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layer0  作者: 運転安全
13/46

神隠し編1

 水影家の分析業務が完了し、佐々野とふみはlayer1の分析業務室へ戻ってきていた。

 いつものソファーの前に置いてある机の上には、三本の刀が置いてある。一番長い刀はフルサイズのものであり、二番目に長いものは短刀、一番短いものは刀の形をしたキーホルダーであった。


「さあ、マイ。好きなのを選んで」


 ふみが問いかけた。


「うわぁ、すごく綺麗。これ切れるの?」

「キーホルダー以外は指も簡単に切り落とせますよ」

「怖いんですけど」


 マイは刃に興味を持ったようで、フルサイズの刀を見つめていた。


「持ってみてもいい?」

「どうぞ」


 マイはフルサイズの刀を持ち上げて、刃をながめていた。


「重い」

「気に入ったのならどうぞ」

「いや、もらえるなら、一番小さいので」


 刀を恐る恐るテーブルに戻し、マイはキーホルダーを指差した。


「このキーホルダーも、鞘を抜けば立派な刃物になりますから」

「え、そうなの」


 マイは鞘を抜いてそれを確かめていた。


「佐々野さん、マイはキーホルダーがいいんだそうです」

「やっぱりそうだろうなあ。でかいの持って行ってもいいんだよ、というか逆にいらないか」


 佐々野がマイに問いかける。


「私はハサミさえあれば十分ですから。というか、こんな重くて怖いの置く場所ないよ」

「じゃあマイにはキーホルダーをあげますね」


 ふみが言った。


「ありがとう。大切にするよ」


 マイがふみと佐々野にお礼を言った。


「じゃあ、この刀はどうします?」

「ふみが欲しいなら持って行っていいけど」

「本当は欲しいですけど、どうせなら分析業務室に飾りませんか?」

「飾るの? まあいいか」

「あと、裏子も飾りませんか?」

「え、飾るの?」


 飾る用の土台がないため、壁に紐などを使って刀を固定した。


「刃物と銃が置いてあると、映画で見た、どこかの国のマフィアの事務所を思い出すわね」


 マイが言った。


「たぶん、それって私の国だと思う」



 昼休みになると、ふみは治安維持館の休憩所に向かった。本日はマイとふみ以外誰もいなかった。ふみがlayer1に戻ってきてからは、以前と同じようにほぼ毎日休憩所で昼食を取っていた。


「今度の休みはあいてる?」


 マイが話しかけた。


「うん、大丈夫だよ。どこか行きたい?」

「そうねー。行きたい所があるんだけど」

「どこどこ?」


 ふみが興味深く問いかける。


「ふみの家に行ってみたいんだけど」


 軽く言ったつもりだったが、ふみは一瞬動きを止めてしまった。そんな様子を見逃すことはなく、何か気まずいことがあるんだろうと察知して、すぐに否定する。


「あ、ごめん、無理ならいいよ。私の家に来る?」

「えっと、無理じゃないけど。そうだねー」


 ふみは明らかに動揺していた。その反応の原因が、マイにはいまいち理解できなかった。


「どうしたの? ふみ、何か困ってる?」

「いや、そんなこと無いよ。ちょっと私の部屋が散らかってることを思い出してたんだ」

「私も部屋の片付けは得意じゃないんだよー」


 会話は途切れたため、二人は買ってきた弁当を食べることになった。だがふみは一人で不安そうな顔をしている。様子がおかしいことには気がついていたが、とりあえず黙っていることにした。

 やがてふみが口を開く。


「ちょっと聞きたいんだけどさ」

「はい? うん、なにかな」

「私とマイが初めてここで出会ったとき、マイは私のことを知ってたんだよね?」

「え? 昔の話?」


 マイが顔を見上げると、笑っていないふみの顔があった。表情からは何も読み取れない。


「ええ。layer2から昇進された人は、人事課から広報で周知されるの。だからふみの存在は知っていたし、その時にlayer1の言葉を話せなくても、不思議とは思わなかった」


