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layer0  作者: 運転安全
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悪魔編3

 分析業務室には暁斗室長一人だけであった。

 ふみが一般警備に異動となった後でも席と名札は残してあった。ふみが片付けることをきっぱり拒否したからだ。

 だが、そうも行かないと言うことで、名札は誰か新しいメンバーが入ってくるまでで、机は物置の代わりとして利用させてもらうと言うことで落ち着いた。


「最近の調子はどうだ」

「ええ、書類の整理ばかりですが、順調に進んでいます」


 電話で地獄地蔵と会話をしていた。


「ふみが居なくなって人が足りないと、分析業務なんて出来ないよな。新しい人が必要ならいつでも手配するから言って欲しい」

「はい、その予定でいます。いざとなったらハルトと二人で現場対応しますので」

「流石にそれは可哀想だ」


 二人が笑う。暁斗はハルトを現場に出す気はなかったが、たまには二人で行動するのもいいかもしれないとも思った。


「とは言うものの、今の暁斗はかなり弱ってるみたいだから、当分は休むといいよ」

「え!? 弱ってる?」


 少し意外そうに暁斗が反応した。


「ふみが居なくなって、やる気がないんだろう。そのまま職を放棄してくれてもいいぞ。それを理由に私が分析業務に復帰するよう大天長に頼むから」

「地獄地蔵長が戻るのは嬉しいですけど、ちゃんとお仕事しますから」

「ははは」

「それに、ふみとはちゃんと会ってるんですよ。ふみの友達にマイって事務の子がいて、その三人で一般警備の事を聞いています。ふみは元気でやっているようです」

「そうか。正直、特殊警備ならいざ知らず、一般警備は私には全然わからない部署でね。元気でやってるなら、それは良かったと思う」


 地獄地蔵長は暁斗に人的リソースの追加についてしか話すことがなかったため、しばらく暁斗と世間話をしたあと電話を切った。


 暁斗が一人で仕事をしていると、ドアからノックの音が聞こえてきた。


「どうぞ」

「失礼します」


 入ってきたのはマイ。


「どうしたの? 珍しいね」

「暁斗のお仕事の邪魔をしに来ました」

「そう、入って」


 二人は笑顔になった。

 マイは部屋の中に入り、ソファーに腰をかけた。

 暁斗は奥から二人分のコーヒーを持ってきてマイの前に置いた。


「暁斗はさ、仕事やる気ないでしょ」

「さっき上司からもそんなこと言われたよ」

「怒られたの?」

「いや、休んでって言われた」


 それからしばらく無言であった。

 だがマイは話したいことがあるようで、切り出し方を考えているようだった。


「お仕事やる気ないならさ、私とお話してくれないかな」

「それは構わないけど、マイは持ち場を離れて大丈夫なの?」

「午後はお休みをいただきました」

「それならいくらでも」


 おそらく話しづらい話題を言うのだろうと暁斗は思っていた。

 だがマイには何らかの意気込みのようなものが無かったため、深刻な内容では無いだろうと考えていた。マイは緊張を隠せないタイプであることを暁斗は知っていた。


「私ってさ」


 横を向きながら話し出す。


「私ってさ、暁斗の何なのかな」

「何って、そりゃ」


 暁斗が答えを言う前にマイが言葉で遮った。


「セックスフレンド」


 二人が沈黙してしまう。


「それはいくらなんでもひどい言い方じゃないか?」


 暁斗が言う。


「私とふみの関係もそうだよ。お友だちだけどね、セックスフレンドなんだ」


 その言葉を聞いて、暁斗は少し残念そうな表情を見せた。


「俺はマイをそう思ったことはない」

「え?」


 マイが顔を上げる。


「ふみだってそう思ってる。マイは大切な人だよ」

「ありがとう」


 軽く笑って返答する。


「俺はマイを愛してる」


 少し怒ったような顔ではあったものの、暁斗の真剣な顔で言わられたため、マイは気持ちが高ぶってしまった。


「俺はマイの事をふみと同じくらい愛している。マイは俺達の事をどう思ってるの?」

「ふふふ、暁斗に二股を堂々と宣言されてるのに、本当に嬉しい」


 マイはその返答を予想していたようであった。


「私も暁斗とふみは、もう特別な人として見ています。でも心の底から愛してよいものなのでしょうか。所詮、私はセックスフレンド。いつかは二人から捨てられる運命にあります。だから、もうこんな関係はやめようと思っています」


