天使管轄区域8
分析業務の扉には第一級会議の看板が立てられた。
エレナとフレイは完全にお休みとなったものの、二人は成り行きが気になるため、トレーニングをしては分析業務の扉を確認していた。ハルトまでもが似たようなことをしていた。
「はじめまして。私は大天使アマンダ」
暁斗の前に堂々と現われる。
元大悪魔アマンダ。
暁斗が会った中では最大の知名度を誇る大天使であった。アマンダも相当な自信があるため、身なりは若いものの堂々と暁斗と対峙していた。
「えっと、私は大天使イリーナですが」
アマンダは暁斗を睨みつけるくらいの勢いでいたものの、イリーナはマイの方を向いて驚いていた。
「はじめまして。俺は佐々野暁斗・・・」
「ちょっとアマンダ、あれなに? ふみは何してるの!?」
言われてアマンダがマイの方を向いて、アマンダも驚いていた。
「おい、ふみ! どこか具合が悪いのか?」
マイの膝枕で寝ているふみの周りに、アマンダとイリーナが駆け寄る。
ふみは二人を少し見たが、すぐマイの体の方に顔を向けてしまった。
「あ、ふみは具合が悪いわけじゃないので安心して下さい」
マイが恐る恐る話しかけた。
「膝枕しているようにしか見えないんだけど」
「あっていると思います」
そう言うと、マイがふみの頭を撫でながらふみに言った。
「ふみ、お友だちがびっくりしてるから起きて?」
「いや」
アマンダが非常に真剣な顔でマイに問いかけた。
「ふみはついに狂ったの? いや、元々狂ってるようなもんだけど、流石にここまでおかしくはなかったよ?」
「ひどい」
ふみがつぶやいた。
そこに暁斗が近づいてくる。
「ふみがどうかしましたか?」
暁斗が言った。
「ちょっとー! あんたのせいなの? ふみを元に戻してやってよ。なんか変な術でも使ってるんでしょ? アダムみたいに!」
イリーナが暁斗に食って掛かる。
「いや違います、何もしてませんよ。というか、そんなに普段のふみと違うんですか?」
「ええー?」
アマンダとイリーナが暁斗の前に座る。
自己紹介を済ませるものの、最初の勢いは無くなっていた。
「あと、ふみを膝枕しているのがマイなんですけど」
暁斗がマイに視線を向けた。
「ほら、ふみ。いい加減に起きて。私も自己紹介しなきゃ」
「うん」
二人で起きて、三人の方に向かう。
「はじめまして。私は常人層・事務所属のマイです。治安維持層・分析業務とは兼任ですが、今はほぼ分析業務のみで働いております」
「話はふみに聞いてはいます、よろしく」
アマンダがマイに言った。
「マイー! よろしくー! 私もよろしくー!」
アマンダとイリーナの挨拶に丁寧に頭を下げる。
「しかし、暁斗がどんなやつかって思って、ふみと暁斗の二人に少しいじわるでもしてやろうかと思ってたのに、ふみがイカれてるからこっちが怖くなっちゃったよ」
アマンダが暁斗に言った。
「お手柔らかに」
暁斗は落ち着いた態度でアマンダに答えた。
「私もふみに膝枕してあげたいんだけど、どうすればいいのかな。マイはわかる?」
イリーナが問いかけた。
「いえ、ごめんなさい。私にもわかりません」
「そうかー」
ふみはマイにずっとくっついたままであった。
「ちゃんとふみの事を聞きたい。どうしてふみはこんなにベッタリなんだ?」
アマンダが暁斗に問いかけた。
「悪魔になった辺りだったと思いますが、大体いつもこんな感じですよ?」
「おい、ふみ。なんで私たちと一緒のときはべったりじゃないんだよ」
アマンダが問いかける。
「マイがいい」
そこでイリーナが近づいて、ふみに話しかけた。
「ねえねえ、私の所に来てもいいよ。抱っこしてあげる」
ふみは顔をあげてイリーナを見たものの、一言も喋らずにマイに抱きついた。
「無視された」
「今のは私でも無視すると思う」
それから一同は、とりあえずふみを無視して話を進めることにした。
「無理を言ってしまってすまんね。でもどうしても暁斗とマイに会ってみたいってふみには言ってたんだ。で、会話申請を出してしまった」
アマンダが暁斗に言った。
「了解ですが、大天井からの命令は可能であればマイではなく、俺の方に言ってもらえれば」
「ああ、わかった。でも命令なんてするつもりはないよ。あっちのふみに怒られる」
そのとき部屋の隅からイリーナが話しかけた。
「これって剣ですか?」