 マイは少し緊張して心臓の鼓動が高まっているのが分かった。いまのふみは少しも笑っていない。


「マイは私の過去をどこまで知っているの?」

「過去?」

「私はその広報を見たことがないから分からないのだけど、私がどのような理由で強制昇進試験を合格したかとか、そう言った理由は周知されてないの?」

「ええ。広報には名前と配属先のみ記載されてて、暁斗の所だから分析業務の強制昇進試験なんだろうなって、そこまでしかわからないよ」

「マイは私がlayer2で何をしてきたかは知らないってこと?」

「知らないし、ふみの過去はふみに聞かなきゃわからないよ」

「そう」


 それからふみが少し視線を下に落とす。マイは何か問題がある返答をしていないか少し考えていた。


「ねえマイ。週末は私の部屋に来て欲しいんだけど」


 少しも笑っていないふみは、笑っていないままマイに問いかけた。


「う、うん。そうだね、行ってみたかったんだ」


 作り笑いで愛想よく答えたが、ふみの変わり方が若干怖く感じられていた。


 昼が終わり、ふみは佐々野から少し離れた位置の机に座り、ノートパソコンに向き合って仕事をしていた。


「水影家の仕事が終わってから、ずっとデスクワークをしてもらってるけど、トレーニングの方が良かった?」


 佐々野が問いかけた。


「どっちも大変ですけど、どっちも嫌いじゃないですよ。以前、小さい会社で事務のバイトをしたことがるんですが、その時を思い出しました」

「パソコンの経験があるようで助かるよ」

「はい。それより、ずっと気になってたんですけど、ノートパソコンのキーボード配列ってlayer2と同じなんですね」

「そうだよ。向こうの技術をそのまま持ってきてるからね」


 部屋の中には二人しかいないため、静かであった。佐々野はよく電話をするため、佐々野の声はよく発せられた。ふみが佐々野に問いかけることもあるため、会話が全く無いということもない。だが、部屋に訪れる人は全くいなかった。

 ふみは個人的に佐々野と会話をしたかった。話しかけるタイミングを伺っていたが、いつでも忙しそうにしているため、ずっと切り出せずにいた。

 だがそうこうしているうちに、仕事終了の二時間前になったため、ふみから恐る恐る話しかける。


「あのー、佐々野さん」

「ん? 何かつまずいた?」

「実は業務とは違うことで聞きたいことがありまして」

「ああ、いいよ。今で大丈夫?」

「はい」

「なら少し休憩にしよう」


 別の席にあるソファーに座り二人が向き合う。その時ようやく佐々野は、ふみの様子がいつもとは少し違っていることに気がついた。


「少し調査したんですが」


 ふみから会話が始まった。


「私の過去、えーと、layer2での私の過去を知る方法は、常人層の人間では不可能だという結論になりました。あっていますか?」

「ふみの過去か」


 少しむずかしい話になりそうだと佐々野は感じた。


「ふみがlayer2で何をしてきたのか、それを他人が調査できるかってこと?」

「はい」

「ふみの言うとおり、不可能だよ。プライバシーの問題もあるから、ふみが過去に何をしてきたのかは、俺しか知らない。俺ですら、もうlayer1に昇進してしまった今のふみの現状を知る方法はないし、これからふみのlayer2の過去を再調査することも出来ない」

「ということは、マイが」


 思わず言ってしまったのだろう。少し間が空いたがはっきりと言った。


「マイが私の過去を知る方法は、存在しないということですか?」

「あってるよ。マイは絶対にふみの過去を知らないし、俺からマイに言ったこともない。安心して大丈夫だよ」


 ふみとマイが仲良しになっていることを、佐々野は知っている。何も隠しているわけではないので、佐々野以外にも知っている人は沢山いる。友達に過去の悪行を知られるのは問題だということで悩んでいるのだろう、と、佐々野はそう考えていた。

 だがふみの表情は、ますます真剣になっていく。


「それなら、マイは、誰が私から守ってくれるんです?」

「誰から守るって?」

「マイは私に対して余りに無防備で」


 ふみが言いたいことが何となくわかってきたようだった。


「友達なんだから無防備で当たり前だろう?」

「佐々野さん。私の性欲のことは十分ご存知ですよね」

「ああ。知ってるよ」


 改めてふみの顔を見て佐々野が言い直した。


「ふみは、マイを殺したいと思ってるの?」

「はい」


 迷うこと無く即答する。


「でも俺との約束があるから、マイにそんなことをしてはいけないと思ってる、そういうことかな?」

「それもありますが、マイは」


 今まで硬かったふみの表情が柔らかくなり、すこし笑みが見えた。


「マイは私の初めての友達かもしれません。とっても大切な人なんです。そんな人を、私の訳のわからない癖で殺したくない」

「殺したいけど、殺したくない。そう言う葛藤があるってことか」

「マイは殺したくありませんが、殺したい気持ちを抑えられるかどうか自信がないんです。そうなると、マイは私の殺意から身を守る方法がないってことになります」

「うーん」


 佐々野が少し悩んで見せる。返答をまたずにふみが会話を続けた。


「私が佐々野さんに聞きたかったのは、マイが私の過去を知っているかどうかでした。知らないと聞いて安心しました。相談に応じてくれましてありがとうございます。あとは一人で少し考えてみますね」

