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怖恐 ~ 田代館の恐怖 ~  作者: くきくん
第九章 心と順と沢口
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9-2

少し落ち着いたせいか、今頃になって左手が痛み始めた。順に手当してもらってる間も周囲が気になって、傷の具合も見てへんかった。


ズキズキするっちゅうことは擦り傷じゃなく切り傷やな・・・。まあ、植物でも切る事あるし、尖った石やったんかもしれへん・・・それにしても痛い。


「順、俺の手ひどかったか?」


「いや、大したことあらへん。1か月もすれば治るわ!」


おいおい!全治一か月って重傷やないか!俺の手は大丈夫なんか?心配になってきた。すると沢口が、


「それは大げさですわ。傷口からばい菌でも入って化膿したら難儀ですけど、僕が見た所、一週間くらいで治ってると思いますよ!」


そうか、それを聞いて安心したわ。順の奴、適当な事言うから焦ったやないか!まあ、痛みは我慢できる範囲やし、とりあえず見回りに集中せんと・・・


「ストップや!」


突然順が俺と沢口を制止する。


「どないしてん?」


「しっ!静かに!」


まともな応対してるっちゅう事は、危険やっちゅう事や。順はペンライトを森の方に向ける・・・。その光を左右に振りながら同時に首も動く。沢口も順の視線の先を同じように追ういながら、ゆっくりと前進する。


出遅れた俺は順と沢口の背後から、出来るだけ音を立てへんように前進した。静かに歩いたんは、相手に気付かれないようにではなく、物音を聞き取るためやろ。こっちはライト照らしてるんやから、位置は相手からバレバレやしな・・・。


「おかしい・・・。今、たしかに何か見えたんやけど・・・」


順が呟く。すでに順は森の中に足を踏み入れてた。それ以上行ったら危険ちゃうか?と、思いながらも、この緊迫した空気の中言い出せへんかった。そのまま順は森の奥へと進み続ける。それに遅れを取るまいと沢口が続く。さすがに俺は、


「おいっ!それ以上進んだら危険ちゃうかっ?」


と、声をかけた。しかし、順はその声には無反応で更に進み続ける・・・。


「沢口君からもなんとか言ってやってください!それ以上は・・・」


おかしい。聞こえてへんはずはない・・・。それやのに二人とも振り返るどころか、更にスピードを上げて前進する。これはあかん!そう思った俺は少し離れてしまった沢口に追いつこうと必死で走って、背中を掴んで倒した。そのまま、更に駆け上がり順の背中も掴んだ。


ところが順の体はビクともせえへん。それどころか掴んだ俺ごと前に進んどる・・・。いくら怪力でもこれは異常や。後で倒してもうた沢口の事も気になったけど、今は順をなんとかせえへんとマズい。そやけど、順は尚進み続ける。


「おいっ!ストップや!順!聞いてんのか?おいっ!順!沢口君!手伝ってくれ!このままやったらあかん!」


すると、ようやく我に返ったんか、後ろから沢口が近づいてきて一緒に順を引っ張ってくれた。


「大丈夫か?」


沢口に声をかけた。


「え、ええ・・・なんとか。それよりなんちゅう力なんや!くっ!」


「とにかく、なんとしても止めんとヤバい!ヤバいで!」


俺と沢口はとにかく力の限り順の体を引っ張った。傾斜が上りになってるから全体重をかけた。すると、順の声とは思えん声で、


「ハナセ、ハナセ、ハナセ、ハナセ・・・」


と、不気味な声が響き渡った。


「順!おいっ!しっかりせんかいっ!」


「順君!大丈夫ですか!順君!」


「沢口君!ちょっと踏ん張ってて下さい!このままじゃ埒があかへんから、俺が順の前に回り込みますわ!」


「わかりました!なんとか持ち堪えます!」


そう言うと沢口は順の腰のあたりに両手を回して、自分の両足を浮かせてジャンプするような形で全体重をかけて順を引っ張った。それでも引っ張られて登って行く順・・・。俺は一気に順の横から前に出ると、抱き着くように順にタックルを決める。


「うわっ!おい!順!」


その時俺の目に飛び込んだ順の表情は、完全に順ではなく、怒りに満ちた表情はどこを見ているのかさえわからへんかった。何が何やら訳がわからへんけど、とにかく順の体を必死に抑え込んで全体重をかけた。後ろからの沢口の引っ張りもあって、ようやく順の体から力が抜けた・・・と、その途端三人は転げ落ちるように倒れ込んでしもた。


「くっ・・・あいてててっ。」


「・・・ぐっ・・・げほっ・・・こほっ・・・」


三人もつれ込むように倒れたせいでどこかしらが痛い。もうどこが痛いのかもわからへん。沢口もうめき声をあげて立ち上がることも出来へんようや。一方の順は・・・倒れたままピクりとも動かへん・・・


「順!しっかりせい!順!順!」


足やら背中やら痛かったけど、なんとか体を起こすと順の元へ近寄った。見た所血が出てるとかは無い。息もしてるようや。頭でも打ったんやろか?それやったら動かしたらマズイ・・・


「だ、大丈夫ですか・・・痛っ・・・」


「沢口君の方こそ大丈夫ですか?」


沢口もなんとか落ちあがってきたが、どっか痛めたんやろか?苦痛で顔が歪んどる。


「倒れた時に足を痛めたようですわ。多分折れては無い思いますけど・・・痛っ!?」


かなり痛そうや・・・。ただ、命に別状はないやろから、申し訳ないけど今は順を・・・


「そ、それがしは・・・なんで・・・あれ?どこはここ?」


ぎゃ、逆や!


「順に沢口君。どないしたんや?それがしはなんで倒れてるんや?それに、なんか痛い・・・」


「良かった。無事みたいや!」


「誰が富士額フジビタイや!」


「無事みたいや!」


これはひとまず小屋に戻った方が良さそうや・・・。沢口は歩けるんやろか・・・。順は大丈夫そうなんで、今度は沢口の元へ近づいた・・・。


「歩けますか?」


「ちょっと肩貸してもらえますか・・・すんません。」


凄い汗や・・・。これは相当痛いようやな。


「順!元気なんやったら手貸してくれ!」


「任せるんや!」


結局一番元気そうや・・・順が・・・。俺と順で沢口を両脇から抱えると俺たちは小屋に引き返した。

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