 暁斗の表情が真剣になる。

 だがマイは、内容に反して表情は緩やかだった。


「いや、やめようと思っていました」

「思っていた?」


 しばらくマイは下を向いていたが、少し笑ったような顔で暁斗の方を向いて言った。


「ねえ暁斗。私はそんなふうに思ってたのにさ、やっぱりやめたくないんです。ふたりと一緒に居たい、でも捨てられるのは嫌! でも一生三人で一緒にいたい! ねえ、どうしたらいいの? どうして二人は私をこんなふうにしてしまったの?」

「捨てないよ! どうしてマイは俺たちが捨てるだなんて思うの?」

「まあ、それなんですよね、ふふふ」


 暁斗は真剣であったが、マイはどこか楽しそうであった。

 現時点でマイの言いたいことは、暁斗には何一つ理解できなかった。


「ふみは可愛いですよね」


 マイがつぶやく。


「え? うん、そうだよね」

「でも可愛いだけじゃなく、今も自分の考えに従って行動している」

「そうだね、ふみのそう言うところは本当にすごいと思う」

「ふみは分析業務に戻ってこようとしてるんでしょう?」


 マイの表情が少し真剣になっていた。


「わからない」

「でも暁斗と一緒に働くために命削っているのは確かだと思うんですよね」

「何かをしようとしているのは間違いないね」

「私も思ったんです」


 少し熱いコーヒーを一気飲みした後、マイは話を続けた。


「二人に捨てられるとか受け身でいるのは良くないって。ふみはいつも自分の欲しいものを手に入れるために前を向いている。だから私も二人に愛されるような人になる。もう、所詮二人のセックスフレンドだとか言って、現実から逃げるのはやめます」


 暁斗が最初に感じていたマイの雰囲気とは全然変わって、かなり真剣な表情で訴えているマイの姿があった。


「私を暁斗の元で働かせてくれませんか。私は治安維持館・事務所属のマイです。事務処理と関連する法規約についての知識はありますし、治安維持層と常人層との事務と会計なら一通り経験してきました。今の時点では分析業務は出来ないかもしれません。でも必ずできるようになります。本来であれば治安維持層の位を取得してからお願いするべきなのかもしれません。でも近いうちに必ず位を取得します」

