表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
layer0  作者: 運転安全
37/46

悪魔編8

 既に辺りが暗くなり始めているときであった。ふみが治安維持館に入り、分析業務室を開ける。

 中は薄暗く、誰もいないかのように見えた。

 ふみの目には、暁斗とマイが部屋の奥でキスをしている場面が飛び込んでくる。

 こちらには気がついていない。しばらく、二人のことを黙って見ていた。


「暁斗、マイ」


 ふみが話しかける。

 二人は唇を離し、少し驚いた様子でふみを見た。


「どうしたの? こんなに暗くしちゃって」


 ふみが笑いながら話しかけるものの、二人の表情は少し硬かった。


「いや、そうだな」


 暁斗が少し慌てたように言った。

 二人の態度が固い。

 マイが暁斗から体を離し、ソファーに腰掛ける。


「私にもしてよ、暁斗」

「うん、おかえり、ふみ」


 表情は固い。

 暁斗だけではない。むしろ暁斗は顔半分だけ笑っているだけマシであった。

 マイは笑っていない。その表情は凍りついていた。

 ふみはの中にある、何らかの違和感を見ないようにしていた。部屋に入りたくない。どこかそんな思いをしていた。

 体を前に動かす。暁斗に近づき、そして唇を重ねた。

 だがすぐに、暁斗はふみと体を離して距離を置く。


「どうしたの?」


 ふみの心臓の鼓動が高まる。


「ごめん」


 気がつくとふみの横にはマイが立っていた。


「ふみ」

「ねえ、どうしたの? マイにまた頭をなでてほしいんだけど」


 ふみの表情も笑ってはいない。


「ごめんなさい、ふみ。でもハッキリ言います。私たちはもう、ふみを愛せない」


 意外には思わなかった。予想できていた言葉。

 だがふみの心に突き刺さる。


「私はふみのこと、まだ好きなんです。でも暁斗を渡せない」


 マイの表情は冷たい。それは敵を見る視線であった。


「ふみ」


 ふと暁斗の声に気がつく。

 マイだけではない。暁斗の表情も冷たかった。


「俺はマイだけ愛していきたいと思ってる。ふみとは距離を置きたい」

「な、何を言ってるの」


 しばらく沈黙する。

 静寂の中、ふみが二人の顔を見る。

 暁斗もマイも、ふみを見る視線が冷たい。

 敵を見る目で合った。

 それをハッキリ自覚して、ふみは現実を認めざるを得なかった。

 ふみの目が熱くなり、たくさんの涙が流れるのがわかった。

 涙で歪んた二人をの顔を見る。だがマイも、暁斗もどちらも笑っていない。


「ふみ、もう三人の関係は辞めにしよう。ふみとは別れたい」


 言葉が突き刺さる。


「え、ど、どうして?」

「どうしてって言われても」


 暁斗が不快に思い、表情を歪める。

 どうしてそれがわからないの? マイの表情から無言の言葉が発せられていることがわかった。

 もう見たくない。

 ふみが目を閉じる。視界は閉ざされ、辺りが暗くなる。

 そこにはもう一人、たくさんの男女と性行為をして殺す、layer2のふみがいた。



「無様だね、ふみ」


 驚いて顔を上げる。

 その表情は自信満々だ。

 layer2のふみは人を殺す。たくさんの女性と男性をセックスをして殺害する。それが何よりも嬉しかった。自分自身の存在が神に認められているような気がしていた。

 何も手に入れていないくせに、全てを手に入れたように錯覚していた。

 layer2のふみが口を開く。


「あんたは何がしたかったの?」

「何って」


 それに対して、今のlayer1のふみは惨めだった。

 layer2のふみが続ける。


「誰にも相談しないで勝手に悪魔になって、暁斗とマイはその間にずっと毎日愛を確かめ合っていたんだよ?」

「どういうことなの」


 ふみが問う。もう一人のふみが答える。


「何を余裕ぶってるのか知らないけど、ふたりがふみを捨てるのは当然の結末じゃない。あなたはいつもいなかったんだから。バカじゃないの? 二人をわざわざ出会わせて、いっぱいセックスさせて、自分は一人で何を頑張ってたの?」

