入金する機械まで本当に同じ。ただお金が」

「あれ、お金はあるよね?」

「気のせいかな。運賃が安すぎる気がする」

「え? そうなの?」


 二人は問題なく改札を通る。すでに電車は止まっていたため、すぐに乗り込んだ。

 電車の中は、ふみとマイ以外誰もいなかった。


「安すぎるってのも変な話だね。もう給料はもらったんだよね?」

「はい。でも治安維持館にあるお店で食品とか生活用品しか買ったことなかったんです。だから物価というものがいまいちよくわからなくて」

「それはもう自分のお財布と相談するしか無いね。一応言っておくけど、お給料は事務職の私より、ふみの方が何倍も高いから、あまり高い店だと私が予算オーバーしちゃうかも」

「え、逆じゃないの? 私の方が高いの?」


 ふみが驚く。

 マイが会話を続けた。


「ふみの方が高いよ。ふみのお給料の具体的な金額は知らないし、私のお給料もなんとなく言いたくないから言わないよ? でも間違いないよ」

「本当なの? だってマイは常人層だし、私より高い位だと思ってたんだけど」

「そうだよ。でも労働の質と時間が全然違うのよ。私は極端な話、規則に従っていれば誰でも出来るものだし労働時間も厳密に決まっている。でもふみの仕事は誰にでもできるものではないし拘束時間も長い。更に言うと命までかかっている。だから、平均収入は常人層の人たちよりも治安維持層の方が遥かに高いの。分析業務はトップレベルで危ない部署だから、ふみの方が飛び抜けて高いのは間違いないよ」

「へぇー」

「もっと言うと、常人層と治安維持層では上下関係ってのはほとんど無いも同然みたいだね。私みたいな常人層の人が、仕事に生きがいを見出したいとか収入を増やしたいって思って、わざわざ治安維持層の位を取得することもよくあることなんだ。常人層のさらに上にあたる悪魔層、天使層、大天井になってくると話は全然違ってくるんだけどさ」

「あ、あくま? だいてんじょう?」


 ふみが聞き慣れない言葉に反応した。

 悪魔、天使という言葉自体は理解できていた。


「うん、そう言う位の名前」

「本当にlayer2と全然違うんですね。もう少し勉強してきます」

「あはは、私は靴と服が見たいなー。ふみは何を着ても似合いそう」


 仕事の話になったため、マイは無理やり話を元に戻した。


「ふみは行きたい所ある?」

「スポーツ用品店に行きたい」

「ふみはスポーツ得意そうだけど、何かやってるの?」

「いえ、スポーツとか今まで全然したこと無いけど、こっちに来てからよく走るようになったから、なんか無いかなって」

「へえー、走るのが好きなんだ」


 マイがふみの体を見る。

 ふみの体型は非常に整っているため、全然したことがないと本人が言っているにも関わらず、運動能力が高そうに見えた。


「あと格闘技とかやってます」

「は? 格闘技?」


 マイは不思議に思ったものの、すぐふみが分析業務であることを思い出していた。


「ああ、そうだね。ふみは戦士だったものね」

「なにそれ、戦士?」


 マイは目の前にいる女の子が本当に戦士であるのか疑問に思っていた。

 この子が分析業務の昇進義務を合格しているのは事実。しかしマイは、それ以上のふみに関することは知らなかった。過去、ふみが大量の人間を殺していることすら知ってはいない。

 ふみの体は、当然女性のものであった。このふみの細い腕に、本当に筋肉が詰まっているのか。それを確認するために腕をつまんで見る。


「ひゃあ!」

「ここに筋肉が詰まってるのね」

「ど、どうしたの?」


 急に体を触られたふみが声を上げる。


「いや、格闘技やってる人の体ってどうなんだろうって」


 笑顔でマイがふみに答える。


「えー、普通だよ。トレーニングしたばっかりだし」


 ふみも笑顔で答える。

 だが心の底では、悪い意味で意外な考えが、ふみの心を覆い尽くしていた。


(たぶん、マイは私の過去を知らないんだ。)


 マイがどこまでふみのことを知っているのか。恐らくは何も知らないのだろうと、ふみは日頃から感じていた。治安維持館で働く人が、ふみの過去の犯罪をどの程度まで知っているのか全く把握できていなかった。

 たぶん何も分かっていないのではないか、そんな予想はできていた。それが徐々に確信に変わりつつある。

 ふみは男性どころか女性までも誘惑している過去がある。さらに肉体関係を築いた後は、一人の例外もなく殺害している。そんな殺人鬼と一緒にお出かけしたいと思うだろうか。まして、体を不用意に触ってくるだろうか。


(私はマイと一緒にいるのが楽しい。そしてマイも楽しいんだろうな。)


