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layer0  作者: 運転安全
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霊能力編9

 午後からは、和彦から教えたい事があるという話を受けた。


「四式の応用で、古くから伝わる使い方があるので説明する」

「魂を出すやつですか」


 誠司が先に和彦に質問をした。


「そうだ。四式は霊体に触ることができるが、それは幽霊だけではなく生きている人間も同様。つまり、生きてる人間の霊魂を外に引っ張り出すことが出来るのだ」

「殺すんですか?」


 佐々野が質問をした。


「むずかしい質問だが、あっていると思う。人間から魂を完全に抜き去った場合でも、すぐに肉体の活動が停止するわけではなく、意識は無くなるが何日かは心臓が動いている。死が約束された脳死のような状態だが、それを死というなら殺すという表現はあってる」

「なるほど」


 佐々野が納得する。


「だが、四式で魂を抜いただけでは、すぐ生き返るだろう。肉体と魂が乖離すると、魂は肉体に戻ろうとする強い力が生じる。運が悪ければそのまま他界するが、数時間後には意識を取り戻して蘇生する。数時間も待っていられない場合は、四式で逆に魂を掴んで肉体に戻してやればいい。そうすれば数分で意識は回復する」

「あの、これはどんなときに使うんですか?」


 今度はふみが質問する。


「除霊の業務としては、全く使えないものなんだ。目的はいくつか考えられるが、一つは儀式として幽体離脱をさせるというもの。儀式そのものは何らかの意味があるのだろうが、私にはよくわからない。もう一つは、人と動物を一時的に黙らせるために用いる。例えば人が襲ってきて、その暴漢を気絶させたい場合は、四式で魂を抜くのが早い」

「面白そうですね」


 ふみは横にいる佐々野が、非常に興味を持ちだしたことに気がついていた。


「やりたいんですか?」


 ふみが問いかける。


「当然やるよ。当主、お願いできますか」


 和彦もこの流れは予想出来ていたようであった。

 意識を失うため、術式の実験は外ではなく畳の広い部屋で行なわれた。


「三回行いたいと思います。一回目は当主が俺の魂を抜いて、そしてすぐ戻す。おそらく数分後には復帰。うまく行ったのなら、二回目は俺がふみの魂を抜いて、そしてすぐ戻す。最後にふみが俺の魂を抜いて、魂を戻さずに数時間放置。どうでしょうか?」


 佐々野が問いかけた。横では、誠司と恵子も様子を見ていた。


「私は構わないが」

「いいですよ」


 佐々野が頷いた。そして和彦当主に話しかけた。


「数時間放置は運が悪ければ死ぬって言ってますが、大丈夫なものなんでしょうか」

「絶対に大丈夫とは言い切れない。だが我々は魂を見ることができるので、他界しそうなら強制的に四式で肉体に戻すことはできる」

「あ、本当にそれをお願いしたいです」


 それから和彦の指導が始まった。


「肉体と魂は体の中心で強く繋がっている。中心というのは心臓の位置のことだ。つまり、体の正面から心臓に手のひらを当てて、四式で霊体を掴んで引っ張ってやる。行きますよ?」


 和彦が佐々野に確認をする。


「どうぞ、よろしくお願いします」


 すぐ四式で霊体を掴み、体の外に引っ張った。佐々野はすぐに意識を失い、畳の上に仰向けで倒れた。だが倒れたのは肉体だけであり、腰の辺りから緑色の霊体が上に伸びているのが分かった。


