天使管轄区域2
畳の部屋にエレナとフレイが座る。
全く慣れていないため、正座ではなく足を崩していた。
「お久しぶりです、和彦当主」
暁斗が水影家の三人に話した。
「わざわざ遠い所からよくお越しくださいました」
「みんなも元気そうで。今日は新しいメンバーの紹介と、魔法学園についての報告に参りました」
「後ろのお二人さんですね」
「今後、俺に変わって水影家とお付き合いさせていただければと思います。自己紹介も兼ねて認証をお願いしてもよろしいでしょうか」
それからエレナとフレイが自己紹介を始めて、しばらく雑談をしていた。
「所でふみさんはどうしました?」
和彦当主が問いかける。
「ふみは仕事が忙しくて今はいませんが、後で絶対来るとは言ってましたよ」
「今は別行動してるんですね」
「話してませんでしたね。色々あってふみは俺の上司より偉くなっちゃって、もう分析業務だけやっていられない身分になってしまいまして」
「ほう、そうなんですか」
暁斗が少し考えてから、水影家の人に話した。
「後で来るはずなので少しお話しますが、ふみは本物の神になったと思ってもらえればいいと思います。layer2に有名な宗教とか神話ってありますよね、その中の神と同列になったと思ってもらえれば」
「そこまで壮大なスケールの人になったんですか」
水影家の人たちは別に驚いた様子はなかった。
「正確には天使なんですが、layer2の立場からであれば認識はあっていると思います。それで、ここからは本人に聞かないとわからないんですが、たぶん以前より魂に関する知識と権限が増えてると思うんです。あとで、水影家の業務に関することを、神であるふみに聞いてみませんか。俺も興味あるんで」
「私は別に構いませんが。その、私たちが神と話していいものなんですか?」
「構いませんよ。layer1では結構きつい制限ありますけど、layer2の人たちならありませんし」
「わかりました」
暁斗が周りを見渡してから、和彦当主に問いかけた。
「所でミイナはどうしてます?」
「先ほど来客が来たと言うことで席を外しています」
「話は少し聞いていますが、来客と言うと元フルムーンの人たちですか」
「そうみたいですね」
「あとでミイナとはお話しようと思います」
テーブルの上には魔法学園に関する資料が散らばっていた。エレナとフレイは知らない件であったため、その資料に目を通していた。
その間に誠司と暁斗が話していた。
「言われたとおり、学年で一位になりました。全国平均の条件もクリアしています」
「ああ、本日はその件で来たんだが、よく頑張ったね」
「ありがとうございます、当主と両親の許可ももらっていますので」
暁斗は誠司から目を離すと、エレナとフレイに声をかけた。
「ここからはエレナ、フレイにも聞いてほしいんだけど」
「はい」
「水影家の他に魔法学園にもあいさつに行くって言ったよね。それはエレナとフレイだけじゃなく、水影誠司も連れていく予定だ」
「わかりました」
フレイは何も言わずに了解したものの、エレナは質問した。
「それはどういう理由ででしょうか」
「誠司の就職先は魔法学園になるかもしれない。それを見極めるため、以前お世話になった黒魔術の学者さん、セフィアに面接に行かせる」
「霊能力者が魔法少女の学校に行くってことですか?」
「うん、そうなる」
「うへー」
エレナが誠司の方を向いた。
誠司は笑顔でエレナに礼をした。
暁斗が話を続ける。
「俺から誠司に要求したのは学力だ。誠司の霊能力はトップクラス、つまり初めから黒魔術を使えると言うこと。でも研究機関に推薦だとどうしても学力が必要になるからね。誠司はそれをクリアした。だからすぐにでも連れていく」
それから暁斗が当主に話しかける。
「あと当主にもう一つお願いがあるのですが」
「なんでしょう」
「一度だけでいいので、誠司には俺たち分析業務の手伝いをしてもらいたいのです。是非、我々が何をしているのか知ってほしい」
