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layer0  作者: 運転安全
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悪魔編5

 暁斗とマイが二人で、分析業務室の模様替えをしていた。


「ふみの隣をマイの席にしようか」

「はい、じゃあここで」

「逆の俺と近い方にして。マイは事務が専門になるから、俺と近くなきゃダメ」

「わかりました」


 机を移動し荷物を整理していると、分析業務室の扉が空き、一人の男性が入ってきた。


「トリノ長」


 マイが驚いて反応した。


「こっちにいるって聞いてね」

「どうしました? マイのことについてですか?」


 暁斗が急いでトリノの方に近づく。


「はい。マイの事務員と分析業務の兼任が通ったので、マイと暁斗室長への報告、そして分析業務室の見学ということで来ました」

「ご対応ありがとうございます」

「実はマイのキャリアとしては、いい時期だと思っていたんです。マイはずっと治安維持館の事務員として仕事をしてきましたが、治安維持の現場を見たことがない。お世話してくれる人がいると言うことなので、本件に関しては少なくとも私はかなり乗り気でした」

「そうだったんですね」


 暁斗とトリノが話している様子を、マイはずっとおとなしく二人を見ていた。

 しばらく話をした後、トリノがマイに向かって話しかけた。


「これからマイは二人の上司の元で仕事をすることになります。一人は今までどおり、つまり私トリノが担当します。もう一人は事務員のハルトとなります」

「あ、暁斗じゃないんですね」


 横から暁斗が割り込んで説明した。


「いったんは仮ぎめと言うことでハルトに担当してもらうことになる。俺は現場担当だからね。でも当分俺の方から直接マイに指示を出すことになる」

「分かりました」

「そういうわけだからよろしく」


 トリノが二人に手を振って、部屋から出ていってしまった。


 ある程度片付けが終わり、暁斗はマイとソファーに向き合って座っていた。


「マイとふみが頑張っている、ということで俺も業務を動かそうとしているわけだが」

「はい」


 マイがおとなしく座って暁斗の様子を見ていた。暁斗とマイと一緒に仕事をすると言うことが今まで無かったため、二人はどこか落ち着かない様子であった。


「なんか斬新と言うか、そう言えば俺がふみと出会う前までは、事務員マイを怖い人だと思ってたんだよなあ」

「ちょっと! 変なこと言わないでくださいよ!」

「ははは」


 二人が笑う。

 気は楽になったものの、マイはふみとは大分違うな、と暁斗は思っていた。


「それでだ、マイの他にメンバーを二人くらい増やそうと考えた」

「いいですね」

「一人はほぼ決定した」


 暁斗がクリアファイルに入った資料をマイに提示した。


 エレナ

 女性・18歳、常人層出身・治安維持層配属、一般警備担当

 一般警備所属、部署配属から3年。


 その資料に目を通して、マイは複雑そうな表情を見せた。


「あの、暁斗はその」

「なんだい」

「女の子が好きなんですか?」

「まあ待って。そう思われるのも仕方ないと思ってるよ? でもさ、エレナは本人の希望なんだ。だから適性が有るかどうか、ハルトと二人で面接した」

「あ、そうでしたか。失礼いたしました」


 暁斗は少し笑ってしまっていた。


「所属が一般警備のため基本的な体力は問題なし。どうもふみの友達らしく、悪魔ふみに憧れて分析業務に興味を持ったそうだ。危険で死ぬかもしれないとの説明にも、ふみにトラックで殺されそうになったことがありますので大丈夫です、だそうだ」

「なにそれ、こわい」

「あとは人事の都合だけだから、たぶんエレナで決定だと思うんだが」


 暁斗には引っかかることがあるようだった。


「本当は募集か強制昇進で男二人ほど引っ張ってくる予定だったんだ。流石にこうも女性が多いと、分析業務と言う特殊な仕事を行う上で難しい面も出てきてしまう。あと一人は絶対に男性にしようと考えてる」