「私は二人と一緒になるために!」

「一緒になるために何なのさ。結局、一緒にいたの?」

「いたじゃない!」

「よくもまあ、全てを知っている自分に対して、嘘を大声で言えること」

「それは」


 言葉の力がなくなる。

 暁斗とマイがふみの前に出てきたからだ。

 マイが言う。


「ふみはいつも私たちの前にいなかった。寂しかったんだよ、でも勝手に悪魔になって、ふみは何がしたいの?」

「ど、どうしてそんなこと言うの!?」


 暁斗が割り込んでふみに言った。


「俺たちを、俺とマイを捨てたのは、ふみ、お前だよ」

「なんで!」


 ふみが叫ぶ。暁斗は少しも気にせずに続けた。


「この結末は仕方がなかったんだ。俺はもう、ふみには幻滅している。当時はふみとマイは同じくらい愛していた。だが、もうふみは無理だよ」

「そんなこと言わないでよ!」

「無理に決まってるだろ!! 俺はマイだけに愛を注ぎたい。当たり前だろう!? マイはずっと一緒にいてくれた。ふみとは違うんだ」


 暁斗とマイの前に、もう一人のふみが現われる。


「さあ、ふみ、選びなさい。あなたが一人だけ損な役割になるか、あるいはこのバカな二人に罰を与えるか!!」

「なにを、何を言っているの?」


 ふみが理解できずに問いかける。


「なんで分からないの? 悪魔であるあなたは、こいつらの魂を自由にできる。あなたは常人層の連中なんて物として扱えるんだよ? 何も遠慮はいりません、layer2の時代のあなたに戻りなさい!」


