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layer0  作者: 運転安全
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悪魔編4

 場所は治安維持館・分析業務室。

 部屋には暁斗一人しかいなかった。

 マイから相談を持ちかけられて、それを受理するように動いていた。

 分析業務にマイが来る。それだけで暁斗は心から喜んでいた。心は浮ついてた。だがそれが良くないことも知っていた。

 結局、分析業務をする気にはなっていなかった。ただ過去の書類の整理を重点的に行っていた。後は毎日のトレーニング。

 本当は分析業務を実施したかったが、そのためには強い人を集める必要がある。だが強制昇進の義務を実施するだけの気力がなかった。

 席を立ってはコーヒーを入れて、そして席に戻る。マイが来るのであれば、どうしても組織を活性化させたい。そんな思いだけが先行して焦っていた。


「こんなに、ダメな男だったんだなあ」


 独り言をつぶやいてから、書類の整理を再開する。だが全くはかどらずにいた。

 ふとドアの方に目を向けた。

 そこには、何故かふみが立って暁斗の方を向いていた。


「ふみ!?」


 立ち上がって近づく。

 幻覚を見ているのかとさえ思った。


「あれ? どうしたの、ふみ。いま仕事中だよね」


 ふみは何も喋らない。

 だが暁斗の方に近づくと、抱きついて口を合わせて、長いキスをした。

 しばらく動きを止めていたが、顔を離すとふみは一つの封筒を手渡した。


「ちょっと、どうしたのふみ。何かあったの?」


 突然キスをされて動揺するものの、封筒を受け取り、中の書類を確認する。

 そこで暁斗は動きが止まってしまった。


「悪魔ふみ、会話申請書」


 顔を上げてふみを見る。ふみは笑顔のまま、一言も喋らずに暁斗を見ていた。


「ちょっと、これって」


 ふみは笑顔のままだった。


「悪魔、ふみは悪魔になったのか!?」


 暁斗はしばらくふみの顔を見て動きを止めてしまった。

 いくつか疑問が出てきたため、無意識のうちにふみに話しかけていた。


「本当なのか、ふみは誰かに推薦をもらっていたのか!?」


 ふみが黙って首を振る。


「そうか自力か。俺は地獄地蔵長に推薦をもらっているから知ってるんだよ。悪魔層昇進試験は誰でも受けることができる。ただし誰でも受けることができると言うことを人に喋ってはいけない、そう言う規則だ」


 ふみが無言で頷く。


「だが、ふみは規約を見て自力でその事実にたどり着いた。人には言えないから、ふみは俺にさえ悪魔層昇進試験を受けると言う事を秘密にしなければいけなかった」


 ふみは無言のまま、もう一枚の封筒を暁斗に見せた。


「マイの分?」


 そうして部屋から出ていこうとしたため、すぐふみの手を取って止める。


「待って、ふみ」


 暁斗が目を閉じて、次の言葉を考える。


「試験合格おめでとう、ふみ」


 その言葉を聞いて、ふみの顔が明るくなる。

 だが暁斗は真剣な顔のまま、ふみに対して丁寧な言葉遣いに切り替えた。


「いまのあなたが治安維持館に行ったら混乱します。俺がマイをここに連れてきますので、どうか中でお待ち下さい」


 ふみが暁斗の態度に驚いてしまった。

 だが暁斗はあまり余裕がなかったため、分析業務室のドアの前に一級緊急会議の立て札をつけると、駆け足で事務員の部屋に向かった。


 ソファーにはマイがおとなしく座っていた。

 生まれて初めての悪魔相手にどうしていいのか全く分からずにいた。


「悪魔ふみ、会話申請書」


 マイにとっては初めて見る書類であった。

 そしてその手は震えていた。


「私、どうしたらいいのかな」


 マイは暁斗に泣きそうになりながら、助けを求めた。

 そんな態度を見て、ふみもかなりショックを受けているようだった。

 暁斗自体も迂闊な事を言えない。たとえふみが何も変わっていないとしても、規約として悪魔と常人層の人間が意思疎通をするのにかなり困難を要するのであった。


「ふみ」


 暁斗が下を向いてつぶやくように言った。


「俺の会話申請は本日中に絶対に提示します。地獄地蔵長と一言話ができればそれで問題ないでしょう。ただし、マイはもう少しお待ち下さい」


 その暁斗の言葉遣いも、ふみにとっては非常につらいものであった。


「ふみ、安心して下さい。もしあなたが望むなら、すぐに元の関係に戻れます。それまで他人行儀になってしまいますがお許しください。俺はいつでもふみの味方です」


 意思疎通が出来ないため、ふみはただ暁斗の方を向いて頷くしか出来なかった。そんなふみをソファーに残し、暁斗はすぐに電話の方に向かった。

 ソファーに残されたマイとふみ。

 ふみはしばらくマイと距離をとっていたものの、目から涙が溢れてきた事をきっかけにマイに抱きついた。


「ちょ、ちょっと、ふみ!?」


 マイの膝に顔を埋めて、ふみはしばらく泣いていた。いつもどおり、マイはふみの頭のなでてあげると、しばらくしてふみは泣き止んだ。だが顔を上げるのが怖いようで、ずっと下を向いたままであった。


