黒魔術編4
セフィアのもとに戻ると、リサの勇姿を見た魔女から歓声の声があがっていた。
「ご対応ありがとうございます。リサのあまりの強さに、驚きを隠せません」
言葉に偽りはなく、セフィアは大分興奮しているようだった。
「本当は捕まえようと思ったのですが、魔法学園の事情をあまり聞いていませんので逃しました。これからセフィアとは今後のことについてお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
リサがセフィアと学園長に問いかける。
答えたのは学園長だった。
「こちらからもお願いしたいです。一旦戻りましょうか。車を手配していますが、リサとふみは乗っていかれますか?」
「お願いしたいです。少し疲れちゃって」
そう言うと、リサはふみの体に寄りかかった。
「大丈夫? 無理したんじゃないの?」
「そうかもしれません。リサの体だと調整が難しくって」
そう言うと、リサはふみに抱きついた。
ふみは何とも思わずにリサをアシストしたものの、以前のリサを知っている魔法学園の人たちは、リサが心を許している人がいると言う事実に大変衝撃を受けていた。
すぐ二人は車に乗り、そして魔法学園に向かった。
リサが大変疲れているようなので、話し合いは明日にしようかとの提案を拒否。
もうすぐ仲間がやってきますので、少しの休憩を挟んでから、話し合いをしたいと言う提案を出して、学園長とセフィアが受け入れる。
「ねえ、ヘスティア」
「なんですか?」
リサがヘスティアの服を引っ張っている。
「夕ごはんは何?」
「今日はカレーです。たぶん」
幼くなったリサが、ヘスティアと遊んでいた。
そんな様子を、学園長とふみが眺めながら話していた。
「リサは子供になったのですか?」
学園長が言う。
「子供になったと言うか、元々子供だったのです。いろんな理由があって、以前魔法学園に来ていたときには表に出てこなかったようですね」
「ヘスティアと遊んでいて、リサは体力回復になるのでしょうか」
「私にもわかりませんが、よく暁斗が疲れたらリサに変わってました。だから寝てる状態になってるんじゃないでしょうか」
「そうなんですか」
リサの事情はすぐに学園内に伝わっていた。魔法少女たちは子供になったリサと仲良く遊んでいるようだった。だがリサ自体におかしな性質があるため、人によっては近寄るだけでその魅力に参ってしまっていた。
数時間ほどリサは魔女たちとお菓子を食べたり遊んだりしていたが、やがてハルトたちの到着の連絡が入る。するとすぐにリサは暁斗に代わり、外へ出ることとなった。
「久しぶりです学園長」
ハルトが笑顔で言った。
「またあえて嬉しいです」
「リサとふみも元気そうだな」
「お疲れ様です」
リサが言った。
「それにしても相当早かったですね」
ふみがハルトに問いかけた。
「空路で気流に乗れたんだそうだ。と言うことは帰るときは遅くなるのかもな」
ハルトの後ろには水影家の三人が立っていた。
「こんにちは」
リサが言う。
すぐふみが三人に話しかけた。
「お久しぶりです〜! 当主は元気してましたか?」
「ああ、お久しぶりです」
「誠司くん、恵子ちゃん、こんにちは! こっちの言葉だと、誠司、恵子になるのかな?」
「お久しぶりです、ふみ」
すぐに当主がふみに問いかける。
「ところでこちらの女の子は?」
水影家三人が女の子を見る。
「あ、そうですよね。リサは初めてか」
リサは笑顔でその様子を見ていた。
一通り説明と自己紹介を済ませる。
「ハルトのその格好って、軍人さんみたいですね!」
ふみが話しかけた。
「これか。一般警備の陸上グループからもらってきたやつだよ」
そこに恵子が横から話しかける。
「軍人さんじゃないんですか?」
「違うよ。どちらかと言うと公務員と言うか」
「え、軍人も公務員だとかそう言う話じゃなくて?」
「事務員だから、ふみたちとは違って、普段は外で働かないんだ」
「そうなんですか、一番怖い人かと思ってました」
恵子は積極的に話しかけていた。
外国語を使うのは慣れていないようであった。だからこそ習得のために恵子は積極的に話しかけていた。
そのとき、誠司は学園長のもとで認証処理をしようとしていた。
「暁斗とふみがやっていたのを覚えていますか?」
リサが誠司に話しかける。
「はい、確か指に傷を付けるんですよね」
「そうです」
かなり抵抗はあったものの、誠司は自分の血を出しデバイスに塗りつけた。
「まさか自分がこれをやる立場になるとは」
すぐリサが傷を直す。
「ありがとうございます」
学園長が確認をして、誠司に話しかける。
「layer1・治安維持層・分析業務担当・水影誠司。認証処理が終わりました」
「ええ? あ、ありがとうございます」
誠司がリサに小声で話しかける。
