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layer0  作者: 運転安全
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神隠し編9

 分析業務の三人は集会所に帰っていた。

 空間測定器の反応からアダムの携帯電話に連絡が入る。


「リサ、ふみ先生、ネズミが引っかかりました」

「本当ですか! アダム先生」

「どうしてここでも先生呼ばわりなの」


 それからアダムが中学校校舎の地図を取り出して、二人に説明をした。


「測定器の情報だと第一校舎の西側に反応があります。しかし上空からの測定のため、何階であるかはわかりません」

「大丈夫だよ、その辺りの廊下は私が監視カメラを設置してる」


 リサがアダムに言った。


「たぶんこれが犯人じゃないですか?」


 ふみがそう言って、二人にノートパソコンを見せた。画面にはリアルタイムの監視カメラの映像が写っており、一人の女子生徒が慌てて出て行くのが確認できた。


「それっぽいね」


 アダムがつぶやいた。


「個別の監視カメラは取りに行かないと見ることが出来ないので、今すぐ回収してきます」

「私も行きます」


 リサとふみが立ち上がった。


「お願いできますか。私はここで待機して引き続き監視カメラをチェックしています」

「分かりました」


 二人は部屋から出ていき、中学校へと向かう。回収作業はそれほど時間がかからなかったためすぐに帰宅となった。リサとふみが部屋に入ると、アダムは二つの窓口と回線をつないでいた。


「いま、リサとふみが帰宅しましたので映像をチェックします」


 目的の動画はすぐ見つかり、それを窓口にも共有する。


「わりとはっきり写っていますね」


 ふみが言った。


「リサとふみが出て行っている間に、別の監視カメラでとらえた映像から、該当しそうな生徒の特定をしていたんだ。これらの写真も見てほしい」


 渡された写真を二人で見る。アダムと窓口担当は全ての資料を受け取り、それを確認していた。


「あ」


 すぐにふみが反応する。


「どうしたの?」

「たぶん、この人ですね。松本春菜」

「どうして分かったの?」


 リサが問いかける。


「会ったことがあります。私を見るなりいきなり怯えて去って行きました。そうですね、よく見ると監視カメラの映像も、本人を知っていれば松本春菜だってすぐ分かります」


 横からアダムが問いかけた。


「怯えて去って行ったってどういうこと?」

「わかりません。ごめんなさい、中学生っていきなり変な動作をすることが良くあって。だから今まで忘れていたんです。どうして怯えて去って行ったのかはわかりません」

「敵側に、少なくともふみのことを知られている可能性があるってことか」


 あんずから応答があった。


「容疑者は松本春菜でいいの? それなら特殊警備のデータベースから、犯行時刻で何が起きたか見てみるけど」

「お願い、あんず」

「了解」


 返答は直ぐあった。


「松本春菜は自宅でずっと本を読んでいるようです」


 とあんずが言った。


「そうか、ふみはこの人物が松本春菜で間違いないと思うんだな?」


 アダムがふみに問いかける。


「え? でもあんずは違うって言ってませんか? 私は松本春菜だと思っていますが、見間違いなのかもしれません」


 アダムが少し考えてから、全員に聴こえるように言った。


「ふみの判断が間違っているかはわかりません。というのも、特殊警備の監視は、非常に改ざんしやすいのです。だから逆に特殊警備と監視カメラの内容が食い違っていたのなら、そういう前提で調査を進める事も考えなければなりません。実は食い違っていることを期待してあんずには調査をお願いしました」

「改ざんしにくい監視システムはないのですか?」


 リサが問い合わせた。


「ありますよ。特殊警備の監視システムで、松本春菜に対して簡易モードから詳細モードに切り換えるだけです。しかしそれは無理。改ざんすらできる人物が、モードの変更に気がつかない訳はない。このシステムには限りませんが、layer1内部の人の騙し合いをするようには設計されていないのです」