「ふみさん、これが霊体だ。今の状態では、佐々野さんは他界しそうなため苦しんでいる状態だと思う。見えますか?」

「はい、見えています」


 緊張で少し汗が出ていた。


「では四式で魂を戻します。逆の手順なので、霊体を掴んだら胸に戻します」


 佐々野の体に霊体を戻したが、すぐには肉体には入らず、数秒の間、胸を押さえつけて固定していた。やがて体の周りに見えていた緑色の霊体が消えて、単なる人間になった。


「もうこうなると安心だ。大体五分で目を覚ますと思う」

「私、初めて見るかも」


 後ろから恵子がつぶやいた。


「僕は見たことあるけど、禁忌なんだよね。ジイさんから絶対にやるなって言われてた」


 誠司が言った。


「いいんですか? 私たちにこんなことを教えても」


 ふみが和彦に問い合わせる。


「神の国の人間に教えても、何らバチは当たらないだろう」

「そうですか。ありがとうございます」


 しばらくすると佐々野が意識を取り戻したようで、ゆっくりと体を起こした。


「おはよう」

「大丈夫ですか、佐々野さん」

「大丈夫なんだけど」


 少し元気が無いように見えた。


「なんか、すごく、気持ち悪かった。何だあれ」

「いま気分が悪いんですか?」


 ふみが問いかける。


「いや、今は何とも無いんだけど。何だったんだろう、すごく気持ち悪かった」


 和彦が話しかけた。


「私も幽体離脱はやったことがあるのでわかります。たぶん、霊魂と肉体が離れたり、戻ったりするというのが、全く普通じゃないことから生じる嫌悪なのではないかと思います」


 しばらく佐々野は下を向いていたが、顔をあげてふみに話しかける。


「危険だから、もう終わろうか」

「いやです」


 ふみが即答して佐々野を見つめる。


「佐々野さん、そんなに私のおっぱい触るのがイヤなんですか?」

「本当に、ふみは何を言ってるの? イヤじゃないけどさ、色々と問題だろう?」

「何も問題はありません。さあ早く」

「分かったよ。あ、すみません当主。ふみは時々おかしくなるんです」

「生まれた時から霊能力十倍の佐々野さんの方が十倍おかしいです」


 和彦は笑ってしまった。佐々野も気が抜けていたが、すぐに真剣な顔になる。


「意識を失った後、結構びっくりすると思うけど、絶対に死ぬんじゃないぞ」

「はい」


 右手をふみの胸に当てて、四式を使う。そして魂を乖離させた。ふみも同じように意識を失い、体から力が抜けた。そしてすぐに和彦の指導のもとで、佐々野がふみの魂を戻した。


「次は俺が数時間眠るわけですが、魂の監視はふみに任せて、今日は終わりということにしましょうか?」


 佐々野が和彦に言った。


「魂が肉体に自力で戻ることを確認するまでは私も見てます。本当に死なれたら困りますからな。だがすぐに肉体と魂が重なるとは思う。それから体と魂が時間をかけて同化していく。この工程になるとふみさん一人でも大丈夫でしょう」

「分かりました。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」

「いえ。実の所、私も詳しく知りたいということで、佐々野さんに教えたということもありました。佐々野さんなら絶対に試してみようという流れになるでしょう。勝手ながら、期待させて頂きます」

