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怖恐 ~ 田代館の恐怖 ~  作者: くきくん
第八章 山小屋
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8-27

簡易トイレの扉の上には入り口を照らすライトが据付けられていた。そこには無数の昆虫が群がり、一際不気味な羽音だけが周囲にこだましていた。


多分、蛾がほとんどやろ・・・。そんな事を考えるながらトイレに近付く。また、小柄の悲鳴が始まるんちゃうやろなと、心構えをしてたんやけど、奇跡的にも何事もなく小柄は用を足して出てきた。


「簡易にしては思ってたより綺麗ね!きゃあぁ!ちょっと、この飛来する虫々をなんとかして頂戴!背中にでも入ったらどうするのよ!まふっ!」


まふっ!ってなんや!まあ、虫で悲鳴は想定内や。


「さっさと出すもの出してらっしゃい!あたいを一人にするなんて、ナンセンスよ!」


あかん。小柄のキャラがだんだん濃くなってきた。ある意味沢口を尊敬するわ。ここはさっさと・・・俺は扉を開けて、


「ぬわああああああああぁっ」


小柄と同レベルの悲鳴を不覚にも上げてしもた。そして、そのまま後ろに倒れ込んだ。


「ちょっと、脅かさないでくれる!何よ!どうしたのよ?」


簡易トイレにしては珍しく水洗式やけど、便器は和式。その便器に紫色の女の顔だけがあって、カッと見開いた瞳が俺を見つめてたんや・・・。


「か、顔や!べ、べ、便器に女の顔や!」


俺の悲鳴が余程大きかったんか、小屋の窓から心達も顔を覗かせた。


「どないしてん!」


もう一回説明せなあかんのか・・・


「顔に便器があったんや!」


「か、顔に便器?意味がわからへんで!」


あかん、パニくって逆になってもうた。


「だから、便器に女の顔があったんや!」


すると、順が窓から飛び降りて、素早くトイレに駆け込んだ。


「何もあらへんで。普通や。普通の便器や。」


そんなあほな・・・。俺は起き上ると、急いで便器に近づいて覗き込む。しかし顔は無い。白い便器がそこにはあるだけやった。


俺、疲れてるんやろか・・・。さっきの地面に転がってた顔といい、便器といい。ただ、さっきは小柄も見たんや。


「わかったわよ。あたいを驚かせようとしたのね?冗談じゃないわよ!中段じゃないわよ!下段じゃないわよ!頭に来るわ!」


よくわからへんけど、そういう言い方が流行ってるんか?とにかく、腑に落ちんけど、見間違いという事にしとくわ。これ以上、皆を巻き込んでこんな調子じゃ申し訳ないし、そもそも、霊なんて元々おらへんのや。きっと恐怖心が作り出す幻想・・・そう、幻想や!


結局、窓から降りた順と小柄、俺は小屋の入り口まで戻り、小屋に入った。


「ホント、頭来ちゃうわ!太一ちゃんったら、あたいを、あたいを!」


まだ、ブツブツ文句を言う小柄。そもそも、おまえがトイレ行く言い出したんやろ・・・。感謝こそされても、文句を言われるのは筋違いやで・・・。


「何か言ったかしら?」


喋り口調とは似つかわしくない、鋭い眼光で俺を睨む小柄。性格と体格、名前と体系・・・とにかくアンバランスや。


「まあ、あと三時間もすれば明るくなるやろし、もうちょっとの辛抱や!俺もちょっと寝させてもろたからもう大丈夫や。皆疲れてるからピリピリしてるけど、しゃあない。それより、なんとか明るくなるまで持ち堪えなあかん。人数も増えた事やし、ここはもう一回見回りしてみるんはどないやろ?」


そう言えば、ホンマは見回りに行く予定やったんや。そこへ沢口と小柄の登場でバタバタしてもうたけど、実際に問題なんは、金脈を狙う生身の人間。霊は見間違い、錯覚、恐怖心が作り出す幻想・・・色々考えられるけど、何一つ確かなもんは無い・・・。そやけど、生身の人間は確実に存在するんや。となると、そっちを警戒するんが優先や。


「麻紀ちゃん寝てるし、太一はここにおってくれ。ただ、一人じゃ心細いやろから、順もここに残ってくれ。悪いですけど、沢口君と小柄君は俺と一緒に見回りについて来てもらえますか?」


沢口は黙って頷いた。一方で小柄は予想通りと言うかなんというか・・・


「あたいにまたあの暗闇に身を投じろって言うの?アンビリーバボーだわ!」


「コガッチ!グダグダ言わんと黙ってついて来たらええんや!」


沢口が促す。しかし、小柄はさらに食い下がる。


「嫌よ!嫌だわ!嫌すぎるわ!マウンテンホットドッグコーヒーだわ!」


全然意味がわからん!さすがの順もこれには困り果てて、


「それがしがお供するでござる。小柄殿は太一殿と麻紀君をよろしく頼むでござ候!」


「わかったわ。あたいが守って守って守り抜いてみせるわ!」


なんや、なんか順が言うたらえらい素直やないか・・・ま、まさか!?いや、気持ち悪いから考えるのはやめとこ・・・。

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