イリーナは壁に立てかけてある刀を指差していた。
「はい。layer2でのお土産です」
「すごい! ねえアマンダ、私もlayer2に行ってみたい!」
アマンダがすぐツッコミを入れる。
「前にアダムと行っただろ」
それから適当な話をして時間が過ぎる。
ある程度会話をして休憩を入れた。
何もすることはなかったため、暁斗はコーヒーを入れてみんなに提供した。
イリーナがマイとふみに話しかけていた。
「ふみは甘えん坊なんだー」
イリーナが言った。
マイに抱きついて離れないふみが、横を向いて答えた。
「そうだよ。私はマイと暁斗がいないと生きていけないから」
「私とアマンダの前ではこんな姿を見せたこと無いくせに」
「そんなことないよ」
そう言うとマイはふみの体に顔を押し付けて黙った。
「ふみ、かわいいー!」
イリーナはふみの姿を見て喜んでいたものの、アマンダは深刻な顔をしてふみを見ていた。
「なあイリーナ」
「なに? 天界に帰ったらふみにもこんなことしてみる?」
「そうじゃなくてさ」
アマンダの深刻な顔を見てイリーナの表情が少し引き締まる。
「どうしたの?」
「ふみのこれって天使病じゃないか?」
「あ」
イリーナの表情が固まる。そして、しばらくふみの方を見ていた。
「そうかも。ってか本当にそれじゃない? え、でもなんで? 私たちの前だと全然平気だったよね?」
「わからんが、暁斗とマイが関係してるんだろうな」
イリーナはもう笑っていない。アマンダもふみの方を真剣な表情で見ていた。
「天使病ってなんですか?」
マイが問いかける。アマンダの様子が変わったため、ふみも顔をあげて三人を見た。
「天使病っていうのはさ、偉そうな名前がついてるけど特別な病気じゃなくて、天使昇進試験の精神的な後遺症のことを言うんだ」
「後遺症?」
「そう、詳しく話す前に。ちょっと、暁斗! こっちに来てくれる?」
アマンダが叫んだ。
ふみがマイと暁斗に挟まれた形でソファーに座り、対面にイリーナとアマンダが座った。ふみはマイと暁斗の手をそれぞれの手で握っていた。
「三人に聞いて欲しい。ふみは天使病になってるんだと思う」
マイと暁斗が真剣な顔で頷く。だがふみはあんまり興味がなさそうだった。
「ふみも聞くんだよ、分かってるの?」
アマンダが少し怒ったように言った。
「聞いてます!」
「よし、なら話を続けるよ」
アマンダの真剣な態度を、ふみは少しは気にしているようではあった。
「天使病の話をする前に、天使昇進試験とは何かを聞いて欲しい。天使昇進試験とは、天使で業務を行う上で必要な精神的なプレッシャーに耐えられるかどうか、というただ一点で行なわれる。だから試験内容も、知識を問う内容は一切なく、ストレス試験ばかりなんだ」
「ストレス試験?」
暁斗が無意識につぶやいた。
イリーナが笑顔で答えた。
「そうだよ。昔はよく聞いたんだけどね。『悪魔には信念を貫き運命さえ捻じ曲げる意志が試され、天使には図太い意志のみが試される』、と言われている。つまり、どんなストレスにも屈しなければすぐにでも天使になれるんだって。でもふみみたいな人間なんて全然いないから合格まで20年くらいかかるんだけどね」
アマンダが説明を続けた。
「イリーナが言ったように天使層昇進試験はストレスに屈しない意志が試される。その最終試験である、特殊精神負荷試験。天使と悪魔の違いは、この試験を合格出来たか出来なかったかとまで言われるほど難しい試験だ」
「どんな内容なんですか?」
マイが問いかけた。
「試験者は眠らされて、試験用の夢を見せられる。それによって試験者がどのような精神状態になるかで合否判定が決まる。夢の内容は、試験者個人が一番起こって欲しくないと思っているものになる。説明するだけなら簡単だけど、無意識の行動が試されるため、普通の人は絶対クリアできないし、困ったことに対策のしようもないと言われているんだ。おまけに試験を受けるだけで強い精神的ショックに陥ることになる」
「ちなみに私は初めて受けたとき不合格で、ショックで動けなくて救急病院に運ばれた」
横からイリーナが話しかけた。
「そう言う人は少なくはないと思うよ」
「そのショック自体が天使病なんですか?」
暁斗が話しかけた。
