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layer0  作者: 運転安全
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天使管轄区域7

 ふみは一人で大天井・layer3分析業務室に来ていた。


「お久しぶりー! 元気してましたか!」


 あんずが笑顔でふみに話しかける。


「お久しぶりです。お元気そうで」


 ふみが言った。

 アダムも含め、三人でテーブルを囲う。


「あんずには、ふみの事も含めて、アマンダ、イリーナの事もよく話してるんだ」


 アダムがふみに言った。


「では私が大天使になったことも知ってるんですね」


 ふみが言った。


「ええ。たぶんなるんじゃないかとは思ってましたが、早かったですね」

「はい。本当はすぐにでも大天使になる気だったのですが、一度アダムとお仕事が出きて色々勉強させてもらえたのが良かったです」

「それで、ふみはこれからどうするつもりなんです?」


 あんずが問いかける。


「実は相談したいことがありまして」

「何でしょう」


 アダムとあんずは、表情を変えずにふみを見ていた。

 ふみは若干の威圧を感じながらも、話す筋道を頭の中で整理していた。


「私の目的は唯一つ、私と暁斗で分析業務を行うことになります。今考えていることは、layer2分析業務に天使ふみの席を置き暁斗と働くこと。しかしこれは立場という制限で困難が生じます。そこで大天井の部署を私が作り、治安維持層に置いてlayer2分析業務をそのまま大天井の部署に置き換えることを考えています」


 ふみが二人を見る。二人は何も喋らなかった。

 だが目の前の大天使二人は仕事の体制に入っている。それがふみには十分理解できた。

 ふみが話を続ける。


「そうなると概念基盤からはlayer2とlayer3の分析業務の住み分けを聞かれると思います。そこでお願いと言うのは、もしアダムの部署とlayer2分析業務の統合を提案したいとしたら、お二人にどのような影響があるのかを教えていただきたいのです」


 二人が黙って頷いた。

 先に口を開いたのはあんずだった。


「随分と難しいことを。それは地獄地蔵も知っていることなのですか?」

「いいえ。口に出したのは今回が初めて。誰も知りません。暁斗ですら知りません」

「私たちに失礼の無いよう、先に打診したと言うことなのですね」

「はい、そうです。私はアダムとあんずのことは知りませんけど。でも私の求めている理想と極めて似ているのではないかと思っています」


 次にアダムが口を開いた。


「そうだね。ふみの言いたいことはわかった。それで、とりあえず思ったことだけを言わせてもらうけど、統合は無理だ」


 すぐふみが質問する。


「どうしてです?」

「私たちが許さない」

「理由を聞くことは許されますか?」

「どう? あんず」


 いきなり話を振られてあんずは驚いていた。


「え!? 私? むしろ私がどうして許さないか聞きたかったんですけど」

「えー」


 アダムがあんずの顔を見ていたが、ふみに視線を移して話し出した。


「この部署はね、あんずのものなんだ。今ではあんずが私と一緒にいるためだけに存在する部署だと言ってもいい。それを実現するために、あんずは大天使の部署と概念基盤に色々な手回しや工作を行い、二人だけで一生い続けられるようにしてある。だから新しい人は誰も入ってこないし、部署が解体することもない」

「ああ、そういう事ですか」


 ふみが頷き、そしてあんずも頷いた。

 今度はあんずが話し出した。


「ごめんなさい、アダム。そう言う話ならその通りです。この部署だけではなく、アダムは私のものなんです。絶対に誰にも渡さない。部署統合なんてしたら、私たちの関係を私だけでコントロールできなくなる。だから部外者は絶対にお断り」


 するとふみは笑顔になり笑い出した。


「ふふふ! その関係が羨ましい!」


 アダムが話を続けた。


「もっと言うと、ふみ。私はあなたが怖い」

「え? それは無いでしょう」


 驚いたように顔をあげたが、アダムだけではなく、あんずも頷いていた。


「意外かい? ふみは一年以内に天使まで上り詰めた天才だよ。私とあんずが二人束にかかっても敵わないかもしれない。もちろん、ふみに不得意な分野はある。しかし、まさかアマンダとイリーナ、この二人と仲良くなるだなんて予想できなかった」

