計画
薄暗い部屋で数人が集まっていた。彼らはひそひそと小さな声で話し合っている。
「ここ数十年、平穏な時代が続いている。民衆は平和でいいと言うかもしれないが、我々は商売あがったりだ」
「せめて自衛用の武器が流行ってくれたらよかったんですが、民間人の購入は禁止されてしまいましたし」
「争いの火種を起こせたらなあ」
「焦るな。信用を失ったら全てパアだぞ」
彼らの話はなかなかまとまらない。ある者が意見を出せば、別の者がそれはだめだと却下する。意見がかみ合わないのではなく、もとより難しい問題らしかった。話し合う人々を見つめ、軽く息を吐く。ゆっくりとした足どりで近づいた。
「自国を貶めうる戦争の画策とは、神への冒涜も甚だしい」
低い声で嘲笑う。そこにいた全員が弾かれたように顔を上げた。小さなろうそくの火ががそこに浮かぶ恐怖と驚きを照らし出す。一人が拳銃を構えた。
「何者だ! 貴様、今までの話を聞いていたのか…?」
黒い光がわずかに震えている。皆がこちらの答えに意識を集中させている。剥き出しの警戒心の前に口角をつり上げ、背中の翼を顕現させた。
「案ずるな。神に不遜なるお前達も、偉大なる我が主神は受け入れるであろう」
小さな灯火が揺らぐ。その場にいた全員がこちらを見て息を呑んだ。
「白の、天使……」
誰かが震える声で呟いた。拳銃を向けていた腕も下ろされ、反撃も忘れてしまったかのように見入っている。畏怖の念を感じ取り、見せびらかすように白い羽を広げた。
「お前達の働き次第では、ゼノ様も恵みを与えてくれよう。選べ。我らの手を借りず逆賊となるか、我が主神のために働き富を得るか!」
瞳を輝かせて彼らを見れば、恐れと迷いの視線が浮かんでいる。誘いに乗りたいが踏みとどまっている、そんな状態。もう一息といったところか。
「さあどうする? 我が主神も気は長くない。意思を見せるなら今しかないぞ」
言ってから踵を返し、その場から帰りかける。背後で慌てて這い寄る音が聞こえた。
「待ってくれ! 俺達は、何をすればいいんだ?」
すがるような叫び声に全員が目を向ける。批判と期待の入り交じった視線も、本人は気にしていなかった。ただ真っ直ぐこちらを見上げる男に応え、不敵に笑ってみせた。
「簡単なことだ。4日後の昼、ゾーラビル3階からラノマ広場に現れる要人を狙え。あとはお前達の望む結果が訪れるだろう」
重々しく伝えると、男は頭を垂れた。彼ばかりでなく、そこに集まっていた者全てが祈りを捧げた。ここまで来ればもう用はない。翼を広げ、空中に浮かぶ。
「指示はおって下す。……ぬかるなよ」
睨みをきかせて言い含め、闇に溶けてその場を後にした。