「待って」


 切り上げようとするふみを止める。おそらく言いたくないことを決心したのだろうと、佐々野が察したためだ。


「ふみがマイを大切にしたいことは分かったが、どうするつもりだ? 距離を置こうと考えてるんだろう?」

「・・・」


 言うつもりはなかったのだろう。だがふみは口を開いた。


「はい。少なくとも私の過去はマイに全部知ってもらいます」

「なぜそこまでする? ふみが我慢していればそれで済む話だろう? 訳ありの過去を持った人なんてこの世に沢山いる。だがいつまでも過去を引きずって生きているわけではない。昔のことだときっぱり忘れて、またやり直せばいいだけじゃないか」


 佐々野は少しだけ声を張り上げて言った。

 だがふみはすでに決意をしているようであった。


「そうですね。でも、私の殺意は過去のものではなく、現在も根付いているものです。マイを見て、私のいやらしい欲求が湧き上がる度に、今まで優しくしてくれたマイに嘘をつき続けているようでつらくて。だから、これが一番いい方法なんじゃないかなって」


 佐々野は何も言えなくなってしまった。

 それから二人は仕事に戻った。マイのことは一切口には出さなかった。


 数日の間、ふみはいつも通りであった。

 そして休日。

 マイは常人層地区から治安維持層地区への看板を通り過ぎ、住宅街へと入っていく。常人層地区とは違い、治安維持層地区は食料品店と住宅しか存在しなかった。

 歩道には大きな木が植えられており、どこを見ても森のような場所であった。歩いて大きな店を通り過ぎると、脇の道沿いに小さな公園がある。そこに入って行くとベンチにふみの姿が見えた。