 ふみが怖気づいてその場に座る。

 何を言っているのか。

 ふみは自分が悪魔であることに改めて気がついてしまった。

 今では合法的に人を殺せる。悪魔に逆らう人間を好きなだけ殺して遊ぶことができる。今までは暁斗と約束して殺人をやめて来た。しかしその暁斗がふみに敵意を向けている。

 ふみを束縛するものは何もない。だがそんな事実を目の当たりにしても、ふみは何かが引っかかっており、行動に移すことが出来なかった。


「出来ない、よ・・・」

「なぜ!」


 layer2のふみが苛立ちながら叫んだ。


「約束したもの」

「ははっ、一体誰と?」

「あ、きと。」

「あははははは!!!!! 大バカ者!!!!!」


 layer2のふみが大笑いをする。

 そんな様子をふみは泣きながら見つめていた。


「あなたの目的を思い出しなさい」

「目的」

「そう、いくら大バカ者のあなたでも、それを忘れてはいないでしょう?」


 ふみが沈黙する。

 layer2のふみは、顔を近づけて大声て言ってやった。


「お前の目的は暁斗、マイと暮らすこと! だがもうその望みは断たれた。じゃあ殺しなさい! 松桐坊主も言っていたでしょう? あなたの長所を殺してどうする!」


 ふみは何も言わない。

 だがlayer2のふみも妥協はしない。


「殺せ! 殺せ! 暁斗を殺せ! マイを殺せ! それがお前のやるべきことだ」


 layer2のふみは興奮していた。

 だがふみは抵抗する。


「できません」

「どうして?」

「約束した、から、」

「いつまでバカなことを言うつもりなの?」

「できません」

「だから、どうして?」

「う、うう・・・」


 黒い感情は、確実に大きくなっていた。

 ふみの殺意、それは確かにあった。そもそも今のふみは、身分としても常人層二人を殺さない理由が無い。

 layer2の時代にあった、性欲を満たすためだけの行為とは違う。自分が信じていた、愛すべき人への憎しみ、殺意、憎悪。


「じゃあ殺せないなら、とっとと手を引きなさい。暁斗とマイはもうあなたのものじゃない」

「それは出来ない!」

「ワガママいっぱいね。じゃあ一生二人を憎しみながら生きていくの?」

「嫌っ!!」

「じゃあ殺しなさい、いい加減に覚悟を決めなさい」

「それも、出来ない」

「ん?」


 layer2のふみは、ふみの些細な心代わりを見逃さなかった。


「憎しみが出てきたのね! ふみ、偉いね! じゃあ本当のあなたに戻ろうか。心を開放しなさい。あなたが愛した全ての人を殺しなさい!」


 嬉しそうに叫ぶ。


「ははは! 殺意のあるふみって最高ね!」


 大笑いをする。

 そんな横で、暁斗、マイへの憎しみが急速に大きくなっている事を自覚した。


「どうして!? どうして暁斗は私を捨ててしまったの?」


 強制昇進、水影家、魔法学園、あらゆる暁斗の思い出が頭を駆け巡る。

 今まで暁斗は本当に優しくしてくれた。

 そんな事が憎しみと共に浮かんでくる。


「マイはいつも私に笑ってくれたじゃない!」


 休憩所で一緒に取った昼食、お出かけ、時には喧嘩もした。

 全ての思い出が憎しみに変わる。


 そんな中、全くの突然に、感情的な思い出とは関係がない、一つの声が聞こえてきていた。


「お前はしばらく俺を見ていろ」


 概念基盤・松桐坊主神。

 涙が止まる。感情も停止する。だが不快感だけはハッキリと自覚できた。


(なんであいつの言葉が。)


 それはふみの精神に、冷水がかけられたようであった。

 しばらく沈黙。

 だがその声は、また聞こえてくる。


「瀬戸ふみよ、俺がお前の模範になってやる。だからお前は、しばらく俺を見ていろ」


 大きく響き渡る。


(なぜあんた今ここに出てくるの? 場違い過ぎるんだけど。)


 今のふみにはかなり不快であった。

 松桐坊主の言葉が、ふみの感情を全て消し去ってしまった。

 そうして、全ての憎しみが一旦氷結する。

 辺りが真っ暗になった。

 暁斗はいない。マイもいない。

 だが、不思議そうに見つめるlayer2のふみはいた。

 ふみ本人は、そんなlayer2のふみを無視していた。存在自体忘れてしまっていた。


「私は」


 ふみが言った。


「私はあなたを見ていましたよ。松桐坊主を見ていました。暁斗とマイと一緒になるためにね」


 一人、誰に言うわけでもなくつぶやいた。

 無視されている。

 そんな様子を見て、layer2のふみが不快に思い叫んだ。


「どうしたの!? はやく選びなさい、暁斗とマイを殺すんでしょう?」

「うるさい」


 顔を上げる。

 ふみが睨みつける。

 するとlayer2のふみはあっさり消えた。

 そんな様子を、ふみは気にすることもしなかった。


「松桐坊主神よ、私はあなたのことが嫌い。大嫌い。暁斗を悪く言ったこと、絶対に許さない」


 真っ暗の空間で、ふみは少し顔に笑顔を戻した。


「でも、あなたのことを、ちゃんと見ていました。堕天使から短期間で概念基盤になりましたね。あなたが私に何を言いたかったのかはわかりません。でも、私の生き方に影響があったのは確か。それが暁斗とマイと一緒に暮らせる一つの道だと思ったから」


 目を閉じる。

 世界が溶ける。

 ふみは、自分の迷いが消え去ったような気がした。


 視界が暗くなり、意識が遠のく。

 それと同時に別の意識が鮮明となり、奇妙な女性の声が聞こえてきた。


「受験者の意識回路を接続しました。30秒後に神経系統を全て接続し、受験者の回復作業を行います」


(なんだろう。)