「ええ!?」

「どうかお願いします」


 マイが深く頭を下げる。

 そんな様子を、暁斗はしばらく無言で見続けてしまった。


 一般警備は集団行動が多いため、寮が設けられており、エレナとふみは同じ建物内で生活していた。それぞれ個室は用意されているため、仕事以外に会うことは無かった。

 エレナは寝る前に屋上の光を見るのが習慣になっていた。

 何故か屋上に明かりがついている。それはほぼ一晩中着いていた。気になることはなかったが、その光が何なのか気になっていた。

 ある日、エレナはどうしても眠れない日があったため、真夜中に屋上へと向かった。光の原因を確認したいと思っていた。そこでふみと出会ってしまった。


「あれ? ふみ?」


 ふみは屋上のベンチで一人星空を見上げていた。


「え!? エレナ?」

「うん、そうだけど」

「こんな時間に何してるんですか?」

「それはこっちの台詞だよ」


 エレナはゆっくりとふみの方に歩み寄り、隣に腰を下ろした。


「ホームシックか何か?」

「いえ。星を見ていました」

「なんかそれっぽい答えだけどさ、ほぼ毎晩屋上の光が気になってたんだ。あれってふみの携帯電話の光だよね? 毎晩星を見てるの?」

「え! 気がついてたんですか?」

「しかもこんな時間に」


 ふみはかなり動揺していたが、すぐに落ち着きを取り戻したようだった。


「私が何をしてたのかは気になるなら教えますけど。でもエレナこそどうしたんです、こんな時間に」

「私は眠れなくなっただけ」

「そうですか」


 しばらく二人は沈黙していたが、エレナはちゃんと質問することにした。


「それで何してたの?」


 少し考え込んだものの、ふみはすぐに答えた。


「勉強です」

「勉強!? こんな場所で?」

「はい、この携帯電話に色んな情報を詰め込んでいまして。だから暗記したい時はこれを見て、考えたい時は目を閉じてじっとしている。そんなことをしていました」

「そうなんだ。ふみは努力家なんだね、ところで何の勉強を?」

「概念基盤が提示している常人層・事務規約と治安維持層・事務規約です」

「ええー? 本当に意味分かんない、でもまあ」


 ふみだから仕方ないか、と言いかけてやめた。


「あとは、エレナとどこに遊びに行こうかって考えていました」

「それは嬉しいけど、何もこんな時間に考えなくても」

「遊びに行きたい場所が決まりました。聞いてくれませんか」

「え、うん、どこ?」


 眠くなってきたため、適当に返答してしまったものの、ふみの解答を聞いて目が冷めてしまった。


「layer3」

「はい!?」

「どうですか。私と一緒にlayer3へ」

「どうもこうも、どうやって?」

「それは今から考えます」

「なにそれ!?」


 ふみが立ち上がる。


「私はもう戻ろうと思います。でも楽しみにしていて下さいね」

「え? うん、わかったけど」

「それではおやすみなさい」


 エレナに丁寧にお辞儀をすると、ふみはすぐに自室へ戻っていってしまった。

 残されたエレナはしばらくその場で考えていたが、眠くなってきた為部屋に戻った。


 翌日。

 第三班の朝のミーティングで、ふみが発言をした。


「悪魔層昇進試験が始まったそうですけど、この時期にお休みをいただけると聞きました」


 それにダイゴが返答した。


「ああ。大体この時期だと、試験云々に関係なくいつでも大丈夫だよ。ふみは休みたいの?」

「はい、一週間後辺りから長めにお休みをいただけるなら休もうかと考えています」

「全然構わないよな」


 横からメンバーたちも発言し始めた。


「俺は一ヶ月後がいいんだけど」

「ああ、わかったが、後で詳しく聞くよ」

「自分はふみと同じくらいかな」

「まあいいんじゃないの。そうだな。一応、みんなの予定だけでもまとめて聞いておくか」


 エレナはふみの発言を思い出していた。

 本当に用事があるとのこと。今回の休みはその用事のために取るものだろう。

 たぶんふみには彼氏が居るのだろうと考えていた。それとは全く別に、昨晩のlayer3の発言も深く印象に残っていた。


「彼氏がlayer3に居るとか?」


 適当に考えてみたが全く分からなかった。そしてふみにいろいろ聞くのも何か抵抗があった。ふみは普段から自分の事を全然話そうとしなかったからだ。


「マイという友達がいる、それだけは知ってる」