「そのとおり。天使昇進試験に合格した所で精神的なショックは癒やされるわけではない。かなりの人が長期にわたって引きずるんだよ。いつしか特殊精神負荷試験を受けてトラウマを引きずることを天使病と呼ぶようになった。試験に不合格だった場合でも当然トラウマになるわけだから、悪魔層の人でも天使病の人はいるんだ」
「私はそんなのじゃありません」
ふみが言った。
だが今度は暁斗の腕にべったりくっついていた。
「ふみのその変わりようは本当によくわからない。マイと暁斗に聞きたいんだけど、ふみって悪魔層になってからこんな感じなの?」
アマンダが問いかけた。
「ふみにはすごく言いづらいんだけど、天使になってからは特に甘えてくる」
暁斗が言った
「確定じゃん」
アマンダがふみに向かって言う。
「ちがいますー」
暁斗に抱きついたまま、アマンダの方を見ようともせずにふみが言った。
ふみを無視して、アマンダがまだ悩んでいた。
「なぜふみは、イリーナと私の前では普通なの?」
「どういうことですか?」
マイが問いかける。
「天界にいるときのふみはこんな感じじゃないよ。むしろイリーナと私がこんな感じで、ふみはどんな時でもキリッとしてる。お酒飲んでも一人だけ正気でいるし、仕事しててもかなり迫力があるし。っていうか、ここにいる可愛いだけの女の子は本当にふみなの? ちょっと面白すぎて信じたくないと言うか」
一同の視線がふみに集中する。
「私に抱きつけよ、ふみー!」
アマンダがふみの体をつついてみる。
反応はあるものの、依然としてふみは暁斗に抱きついたままだった。
「なんてこった。天界じゃ全然分からなかったけど、ふみはここまで私より暁斗の方がいいのか。本当にこの展開は予想外だ」
アマンダが適当に驚いてみせるものの、どうでも良いと思っていた。
イリーナが身を乗り出して、ふみの体に触りまくる。
「私の体だったらいつでもウェルカムだよ、ふみ!」
イリーナがふみに話しかけたが、見ようともしなかった。
「無視しないでよ、寂しくなるじゃん」
「無視してないよー」
イリーナは少し悲しそうにため息をした。
そして立ち上がってから、暁斗に抱きついているふみに近づいた。
「ふみ、こっちを見てよ」
ふみが上体を起こして、イリーナの方を見る。
イリーナは笑顔だった。
「ふみはやりたいことがあって大天井まで来たんでしょう? なら、その病気はすぐにでも治してしまおう。私たちが協力する、アマンダだって絶対に協力してくれる」
イリーナは何か言いづらそうにしていたものの、やがて口を開いた。
「恥ずかしいから言いたくなかったんだけどさ、天使になってから、私も半年くらい天使病を引きずっててね」
「え、イリーナも?」
ふみが驚く。その返答は、ふみが天使病を肯定しているようなものだった。
「怖くて眠れなかった。でもさ、アマンダがそばにいてくれたんだ。私が怖くて眠れない時は、ずっと手を握ってくれた。体の震えが止まらない時は抱きしめてくれた。私はアマンダからの愛情があったから天使病を克服できた」
ふみがアマンダの方を見る。アマンダはかなり恥ずかしそうにしていた。
「アマンダからもらった愛をふみにも分けてあげたい。でも、ふみにはもう愛をもらえる人が二人もいるんだよね? 残念だけど、ふみの治療は暁斗とマイに任せるよ」
「うん」
ふみが笑顔でイリーナに言った。
「ちなみに今の恥ずかしい話は、大天井権限で秘密にしておいて下さい、マイと暁斗」
イリーナが二人に言った。
「はい」
「分かりました」
暁斗がふみの体を起こす。そしてふみに向かって話しかけた。
「ふみはイリーナとアマンダをだいぶ信頼しているようだね」
「うん、二人は私の大好きな友達です」
「なら、ふみの弱点のこと、話してもいいかな」
暁斗が下を向いて言った。
「私の弱点? なにそれ」
ふみには心当たりがなかった。
「今回の現象も、たぶんふみの弱点が原因だ。天使病に詳しい二人にふみのことを話したほうが治療に役立つんじゃないかなって思ってさ」
ふみは何も言わなかった。
暁斗は二人に話すことにした。
「ふみはかなり致命的な弱点があります。ふみは俺がいると能力が極端に下がる」
「え、どういうこと?」
アマンダが言った。