「はは、了解です。絶対に戻ってきますので」


 そこでふみが勢い良く飛び起きた。


「あれ、誠司くん、恵子ちゃん?」

「おはようございます」


 恵子が反応する。


「四式で魂を抜いたんですよ」


 誠司がふみに説明した。


「何となく思い出しました」

「ふみ、寝てたのかよ」


 それからふみが落ち着いたのを見計らって、今度はふみが佐々野の魂を剥離させる番になる。


「佐々野さん、死んだら呪いますから」


 ふみは佐々野の胸に手を当てていった。


「わかった」


 それから佐々野の意識は完全に途切れた。


 佐々野が目を開けたとき、真っ赤な太陽の光が目に飛び込んできた。当たりは夕方であり、それまでずっと寝ていたことを理解した。


「あ、起きましたね」


 よこに座っていたふみが話しかける。


「結構時間が経ってないか?」

「はい。三時間は超えてますね。体調は大丈夫ですか?」

「少しだるいけど、寝起きって感じだから大丈夫だとは思う」


 ふと佐々野が横を見ると、同じようにして誠司が寝ていた。


「もしかして誠司くんもやったの?」


 そのさらに横にいる恵子が答えた。


「はい。数時間コースをやってみたいとか突然言い出して、あまりにも聞き分けがなかったので、私が殺しました」


 恵子が返答する。


「じゃあ私も佐々野さんを殺したことになりますね」


 ふみが恵子と笑顔で頷き合う。

 当主が部屋に入ってきて佐々野に話しかけた。


「大丈夫でしたかな?」

「はい、体に不調はありません」

「当主はずっと見ていてくださったんですよ」


 ふみが言った。


「いえ、度々別部屋で仕事に戻らせて頂きました」


 和彦が断りを入れる。


「ありがとうございます。無事生還できました」


 佐々野も謝礼を述べる。


「どんな感じでしたか?」


 ふみが佐々野に問いかけた。


「うーん、上下も左右も分からない、深海に放り出されたような感じだった」


 少し悩んでから佐々野が再び話し出した。


「どっちに行ったらいいのか分からず、たぶん死ぬなって思ってた。だが光が見えるんだよ。遠くの方に小さな。でもよく見たら下の方にもっと大きな光が見える。ということで、必死に大きな光の方に向かった。それしか覚えてない」

「大きな光は佐々野さんの肉体で、小さな光は霊場でしょうな」


 和彦が言った。


「ということは、小さな光の方に言っていたら、俺は成仏していたと」

「おそらくは。まあ私たちが無理やり四式で押さえつけると思いますが」

「誠司くんは小さな光を選んでなければいいんだが」


 佐々野が誠司の方を見る。


「もう肉体に魂が収まっているので、よほど心変わりがない限り、大丈夫だと思いますよ」


 恵子が返答した。


「でも誠司って、心変わりするんですよね、よく」


 恵子が微笑んでいった。

 それからすぐに誠司が意識を取り戻す。

 全員無事だったということでその日は解散となった。


 佐々野とふみが家に戻ると、電話回線をつなぎ、ハルトに連絡をした。


「どうだい調子は」

「絶好調ですよ。ハルトは元気してますか?」


 ふみが言った。


「ああ、元気だよ。だけどマイは寂しそうにしてたぞ」

「もう何日もあってませんね」


 後ろから佐々野が呼びかける。


「暁斗も元気にいるから」

「了解、仕事は順調かい?」

「恐ろしいほど順調だし、山は越えたと思ってる。進捗は、ふみが一式から四式まで習得済み。俺が四式のみ習得済み」

「へえ」


 ハルトにとっては意外な結果だった。


「暁斗の方が遅れてるのか。四式のみって大丈夫なのか?」


 そこでふみが返答する。


「全部習得した私からの意見ですが、四式の最初が一番難しく、それをすでにクリアした佐々野さんなら、残りはすぐに習得可能だと思います」

「了解。しかし意外だったのは、ふみが全部習得してるってことだ」

「ふみの功績はそれだけじゃない。除霊も順調に行なって、水影当主をかなり驚かせてた」


 佐々野がハルトに言った。


「いえ、そんな大した事じゃないです」

「いやいや、暁斗が言うんだから間違いないだろう。この分だと、本当に俺は何もしなくてもいいようだな」

「ただ、当初から考えていたように、やはり水影家の仕事は危険だ。何が起こるかはわからないため、ハルトのスタンバイは引き続き頼みたい」


 佐々野が言った。


「こっちは問題ないよ。そういう仕事だし」

「他の窓口の方は余裕あるのか?」

「あるよ。俺の部下が優秀なんでね」

「そうか。いい上司なんだな」


 それからハルトとは少し話し合いをして、それで回線を切った。


「山を越えたと聞くと、もう業務が終わってしまうような感じがしますね」


 ふみが少し寂しそうに言った。


「早く終わったほうがいいだろう」

「ちょっと寂しい気持ちもします。仕方がないことなんですけどね」



 ある程度仕事の終わりが見えてくるとデスクワークが増えてくる。あの後、佐々野は一日で術式を全て覚え、修行は完全に終了となった。ただし、除霊業務は手伝っておきたいということで、佐々野とふみが和彦と同行し、何度か霊場へ足を運んだ。終わりが近づいていることを察知した誠司と恵子も、必ず同行するようになった。

 家の休憩室にて、佐々野とふみは二人でノートパソコンに向き合っていた。


「私の方の作成は終わりました」

「よし、じゃあ俺のとマージしよう」

「そっちに転送しましたよ」

「了解」


 本日は水影家には行かずに、朝から分析業務の資料作成を行っていた。


「最終版を置いたよ。持って行って。あとは見直しだけなんで、layer1に戻ってからでも十分作業できるね」

「これでlayer2で出来る業務は全て終了ですね」

「ああ、本当にお疲れ様。ありがとう、ふみ」

「こちらこそ、お疲れ様でした」


 佐々野が時計を確認した。


「約束の時間までまだあるから、この家から出る準備をしてしまおうか。清掃はハウスクリーニング業者に全部頼むつもりだから、自分でする必要はないよ。忘れ物はしないように」