「ふみー」


 ふみがマイの方を見る。手には何やら黒い機械が握られていた。


「マイー」


 それはカメラである。ふみがカメラをマイの方に向ける。マイはそれがカメラであることを理解できたため、手を振って答えた。


「うまく撮れてるといいね」

「ほら、どうかな?」


 ふみのカメラは電子式で、背面にディスプレイが付いている。撮影した画像を表示して、マイにカメラごと渡してみせた。


「なにこれ! 文字が読めない!」

「あ、このカメラはlayer2から持ってきたものだよ」

「すごい、外国の文字だ!」

「そうだよ。外layerの文字だね」

「全然読めないけど数字だけ分かるよ」

「そうなんだよね。なぜかは知らないけど、数字だけはlayer1とlayer2は同じみたい」


 二人はベンチの対面にある花壇に移動した。


「ここにカメラを置くと、あそこのベンチがちょうど写るようになるみたい」

「そうだね」

「ベンチには、私が左、マイは右ね。じゃあタイマーを押すよ」


 花壇を囲むレンガの囲いにカメラをおき、タイマーをセットした。そして二人は駆け足でベンチに座り待機する。数秒後にストロボが光った。


「どうかな?」

「あ、いいじゃない」

「タイマー機能なんて初めて使ったよ」


 マイがカメラを恐る恐る操作する。文字が読めないため左右のボタンしか押せなかった。


「しかしこのカメラはハイテク過ぎるね。背面で撮影した写真が見れるだなんて。結構高かったの?」

「そんなことないよ。これは一番安かったのを買ってきたんだけど」

「ええー? layer2ってもしかしてすごい? こっちじゃこんなカメラは売ってないよ」

「えー?」


 二人は顔を見合わせる。


「layer2だと割と普通だよ。技術を持ってくるって、ある程度時間がかかるんだね」

「なんかlayer2に行ってみたくなっちゃった」


 それから二人はふみの家に向かった。公園を出ても木々が多く、どこを見ても緑が見えた。


「治安維持層地区の奥まで来たことはなかったけど、緑が多くて住みやすそうな場所なんだね」

「住宅街に特化してるみたいだね。佐々野さんもこのあたりに住んでるって。もう常人層の位は取得してるけど、引っ越す理由がないから住み続けてるって言ってたよ」

「暁斗って、普段どういう生活してるのか全然想像つかないな」

「そもそも佐々野さんって家に帰ってるのかな。私が知る限り、いつでも分析業務室にいるんだけど」

「それはそれで怖いね」


 ふみの住んでいる建物は、十階建てのマンションであった。部屋は二階のため階段であがった。


「結構立派な所に住んでるんだね」

「寮だって聞いてるよ。治安維持館で一括してマンションを買い上げて、個室をそれぞれ社宅扱いとして割り当ててるみたい」

「うん、私の住んでる所もそんな感じだけど、こんなに立派じゃないなあ」


 ふみの部屋はよく整理されていて、ピンクと水色で統一されていた。床に座るタイプの低いテーブルにベッド、本棚、大きめの棚が置いてある。


「わ、かわいい感じ」


 マイは楽しそうに部屋の中を歩きまわる。


「本棚に入ってる本は、全然読めないよ!」

「layer2のやつだからね」

「これは何かな?」


 本棚の横にある大きめの棚の前に立つ。棚には色々なものがあり、茶色の瓶、機械、刃物、のこぎり、汚れたバケツなどが置いてあった。

 棚の道具は、部屋のピンク色とは明らかに違う雰囲気であった。


「この瓶は何?」

「あけちゃダメだよ。それは人を殺す道具」

「え?」


 マイが振り返ってふみの方を見る。ふみの表情は変わらず笑顔だった。


「仕事の道具なの?」

「違うよ。それは私が過去、人を殺すために使っていたの」


 マイの動きが止まる。そしてふみの方を振り返った。

 ふみの表情から笑顔が消えていた。マイは、いつの日か感じた、ふみへの違和感を思い出していた。


「ねえマイ。私が今日、マイを部屋に呼んだのは、私の過去を聞いてもらいたいから。お願いできる? たぶん嫌な気持ちになると思うけど」

「う……、うん」


 聞きたくない。だがマイは本心を言い出せずにいた。

 それからマイは、ふみの言うことを黙って聞いていた。ふみは自分の言うことを正確に伝えることが出来るのか、それだけを心配しているようで、必死に言葉を選んでいた。そんな必死な様子を理解できていたものの、話の内容を聞くのがつらいようであった。


「私の生きる意味というのは、好みの男性を見つけて、あるいはかわいい女性と恋仲になって、エッチして、そして殺して、処分すること。ただそれだけの生活を何年も続けてきた。がんばっている男性が大好きで、でも女性はマイみたいな可愛い子がとっても好きで。男性は体目当ての人が多かったから落とすのはそれほど難しくはなかったよ。でも女性は女の子同士だから、落とすのは大分苦労した。でも達成感があって、性別はどっちも好きだった。それで肉体関係になったら、ほとんどすぐに殺してた。それが私の好きなこと。人と繋がるのが好き。人を殺すのが好き。そして、人を処分する一連の流れも好きだった」


 机をはさんで、ふみとマイが向き合って座っている。マイはふみの方を見ずに、机に視線を落としてしまっていた。


「ねえ、マイ。聞いてる?」


 声をかけられて、マイは怖く感じていることに気がついた。


「ちゃんと聞いてるよ。その話、どこまで本当なの?」

「全部本当! 私は小さい頃、お母さんに捨てられてから、まだ幼い頃からそういったことを続けてきたの。私の生きる唯一の目的だったと言っても過言じゃないよ」

「それは暁斗も知ってること?」

「うん。全部知ってるよ」


 マイの言葉が止まったため、ふみが会話を続けた。


「殺した人数は秘密。でも膨大であり、かつ一度も警察に捕まることはなかった。だからlayer1の組織に見つかった。それが強制昇進の義務に繋がり、試験監督の佐々野さんと出会った。強制昇進試験は以前マイが言っていたように、誰もクリアできるようなものじゃなかったよ。でも私はクリアしてしまった。

 てっきり、今まで犯してきた罪を罰するための地獄の門かと思ったのに、佐々野さんは私を選んでくれた。そうして私はlayer1に昇進してしまった」

「え……、それじゃ、ふみは殺しによってlayer1に昇進したの?」

「そのとおり。layer2で犯してきた罪は、layer1に昇進し戸籍を治安維持層に移管した時点で全て削除になった。でも私の性欲と殺人癖は全然治っていない。私は今でも男性が好きだし、女性が好き。好きな人と体を重ねた後、私の手で殺してしまいたい」


 しばらく間が空いた。マイは相変わらず下を見ている。


「ねえ、マイ。こっちを向いて」


 マイは明らかに怯えていた。だが恐る恐る視線を上に向ける。ふみはやさしく笑顔を向けていた。


「マイは私のこと好き?」


 返事はない。だがふみは予想していたようで、話を続けた。


「私はマイが大好き。今まで、私と一緒にいてくれて本当にうれしい。私さ、こんな性格だったから、お友達っていなかったんだ。いても私の手で殺してきた。そんな私と、マイは一緒にいてくれた。初めて休憩所でマイとお話したとき、何一つ言葉が通じないのに笑って対応してくれた。そのときのマイは、今でもよく覚えてるよ」