「そんな。私はアダムとあんずとは敵対したいだなんて考えていませんよ?」

「でしょうね。しかし私たちがふみの目的の壁になったら、間違いなくふみは敵になる。それは逆の立場でも同じ。私たちの前にふみが立ちはだかったら、少なくともあんずは許さないと思う」

「それはそうかもしれませんけど」


 ふみが少し困ったような表情で言った。

 アダムが慌てて補足する。


「待って。私は別に敵対したいわけじゃないよ。だからこそ可能な限り平和的に解決したいと言いたかった。ふみの統合案を、全部否定するつもりはない」


 そこであんずが割り込んで話した。


「少しだけ聞いてもいい?」

「何でしょう」


 ふみが答えた。


「私たちの意見の前に、本当に統合ってできる自信があるの? 松桐坊主神の話だと、物凄く大変そうだったのよ」

「無理ならそれでも構わないと思っていますので強行します。私の目的は暁斗と一緒に働く環境を作ること。だた、それだと概念基盤から絶対にアダムの部署の話を持ち込まれると思うのです。もしあんずには神からの要求を突き放せるだけの実力があるなら、私はアダムたちを気にせず強行したいとは思っているのですが」

「うーん、優先度はそれほど高くないけど、私たちの事を思ってということですか」


 あんずが考え込む。

 さらにふみが続けていった。


「そうですし、もっと言うなら、現段階で統合できる可能性は全く見えていません」

「まあ、そこはあんまり気にならないかな」


 アダムが笑って言った。

 だがふみは、内心ではアダムが笑っていた意味が全然分からなかった。

 続けてアダムがあんずに話しかけた。


「私個人の意見だと、別にいいんじゃないかって思うんだよね」

「そうなの?」

「だって、こっちでもlayer2の分析業務ができるようになるんだよね? あんずの故郷であるlayer2で遊べるじゃない」


 アダムは相変わらず笑っていた。


「すごい気楽な意見」


 あんずが呆れて言ったが、それほど否定的ではなかった。


「実は私にもひとつだけ肯定できる件がありまして。聞いてほしいことがあります」


 あんずが二人に言った。


「何ですか?」


 ふみが答えた。


「松桐坊主神の言葉でずっと気になっていたことがあります。本来であれば、概念基盤はlayer2の分析業務もアダムに管理させたいと考えているみたいなんです」

「ええ? それは知りませんでした」


 ふみが驚いていた。


「確かにそんなことを言ってたね」


 アダムが頷く。

 あんずが話を続けた。


「私はそれがずっと気になっていた。いずれ私たちの部署を壊すつもりなのかって。統合なんて絶対にお断り。そう決意はしていました。だけどいずれ神がなんか言ってくるんじゃないかって思うと、対策の一つでも講じる必要があるのかなってずっと思っていたんです」

「あんずは、あれを気にしてたの」


 アダムが驚いていた。


「それで、案の一つとしては、もう神の言うとおり、形だけでも暁斗の率いるlayer2の部署を強制的に統合してしまおうかって。地獄地蔵のように本格的に取り組むのではなく、言い訳するためだけに表面上で統合するのはどうか。それができるかどうかだけは調査しようとしてたんです」


 それを聞いて二人が驚く。

 ふみが口を開いた。


「方向だけは私と同じことをしようとしてたってことですか」

「方向だけはそうなりますね。でもふみが言うような平和的な解決ではなく、地獄地蔵と佐々野暁斗の意見を無視した強制的な統合を考えていました。ふみの敵になるような方法での実現です」