「わかりました」

「車とトラックはすでに返却済み。機材などもすでにlayer1に送っている。本日、夏祭りが終わった後に、ふみはタクシーでホテルへ。俺はそのままlayer2の自宅に帰ろうと思う。次の出勤日まで一週間はあるので、layer1でもlayer2でも好きな方で休むといいよ」

「はい」

「では撤収作業をしようか」


 作業中に外から火薬の音が聞こえてきた。夏祭りの合図であった。


 二人で祭りの出店通りを歩いていた。普段の田舎通りとは見間違えるほど人が集まっており、かなり賑わっている様子であった。向かう場所は突き当りの神社である。たどり着くと、そこには誠司と恵子の他に、お友だちの二人が、合わせて四人で待っていた。


「わあー! お友だちなんですか?」


 ふみが喜んで近寄った。誠司の男友達と恵子の女友達であったが、二人はどちらとも仲が良いようであった。

 佐々野とふみは簡単に自己紹介をした。


「ふみはみんなと一緒に行動するといいよ。だがその前に、当主にあいさつしに行こう。俺は当主と一緒にいようと思う」

「はい、わかりました。でもあとで私とも付き合ってくださいね」

「わかった」


 一同は神社の脇に設営されているシートの建物に歩いて行った。そこには大規模な宴会場が設営されていた。水影当主は、地元の人たちからかなり信頼されているようで、宴会場の中央に席を取って、周りの人たちと飲んでいた。