 ふみは不思議に思ったものの、視界が真っ暗で何も見えない。だがそれは、目が見えないのではなく頭全体が固い何かに覆われているためだと気がついた。


「大丈夫でしょうか、もう動けると思いますけど」


 女性の声がふみに語りかける。

 手を上げて声に答えた。


「自分で頭の機械を取り外すことはできますか?」


 言われたとおり、両手で帽子を脱ぐように取り外した。光が眩しく、しばらくは目が見えなかったものの、徐々に状況を把握する。

 ふみは大きく固い椅子に座っており、頭はコードがいくつも付いたヘルメットの様なものをかぶっていた。手足には枷が取り付けられていたようで、既に外されているものの、その部分が微妙に痛む。

 顔を上に向けると、別部屋からガラスを通してこちらを覗いている女性と目が会った。

 女性はマイクを持っており、スピーカーを経由でふみに話しかけていた。


「お疲れ様でした。天使層昇進試験の精神負荷試験は終了いたしました」


 その場でふみが立ち上がり、女性を睨みつける。


「試験者瀬戸ふみの精神負荷試験結果は合格。只今をもちまして悪魔層・悪魔ふみは天使層へ昇格した事を宣言いたします。続きましては、天使細胞の受肉を行いますので、部屋の移動をお願いします」


 ふみの表情に変化はない。

 やがて部屋の扉が開いたため、その方向に歩きだした。


 場所は治安維持館。

 エレナに肩を借りながら、足を引きずってフレイが歩いていた。


「ちょっと、息してないようだけど、大丈夫なの?」

「なんでそんな変な嘘付くんだよ。息くらいしてるから。大丈夫、大丈夫」


 横を歩く暁斗がフレイに話しかけた。


「お前さ、あのときそう言って死ぬ気だっただろう」

「まあ、あのときは別ってことで」

「フレイの外傷は全部治療しているから、単純に疲れてるだけだと思うよ」


 暁斗がエレナに言った。


「はあ」


 辺りは暗くなってきていた。

 三人が分析業務に戻ると、一人で作業していたマイが近づいてくる。


「どうしたの? フレイはいたずらでもしちゃった?」

「子供かよ! 暁斗と手合わせだよ!」


 言葉は全てlayer2のものを使っていた。エレナは少し話せるが、マイはほとんど話せないに等しかった。

 エレナはフレイをソファーまで連れて行き、体を離した。


「しかし、エレナって見た目より全然怖いと言うか、色んな武器使えるんだな。俺があっちで仕事してたときにも女性の殺し屋っていたけど、全部ヒットマンみたいなやつだったぞ」