この発言には、エレナ、フレイも驚いていた。
「分かりました。いいよな、誠司」
「あ、構いませんよ。それなら恵子も行った方がいいじゃないですか?」
視線が恵子に集まる。
「いえ、私はやめておきます。当主のお手伝いというか、修行が結構ありますので」
暁斗がすぐに話した。
「恵子は水影家を継ぐことを考えているんだよね。であれば実力的には申し分ないから、もし興味があるならいつでも分析業務に連れて行ってあげられるから言って欲しい」
「わかりました、ありがとうございます」
そうこうしている間にふみがやってきた。
「お久しぶりです、当主」
「お元気そうで」
「あ、誠司くんに恵子ちゃん! また除霊の仕事をしに来たよー!」
「え? そうなんですか?」
神になったと言われていたものの、ふみは以前と全く同じ格好であったため、気にしていいことなのかすら分からなかった。
「神になったと聞きましたけど」
恵子が問いかける。
「うん、そうだよ! 正確には天使になったんだけど、試験に受かったから神の代行業務も担当できるようになったんだ」
「え、なにそれ」
暁斗がふみに問いかけた。
「さっき連絡が入って、代行業務の試験に合格したとのことです。これで私も正式に神を名乗れます」
「ごめん、全然わからないけど、概念基盤になったわけじゃないよね?」
「はい、概念基盤は関係ありません。天使ふみが神の代行業務試験に合格して神を名乗れるようになりました。敬称は、天使ふみでも、ふみ神でもどっちでもいいです」
「ふみ神!」
ふみは全く変わらなかったため、水影家の人たちの対応も変わらずであった。
しばらく話していたものの、ふみもミイナの事が気になるようであった。
「ところでミイナはどうしたんですか?」
ふみが問いかける。
「用事があるんだそうで、ここにはいない。でも会いに行こうと思ってた」
和彦当主が横から問いかけた。
「客人はお帰りになられたようです」
「そうですか、ちょっとミイナの所に行ってきますね」
暁斗がそう言って立ち上がる。ふみも後についていった。
ふすまが全部空いていたため、遠くの部屋にミイナがいることがすぐわかった。
「ミイナ」
暁斗が話しかけた。
「え?」
顔をあげて暁斗を見る。最初は誰だか分からなかったようだが、後ろのふみを見るなり、予想ができたようだった。
「もしかして、佐々野暁斗か?」
「そうだよ。この姿だと初めてだったね」
「そうか、こんな男だったのか」
ミイナはテーブルの上に散らばる書類を急いで片付けてから、二人と対応した。
「ずいぶんと除霊の仕事を頑張っているようだね」
暁斗が言った。
「ああ。黒魔術は本当に霊能力そのものだった。私は水影家と南野家のどちらでも役に立てているようだよ。しばらくはここで仕事していこうと思う」
「よかった。ミイナはまだ俺の事を殺したいのか?」
少し考えたが、ためらいなく言った。
「そうだな、そのうち殺すよ。でも今はやることがあるからね。三丁目の吉田さんの所に畑仕事を手伝いに行かなきゃ。あんたの相手をしてる暇はないんだよ」
「少しだけ話をさせてくれよ。元フルムーンの人たちとも付き合っているようじゃないか」
「うん、あいつらが私を頼ってくるんだ」
ミイナが下を向いて微笑んだ。
そのとき、恵子がミイナの元にやって来た。
「どう? 終わった?」
「恵ちゃん、今終わったから、こいつらと話したらすぐ吉田さんの所に行くよ」
「私も行く」
「じゃあ待ってて」
恵子がふみの隣に腰を下ろした。
「元フルムーンだけじゃない。裏組織を追われた連中が、どういうわけか私のもとに助けを求めてやってくる。わざわざこの国にだよ? たぶん、layer1に拾われたっていう噂が出回っているんだと思う。私にはlayer1のツテなんて無いって言ってるけど、みんなどうにかして普通の仕事に戻りたいみたいなんだ。裏じゃない表の仕事ね。だから、魔法学園と国の連中に話をつけて、難アリの連中でも、悪いことはない、普通の仕事に付けるように斡旋を行うことにした」