「ええ? じゃあこんな女の子が実はlayer1の関係者で、今までの一連の事件を起こしたということでしょうか。監視カメラの内容を見るだけだと、動きはあまりに素人です」


 リサが不思議に思い言った。


「そうだよね」


 アダムが頷いたとき、あんずの端末から声が聞こえてきた。


「layer2の戸籍を調べたけど、松本春菜は生まれも育ちもlayer2の住人で間違いないようです。layer1のコピーも参照したけど不自然な点はなし。さすがに戸籍情報を改ざんするのは無理だとは思うんだけど」


 あんずが言いたいことを理解して、アダムが言った。


「操られている」

「一番あり得るのが操られている、でしょうね。普通の女子中学生がある日突然空間転移を覚えて、特殊警備のシステムを改ざんしたという可能性は無理がありすぎる」

「そんなぶっ飛んだ中学生がいたら、今すぐ強制昇進の対象になりますね」


 リサが言った。

 一同はしばらく黙っていたが、治安維持の窓口から地獄地蔵の声が聞こえてきた。


「ふみが敵側に察知されたというのはどうしますか? 明日以降、ふみは学校に行くべきなのでしょうか」


 すぐアダムが答える。


「いいえ。既に手遅れかもしれませんが、外したほうが良さそうですね。幸いにして見つかったのが比較的動きやすいふみで良かった。私だったら大衆洗脳ができなくなってしまいます。今のふみの役割は先生の助手になっていますので、いつでも離れることはできると思います。もっとも、私とリサがあちら側に知られていないという保証はないのですが」

「何にせよ時間の問題のような気がします」

「そうですね」

「それならば」


 ふみが二人の会話に割り込んだ。


「私は明日から先生をやめて、朝から松本春菜を肉眼で監視します。遠くから双眼鏡でも用いてやりますので。学校に行くよりもならマシでしょう」

「うーん、そうしたほうがいいのかな」

「あと、松本春菜の家に盗聴器でも仕掛けましょうか?」

「そこまで派手なことして大丈夫かな。一旦は保留にしておこうか」

「わかりました」


 リサも発言をした。


「私は松本春菜に接触してみます。持ち前の魅力が役立つと思いますので」

「危ないけどやってみようか。時間がない以上は見ているだけだとあちら側に主導を握られてしまいますものね。リサの仕事はやりやすいように、私も大衆洗脳で協力します」

「わかりました、では接触はしてみます。たぶん話を聞くだけになりそうですが」

「リサが敵と接触するつもりなら、私が先生をやめる必要もないということになりますか?」


 ふみがアダムとリサに問いかけた。

 しばらくアダムが悩んでいたが、ふみに話しかけた。


「いや、さっき決めたように、ふみは明日から監視に回ってもらおう。リサは私がフォローするので、ふみは安全を十分確保して単独行動をしてもらいたい」

「わかりました」


 端末の向こうから、地獄地蔵が問いかけた。


「アダムの催眠で、松本春菜を直接操るのはダメなんですか?」

「そういう案もあります。だけど、別の方法があるならやめておきたい理由があります。それは、松本春菜がもう既に何らかの呪術にかかっている場合、二重掛けになってしまいます。それ自体には問題ないのですが、呪術とか催眠って、別の何かがかかると術者にはすぐ分かるものなんですよ」

「大衆洗脳の時点で既に二重掛けなのでは?」

「そうです。既にあちら側には何らかの違和感を掴まれてしまっている可能性はあります。しかし、大衆洗脳とは小さな洗脳を大人数に薄く掛けて大きな効果を得ようというという能力のため、個人の影響は非常に小さい。だから大丈夫だと判断して最初から用いていました」