 マイは何も言えなかった。ふみには、マイが知らない威圧感があった。それは犯罪をくり返し実施してきた、殺人鬼のふみである。普通の人間であるマイにとっては、恐怖以外の何物でもない。


「ねえ、マイ。ちゃんと聞いてほしいの。こっちを向いて」


 やさしく話しかけても、マイはふみの方に顔を向けるのがやっとであった。声を出そうにも、口が震えて言葉が出ない。


「私はマイが大好き。マイの性格が好き。マイの顔が好き。マイの体が好き。マイは私の大切な友達だけど、マイを愛してあげたい。そしてマイを、私の手で殺したい。分かってくれる?」


 目を薄くしてふみが笑顔で問いかける。

 殺したい。その一言がマイを完全に恐怖に陥れる。すでにマイはふみに何も言うことが出来なくなっていた。


「だから、私たちの」


 だが、ふみも言葉を続けるのが、つらくなっているようだった。


「マイとのお友だちも、もう終わり」

「え?」


 意外な言葉が発せられ、マイは無意識に声を発してしまった。


「今から私とマイは、お友だちでも何でもない赤の他人。これ以上マイと一緒にいたら、私は絶対に手を出してしまう。だから、もうマイと一緒にいるのはやめる。これから赤の他人として過ごしましょう」


 ふみの顔は相変わらずの笑顔であった。

 その発言の内容に、マイは一瞬だけ我に返ることが出来た。

 手が片方だけ震えているのが分かる。自分の身の危険を全身で感じており、全身から汗が噴出しているのが分かった。だがふみがマイと絶交しようとしている。その事実はマイにとって耐えられるものではなかったようだ。震える声を絞り出しながら、マイはふみに弱々しく発言した。


「い、やだよ」

「え?」

「どうしてそう、一方的に話をするの?」


 だがマイはすぐにふみから視線を落としてしまった。マイの声は震えており、まるで小動物のように小さくなっていた。そんな姿を見て、ふみも一瞬だけ目を閉じてため息をする。


「マイは私に殺されてもいいの?」


 マイは何かを言うつもりだった。だが、ふみがマイの方に近づいてきていることに気がついて体が固まってしまった。


「マイは優しいんだね、でも」


 ふみが体を近づけて、左手をマイの肩に乗せる。マイはびっくりして体全体を震わせるが、怯えた表情を見せるだけで、何も抵抗できないようだった。

 ふみが微笑みながらマイの顔を見つめる。そして右手の人差し指を、マイの唇に当てた。


「私はそんなマイを見てドキドキしてる」


 ふみがマイの口の中に指を三本入れて、激しくかき回した。喉の奥に入れたり、舌をつまんでみたり。マイが苦しむ様子を見ながら、性的に興奮しているようであった。一方、マイは自分が何をされているのがわからず、ただなすがままにされるしかなかった。

 そして指を抜くと、マイは思いっきり咳込んだ。


「げほっげほっ」

「見て見て、マイ」


 マイと視線が合ったことを確認すると、マイの唾液がたっぷりついた右手を、自分の口の中に入れて舐め始める。ふみの楽しそうな顔を見て、マイはようやく自分の命が、かなり危ない状態であることに気がついた。


「マイは今から、私と遊んでくれる?」


 ほとんど倒れかかっているマイの体の上に、ふみが乗っかるようにしてきた。だがマイは、恐怖を押しのけるかのように、全力でふみを突き飛ばした。


「イヤッ!!!」


 体が離れる。その瞬間、マイはふっとばされたかのように部屋の隅に移動した。後ろは玄関であった。

 全身の震えに耐えながらも、何とかふみの方を見ていた。息があがっており、恐怖でまともに立てない様子であった。その視線の向こうにいるふみは無表情。だがマイに拒絶されたことにショックを受けているようであった。

 しばらく二人は見つめ合っていたが、ふみが無言でマイの横を指差す。


「マイのバッグ。忘れないで」


 慌ててマイは自分の持ち物を手に取り、そうして玄関の方に後ずさった。

 ふみが消えそうな声で話しかけた。


「次にマイと出会ったら、マイを殺しちゃうかもしれない」


 恐怖に耐えられなくなり、玄関の方にかけ出し、そのままふみの部屋を出て行った。

 遠くの方で、慌てた足音が遠ざかっていくのが聞こえた。ふみは目を閉じて、今起こったことをただひたすら思い返していた。


「ごめんね、マイ」


 本当にこれでよかったのだろうか。いくら考えても、答えは出ない。


「さよなら、マイ」


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