「お二人が大天使である以上、そうなるだろうなとは思います」


 ふみが言った。

 あんずが続けて言う。


「私としては本来は否定的なんですよ? 絶対に部署統合なんてやらせない気でいたんですけど」


 あんずが自信なさそうに、ふみに言った。


「でも、ふみがある程度私たちの面倒を見てくれるなら、もう少し平和的な方法を考えてもいいかなって」


 そこまで言って、視線をアダムに移す。


「あんずはずいぶんと変わったね。まさか他人を頼るようになるだなんて」

「だって結構いいタイミングでしょ? ふみだって善意で言ってくれてるんだし」

「じゃあなんて答える?」

「もう、アダムに全部任せます」


 そんなやり取りを見ていたふみは、無意識に微笑んでしまっていた。

 アダムがふみの方を向いて答える。


「私たちの要求は一つ、私アダムとあんずの二人の関係を守りたいため、ある程度独立した権限を与えて欲しい。できるなら統合の話は協力する」

「ほ、本当ですか!? 嬉しいです」


 やけに簡単に了解を得られたため、ふみは驚いてしまった。


「今はあっさり決めたけど、権限の話は私とあんずで粘るよ。今回みたいにさらりと片付けられない。だから目処が立ったら権限の話を詰めて行おうか。それまで、私たちは何をすればいい?」

「いえ、とりあえずは私一人で動きます」

「わかった。じゃあ私とあんずは何もしない。ふみからのアクションを待つ」

「わかりました」

「最後にひとつだけ聞きたいんだけど」


 あんずが言った。


「何でしょう」

「ふみはね、どうしてそんなに暁斗に入れ込むの? 暁斗は悪魔ですらないんだから、天使の権限で贄に認定してしまえばいいじゃない」

「そうですね」


 すでにアマンダとイリーナに答えた質問だった事を思い出していた。


「暁斗は私の全てを救ってくれた人です。暁斗は私の全てであり、私の全ては暁斗のものなんです。だから私から暁斗に贄認定はしますが、部署が落ち着いたら私が暁斗の奴隷になります。そして大天井の権限を全て暁斗に渡す予定です」

「ちょ、ちょっと待って、なにそれ!」


 あんずが叫ぶ。


「おかしいですか?」

「贄認定まではわかったけど、奴隷って何なの? それに大天井の権限譲渡は絶対やっちゃダメ。ふみがどうこうより、それは暁斗の方が迷惑だと思うよ?」

「そうですか?」

「適当に言ったわけじゃなくて、天使昇進試験って形だけじゃないんです。その能力を保有できる人間かどうかってかなり真剣に問われている内容なので、該当しない人が権限を譲渡されたら、本人も苦痛に思うことだし、世界にも全然良くないんです」


 あんずはかなり慎重にふみに説明していた。


「そうですか。ちょっと知らないことでした。もう少し考えてみます」


 ふみが笑顔で答えた。

 アダムも色々考えていたようだった。


「ねえ、ふみ」

「何でしょう」

「二人の関係はよくわからないが、私たちと似ていることはなんとなくわかった。頑張ってね」


 アダムが言った。


「はい、ありがとうございます」




 場所は治安維持層・分析業務室。

 暁斗とマイは、速達で届いた郵便物を見ながら怯えていた。


「大天使、会話申請書」


 暁斗が言った。


「これって拒否できないんですよね?」


 マイが自分宛ての申請書を二枚見ながらつぶやいた。


「ふみに聞いてみる?」

「うーん、アマンダとイリーナってふみの友達なんですよね?」

「そうらしいが」


 暁斗の分も二通届いていた。


「私って、悪魔ふみのときに騒動を起こしてるから、天使ふみは完全にスルーで申請が通ってるんです。地獄地蔵長も大天使ふみも出して、すぐに大天使が二人って、上長も嫌になってると思うんですよ」

「いつの間にかたくさん出してたんだな。俺はともかく、マイは危険すぎじゃないか」

「さらに言うと、常人層事務幹部より会話申請書が多いらしいんです」

「それはちょっと面白いね」


 ふみに確認したところ『出して!出して!』だったため、結局大天井の命ということで二人は提出することになった。


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