「よくそんなことできたな。俺の記憶だとミイナはそんな頭良くなかったと思うんだけど」
「嫌なこと言うね! そうだよ、私にはそんな頭脳はないし、職業斡旋のピンはねで儲けるだけの能力もない。魔法学園と国との交渉は誠司と恵子に助けてもらったんだ。後はもう知らない。好きな所に行って仕事しろって言ってる」
「そうか」
「そろそろいい? もっと話ししたいなら別に時間を取るけど、あんたは私のことなんてもうどうでもいいでしょ?」
ミイナが暁斗と会話を打ち切ると、ふみに話しかけた。
「久しぶり。でももう行くね」
「うん、頑張ってね」
「リサがどこにいるか知らないけど、よろしくね」
そう言うと、恵子と二人で部屋を出ていってしまった。
誠司がエレナ、フレイの二人と話していた。
「エレナはlayer1出身の人なんですね。暁斗もふみもlayer2出身だから、そう言う人は初めてなんです」
「逆に私の周りはlayer2出身の人ばっかりになっちゃったよ。フレイもそうだし」
視線がフレイに集まる。
「俺はlayer2出身だけど、ここの国じゃないよ。暁斗とふみ姉はここ出身らしいけど」
「あ、そうなの」
誠司がフレイに話しかけた。
「フレイはlayer2にいた時代は、何と言うか、危険が多い仕事をしてたんですか」
おそらくは犯罪関係の仕事をしていたのだろうと誠司は思っていた。
「なんだそれ? 俺は用心棒してたよ。殺しとかそういうので強制昇進された」
「やっぱりそうなんだ。魔法学園にいる少女たちと同じ匂いがしたので、たぶん暴力に関係した仕事をしていたのかと思いまして」
「少女たちと同じ?」
「ええ、少女たちはいわば人殺しの兵器ですからね」
二人は誠司の発言に驚いていた。
「これからよろしくお願いいたします。もしよろしければ、僕の霊能力をお見せします」
三人が打ち解けているのを、ふみは遠くから見ていた。
「魔法学園はこれからだけど、誠司くんと二人を会わせる事ができたから、大体の紹介は終わったわけですね」
ふみが言う。
「あと一人、全く紹介してな人がいる。どうしようか」
「誰です?」
「リサ」
ふみの顔が明るくなる。
「そうですね。リサは、うーん」
しばらくふみが考え事をしていたが、暁斗の顔を見て話した。
「リサの体は、私が管理するように調整するかもしれません」
「え? そうなの?」
「詳しくは言えません。都合が悪くて言えないのではなく、あまり考えてないんです。もう少し経ったら報告します」
「わかった。天使のふみが管理してくれるなら俺からは歓迎するし、地獄地蔵長も何も言わないと思うよ。何かやりたいことがあるの?」
ふみの動きが止まって考える。
「はい。でも、うーん。実現できるかな」
かなり悩んでいるようだった。
言えないことなんだろうと、暁斗は別の話をしようとした。
「まあいいんだ、それよりさ」
「生き返らせます」
「え!?」
暁斗が驚いてふみを見る。
「神の代行権限で、リサの魂を肉体に戻します」
そして二人の動きが止まった。
天界では、ふみはずっとイリーナ・アマンダと一緒に行動していた。二人がふみを離そうとしなかったからであった。
仕事が終わったらふみを自宅に連れて帰る日々が続いていた。ふみはやることがあるため単独行動の方を好んでいたが、何故か二人を拒否したいとは思えなかった。
アマンダの誘いが続き、そしてふみは二人と同居することに決める。今日もイリーナとアマンダはお酒を飲んでふみに絡まっていた。
「ふみは今度の休みはどうすんの?」
「私は用事があるので、治安維持層に戻ろうかと思います」
「男か!」
「はい」
「あ、ふみって彼氏いるのかー」
イリーナが少し意外そうに答えた。
「正確には彼氏と彼女がいます」
「え、どういうこと」
「私の大切な、とっても大切な人です」
「男と女がいるってこと?」
「はい、写真があるから見せますね」