「私は殺し屋じゃないからね? これでも私は一般警備で何年か務めてるから、体力も知識も技能も、あんたよりあるみたいだね。でも流石に戦闘能力は」


 エレナがつぶやいて、暁斗の方を向いた。


「うん、フレイは本当に強いね。たぶん素の状態のふみといい勝負するんじゃないか」

「よく会話に出てくるけどさ、その、ふみって人は何なんだ?」


 フレイが聞いた。


「この部署で二番目に偉い、悪魔の女性だ」

「あ、悪魔」


 フレイはlayer1に来たばかりだが、理解できない単語にいちいち突っ込んだりはしなくなっていた。


「最近見ないんだよね。エレナにも会わせたいんだどさ」

「暁斗より強い?」

「ん? そうだね。ふみは俺よりもは遥かに強いよ」


 その解答には、エレナが驚いていた。


「ふみは普段ここに来ると、マイの膝枕で寝てるような人だけど、かなり実力のある人だから騙されないように」

「マイの膝枕って、それ本当なんですか? 私が知ってるふみはそんな人じゃなかったんですけど」


 エレナが驚きながらそう言った。


「まあ、そうだよ」


 暁斗が頷いた。

 それから暁斗はフレイに話しかけた。


「言葉についてだけど、フレイは来週からlayer1の言葉を喋ってね。研修中だからうまく使えないのはわかるけど、慣れるためにはもう使うしか無い」

「わかった。こればっかりは仕方がない」



 しばらく休憩を取り、フレイが動けるようになっていたため、本日の業務が終わろうとしてた。

 そのとき、分析業務室の部屋が静かに開く。


「ふみ」


 暁斗がすぐ反応した。

 だが、ふみの様子が大分おかしいことに気がついた。

 ふみは暁斗を見て、安心したように微笑みながら暁斗の方へ歩こうとしたものの、途中で倒れるように床に座り込んでしまった。


「あ、あれ? なんで?」


 ふみが何度か立ち上がろうとするものの、力が入らないようであった。

 そんな様子を、一同は無言で見ていた。


「どうした!」


 暁斗が近寄ろうとしたものの、ふみは暁斗の方に手を向けて静止の合図をした。

 ふみの目の色が変わる。

 するとふみは立ち上がり、力なく暁斗の方に近づいて行った。

 ふみは苦しそうであった。

 暁斗がふみの体を支えようとしたが、ふみは何かを暁斗に手渡そうとして、それを暁斗の体に押し付けた。


「何だこれは」


 暁斗が二通の封筒を受け取る。


「ちょっと、ふみ。大丈夫なの?」


 マイが横からふみの体を支えた。ふみは泣きそうになりながら、マイに抱きついた。

 その瞬間、ふみの背中から白い翼が大きく広がった。

 部屋の中の一同が沈黙する。


「え?」


 ふみの白い翼。

 それを見てすぐ感づいた暁斗は、手元の封筒を急いで開けた。


「マイ、急いでこれを書いて。そうじゃないと、今のふみとは話ができない」

「え?」

「天使だよ! 天使ふみの会話申請書だ」


 ふみは自分からマイと距離を取り、その場に座り込んだ。


 ソファーにふみを座らせて、マイと暁斗がふみを囲んだ。

 少し離れた場所でエレナとフレイがその様子を見ていた。


「暁斗、ごめんなさい。でも今回はちょっとつらい」

「大丈夫なのか? もし具合が悪いのであれば、病院にでも行った方がいいと思う」

「いえ、天使は自己診断ができます。今の私の不具合は、天使細胞が落ち着いていないのと、精神的に不安定な二点だけ。どちらも待つしか無いんです」

「天使細胞?」


 ふみの白い翼はまだ出たままであった。