「ふみと出会って、かなり初期から現れた現象です。一緒に仕事をしていても、ふみの能力は決して低くはありませんでした。でもふみは単独行動をした時には異様なまでに仕事が早かったんです。最初はふみが単独行動したときに能力が上がると思っていた。でも実際は逆。俺がいると、ふみは能力が下がる。しかもかなり極端に」
「そんなことは絶対に無い!」
ふみが声を張り上げる。
「俺だって認めたくない。でもそれがふみの特徴なんだ」
「なるほど。だとしたら、今回の現象もある程度は説明が付く」
アマンダが言った。
ふみがアマンダを睨みつけたが、アマンダは相手にしなかった。
「天界では暁斗なんていないから天使病があったとしても耐えることには全然問題なかったんだ。ある意味では克服できていた。でも治安維持層で暁斗に会うと極端に能力が下がり、精神的な耐性も落ちる。だから人に甘えなきゃダメになった」
「ちがうもん……」
ふみは泣き出していた。それをマイが抱きしめてあげた。
「ふみの泣き顔なんて、どうあがいても一生拝めないと思ってたのに」
イリーナが驚いてつぶやいた。
「まあ、よく考えてみれば、当たり前だよね」
アマンダがため息をついた。
「マイと暁斗には聞いて欲しいんだけどさ。悪魔層と天使層に一年もかからずに合格する人って、過去に数例しか無いほど異常なことなんだ。たぶん恐ろしいまでの緊張を強いられてきたと思う。ふみはさ、頑張りすぎた。layer1の中でも余りに頑張りすぎた」
マイに抱きついているふみに視線が集まる。だがふみは全く気にしていなかった。
「暁斗、マイ、あんたらの功績だよ。ふみは二人のために頑張ってきた。もちろん、ふみ自身は自分ことしか考えてはいなかっただろうけどね。ふみは暁斗とマイの二人と一緒に居たいがためだけに、ただそれだけのために天使になった。どんなに有能な人でも絶対にできない、一年以内に悪魔層・天使層昇進という常識離れのことをやってのけた」
「正直に言うと、全てをふみに任せてしまった自分自身が相当情けないと感じています」
暁斗が目をつぶってアマンダに返答した。
「やめてよ! どうしてそういうことを言うの!?」
ふみが叫ぶ。
だが、アマンダは相手にせず、暁斗とマイへ話を続けた。
「休息が必要だと思う。どうだろう、暁斗とマイは十年くらい休みを取って、ふみと一緒にどこかでひっそりと暮らしてみれば?」
「十年!?」
驚きの声が上がる。
「いやなら100年でもいいと思うけど。時間なんて好きに決めればいい。だが、ふみは休息が必要。しかも暁斗とマイが一緒にいる必要がある。常に両方かどちらかがふみにくっついていればいい。そんな生活も悪くないと思うけど」
ふみが上体を起こしてアマンダの方を向いた。まだ半分くらい泣いていたが、正気には戻っていた。
「ごめんなさい、アマンダ。それは出来ないんです」
「どうして? ふみは大天使なんだからさ、そりゃ天使よりもなら制限はきついけど、かなりのわがままも自由自在だよ?」
「そうなんですけどね」
ふみの顔つきが元に戻っている。状態は大天井のものとかなり近かった。
「暁斗は仕事が好きなんです。そんな暁斗と一緒に仕事をするのが私の目的。暁斗は組織を活性化させるために動いているし、マイは治安維持層の位まで取得した。私だけではなく、みんなが頑張って動いてくれている。アマンダとイリーナだってそう」
「私たち?」
「せっかくお友だちになれたんだもの。何年も休憩を取って、あなた達との縁を切りたくはない。アマンダとイリーナだけじゃない。アダムも、あんずも、松桐坊主だってそう」
その名前に暁斗が驚いた。だが今は何も言わないことにした。
「またそうやって無茶していくんでしょ。それがふみの良い所でもあるんだけどさ」
アマンダが呆れて言った。
「ねえ、アマンダ。提案がある」
イリーナが言った。そしてその表情はかなり真剣だった。
「どうした?」
「アマンダはさ、大天井に来てから何をしたいの? もし暇だったらさ、私と遊んでよ。私とアマンダで、ふみのやりたいことをやる」
そのイリーナは今まで見せたことのない、事務員統轄としてのイリーナだった。
「アマンダだけじゃない、ふみも、暁斗も、マイにも聞いて欲しい」
三人の方を向く。皆無言だったが、話を続けた。
「ふみたちには、仮決めで一ヶ月休んでももらう。ふみ、それくらいなら大丈夫でしょう?」
「・・・」
ふみは何も言わなかったが、イリーナは無視した。