 ふみとエレナはガラスの割れた大型トラックの整備に取り掛かっていた。


「このトラックはもう何年もエンジンオイルを交換していないそうなので、交換作業から取り掛かりましょうか」

「うん、私は何でもいいけどさ、それってやらなきゃどうなるの?」

「じゃあエンジンオイルとは何かから説明しますね」


 ふみが笑顔でエレナに話し始める。

 少しも嫌な顔をせず、専門的な内容を丁寧にわかりやすく説明した。そんなふみの様子を見ながら、トラック転倒事故のことについて思い出していた。

 トラックが転倒し始めた瞬間に、ふみはエレナの体を掴んでドアを開け、二人で外に飛び出していた。エレナは何とかその様子を思い出した。

 徐々にふみの評価が変わっていく。

 ふみは、あの滅茶苦茶強い暁斗が居る分析業務で活躍できていた人だ。普通の一般警備の人たちより遥かに能力が高い。体力も技術も戦闘力も、知識も経験も特殊能力も。

 普段からふみは自分の能力を隠しているだけだ。何故隠しているのかはわからないが、たぶん明確な理由がある。ふみは最初から自分の目的しか見ていない。

 普段からエレナはふみと一緒にいると言うこともあり、ふみへの印象はかなり正確になってきていた。


「ということです。分かりましたか?」


 整備についてのふみの説明が終わる。


「わかったけどさ、ふみは何でも知ってるよね。どこで覚えたの?」

「暁斗に教えてもらいました」


 ふみがニッコリと笑う。


「なんか分析業務が楽しそうに思えてきた」


 エレナと話していたふみの表情が変わる。そして体をダイゴがいる方向に変えた。

 タナカ長が来ているようで、ダイゴと何か話しているようだった。


「珍しいね、タナカ長が来ているだなんて」


 エレナが話す。


「珍しいものなんですね」

「そうだよ。あれくらいの地位になるともう現場に来る必要ないからね」


 タナカ長はこちらに向かって歩いているようだった。

 こちらに来るとは思っていなかったため、二人はすぐにエンジンオイルの交換に取り掛かろうとしていたが、声を掛けられたため二人が動きを止める。


「エレナ、ふみ、うまくやっているか」


 タナカ長の言葉にエレナが返答する。


「はい、トラックを少し痛めてしまいましたが、これから整備を始める予定です」

「ああ、頑張って欲しい」


 そしてふみに話しかけた。


「ふみは新人と言うことで、少しだけ話がしたい。ダイゴに聞いたが、長期のお休みに入るそうだね。休みに入る前の日に、仕事が終わったら私の部屋に来てくれないか」

「はい、了解しました」

「10分くらいで終わらせる予定だ」


 そう言うと、タナカ長は別のメンバーたちのもとに行ってしまった。


「なんだろうね」

「さあ? でもタナカ長は結構面白いですね。色々と私の予想外を行っています」

「なにそれ?」




 数日が経ち、業務時間が過ぎ、日が暮れ始めようとしていた。


「ふみはさ、明日からお休みだよね」


 エレナが話しかける。

 しかし返答せず、ふみはしばらくエレナの顔を見続けていた。


「どうしたのさ」

「あの、エレナ」

「なに?」


 ふみはしばらく黙っていたが、いつもどおり軽い口調で話しかけた。


「お休み中にlayer3に行く方法を考えてみますね」

「あはは! 本当に行く気なんだ!」

「次に会った時に行けるといいんですが。まあ、任せておいて下さい」

「そうだね」

「絶対に忘れないでくださいね!」


 そう言うと、ふみはエレナを残し、治安維持館に向かって走り出した。


「忘れないでって、いつまで待たせるつもりなんだろう」


 ふみの後ろ姿を見ながらエレナがつぶやいた。


 それからふみが一人でたどり着いた先は、陸上グループ長室。タナカ長の部屋であった。

 ノックをするとすぐ反応が合った。


「陸上グループ担当・第三班の瀬戸ふみです」

「どうぞ」


 部屋にはタナカ長とふみの二人だけであった。


「どうぞ、席におかけ下さい」

「失礼いたします」


 一礼をしてから座る。

 タナカ長はふみに要件を伝えてはいない。しかしふみには、なぜ呼ばれたのか見当はついていた。


「明日から長期休暇に入るそうだね」


 タナカ長から話しを始めた。


「はい、お休みをいただきたいと思います」

「少しだけ話がしたくて呼んだんだ。もし話したくない、話せない内容が出てきたなら、遠慮せずにそう言って欲しい」

「はい」


 タナカ長が少し目を閉じて考える。