「ええ、その方がいいようにも思えます」


 そのとき分析業務室の扉が開き、聞き覚えのある声が響き渡った。


「おいっす、暁斗いる?」

「いるよ」

「おお、マイもいるじゃん」

「こんにちは」


 マイがハルトに丁寧にお辞儀する。


「もう俺に対して上司対応するつもりだな」

「嫌ならやめますけど」

「嫌だからやめてよ」

「えー、本当ですか? 分かりました」


 ハルトは本当にいつもどおりであったが、マイは慣れない所があるようだった。


「それで今日はどうしたの?」


 暁斗がハルトに問いかける。


「いや、二人が元気してるかなって見に来ただけだ。あと、強制昇進するなら暁斗サイドでも地獄地蔵長サイドでもいいから手伝うけど」

「そうだなあ、どちらかと言うとマイサイドかな」


 そのとき電話がなる。


「ちょっとごめん」


 暁斗が立ち上がり、ソファーにマイとハルトが残された。


「しかしマイが分析業務に行くなんて、実は全く考えてなかったんだよね」


 ハルトが笑いながら話しかけた。


「そうですか? だって私って、ふみとも暁斗とも仲良かったですよ?」

「それは知ってる。でもマイってもう少し常人層寄りの人間だったよね。よくこんなリスクの高い業務に入ろうと思ったもんだと」

「だって楽しそうじゃないですか」


 マイが笑って答えた。

 そのとき、暁斗が受話器を取りながらハルトに話しかけた。


「地獄地蔵長とふみが今からここに来たいんだそうだ。ハルトは時間有る?」

「無いけど作るよ。それより俺ってふみと会話申請してないんだけど大丈夫なの?」

「ハルトと会話申請したいっていうのがふみの用事だ」

「わかった、いくらでも申請するよ」


 ハルトは特殊な地位にいるため、分析業務関連であれば会話申請に上司の事前承認を必要としなかった。それを暁斗は十分承知していた。


「地獄地蔵長の用事は新人のマイとの顔合わせだそうだ。マイは大丈夫だよね」

「時間は大丈夫ですが、私も会話申請するんですか?」

「たぶんしないけど待って」


 それから暁斗が電話で何やら話していた。


「マイは現時点で事務員兼任だからいらない。すればふみのときみたいに大変なことになるからね。地獄地蔵長はちゃんと事情が分かる人だから」

「わかりました」


 暁斗が電話対応に戻る。


「大変なことって、どうなったの?」


 ハルトが興味を持って問いかけた。


「部長レベルの人たちがとにかく嫌がっていたと言うか、怖がっていたと言うか。そりゃそうですよね、事務のような規律を重視するような場所で、私のような下っ端が特殊な権力を持ったように見られるんですから。でもトリノ長は全然気にしてなかったのが面白かったです」

「権力と言うより、悪魔ふみのことが本当に怖いんだと思うよ」

「そうなんですか? まあ、私も最初怖かったな」


 そのとき暁斗が戻ってきて会話に加わった。


「ふみとマイの会話申請って、結局常人層内でストップしたんだよ。常人層担当レベルを悪魔の権力に晒すべきではないって。そんな常人層の動向を、どういうルートか知らないけど悪魔ふみがすぐに察知して、それで悪魔の権力を用いて常人層を通さずに、常人層統轄担当の悪魔経由で承諾させたそうだ」

「え! そうだったの!?」


 本人のマイが驚いて反応した。


「いずれマイの元に会話申請書の複写が郵送されると思う。届いたら承認サインを見てみるといいよ。通常ならマイの上司から大天使までの承認が並ぶんだけど、たぶん常人層の承認が全く無くて、いきなり悪魔層から始まっていると思う」

「いいんですか? すごく怖いんですけど」

「マイは全く気にする必要はないよ。そのことに関してふみですら全く気にしていなかったって。でも常人層幹部にとっては結構とんでもないことで、悪魔に逆らったということになるため、意味もなく怯えていたって、いま電話で地獄地蔵長が言ってた。ふみ本人は今日地獄地蔵長に会うまで、そんなこと知らなかったそうだ」

「なんなのそれ。管理職ってそういうもんなの?」

「一応言っておくとさ、この件について悪いのはふみだと思うよ。常人層幹部はマイの様な一般人を悪魔や天使から保護する義務があるからね。だが例えそうだとしても、ふみの性格上避けられない天災みたいなもんだろうから、仕方ないんだよね」

「ふみらしくていいじゃん」


 マイは驚いていたものの、ハルトには好評であった。


 しばらくして地獄地蔵とふみが到着し、一同はソファーに集まった。

 ハルトがナイフで指を切り、会話申請を完成させたのを一同は見ていた。申請書を無言でふみに提出する。

 ふみが受け取ると、書類に日付を記入してハルトに話しかけた。


「私、知らなかったんですけど、私が会話申請書の日付を記入することで、もうこの瞬間からハルトと話ができるようになるんだそうです」


 それを聞いたハルトがふみに発言した。


「本当ですか?」

「本当ですよー」


 二人は顔を見合わせて笑ったものの、すぐハルトは態度を改めて、ふみにお辞儀をした。


「昇進試験の合格おめでとうございます、悪魔ふみ」

「ありがとう、ハルト。今はその態度でいいけど、そのうち昔みたいに対応してくれると嬉しいな」

「それは難しいですね」


 ふみは笑顔のままそれ以上言わなかった。暁斗とマイでさえ、仕事中は悪魔としての態度を突き通しているからであった。


「会話申請はたしかに受け取りました。本日中に悪魔層へ提示しようと思います」

「よろしくお願いいたします」


 ふみの用事が終わると、今度は地獄地蔵が話し始めた。


「君が暁斗の所に来た子だね」


 マイが無言でお辞儀をする。


「そのうちに会話申請をしてもらうことになると思うけど、今日は無言のまま対応して欲しい。何か言いたかったらふみ経由で伝えてくれればいいから」


 すぐ暁斗が質問した。


「マイの会話申請って難しそうですけど大丈夫ですか?」

「現時点では根回しだけじゃ難しいと思うよ。だが既に治安維持層の部署に首を突っ込んでる立場だからね、ときが解決すると思う」

「そうですか、つまり事務員であれば難しいってことなんですね」

「そうだ。それにしてもふみは良くあの常人層統轄メンバー経由で承諾させたね」

「え? 普通に規約に従って申請しただけですよ?」


 ふみは不思議そうにしていたが、地獄地蔵もどういうことなのか分からなかった。



「暁斗に報告があります」


 ふみが嬉しそうに切り出した。


「はい、何でしょう」

「私が悪魔になったことで一般警備から除名され、現在は大天使の上司から命を待っている状態になるわけですが、その間に地獄地蔵長にお願いして分析業務のメンバーに加えてもらいました」