 それは半透明になっており、服を突き抜けている。


「私は悪魔になったばかりで、まだ悪魔細胞が体に浸透していなかったって。だから天使細胞の受肉が完全に終わるまでもう少し時間がかかるそうです」

「ちょっと待って。悪魔細胞とか天使細胞とか何なんだ。初めて聞いたよ」


 そんな様子を、エレナとフレイが驚いてみていた。


「なあエレナ、layer1ってのは羽の生えた人間がいるんだな」

「私だって初めて見たよ。なんなの、ふみは何してんの」


 ふみが顔を上げてエレナの方を見た。


「あ」


 エレナは反応するものの、どう接してよいのか分からなかった。

 ふみがエレナの方に手を伸ばす。どうして良いのか分からず、エレナはふみの手を触った。ふみはその手を引き寄せて、エレナに抱きついた。

 エレナの目の前に、ふみの翼が広がる。

 しばらくそうしていたものの、ふみは意識が切れてその場に倒れ込んだ。


 エレナとフレイは解散させた。

 暁斗とマイはその場に残り、意識を失ったふみを見ていた。


「ふみは何をしようとしてるんだろうねー」


 膝枕をしているマイが、暁斗に問いかけた。


「一緒に頑張りたいんだけど、ふみは何も喋ってくれないね」


 暁斗が少し残念そうに言った。


「待つだけじゃダメ。私はね、もうふみと一生暮らしたいって思ってるんだ」

「俺もだよ」

「暁斗ともだよ。一生暮らして行きたい。絶対に逃しませんから!」

「うん、ありがとう」

「今、結構思い切ったことを言ったのわかります? 簡単に流されたら困るんですけど!」

「わかるよ。俺からもちゃんと言うつもりだよ。もうふみもマイも離したくない。絶対に一生いっしょに暮らすよ、だから安心して」


 二人が笑顔で言う。

 そんな言葉に反応したのか、ふみの瞳はゆっくり開かれた。


「あ」

「気がついた?」


 マイが言う。


「うん」


 ふみに元気はなかった。


「なあ、ふみ。天使になったんだよね。おめでとう!」

「あ、ありがとうございます」


 ふみは何かに怯えて言うようだった。


「お祝いしようよって、暁斗と話をしてたんだ。ふみは何かしたいことある?」

「え? したいこと?」


 暁斗とマイは極力笑顔で話していたものの、ふみは依然として真剣な表情だった。

 その様子は変わることがなく、二人に話しかけた。


「私の手を、握ってくれませんか」

「え? いいけど」


 マイが右手を握る。


「暁斗も! お願い、早く」


 暁斗はふみに体を近づけて、左手をしっかりと握った。

 やがてふみはガタガタと体を震わせた。


「すごく怖い夢を見た。暁斗とマイが私を捨てる夢だった」


 そう言うと、ふみは泣き出してしまった。


「ふみ、大丈夫だよ。俺達はここにいる」


 状況がわからないものの、暁斗とマイはただそばにいてあげることしか出来なかった。


「もっと抱きしめて。強く抱きしめて! 怖いんです、暁斗とマイが私を捨てていくんじゃないかって。お願いします、私を強く抱きしめて下さい。そうじゃないと、私は壊れてしまいます、心が寒くて死んでしまいます!!」


 暁斗とマイは二人で顔を見合わせる。

 ふみの様子が余りに異常であったため、優しく包み込んであげた。


「う・・ううう・・・、ああああ!!! ごめんなさいマイ、ごめんなさい暁斗! 疑ってごめんなさい、ごめんなさぁい・・・、だから、だから私を捨てないで!! お願いします、お願いします、もう、もう絶対に疑いません、疑いませんからぁ!! だから! だから!!」