「ふみは」


 ゆっくりと口を開いて話し始めた。


「ここから、つまり一般警備から出ていくつもりなんじゃないかと思ってね」

「よくわかりません。どうしてそう思ったのですか?」

「それなんだが」


 またタナカ長が少し悩む。


「どうしてそう思ったのかは言えない。規約で言うことを許されてはいない。これが返答内容なんだが分かってくれるかな」

「流石にそれで分かれと言われましても」


 だがふみは十分わかったようで、笑顔になっていた。

 しばらく沈黙したが、今度はふみが話しかけた。


「タナカ長は誰かに推薦をもらったんですか?」


 そのふみの質問は、タナカ長の質問に対して肯定している事を意味していた。


「やはりか」


 ため息をつくと、ふみの質問に答え始めた。


「私は上司の悪魔から推薦を頂いたよ。ふみは悪魔だけではなく天使との繋がりがあると言うことは知っている。私と同じように悪魔から推薦を頂いたのかい?」

「いいえ、私は推薦を頂いていません。自力で見つけ出しました」

「そうなのか、すごいな。本当にそう言う人がいるのか」

「一般警備の業務をこなすため、関連する規約の資料を役所に注文しては、片っ端から丸暗記していました。そのときに悪魔層昇進試験に関する規約を目にしました」

「予想以上だ、ふみはそんなことをしていたのか」

「分析業務の佐々野暁斗室長はいつもそうやって前準備をしています。私は暁斗室長から教わったことは全て忠実にこなすつもりです」


 タナカはふみにいろいろと聞きたいことはあった。だがあまり時間を掛けるわけにも行かないと思っていた。

 再び話す内容を慎重に考え始めた。


「それで自信はあるのか?」

「さあ。私にはわかりません」

「そんなこと言って。本当は自信があるんだろう?」

「ふふふ」


 ふみは嬉しくなっていた。

 だから今度はふみの方から話をし始めた。


「タナカ長はどうして今回の試験を受けてないんですか? 私のように強制昇進試験合格のため、一次試験免除になっているとかですか?」

「いいや。私はもう諦めたよ。悪魔になろうとして10回くらい試験を受けたんだがね。どれもこれも全然ダメだった」

「初めてタナカ長に会った時は、私の中での評価はかなり低かったです。でもどういうわけか、私が何をしようとしているのか気がついた。それだけ人を見る目があるのに、悪魔昇進試験には役立たなかったんでしょうか」

「ふみははっきり言うね。参考になるかはわからないけど、悪魔には信念を貫き運命さえ捻じ曲げる意志が試されると言われている。聞いたことあるかな?」

「いいえ」

「私には運命を捻じ曲げるだけの強い意志がなかった。ただそれだけだ」

「そうなんですか」


 ふみは適当に返事をしたわけではなかった。タナカ長の本質を見抜き、その言葉に同意しているのであった。

 タナカ長はそんなふみの残酷な視線に気がつく。だが言い訳などできるはずがなかった。


「自信はあるんだね」

「はい。どんな試験内容であろうと絶対に合格できます。私は悪魔になります」

「その強い自信はどこから来るんだい?」

「それだけやってきたと言うことです」

「業務中にかい?」

「いいえ、分析業務所属時代に一日一時間しか眠らなくても良い機械の利用許可を頂いていましたので、それをフルに活用させて頂きました」

「ああ、あれを使えるのか」


 機械というのは、暁斗が忙しいときに活用していたものであった。


「業務が終わってからはずっと試験対策をしていました。週末は休むときもありましたが、ずっと試験のことばかり。全然寝ないときもよくありましたが、業務には支障をきたしませんでしたよ?」

「なるほど。確かに私以上の熱意だ。だがたぶん、それだけじゃないんだろうな」

「はい!」


 ふみは子供のように無邪気に笑ってタナカ長を見ていた。

 だがタナカ長は、これ以上ふみの邪魔をするのは良くないと思っていた。


「最後に言いたいことが一つ。本当はこんな事を言いたくはないんだがね」

「なんでしょう」

「もし失敗しても、一般警備はふみを大切に育てていくつもりでいる。安心して試験に挑んで欲しい」

「ありがとうございます。試験前にあなたとお話ができて本当に良かった」


 すぐにふみは席から立ち上がり、深くお辞儀をして部屋から出た。


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