カバンの中から写真ケースを取り出してアマンダ、イリーナのまえに見せる。写真は、ふみを中心に暁斗とマイが立っているものだった。
「ごめん、よく分からなかったんだけど」
イリーナが再び問い合わせようとしたが、アマンダが突っ込んだ。
「ふみの大切な人っていうのは、この写真の両隣にいる男と女なんだでしょう? ふみはバイセクシャルで恋人が二人いるってことか」
「はい、そのとおりです」
「ふ、二股なの?」
「はい、二股ですが、三人ともみんな恋人の関係です」
「ふみレベルになれば、恋人関係までもが特殊だな」
アマンダは何故か納得しているようだった。
「ひえー、そうなんだー。なんか羨ましいんだけどー」
「聞いていいのかな。イリーナって恋人いるの?」
アマンダが突っ込んだ。
「私は何十年も前に彼氏はいたけど、仕事一筋で来たからとっくに別れてて、それ依頼全然ダメだなぁ」
「じゃあせっかく外面若くしたんだから、今から頑張るってわけか」
ふみが横からアマンダに問いかけた。
「アマンダは彼氏とかいるんですか?」
「今はいないよ。私は既婚者で、旦那は80歳で死んだ。それからフリーだよ」
「ああ、なるほど。本当に、みんな色々なんですね」
ふみが納得して答えた。
「私も20代の体を手に入れたから、旦那の事を忘れて遊んでもいいんだけどさ」
「元大悪魔アマンダが彼女とか、こえー!!」
「お前さぁ、全然人のこと言えないだろ、元大悪魔イリーナ」
しばらくおとなしく飲んでいたものの、イリーナが下を向いて叫びだした。
「私も彼氏欲しい!」
「明日、スーパーにでも行って買ってこいよ」
「ふみとアマンダが私の彼氏になってよー」
「ならねえっての。その酒瓶が彼氏でいいじゃん」
「というか、ふみの彼氏と彼女に会いたい!」
「それは私も会いたいかも」
ふみが少し考えてから言った。
「むずかしいでしょうね。天使が三人も治安維持層に行くって、相当無茶ですよ」
「そうなの?」
アマンダが問いかけた。
「治安維持館で会うなら館内は一級緊急閉鎖で全機能停止、外でなら会えるとは思うけど」
「うへぇ、そんなの災害じゃん」
「悪魔以上の人は、常人層・治安維持層にとっては害悪でしかないですから」
「二人を天界まで連れてくるってのは、確かダメなんだよな」
「神の一般人誘拐および監禁にあたるはず。規約では何故か神扱いなんです。そして私たちが堕天使になりますね」
「じゃあ、ふみはどうしてるのさ」
「私はお忍びで行っています。会話申請だけは通してますけど」
「会話申請ねー。これが意外と厳密で面倒なんだよね」
イリーナが横から言った。
「でも、案外どうにでもなるんじゃないの? 私はそれほど厳密に通したことなかったよ」
アマンダの言葉に、イリーナがすぐに突っ込んだ。
「それはアマンダがほとんど常人層を相手にしてこなかったからそう思うんだよ。仕事してきた相手は悪魔層以上だったんでしょ? 私は大悪魔になる前から事務員統轄の立場で常人層の人たちとばっかり相手してたけど、こっちは物凄く厳密だよ。めっちゃ面倒くさいんだから」
「それは本当に知らなかった」
アマンダが少し考えたが、イリーナとふみに言った。
「三人で一緒に大天井に行ったら、私とイリーナの分の会話申請も出しちゃおう」
「え、本当に来る気なんですか?」
ふみが驚いた。
「ふみが嫌なら行かないけどさ、仕事って面でもlayer2の分析業務に行ってみたいじゃん」
「私もあっちの分析業務に興味あるかも」
イリーナが言った。
「まあいいですけど。でも私もイリーナとアマンダの故郷に行きたいな」
「いいよ来て来て。アマンダの実家にも当然ふみと行くから」
イリーナが乗り気で言った。
「まあ、いいけどさ」
アマンダは少しだけ乗り気ではなかった。
「一応、ふみには言っておくけどさ」
アマンダが続けて話した。
「なんでしょう?」
「私の父さんって、地獄地蔵だから」
「はい!? それ本当!?」
「ふみの驚いた顔、はじめて見たよ」




