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反逆の使徒  作者: 風白狼
天使編
8/14

邪神の使い

 それはすぐに噂となった。首と片方の翼を失った天使の死体が木の上で串刺しになっている。見つかり次第警備隊と野次馬に取り囲まれ、直接見ることは叶わなくなっていたが、その残虐さだけはものすごい速度で広まっていった。当然、日が昇ってから登校したファーロ達の耳にもその話は入ってきた。しかしいくつかは話し好きと不安とに増長され、天使の姿は原形をとどめていないだの内臓がえぐり出されているだの散々な言われようでもあった。

「お、ストリグ。広場で起きた例の事件、知ってるか?」

 一人の男子生徒が青髪の青年、ストリグに話しかける。ストリグは眉をひそめて頷いた。

「惨殺された天使様が木に引っかかってたっていうあれのこと?」

「そう、それ。実は新しい情報を手に入れてさ。犯人の目星が付いたらしいんだ」

 男子生徒――バンドの言葉にストリグは息を呑む。後ろで聞いていただけのファーロも聞き漏らすまいと口元を注視した。二人に見つめられ、バンドはもったいぶった仕草で息を吸う。

「現場に白い羽が落ちていたらしくてさ、こういう推測が立ったらしいんだ。犯人は“白の天使”じゃないかって」

「白の天使!?」

 ファーロもストリグも目を丸くした。その反応に気をよくしたバンドは胸を張ってさらに続ける。

「普通の人間じゃ天使様を殺すことなんて到底できないし、まず殺そうとだって考えないだろ? けど白の天使なら――悪しき神の使いなら、その能力も動機もあるはずだ、って」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。白の天使ってことは、黒幕は暗黒神!?」

 ストリグは慌てた様子でバンドに詰め寄った。バンドは彼の行動に驚き、そういうことになるなとだけ答えた。

 暗黒神。神の一柱でありながら、他の神々から蔑まれている存在。白い翼の天使を地上に遣わし、世界に災いをもたらす。それが常識として教えられている暗黒神の認識だった。

「なんで、暗黒神が――?」

「おれに聞くな。ただの人間が神サマの考えることなんてわかりはしない」

 ストリグの言葉に、ファーロはため息混じりに答えた。その赤い瞳に憂いの光を見せ、空を仰ぐ。

「わかることといえば、奴がこの国に目を付けていて、災いを引き起こそうとしてるってことか」

 ファーロはそう呟いた。抑揚も付けず感情のこもらない、他人事の響き。ファーロは当事者であることは自覚しているが、それをあえて表に出さないのだった。が、そうとは知らないバンドは聞こえるように舌打ちする。

「あんたはいつもそうだな。こんな時だってのに妙に落ち着き払っててよ」

 苛立たしげにファーロを睨む。視線に晒されている彼女は涼しい顔をしていた。

「悲観してもしなくても状況は変わらん。それだけのことだ」

 それだけ言い残して、ファーロは歩いていってしまう。これ以上話すことはない。言外にそれを示して、ファーロはいつも通りに振る舞うのだった。




*****





「ご苦労であったな、ファーロ」

 闇の中から低い声が響く。名を呼ばれたことにはっとしたが、すぐに闇を見据えた。姿は見えないが、存在感だけはひしひしと感じる。それに抗うように背中の翼を広げた。

「いい加減にしろ、ゼノ!」

 先の見えない空間に自分の声が吸い込まれていく。ゼノと呼ばれた不可視の存在は呼び捨てされたことに腹を立てるのではなく、何かを楽しむように笑っていた。

「何を憤る? 我は天使ヘヌリスを殺せと命じただけ――派手に血化粧をしたのはお前自身の意思だろう?」

「やかましい!」

 笑う声を遠ざけようと吠える。だが、闇の向こうの神は意に介さなかった。

「我はお前に復讐の機会を与えてやったのだ。お前も楽しんでいたではないか。初めから息の根を止めてしまえばいいものを、わざわざ痛めつけてから飾り立てたのだからなあ」

 全てを見透かされたように錯覚し、何も言い返せなくなる。けれど、ねっとりとまとわりつく声を遠ざけたくて、闇を睨んだ。ゼノはやはり笑っている。

「お前が派手にやってくれたおかげで、ことが楽に進みそうだ」

 その言葉ではっとした。苛立ちを押さえて奥歯を噛む。

「そういうことか……。お前の狙いは、最初から――!」

 相手は神を憎む者が信仰する神だ。だからこそ、他の神々から“暗黒神”と呼ばれている。ロカメア神の天使を見せしめにすることで神威を見せつけ、さらなる信仰心を得る。図らずも自分の選択が相手の思惑に沿っていたことに嫌気がさした。

「やはり、お前を我が下僕にして正解だった」

 ゼノは闇の中からささやいた。嬉しそうな声が腹立たしく、思わず叫ぶ。

「ふざけるな! おれは、お前のいいなりになんか――」

「何度も言わせるな。お前に拒否権などない」

 ぴしゃりとはねのけられると同時に、体が動かなくなる。得体の知れない力で押し込められている感覚。その姿は見えないのに、何かがつっと脇腹を撫でる。

「いずれ時は満ちる。それまでは今まで通りを装って大人しくしていろ」

 びりっと体中に電流が流れる。命令の感覚に悪寒を覚えたところで、意識は遠のいていった。

天使編はここで終了です。次回からは新章の予定。


 今まで神様の名前はロカメアしか出ていなかったので、誤解していた人もいたかもしれません。が、冒頭に出てきた神はゼノという別の神様でした。要するに神様は一柱だけではないのです。

 さすがにここまで来て白の天使(序盤から登場している神の使い)=ファーロであることに気付いていない人はいないと思いますが……わからなかったら私が下手くそなんですね。ごめんなさい

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