「僕ってlayer1で良かったんですか?」
「はい。私たち分析業務と同じ立場になりますので、今はlayer1の権利がいくつかは誠司も使えるようになっています。例えば軍用基地を使えたりですね」
「そうですか、なんか怖いと言うか」
すでに認証を終わらせた水影当主がセフィアと話していた。和彦当主は普段から色々な国の人たちと交流があるため、外国語の受け答えは全く問題なかった。
「黒魔術が私たちの霊能力と同じ物だと聞いて参りましたが、黒魔術とは一体どういうものなんでしょうか」
当主が問う。
「私たち魔法学園の人たちがよく使う通常の魔法を、ほとんど打ち消してしまうものです。先ほど、リサは私たちが『破滅』と呼んでいる黒魔術を素手で掴んでいました。本来は、触ると結構な怪我をしてしまうものです」
そう言うとセフィアは、自分の手元に黒いボールを創り出した。
「おお」
当主が驚く。
「こういうものなのですが、ご存知ありませんか?」
「全くわかりません。何だこれは」
そのとき、離れた場所で恵子の認証処理を手伝っていたリサから声が上がる。
「当主、それは四式でつかめます。非常に危険なので注意して下さい」
「分かりました」
リサに答えると、当主はそれを持ってみる。
セフィアから驚きの声が上がった。
「あなたは私たち黒魔術師が知らない術を持っているみたいですね」
「私たちも黒魔術と言うものを知りません。しかし似たような力のようですね」
そのとき誠司が横からやってきた。
「触ってみてもいいですか?」
セフィアに問う。
「ええ、危険ですのでご注意を」
誠司が四式で触れ、潰したり伸ばしたりしていた。そんな様子を、ただセフィアは驚いてみていた。
その後ろから黒魔術師のクリスが現われて誠司に話しかけた。
「どうして触ることができるんですか? 本当なら大怪我をしてしまいますよ?」
誠司が答えた。
「僕の黒魔術同士で打ち消し合っているからだと思うんですけど」
そう言って、誠司が破滅のボールを返却した。
セフィアはそれを触れないように手で包みこむと、ボールがどこかに消えてしまった。
リサが近づき、当主に話しかけた。
「詳しくは後で説明しますけど、一式の変形だと思います」
「変形?」
一同がリサを向く。
「ええ。破滅、でしたっけ? ボールはシャボン玉のような形をしています。中は空洞で皮の様な霊体を作り、攻撃の手段にしているようです」
「そりゃまたエライ芸術品と言うか」
「水影家は一式から工夫を重ねて二式、三式と発展を重ねたようですが、魔法学園では一式の変形で発展させたのではないかと思っています」
興味を示したのは誠司だった。
「僕にも出来ますか? すごくやってみたい」
「たぶん私たちでもできるとは思いますが。そうですね、ちょっとやってみましょうか」
リサが言うと、両手を前に出して構えた。
「うーん、たぶん行けるんじゃないかなー」
両手でおにぎりを作るようにして色々と試してみたが、それは成功した。
「あ! どうですか、すごく小さいですけど、これって破滅じゃないですか?」
リサが笑ってセフィアに問いかける。
「そ、そのようですが、あなたは本当に黒魔術が使えるんですね」
ミートボールくらいの大きさの、よくわからない玉が空中に浮いていた。
「これってどうやって消しましょう?」
リサが問いかける。
「私がなんとかします」
セフィアが手で包むようにすると、ミートボールは消えた。
「私もやってみたいんですけど!」
ふみがリサに言った。
「まあ待って」
それからリサがこの場にいる全員に答えた。
「黒魔術という危険な知識をlayer1組織と共有するかどうかは、セフィアと相談して決めたいです。水影家を呼んだのはヘルプだとは言っていますが、どちらかと言うと同業者とのコミュニケーションの場を設けると言う意味が近いと言うことは両組織には伝えていると思います」
「ええ、layer1が推薦する組織と情報交換できるなら、それは願ってもないことです」
水影当主が言う。
それに対して、学園長が答えた。
「私たちからも歓迎します。これからよろしくお願いいたします。でも本日は遅いので、明日からにしましょうか。皆様の宿の手配はさせていただいてます」
「そうですね。そうしましょうか」
リサが答えた。
魔法学園から少し離れた場所に宿があり、一同はそこに泊まることとなった。
フロアでハルトが休んでいると、誠司が近づいてきた。
「リサたちとはご一緒じゃないんですか?」
「ん?」
ハルトが顔を上げる。
「ああ、どうもリサとふみはこれから仕事があるってことで、外に行ってしまったよ」
「え! こんな時間に?」
「大分危険になるらしいから、力がない俺はここでお留守番だ」
「う、そうなんですか。本当に仕事熱心と言うか」