「なるほど。分かりましたが結構ギリギリなんですね」


 それから話し合いは続いたものの、明日の行動が決まり解散になる。


 翌日、ふみは朝から双眼鏡を用いて、松本春菜を監視していた。


「あの顔に穴が空いた人はどうするの?」


 春菜が黒猫の不安そうに問いかけた。


「調べてみたんだが、結局良くわからなかったよ」

「じゃあ、触らないでいたほうがいいよね」

「逆だ、非常に危ない。僕が調査してもよくわからないということは、春菜に敵意を持って隠蔽している可能性がある」


 春菜の動きが止まる。

 そんな様子を見て、黒猫が春菜に体を押し付けた。


「不安なのかい? 安心しなよ、春菜は正義なんだから」

「でも私、正直怖いかも」

「そう。なら今日は何もしない。穴の空いた魔物を一目見てきて、それで終わりにしよう」

「わかったよ」


 春菜が力なく頷いて立ち上がる。

 穴の空いた魔物である、ふみ先生は、そんな様子を遠くから見ていた。


「松本春菜が黒猫と話している? ということは黒幕は黒猫?」


 ふみは無意識に霊視を行っていた。


「でも聞こえないからよくわからない。それよりあの黒猫って何か変」


 黒猫の体からは一本のひものような線が伸びている。それは霊視をすることによって初めて見えるものであった。ずっと遠くまで続いており、どこまでも伸びている。


「辿ってみよう」


 ふみは線の方向に足を進めた。


 昼休みになると、リサはすぐ教室を出て、陽子と雄太に感づかれないように松本春菜のもとに向かった。

 松本春菜は教室では一人で昼食をとっていた。リサが近づいて話しかける。


「松本春菜さんだよね」

「はい?」


 春菜が上を向く。そこには銀髪の少女が春菜に微笑んでいた。


「は、はい」

「お話があるんですが、少しだけ付き合ってもらえませんか」

「はい」


 リサの能力は、春菜にはよく効いているようだった。

 二人は屋上に向かう。普段は鍵がかかっている屋上も、アダム先生の権限で鍵は入手していた。


「ここって眺めが良くてよく来るんです」

「私はここは初めてです」


 春菜がリサの横顔をずっと見ながら言った。


「どうしましたか?」


 リサが微笑んで見せる。


「いえ、何でも無いです」


 アダムの大衆洗脳があるため、この場所に来る人は誰一人いなかった。

 リサもふみと同様に常に霊視を行なっており、異常がないか気を張り巡らせていた。しかし視界には何も入ってこない。

 時間がない、ということでリサは直球で聞いてみることとした


「いきなりでごめんなさい。私の名前は佐々野リサっていいます」

「佐々野さんですね」

「いえ、リサって呼んで下さい、春菜」


 いきなり名前で呼ばれて驚いていたものの、春菜は悪い気がしていなかった。


「春菜に聞きたことがあります。それはその能力のこと」


 春菜の顔が一瞬にして恐怖の色に染まる。


「驚かせてしまいましたか? 落ち着いて下さい、私は春菜に何もするつもりはありません」

「わ、私は」


 春菜は嘘をつけない。だが精一杯の嘘を表に出そうとしていた。


「私は能力なんて知りません」

「そうですか」


 だが、そんな態度自体が、能力を認めているようなものだった。リサと、無線で状況を聞いているアダムは、犯人が松本春菜であると断定することが出来た。

 リサが春菜の震える手を掴む。

 春菜は全身を震わせていたが、リサがそれを優しく包み込んだ。


「私はあなたが何をしているのか知っています。でも、あなたに敵対するためにいるわけじゃなくて、お友だちになりたいと思ってきました」


 相変わらず春菜は怯えていた。

 リサが話を続けた。


「私もあなたと同じように、特殊な能力を持っているのです」

「え」


 ようやく春菜が興味を示す。

 そんな様子を確認し、リサは春菜と目を合わせて笑顔を見せた。現在の主導はリサではなく暁斗。女の子の姿で女子中学生の興味を惹きつけるように動いていた。春菜の様子から、暁斗の努力が実っているのは分かった。