「ごめんね、ふみ」


 頭を撫でながら、マイがつぶやく。


「事務の人ってさ、とにかく悪魔と話しちゃいけないって言われてるんだ。仕事上の理由だと思うんだけどね」


 ふみがゆっくりと顔を上げて、マイの顔を見た。


「ごめんね。だからさ、会話申請には少し時間がかかるかもしれない」


 マイがふみの顔を両手で包みこむ。


「ふみの泣き顔は私のせいだね」


 そしてふみの顔にたくさんキスをしてあげた。


「ふみ、いっぱいがんばったんだね。試験合格おめでとう。ふみを褒めてあげることさえしないで、怖がってばかりいてごめんなさい」


 ふみの顔にようやく笑顔が戻ってきた。


「もうふみのことは怯えません。でも当分は暁斗と同様、言葉遣いは悪魔対応のものになると思います。その辺りはご容赦願います」


 ふみが頷く。



 いつもの第三班の朝のミーティングには、ふみがいない。

 休暇中であることを知っているため、誰も気にする人はいなかった。

 だが代わりにタナカ長が出席していたため、一同は緊張していた。


「一つだけ私の口からいいたくてね」


 タナカが口を開く。


「ふみが悪魔層昇進試験に合格した。よって、一般警備から除名扱いとなる」

「はぁ!?」


 一同が驚く。特に衝撃を受けたのはエレナだった。


「一番仲が良かったのはエレナ、君だったね」

「は、はい」

「何も聞いてはいなかったんでしょう?」

「ええ、そんな事、全然聞いてませんでした。ふみは悪魔になったんですか!?」

「そうだよ」

「え、ええーー!?」


 タナカがエレナの方を向いて言った。


「何も言わなかったふみを責めないでやって欲しい。仕方がなかったことなんだ」

「えっと、そうなんですか」


 しばらく下を向いていたが、顔を上げてタナカ長に言った。


「今度、ふみに聞いてみます」

「聞くって言ったって、もう会うことさえできんだろう」

「ふみとは会う約束をしています。別れる間際に、わざわざふみの方から約束したんです。ほぼ確実に会えると思います」

「そうか。そうだな、聞いてみるといい」



 エレナは無言でトラックの整備をしていた。

 運転はまだ全然慣れていなかったが、その日は整備を早めに切り上げた。ダイゴから基地間での物資運送を頼まれていたからであった。

 一人でトラックを走らせる。


「ねえ、ふみ」


 エレナは一人ごとをつぶやいた。


「ふみ、ふみの、ふみのバカァーーー!!!!!!!!!!」


 トラックの中で一人、大声を上げる。


「バカ!! バカ!! ふみの!!ふみの!!」


 スピードが落ち、トラック停止する。


「バカーーー!!!!!! なんで黙って出ていくのーーー!!!!」


 広い平地を走っていたため周りには誰もいない。道の真ん中で停止していても危険はなかった。

 エレナはしばらくふみのことを思い出していた。

 それはどれをとっても異常な言動だ。

 全てのふみの行動が矛盾しているようにさえ思えた。


「私たちは悪魔になれないって言ってたじゃん。どういう裏技使ったんだよ」


 ハンドルに顔を伏せる。


「ふみは行動が全部すごかった。でも思い返せば、ふみはずっと自分の目的しか見てなかったんだろうな」


 トラック事故の時、ふみの人間離れした行動を思い出していた。


「あれほど有能なら、私のことなんてどうでも良かったんだろう。ふみの通り道に、たまたま私がいて、それだけだったんだろう」


 ふと、遊びに行く約束を思い出していた。


「でも、ふみは私と遊びに行きたいって言ってたじゃん」


 ふみが進んで自分から計画すると言っていた事を思い出す。


「あれはどうなったの? どうするつもりなの?」


 気持ちの整理がつかず、怒りと悲しみが心に渦巻いている。


「layer3に行きたいって言ってたじゃん!!! 私の方から確認しに行くよ。どうにかして、ふみと会ってやる。悪魔だからだなんてどうだっていい。ふみとはこんな中途半端に別れたくない。そして聞き出してやる。絶対に」


 何かを決意したように頷いた。



 悪魔層管轄区域。

 そこは悪魔以上の身分しか入ることが許されない区域である。試験合格者のためのセミナーは悪魔層の区域で行なわれる。ふみもそのセミナーに参加する必要があった。

 今回の悪魔層昇進試験合格者はふみ一人のみであった。


「あのー、いつもこんなに少ないんでしょうか」


 ふみが恐る恐る教官に問い合わせる。


「いいえ、いくら何でも少なすぎます。本当にどうしてなんでしょうか。試験が異様に難しかったってことなんですが、それを合格できたあなたは誇っていいと思いますよ」

「はあ」

「実際にどうでした? 試験は難しかったですか?」

「私は今回初めて受けたので、難易度は全くわかりませんでした。でも過去問の内容からそれほど違ってはいなかったと思いますけど」

「え! 一発合格ですか!」


 教官はかなり驚いているようだった。


「はい。珍しいんですか?」

「珍しいなんてものじゃないです。奇跡に近いです」

「はあ」


 どれもこれもふみにはピンとこない話であった。それから数時間ほど講義を受けて本日は解散となる。

 ふみは建物を出ると、すぐに別の建物へと向かった。


「天使層昇進試験概要」


 資料を受け取ると、ふみはその場で申込用紙に記入を行い、その日のうちに申請を行った。


「暁斗、マイ、待っててね」


 外に出て、一人つぶやく。


「エレナ、一緒にlayer3に行こうね」


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