 二人が手を強く握る。

 ふみが悲しみで力尽きるまで、ずっと震えたままであった。



 次の日、エレナとフレイが二人並んで走っていた。


「なあエレナ」


 フレイが話しかける。


「なに?」

「暁斗とふみの関係なんだけど」

「ええ」


 この所、ふみはずっと暁斗とマイにへばりついていた。


「すごいべったりだよね」

「あれは何なんだ」

「知らないよ」

「ふみっていう赤ん坊を、暁斗とマイの両親が甘やかしているようにしか見えないんだが」

「私にもそうにしか見えないけどさ、以前の私が知ってるふみって、どことなく冷たい感じがして、めちゃ優秀だったんだよ?」


 それからまたしばらく走る。


「でもまあ、暁斗とふみの手合わせはすごかった」


 フレイがつぶやく。


「うん。映画そのものと言うか、なんなの? ふみはもう天使と言うか怪物みたいで、暁斗は超能力者と言うか怪物みたいで」

「どっちも怪物かよ」


 だがエレナがそう思うのも仕方がないとは思っていた。


「ふみが天使の翼で飛んでたのはわかったよ、百歩譲ってそれは問題ない。だけどなんで暁斗も空を飛んでたんだ? layer1の人ってのは空を飛べるものなのか?」

「そんなわけ無いよ、なにバカな事を言ってるのって、ちょっと前の私ならそう答えたけど」


 暁斗は風の魔法を使って自分の体を浮かせていたが、二人には魔法と言う存在自体知らなかった。


「やっぱり違うのか」

「違うよ、普通は飛べないはずだよ。ふみにはびっくりしたけどさ、暁斗も実は天使なんじゃないの?」

「ははは。できるやつってのは、どこかイカれてるよな」


 そう言うと、走りながらフレイは話し出した。


「エレナは美少女フィギュアって知ってるか?」

「はぁ!?」

「このくらいの大きさで、主に女性の裸なんだけど、エロい人形みたいなやつ?」

「まあ知らなくはないけど、いきなり何なの? あんた好きなの?」

「そうじゃなくて、layer2で用心棒の仕事してたときの話なんだけど」

「ええ!?」


 エレナが驚きすぎて足を止めた。


「その時のクライアントはマフィアのボスで、めちゃ偉くて怖いやつなんだ。でも、俺がいても、部下がいても、暇になると美少女フィギュアをジロジロ見て、文字どおり舐め回すんだよ」

「えー、なにそれ本当に」

「でも組織をまとめる実力がある。頭は切れるし、交渉力も半端ねえ。でも美少女フィギュアなんだ、しかも人前で堂々と舐める。今のふみを見てると、そいつをどうしても思い出してしまう。できるやつってのは、頭がどっかイカれてるんだ」

「たまに忘れるけどさ」


 エレナがふたたび走り出す。


「なに?」

「あんたって、怖い世界の人だったんだよね」

「何いってんの。エレナも現在進行系で怖い世界の人だろうに」

「うー、うん」

「ちなみに、そのボスの兄貴を殺したのが、どうもlayer2時代の暁斗っぽい」

「いや! 絶対私はそんなんじゃない!」



 二人が部屋に戻ると、ふみはマイの膝枕で横になっていた。

 ふみは二人に気がつくと、すぐ笑顔になって近づいた。


「天使の権限を確認しなおしたんですけど」


 二人に話しかける。

 話ができない二人はただ黙ることしかできず、暁斗に視線を送るものの、ただ暁斗は頷くだけだった。


「悪魔とは違い、天使はある程度の裁量が許されています。だから、あなた達二人とお話しても、私の裁量で会話を許可することができるそうなんです」


 何が言いたいのか直感的に理解できなかったものの、会話してもいいと言うことだけはなんとなく伝わってきた。


「昔、あんずがやっていたやつですよ?」


 後ろを向いてふみが暁斗に話しかけた。

 すぐ会話を続ける。


「エレナとフレイとは会話申請は出しません。でも私と自由に会話しても問題ありませんから。ちゃんと暁斗の許可も頂いています」


 すぐふみはエレナの方を向く。


「エレナ、ごめんなさい。あなたにはずっと謝りたかった。黙って一般警備から出ていったこと、ずっと気になっていました」

「う、うん」

「でも、layer3に行く方法はいくつか見つかりました。もう少しでいけると思いますので、待っていてくれませんか?」

「それなんですけど」


 エレナが少し悲しそうに言った。


「もういりません。私は別にlayer3に行きたいわけじゃないですし、ふみはもう無理しないで下さい。もっと簡単な場所に行きませんか?」

「いいえ。layer3は分析業務に関係のある場所。まあ、待っていて」


 そう言うとふみはlayer2の言葉に切り替えてフレイに話しかけた。


「はじめまして! 私はlayer2出身の瀬戸ふみっていいます! あなたも暁斗に選ばれたんですね?」

「俺はフレイと言います。用心棒やってたんで、人を守るのを生業としてました」


 丁寧に礼をする。

 この組織の中でふみは自分の上司より偉く、だからこそ自分の立場では全く関係ない人である考えていた。だがふみは全くそんなことを考えてないようだった。


「しばらく私は天界に用事があるので、フレイとは付き合いが薄くなると思います。でも、私もちゃんと分析業務の訓練をしますので、今度暁斗と一緒に業務を行いましょうね」

「わかりました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