 ふみの中で引っかかっていた疑問が心の中で明確になって現れ出た。

 でも考えないようにする。マイとのこれからのことを考えると、どこか悲しい思いがした。


「格闘技のトレーニングってどんなことしてるの?」


 マイが質問をする。


「受け身の練習とか、逆に人を地面に叩きつけるとか。あと、パンチを急所に叩きつける練習とかかな」

「急所って、殺す気なの?」

「うーん、なんか慌ててもとっさに受け身を取ったり、急所へ拳を叩きつけられるような基礎練習とかやってる」

「殺す気なんだ」


 マイには想像の出来無いことをやっているふみの日常は、尽きることのない興味の対象であった。


「ふみって、やっぱり強い人なんだなー」

「そんなことないよー。まだまだ教官の人たちには敵わないし」

「暁斗もこんな感じなの?」

「佐々野さんが言うには、私と佐々野さんは強さは同じくらいだって。なんでそんなこと言うのかはわからないけど、間違いなく私より佐々野さんのほうが何倍も強いと思うよ」

「暁斗はなんか見るからに強そうだもんね」

「実際に強かった。クマみたいなケモノを紙くずのように扱ってたし」

「クマ!」

「うん、美味しかったよ!」



 場所はスポーツ用品店。

 layer1で行なわれているスポーツはlayer2とほぼ同じのため、店の様子はlayer2と同じであった。スポーツ用品を製造する専門技術がlayer2の輸入だからである。


「あとは、タオルと、服と、靴と、それくらいかな」


 ふみが商品をかごに入れる。


「リストバンドとかは?」


 マイが適当に話しかける。


「えっと、何に使うものなの?」

「わかんない」


 二人は色々話しながら買い物を進めていた。


「ああ、そうそう言えばさぁ」


 マイが話を切り出した。


「もうずっと昔、学校に行ってた時の話だけど、友達がバスケ部で何回かこういう店に来たことがあったなって」

「layer1にもバスケってあるんだ」

「ふみは学生の時はどんな子だったの?」

「うーん」


 少し考える。

 ふみは自分がどんな学生であったのか、ほとんど覚えていなかった。


「私は中学のとき、何人か友達がいたような気がするんだけど」

「気がするの?」

「うん、でも母に捨てられてから学校に行かなくなって、働くようになったんだ」

「母に捨てられた?」


 マイが驚いて聞き返す。


「もうずいぶん昔の話だけど、私はお母さんに捨てられて学校を辞めてね。それから施設に行って、色々あったんだろうけど、友達とか全然覚えてなくて」


 ふみは笑顔でマイに返答するものの、マイはあまり冷静ではいられなかった。


「あのときの私って、どうやって友達を作ってたんだっけ」

「あのさ、ふみ」


 マイが言葉を遮る。


「なんかごめん。予想より重い話でびっくりしちゃった」

「私も突然思い出してびっくりしちゃった。変な話してごめんね。全然気にしないでね」


 ふみは何も思ってないようだった。


「働いてから仲良くしてる人は、マイしかいないよ」

「そうなんだ」


 マイが少しうれしそうに返答した。


「いや、マイだけじゃなくて、佐々野さんも仲良くしてるの忘れてた」


 相変わらずの笑顔でふみが答えた。

 マイはふみのことを全然知らない。だが、この会話で少し分かったような感じがしており、嬉しく感じていた。


(ふみは友達が多いのかなって思ったけど、そうじゃないのかな? 私と一緒にいるのは楽しそうに見えるし、ずっと仲良くしていきたいな。)


 マイが心の中でつぶやく。

 ふみと目が会うと、お互い笑顔になった。

 だがふみの考えていることは、マイとは余りにも大きな違いがあった。


(働いてから出来た友達は、私の癖のせいで、みんないなくなっちゃった。)


 マイが視線を外してからも、ふみはじっとマイの横顔を見続けていた。


(マイって可愛い。)


 悪い癖がじわじわと脳を侵食する。


(マイって私に殺されるために産まれてきたのかな。容姿も、性格も、声も、匂いも、体も。マイの全てが、すごく、かわいくて、私のものにしてしまいたい。)


 手に汗が滲む。

 動悸が早くなる。

 心の中でどす黒い欲求が湧き上がってきているのが分かった。


「ふうー」


 そんな体の変化を自覚したため、すぐ深呼吸して脱力した。


(でもダメなんだよね、そんなことしちゃ。ねえ、佐々野さん?)


 ふみの視線に気がついたマイは、顔を向けて笑ってみせた。


「なに? どうしたの? 私の顔になんか付いてる?」

「マイって化粧品は何を使ってるのー?」


 適当にごまかす。

 ふみの考えていることをマイが想像できるはずがなかった。


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