「誠司も外には出ないほうがいいよ。いや、でも水影家の人ならついていけるのかな?」
ハルトが少し考えていた。
「力がないって、ハルトは分析業務じゃないんですか?」
「分析業務に所属はしているとは思う。でも現場担当ではなく、ただの事務員。誠司に腕相撲でも勝てないんじゃないかな」
「ええー」
「あとさ。俺は明日には帰るから。リサとふみをよろしくな」
「え! もう帰っちゃうんですか?」
誠司が驚いていった。
「別の仕事があるからね。でも水影家が家に帰るときは、また迎えに来ると思う」
「そうですかー、帰りはお手数おかけしますが、よろしくお願いします」
宿の通りから少し離れた道で、ふみとリサが立っていた。
「女の子が夜にこんな所にいるって、そう言う商売の人にしか見えませんね」
ふみが言った。
「来ないかもしれません。少し待ってダメだったら帰りましょう」
「はい、分かりました」
だがリサの予想は当たり、すぐにミイナがやって来た。
「お前!」
リサとふみが声の方向に顔を向ける。
「待っていましたよ、ミイナ」
「待っていたじゃねえ!」
ミイナが近づいてくるが、昼の恐怖はちゃんと覚えていたためか、ある程度近づいてから動きが止まった。
「それで今晩はどのようなご用件で?」
リサが丁寧に言う。
「インディにササノ・アキトの事を言った」
「そう」
「本当だって」
ミイナは強がっていたものの、かなり弱気であった。
「それでよく殺されませんでしたね」
リサが言った。
「お前! やっぱりそういうつもりで言ったんじゃないか」
「そうなる可能性はあると考えていましたが、あなただって予想ぐらい付いたでしょう? あなたはインディに佐々野暁斗の事を問いかけた。それはあなた自身が選んだこと」
「なに言ってるんだよ!」
「それでフルムーンから追い出されただけじゃなくて、殺されそうになって逃げてきたってところでしょうか」
ミイナは大人しくなってしまった。
「そうだよ」
「では私に何の用?」
リサが言う。
「佐々野暁斗の事が知りたい」
「いいですよ」
リサはミイナだけではなく、ふみにも笑顔で答えた。
ぜひふみにも聞いてほしいことだった。
「とは言っても、先ほど説明したことが全てです。五年以上前の話でしょうか、インディは組織統一を行う上で、リリーが邪魔だと思っていたようです。自分の手で殺しても良かったのだと思いますが、安全策を用いて殺し屋を雇って暗殺を計画します。インディは全世界で傭兵やら暗殺やらを請け負っている組織に依頼します。佐々野暁斗はその組織に所属している人です。それで、佐々野暁斗は仕事としてリリーを殺した。その件は終わり」
「佐々野暁斗はどういう人なんだ。あんたはなぜそれを知っている」
「知ってどうするつもりですか? 復讐をするつもり?」
「そうだよ。私にはもうそれしか道は残されていない」
「佐々野暁斗の事を教えますが、復讐されてもね。依頼されて殺しただけですし、言ってみれば戦争のようなもの。しかし、佐々野暁斗もそういった復讐の対象にされることを仕事の一部だと考えていますので、いつでも歓迎します」
リサが涼しい顔をして言った。
「お前は何者なんだよ」
「私が佐々野暁斗です。もっとも、本来はこんな少女の姿ではありませんけど」
「はぁ!?」
しばらく沈黙する。
「何の冗談だよ」
「本当の私は大人の男性なんです。今は色々あって外見は幼い女性になっていますけど」
「それを信じろと?」
「信じるかどうかはあなたの自由ですが。でも、こんなに黒魔術組織なんてものを詳しく知っている女の子がいたら怖くないですか? しかも子供の私があなたたち黒魔術師を三人も同時に相手して無傷なんですよ?」
「うっ」
「さらに言うと、私はlayer1の役人です」
「れ、レイヤーワン?」
「そうです。そこのふみも同じ。あなたの何倍も強い。もっとも、ふみは五年前の暗殺組織なんかに関わってはいませんけど」
ミイナが何も話せなくなってしまう。復讐がもはや無理だと悟ったためだ。
「復讐するなら依頼主のインディにしなさい。しかし私はそれすらお勧めできません。フルムーンなんてバカみたいな組織は忘れてしまいなさい」
「お前はそう言うかもしれないけど! リリーはな、私の!」
ミイナが泣き出してその場に座り込む。
「もう・・、私の居場所は無くなってしまった。魔法学園に喧嘩を売って、対向組織の雇い主にまで殺されそうになって! 私はどうしたらいいの!?」
「さて、それなんです」
リサがミイナの方に近づく。
ミイナはかなり怯えていたものの、後退することも出来ずにただ黙っていた。
「ミイナは私に助けを求めに来たんでしょう?」
リサが優しく問いかける。
「な、何なんだよ!」
「ふふふ、頼ってくれてありがとう」
その光景を見て、ふみが驚いてしまう。
(これって、リサの力なの?)