「見ていて下さい」


 リサがそう言うと、右腕をまくり肘の辺りまで肌を出した。空に腕を向けると、腕から火炎放射の様な火柱があがった。

 リサの炎の魔法。春菜を騙せるなら何だってよかった。

 振り向くと、春菜は口を開けてかなり驚いていた。


(やりすぎたか。)


 暁斗本体に不安がよぎる。だがそんなことはなかった。


「すすす、すごいです!」

「そう?」

「あなたも猫さんに力をもらったんですか?」


 猫さん。

 初めて聞く言葉であった。春菜が自分から黒幕を言ったことに、暁斗はかなり驚いた。


「いえ。私は違う人から授かりました。春菜は猫からその力を与えられたの?」

「そうだよ。猫さんからもらったの。この力はリサにも見て欲しい」


 そう言って春菜が空に人差し指を向ける。指先には黒い弾丸のようなものが現われ、そして空に向かって消えていった。

 だが、一体それが何を意味するのかリサには分からなかった。


「初めて見ました。私の能力なら炎が出るから見ただけで分かると思うんだけど、春菜の能力は良く分からなかった」

「この能力はね、魔物っていう悪いやつを退治するためのものなんだ」


 リサに分からない言葉がいくつか出てきた。

 だが、本日リサとアダムが目的としていたことは確認できた。松本春菜が犯人であり、そして黒幕は別にいる。

 この調子だとそのまま黒幕の元に連れて行ってもらい直接対決することもできる。その判断は今リサがしなければいけない。

 決断は保留。一度はふみと合流し、アダムと再確認する事にした。


「春菜は魔物と戦っているの?」

「そうだよ」

「でも、戦っているのは春菜だけじゃなくて猫さんもそうなんでしょう?」

「そうだけど」


 舞い上がっている春菜は、リサを見ているうちにだんだんと冷静になってきていた。

 果たして、リサに秘密を話してもいいものなのだろうか。


「私は春菜とお友だちになりたいと思って声を掛けたんだけど、猫さんが誰なのか分からないんだ」

「猫さんはね」


 言葉が止まってしまった。

 春菜は自分一人だと秘密を話してしまってもよいのかの判断が出来なかった。リサはそれを理解したため、すぐに発言して割り込んだ。


「春菜、それでいいんだと思います。春菜には何か使命があるのであれば、迂闊に私に情報を言わないほうがいいでしょう」

「そういう訳じゃありません!」


 リサに嫌われる事を恐れていため、春菜が慌てて言ったものの、それでも言葉が止まってしまう。


「私にはそう言った使命はありません。だから春菜のことは遠くから応援してあげるだけにしてあげたい」

「違うんですけど、そうしてくれるなら、その」


 春菜が心配しているのは、同じような能力を持っているリサと離れてしまうことに違いなかった。暁斗はそれを利用して、春菜を操作しようと考えた。


「私のことは猫さんには報告するんですか?」


 するかしないかで今後の行動が変わる。リサとしてはどちらでも構わなかったが、報告しないでくれるなら時間稼ぎにはなると考えいてた。


「はい、猫さんには」


 そこでまた春菜の言葉が止まる。何か迷っていることがあるのはよく分かった。


「私のことを言うのは構いませんが、もしよろしければもう少し待っていただけませんか? 今の春菜は何か迷っているようです。それが落ち着いてから、二人で一緒に猫さんにあいさつしに行きましょう?」

「いや、私なら大丈夫だよ」

「いいえ、いけません」


 リサがまた春菜と目を合わせて笑ってみせた。


「私の能力もみんなには秘密にしているんです。だからしばらくは、春菜と私の内緒にしておきたい。どうでしょうか、二人だけの秘密です」

「は、はい」


 春菜の都合だけではなく、リサの都合もあると思わせ、かつ二人だけの秘密という状況で二人の絆を強める事を狙ったものである。そこまで念入りに設定しても、春菜は理解しているのかどうか分からずに頷いてしまっていた。