「その間に、ふみがやりたかった、layer2とlayer3の分析業務統合を私たちで行う。layer2サイドの室長は暁斗、責任者はふみ。私とアマンダは室長代理の立場で、アダム、地獄地蔵と話を付ける、それでどう?」
分析業務統合、その話は暁斗は全く知らないことだった。
「待て。その提案はふみと暁斗さえ良ければ行けると思う。だが、まずお前はどうするんだ。なぜ分析業務に肩入れをする? これは大天使ふみの問題だぞ?」
アマンダがイリーナに言った。
「私? 私は最初からアマンダに付いて行こうと思ってた。迷惑だったら独立するけどさ」
「私次第で本当にいいの?」
「いつも言ってたじゃない。アマンダに付いて行くって。酔っ払ってて嘘だと思ってたの?」
イリーナが笑顔でアマンダに言った。アマンダはかなり照れているようだった。
「普段はバカみたいなのに。恥ずかしいこと言いやがってさ」
「私は常人層を、アマンダは悪魔層をコントロールできる。さらに二人で大天井以上と交渉し、新組織を立ち上げる。私たちがふみの仕事に介入する理由は、ふみが休息していても縁を切らないという保証みたいなもの。組織が形成されたら、少なくともlayer2の運営はふみと暁斗に任せる。ただし、私とアマンダはタダ働きをするわけではなく、それなりの席は用意させてもらう」
「待って、イリーナ」
ふみが発言をする。一同がふみの方を向いた。
「気持ちは嬉しいけど。流石に私のわがままのために、二人の大天井を拘束するわけには行きません。あなた達だって知ってるでしょう? イリーナとアマンダは元大悪魔の大天使、世界すら動かせる存在です。しかも生まれも育ちも良くどこの世界の組織でも動かせる。はっきり言うと、勿体無い」
すぐイリーナが言い返す。
「大天井含む二つの組織を統合することが目的なのであれば、大天使が三人いてもおかしくはない規模の案件だと思ってる。それに、」
イリーナの言い方は、今までふみに見せたことがないものであった。ずっと常人層を管理し続けてきた元大悪魔イリーナである。
「ふみの勢いに乗りたいじゃん。今の貴方なら何だってできる。早く戻ってきてよ、アマンダと一緒に待ってるから」
ふみはなにか言いたそうだったが、アマンダがふみに向かっていった。
「とりあえず、ふみの意見は聞かない。暁斗とマイがいるとさ、ふみはアヘン患者みたいになってるんだよ。ふみの意見は今度天界に戻ってから聞く」
「アヘン患者って、ひどすぎない?」
ふみが言ったが無視した。
「暁斗とマイはどうなの? 二人の意見だけは今すぐにでも聞いておきたい」
「俺はふみが良くなるならば、休息の話は乗ることができる。組織編成については、地獄地蔵長の判断が必要となる」
「そいつは私がなんとかする。つーか、地獄地蔵って私の父親だから」
「えー!!」
暁斗が叫んでしまった。
「ふみもそうだったけどさ、驚きすぎだよ。あんた個人としてはどうなの?」
「俺個人としては、今までどおりふみと分析業務ができるなら問題ないと思っている。しかし分析業務室長という立場では、窓口ハルトおよび俺の部下との話し合いをしなければ何も言うことは出来ない」
「わかった。安心して。私が聞きたいのは決定の意見じゃなくて、一時的な方向性のみを参考にさせてもらうだけだから」
「わかりました」
アマンダがすぐにマイの方を向いた。
「マイはどうなの? 一応言っておくけど一ヶ月の休憩ってのは、事務という組織上においては休暇じゃなくて、イリーナか私からの大天井直接指定の特別業務としてマイを一ヶ月間の抜擢業務に配置する予定だから仕事扱いになる。当然業務である以上は費用が出るし個人としての給料も満額かそれ以上出る」
「私はふみの意見に従います」
「分かった」
一同が沈黙する。
アマンダが立ち上がって、イリーナに言った。
「帰るか、イリーナ。後は二人で話しあおう」
「そうだね」
イリーナが立ち上がるとき、ふみの方を向いて笑顔で言った。
「ふみは置いていくよ。来週、ふみはここに来れないかもしれないから、十分甘えてから戻っておいで」
返事をまたずに二人はすぐに分析業務室から出て行ってしまった。
嵐が去っていったかのように、部屋が静まり返る。
「俺たちも帰ろうか」
暁斗がつぶやいた。
ふみとマイが笑顔で頷いた。