既にミイナは復讐心など忘れて、リサに心を許してしまっているように、ふみには見えた。
おそらくリサの中の佐々野暁斗は、リサの魅力が強力な武器になることを知っており、その魅力を今ミイナに使っているのだろうと思った。
「つらいでしょうけど、あなたはもうここを出て行くしかありませんね」
そう言うとリサはミイナの肩に触れる。
ミイナは怯えるものの、リサと視線を合わせたまま、動くことも、顔をそむけることすら出来ていなかった。
「でも、もしミイナが望むなら」
リサが言う。
「な、なに?」
「私のもとでしばらく働きませんか?」
その滅茶苦茶な提案にふみすら驚いた。
「何をバカな事を言ってるんだ!? あんたはリリーを殺したんだろう?」
「そうですよ。でも私たちはインディに対立している。ミイナも今ではインディに対立している。目的は一緒」
「私はお前を殺したいんだ!」
「私に助けを求めに来たのに?」
「そんなつもりで来たわけじゃない!」
ムキになって声を上げる。
だがリサの笑顔を見ているうちに、ミイナは大人しくなってしまっていた。
続けてリサが問いかけた。
「私を殺して解決するなら、そうすればいいでしょう。でも無理ですよ。あなたは弱すぎる。それに、いまの機会を逃したらlayer1に追ってくるんですか? こんなバカなことを考えるより、インディに復讐の目を向けたほうが現実的だと思います」
「う、うるさい」
「先程もいいましたが、私はインディにさえ復讐することをおすすめしませんけど」
リサが立ち上がる。
そして体に固定していたカバンから札束を取り出した。
「これをあげます」
ミイナの近くにお金を放り投げる。
「これは?」
「まずはその格好をなんとかした方がいいでしょうね。フルムーンの服なんて着てたら、魔法学園の連中に見つかって袋叩きにされますよ。それだけの金があれば、しばらく宿を取って暮らしていけるでしょう」
「ちょ、ちょっと待てよ」
「じゃあ、ふみ。帰りましょうか」
リサが後ろを向いて自分の宿に歩きだした。それをふみは不思議そうに見ながら、リサについて行った。
「この金、どうするんだよ!」
ミイナはただ黙って二人が帰っていくのを見ていた。
宿につくと、ハルトがロビーで一人待っていた。
「おつかれさん、どうだった?」
「ミイナに会えました。予想通り組織を追い出されてたので、色々と世話をしてやって終わり」
「あれは何だったんですか?」
ふみが問いかける。
「ミイナを仲間にできるならする。その方が色々と都合がいいと思いましたので」
「お金をあげたのは?」
「ちょっとかわいそうだと思ったので、慰謝料としてあげたようなものです。ミイナはお金を受け取って、このまま私たちの元から離れてくれるなら、それでいいと思います」
「そういうことだったんですね。ミイナは逃げたらどうするんだろうと思っていたもので」
「まだ復讐するつもりなら残念ですが殺します。仲間になりたいなら受け入れます。それが本心じゃなくてもね。逃げられたほうが私たちにとっては楽かもしれません」
「うーん、でもたぶん仲間になりに来るんじゃないですか」
ふみが言った。
ハルトとリサがふみの方を見る。
「リサは、すごく魅力的でしたから。あんな誘い方をされたら」
一同は沈黙する。
ふみが続けて問いかけた。
「もしかしてリサって、魅力をコントロールできるんですか?」
意外な質問に、ハルトがリサの方を向いた。
リサは笑顔で答えた。
「はい。リサの能力は相変わらず垂れ流しで周りの人たちには薬が必要ですが。ある程度コントロールして、対象の人間を性的に興奮させることが出来ます」
「それをミイナに使ったと?」
「使いました。恋をする、ではありません。営業と言う行為を円滑に進めるための魔法のようなもの。俗な言い方をすればカリスマ性を高めました」
そこでハルトが横から問いかけた。
「昔はコントロールなんて出来てなかったよな。成長したってことか?」
「暁斗ではなくリサが成長しました。リサが教えてくれたんです。たぶん、リサはもっと自分の体のことを知っているのかと思います」
「そうかぁ」
それから三人は解散し、それで本日の業務は終わりとなった。