「ええ!? ということはふみが分析業務に復活ですか?」

「ただし、完全復活ではない」


 すぐに地獄地蔵が断りを入れる。

 ふみは笑顔のまま、話を続けた。


「地獄地蔵長が管理する名簿に悪魔ふみを加えたことで、正式に分析業務に復活となりました。しかし私の上司って地獄地蔵長ではなく、これから誰かの大天使がアサインされることになります。当然その大天使は業務を持っており、私はその業務を優先して行なわなければいけません」

「兼任と言うことですか」


 暁斗がつぶやく。


「兼任以下です。一応、治安維持層と悪魔層の人事には認定されていますが、今の状態だと、ただ私が分析業務のメンバーであると言い張ることができるレベルとなります」

「そうですか」


 暁斗は少し残念そうな顔をしてしまった。


「でも! ねえ暁斗、私の名札を捨てなくてよかったでしょ? そこの物置も、私の机に復活しますよ!」


 ふみの言い方がいきなり以前のものに変わる。


「え、ええ」

「ねえねえ、マイの机見せてよ!」

「ちょ、ちょっと、ふみ?」


 そう言うと、ふみはマイの手を取ってソファーから離れて行ってしまった。


 暁斗、ハルト、地獄地蔵はしばらくふみとマイを見ていたが、ソファーに座り直して、三人で話し出した。


「しかしふみは、本当に強いっすね」


 ハルトが地獄地蔵の方を向いてにつぶやいた。


「私も今回のことに関しては本当に驚いたよ。しかも悪魔層昇進試験合格者はふみ一人なんだそうだ」

「ええー? それってどう考えても何か変ですよね? 悪魔が減っていく一方じゃないですか」

「悪魔って正直足りてないんだよ。なあ、ハルトと暁斗も悪魔層昇進試験に興味を持ってくれないか。結構本気で期待してるんだが」

「ははは、考えておきます」


 暁斗も苦笑いしか出来なかった。


「確か二人に推薦はしたんだよな。ふみは誰が推薦したんだ?」


 地獄地蔵の質問に対して、遠くからふみが返答した。


「私は推薦なしですよ!」

「え!」


 地獄地蔵だけではなくハルトも驚いていた。

 だがハルトは、ふみがマイの膝枕で横になっているのを見てさらに驚いていた。


「規約を暗記してたときに偶然見つけたって言ってましたよ」

「そうなのか、ふみってどうして全部普通じゃないんだ」


 地獄地蔵が下を向いて少し悔しそうにしていた。


「ふみに初めて会ったときから私が推薦しておけば、偶然見つける手間が省けたんだよな」


 それに対して、ふみがまた遠くから返答した。


「偶然見つけるっていうことに意味があるんですよ! だから私が知らなかったのは、これはこれで良かったんです。そうは言っても、マイには私の方からちゃんと推薦しておきましたので」


 マイが地獄地蔵の方を向いてお辞儀をした。


「マイは別に知りたくなかったって言ってたのが面白かった」


 暁斗が余計なことをつぶやいた。


 暁斗が立ち上がり、横になっているふみの方に近づいた。

 三人でいるときの話し方は普通に戻っていた。


「ふみはエレナのことを聞いた?」


 暁斗の言葉に、ふみはかなり驚いていた。


「エレナ!?」

「治安維持層・一般警備のエレナが本人の希望により、分析業務に異動になると思う。これに対して、ふみの意見を聞きたかった。もし何か不都合があるならやめようとは思ってる」


 ふみの表情は明るい。

 何も問題ないだろうと暁斗は思った。

 ふみがマイから体を離し起き上がると、カバンからメモ用紙を取り出した。

 ペンを持ち「約束を忘れないでね。瀬戸ふみ」と記載して暁斗に渡す。


「これをエレナに渡すか、机の上に置いて欲しいです。エレナとは一緒にlayer3に行く約束をしているんです」

「layer3だって? そりゃまたどうやって?」

「全然考えていません。絶対断られると思うけど、アダムにお願いしてみようかな」

「渡すのはいいよ。たぶん近いうちに会うと思うし」


 ふみは安心したようにため息を着いた。


「ありがとう。エレナはたぶん私に怒ってると思う。何も言えずに一般警備から出ていってしまったんだもの」

「怒っているかもしれないけど、本人の希望で分析業務に異動したんだ。きっとわかってもらえると思うよ」

「そうなんだ。エレナに早く会いたいけど、会うのは少し後になりそう」


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