「ありがとう」


 そう言って、リサが春菜の手を握る。

 すでに春菜はリサの事をだいぶ信用している。それもリサの魅力のおかげである。だが暁斗は、これほどまでに順調に進んでいることに疑問を感じていた。


(なぜ春菜はこれほどまでに扱いやすいのだ。黒幕が春菜を選んだ理由が全く分からない。言いたくはないが、春菜はバカそのものじゃないか。)


 そもそも黒幕が何をしたいのかまるで見えないため、春菜自体が罠なのではないかとさえ感じ始めていた。そんな不安を持ったリサを、春菜は何の疑いもなく不思議に見つめていた。


「さて。私には何の能力もない。春菜にも何の能力もない」


 リサが言った。


「はい」


 春菜が素直に返答する。もはや春菜がリサに意見を言うのは不可能であった。


「でも、できるだけ私は春菜の味方でいたい。もしかしたら春菜はこれから大変な目に遭うかもしれない。そんな時は私に助けを求めて下さい」

「な、なんのこと?」


 リサは春菜の目をしっかり見ながら言った。


「何だって構いません。能力なんてありません。そうなのでしょう?」


 春菜からは何も言い出すことが出来なかった。


「あなたは大分怯えているみたい。それは私に対してではなく、あなたの未来に対して」


 おそらく春菜は、黒幕である猫に何らかの恐怖心を持っているのだろうと予想していた。


「私は何も」

「そうですか。あなたが否定する以上、私は何も言うことは出来ません。でもお互い能力がある者同士で、何か分かり合えることがあるかもしれない。今後、助けが必要ならばそっと私に言ってくれれば、協力してあげることができるかもしれません」


 リサが聞きたい情報は全部引き出した。さらにどこまで通じるかはわからないが、口封じにも積極的に応じてくれているようだった。もう春菜とは別れて次の準備にとりかかるべきであると考えた。


「では今日はこれで失礼します」


 待って下さいと春菜は言いたかった。だが言えずに、リサの後ろ姿をそのまま見送った。


 昼休みはまだ時間があった。

 春菜は授業が始まる前に、藤田先生が来るはずの教室のまえで待ち伏せしていた。昼休みが終わる頃になると藤田先生がやってきたものの、顔に穴の空いた先生はいなかった。


「あの、藤田先生」


 春菜が小声で話しかける。


「どうした?」

「前に一緒にいた女の先生はいないんですか?」

「ああ、いないよ。あの先生はヘルプだからね。もうしばらくは来ないよ」


 黒猫の言葉が改めて脳裏に浮かんでくる。

『春菜に敵意を持って隠蔽している可能性がある。』

 深刻な顔をしている春菜に驚いて藤田先生が言った。


「どうしたの? 何かあるなら伝言でもしようか?」

「いえ、何でもありませんので大丈夫です。ところで、その先生の名前はなんと言うのでしょうか?」

「瀬戸ふみ先生だよ」


 藤田先生が言った。

 だが大衆洗脳のため、全然違う名前として認識されていた。


「岡村洋子先生ですか。分かりました。ありがとうございます」


 そう言うと春菜は藤田先生に背を向けて自分の教室に走りだした。


 放課後、春菜は黒猫に合わずに帰路についた。

 リサに会って嬉しかったものの、顔に穴が空いた先生の手がかりはつかめず。そして黒猫に対しての恐怖心も少しずつ自覚出来ていた。

 よくわからないが、何かが怖い、それが春菜の気持ちであった。

 家についたものの、両親は仕事から帰っていないため、家では一人のはずだった。

 だが自室に戻り、ベッドに視線をやると、そこには見覚えのある猫がいた。


「黒猫さん」


 春菜の全身に寒気が走る。

 あれほど仲良くしていた黒猫が、今はどこか不気味に見えていた。


「どうしたんだい? 今日は僕の所に来なかったよね」


 手の震えを我慢しながら春菜はつぶやいた。


「ごめんなさい。今日は帰りたい気分だったの」


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