 佐々野たちが近寄ると、すでに酔っ払っている当主が出迎えてくれた。


「佐々野さん、お待ちしておりました」

「当主、この度は本当にありがとうございました。無事、業務を終わらせることが出来ました。私たち分析業務二名、心より感謝いたします」


 佐々野と一緒にふみもお辞儀をする。


「いえ、私も佐々野さんと仕事が出きて本当に楽しかった。またぜひ来て下さい。本日は飲んでいかれるんですよね?」

「はい、今日は頂きたいと思います」

「さあ飲んで飲んで、ふみさんも今日は飲んでいって」


 佐々野の前に、村人が集まる。


「水影さん、この人が噂の、あの人ですか。たしかやーさんの」

「え!? 違いますよ」


 佐々野が急いで否定する。ふみは笑ってしまったが、誠司たちの友達はびっくりしていた。


「私は似たようなものだと思うんですけどね」


 ふみがつぶやいた。

 すぐに、当主が佐々野に弁解した。


「こんなことを言ったつもりはないのですが、何しろなんて説明して良いのか分からなくて、本当に申し訳ありません」


 和彦は機密の事を言っているのだった。だが佐々野は堂々と自分の身分を明らかにした。


「私はlayer1の役人です。この度は、水影家の当主と一緒にお仕事をさせて頂きました仲でございます」

「layer1だって?」

「それじゃあ神の人かい」

「じゃあ、とりあえず飲みな」


 村人は驚いていたようだったが、かなり酔っていたためすぐに忘れていたようであった。


「佐々野さん、じゃあ私たちは少し出かけてきます」

「ああ、気をつけてな」


 ふみは誠司と恵子に合図を送り、大人たちの酒場から抜けだした。


 ふみを入れた五人で境内を回る。そのあとは屋台に沿って歩いた。ときどき食べ物を買っては、色々と話し込んでいるようであった。


「それじゃあ誠司と恵子は、ずっとふみさんと一緒に仕事してたの?」


 女友達が話していた。


「はい。色々と水影家の事を教えてもらっていました」

「なんか最近誠司が全然遊んでくれないと思ったら、そういうわけだったのか」


 男友達が誠司に話しかけた。


「そういうわけだったんだよ」

「誠司くんと二式を使ったこと、まだ強烈に覚えてるんですよ」


 ふみが誠司に言った。


「あれは僕も一生忘れないと思います」

「私は誠司が自分から進んで銃で撃たれたの、一生忘れないと思う」


 恵子がつぶやいた。


「恵子もやればよかったのに」

「やるわけ無いでしょ。頭おかしいんじゃないの」

「銃で撃たれたって、何をどうすればそうなるの!?」


 男友達が驚いて言った。

 それから一同はまた歩き出した。

 先頭には三人、後ろには恵子とふみが二人で話しながら歩いていた。


「ねえ、ふみさん」

「なに?」

「どうしたら、ふみさんみたいになれるんですか?」


 恵子は真剣に話していた。


「私みたいに? むずかしい質問だね」

「こう、捕まえて、バーンってやって、怖い顔したり、足で踏みつけたり」

「私って、そんなイメージなんだ」

「どうしたら、そんなに強く、かっこ良くなれるんでしょう」

「恵子ちゃんは恵子ちゃんのままでいいんじゃないかな」


 答えようのない質問にふみが困ってしまっていた。だが恵子は諦めない。


「私はふみさんに憧れてるんです。来年の目標はふみさんになるって決めてるんです」

「そうなんだ、私になるのね」


 ふみは少し考えてしまった。ふみにとっては、自分が何かをしている考えはないからだ。だが、だからと言って何も考えないで分析業務をやっているわけではない。その動機を恵子は知りたがっているのだろうと考えた。


「自分の好きなことを徹底的にする、かな。ごめんなさい。恵子ちゃんの助けにはならないかもしれないけど、今はこれしか言えない。自由気ままに好きなことをしたって絶対にうまく行くはずはないけど。でも今の私は、これで生きているのだと思う」


 非常に危険なアドバイスだと思っていた。自分の好きなことをする、その結果が連続殺人である。人に勧めてもいいものなのだろうか。本当にふみそのものになり、恵子が連続殺人を犯す人間になったらどうなるのだろう。しかしふみは、それ以外の言葉が思い浮かばなかった。


「あ、ありがとうございます!」


 恵子はかなり本気でふみの言葉を喜んでいるようだった。

 今度はふみが悩んでしまっていた。


(そもそも昔の私は、こんなに人に尊敬されるような人間じゃなかった。)


 今の私は昔とは違う。でも自分が変わったわけではない。自分の周りの何かが変わったんだ。ふみはそう確信していた。layer2でゴミ以下の行き方をしていた昔の自分を思い出す。それに対して今はどうだろうか。一体何が変わったのだろうか。ふみには大きな心当たりがあった。


(佐々野さんだ。間違いない。)


 自分を正しい道へ導いてくれた人、ふみの佐々野に対する認識はそれであった。

 ふと顔を上げると、今度は誠司がふみの近くにやってきていた。


「明日にはもう帰るんですよね」

「うん、いつあっちに戻るかまでは決めてないけど」

「寂しくなるなあ」

「そうだね。誠司くんは当主と同じくらいお世話になりました」

「こちらこそ、今までにない経験をさせて頂きました」


 誠司がふみに笑ってみせる。


「実は家を継ぐとか、進路のことで色々悩んでいたこともあったんですが」

「はい、重要な時期ですものね」

「layer1とまでは行かないけど、僕もふみさんや佐々野さんみたいに、色んな場所に行って、色んな人と出会って行けるような仕事に付きたいなって思いました」

「ええー! そうなんですねー」


 ふみは少し驚いてしまった。ふたごなのに誠司と恵子では、見ている所が全然違っているからであった。


「どうしました?」

「いえ、いいことだと思います。私は分析業務がはじめてなので、これからもっと色んな人と話して行くんだと思います。最初が水影さんのように優しい方で、本当に嬉しかった」

「ジイさんは他の家の霊能力者と、結構交流があるようなんです。だから僕ももっと行動して行きたいなと。高校生活もそうですが、もっと本気でがんばります。ふみさんに負けないように。佐々野さんも強烈だったなあ」

「私も佐々野さんにいずれ勝たなきゃ」

「そうですね」


 それからふみは四人と別れて佐々野の元へ向かった。和彦当主に最後のあいさつをして別れたあと、二人で祭りの中を一通り歩いて回った。

 その日をもって水影家の分析業務は終了となった。


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