1-5
さすがに今度ばかりはボケたとは思えんかった。そやけど、何度隣を見てもそこは空席で誰の姿も見当たらない・・・
「ちょっと太一・・・」
さすがに麻紀も気になったんか?
「あんた・・・また、牛丼?バカの一つ覚えみたいに、何考えてんの?しかも1980円って、牛丼に?ありえへんし・・・」
え?そこ?謎の隣人の件は?
「いや、それより麻紀・・・さっきから俺ら三人って、なんかおかしくない?」
「全っ然!?そんなんよくある間違いや。店員さんも疲れてはるんやろ。あんたの牛丼脳みその方がよっぽどおかしいわ!迎えのキチノヤやったら並五杯分やで!あんたに飛騨牛の味わかるん?」
あかん・・・麻紀は全然気にしてへんわ。あほらしいから俺も気にするんは止めて飛騨牛を堪能することにしよ!うん!そうしよ!
料理が届くまでの間は麻紀と他愛のない話で盛り上がり、10分もすれば料理が運ばれてきた。
「溢れんばかりの伊勢海老丸ごと海鮮丼のお客様・・・」
「はい?」
「あっ!ウチウチ~」
おいおいっ!パスタちゃうんかいっ!って、伊勢海老丸ごと?思わずメニューに目をやる・・・5980円・・・5980円!?ちょ、ちょっと待ったらんかいっ!樋口一葉でも足らんがな!
「飛騨牛の特選牛丼ミニうどんセットです。デザートは食後にお持ちしますので、それではごゆっくりどうぞ。」
「これだけじゃ足らんかもしれへんな。頂きま~す!」
麻紀は無言のまま黙々と食べ続けた。これにデザートで福沢先生が一人旅立つかと思うと、食欲は半減した・・・
「美味しかったわ!さすが伊勢海老やわ。甘みとプリプリもちもち感が・・・」
麻紀はあっという間に平らげると余韻に浸りつつもさっさとデザートを持ってきてもらおうと、呼び鈴を鳴らした。
一方の俺も牛丼を堪能しつつ、麻紀の伊勢海老と昨夜からの奇妙な出来事に美味しさは半減・・・というよりイマイチ味さえわからんかった。
「お待たせしました。エベレストパフェでございます。ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい。以上です~」
おいっ!なんや!そのエベレストパフェって!なんぼほどデカいねんっ!恐る恐るメニューを・・・
無理・・・ギブ・・・2480円・・・さようなら福沢諭吉大先生。これでバイト通し分はタダ働きコースやん・・・
「太一も食べる?ウエハースやったらあげるでぇ~」
「いらんわっ!」
エベレスト恐るべし・・・なんか見た事もないような新鮮なフルーツがまさにてんこ盛り。メロンまで乗ってる。しかもこのオレンジ色は夕張メロンや・・・
それにあの洋ナシ・・・オ・フランス・・・なんか違う?まあええわ。それにしてもよく食べれるなぁ・・・
「別腹やっ!」
はぁ?俺、今声に出した?いや、出してへんし・・・地獄イヤー恐るべし。
「ご馳走様でしたぁ~ちょっと幸せ☆」
うわっ!今、星出てた・・・まあ、機嫌も良くなったみたいやし、とりあえずこれでよしとしよう。さっさと会計を済ませると俺たちはファミレスを後にした。レシートにはやはり、三名様って書かれてた。男性1名、女性2名・・・
まあ、ミスが重なっただけやろ。そう思うことにして、自転車の鍵を外してると、
「これからどないすんの?」
麻紀が横から聞いてきた。特に予定は決めてへん。
「とりあえず家に戻ってから考えよか。どっか行くにしてもおとんの車借りなあかんしな。」
「わかった。ほな行こか~」
めちゃめちゃ上機嫌やん。そらあんだけええもん食うて機嫌悪いほうがビビるけどな。二人で自転車を漕ぎつつ家路についた。