2-10
「今度はなんや?また、なんかあったんか?」
「遂にキングのお出ましや。」
心は腰に手を当てた体制でそう呟いた。
「へ?キング?なんやそれ。」
心とはちょっと距離が離れてたから、先がよく見えんかったんやけど、追いついて眼下に広がる光景を目の当たりにした俺は、心の言うてる意味がようやく理解出来た。
やや、遅れて麻紀と順も追いつき声をあげた。
「何?この建物は!」
「これは、見事に誘導されたみたいや。心の勘が当たってたみたいや。」
「せやろ。これはもう後戻り出来ん香りが漂っとるわ。」
心は『それ見た事か!』と言わんばかりに俺を見た。
目の前には、一体何のためにこんな場所に建てられたのか意味不明な屋敷と言ったほうが分かり易いくらい大きな建物が姿を現した。
高さは三階建てで横に結構な長さのあるその建物を囲うように周囲には塀があった。塀の高さは二メートルくらいやろか。塀の上にはすでに錆び付いた有刺鉄線が張り巡らされてた。
その有刺鉄線に植物のツタが絡み付いてて、明らかに長い時間手入れされてへん事が推測出来た。
「まあ、せっかくやから門の前まで行ってみよか。」
歩いて来た道は真っ直ぐに門の手前まで伸びてたから、俺らは心の言う通り門まで歩いた。一応、門は閉じられてて、右の方に『田代館』と書かれた表札のような物が埋め込まれてた。
「田代霊園と同じ会社が運営してたみたいやな。但し、相当長い時間放置されてたみたいや。門扉も完全に錆とるし、雑草の伸び方もハンパないで。」
心は門の内側を覗き込みながら、中の様子をうかがってた。麻紀はあまり近寄りたくないのか、少し離れた所から心配そうにこっちを見てる。順は相変わらずスマホの電波が受信してないかチェックしてる。
「この建物は、ホテルや旅館とかそういう宿泊施設とはちゃうみたいやな。田代霊園、田代館っちゅうくらいやから、きっと経営者の名前が田代っちゅうんやろ。その田代言う人が多分道楽で建てたっちゅうんが俺の予想や。」
心は得意げに腕を組みながら語る。まあ、大体そんな感じやろ。で、問題はこれからどないするかっちゅう話や・・・。どっちか言うたら麻紀と順は俺と心の意見に従う流れになっとる。そういう訳で、俺は心に意見を聞くことにした。
「これからどうするんや?今から来た道戻っても、途中で暗くなるやろ。かと言うて、この建物で一夜を過ごすっちゅうのは恐怖以外の何物でもあらへん。まあ、野宿っちゅう手もあるけど虫や爬虫類から身を守れるようなもんもあらへんし、それはそれで危険やろ。そろそろ腹も減ってきたし、歩き疲れたっちゅうのも事実や・・・」
「まあ、この建物に入るんは無謀やろ。どう考えても電気やガス、水道なんかは通ってへんやろし・・・」
「それがし、寝袋を持参したでござる!」
「何個や!?」
「俺の分だけでやんす。」
「あほか!1個でどないするねん!」
順はサバイバル好きやから、その辺は頼りになる思ってたけど、全然使えん。
「やっぱり、引き返すしかあらへんな。急げば県道くらいまでは明るいうちに戻れるかもしれへん。そうと決まれば急ぐで!」
心の言う通りや。それしか選択肢はあらへん。麻紀と順も頷くと、俺らは引き返すことにした。
「ちょっと急ぐで!」
心は早歩きで、来た道を歩き出した。ところがすぐに立ち止った。どうしたんや?
「あ、あかん・・・やられた。道が・・・道が無くなってる・・・」
どうゆうこっちゃ?心の前に出て、周囲を確認する。たしかにこの方向から来たはずや。それやのに、あったはずの道がない。全て木々で覆われてて、もう森状態や。
「もしかして、こっちと違うんちゃうか?」
ほんまはこっちであってると確信してたけど、目の前の現実から逃げたくて俺はそんな事を口にした。
「いや、間違えるはずがあらへん。見てみ!地面が建物の方まで舗装されてるんや。これを辿ってきたんやから間違えるはずがない。それに見渡す限り道なんかあらへんで。」
「それって、まさか帰られへんの?どうするん!これから!」
泣いてるのか怒ってるのかわからん声で麻紀が叫ぶ。しかし、順は違った。
「ようやくそれがしの出番や!この状況から見て、あの建物で一夜を過ごすんは確定やろ。大丈夫、電気はあるし、食料も一晩くらいならなんとかなる。いざとなれば狩りで調達してくるし、この辺は野生のキノコも群生しとる。地元ではキノコ博士見習いって呼ばれてるんや!」
み、見習いってなんか頼りないけど・・・それでも順が初めて頼れるヤツに見えた瞬間や。
「こんな体験、望んでもなかなか出来るもんちゃうで!むしろこの状況を楽しまんと損や!ポイティブに行こ!ポイティブに!」
やっぱり誰も突っ込まへんな。まあ、ええわ。順の言う通りや。ここでグダグダしてても始まらへん。もしかしたら悪い夢を見てるだけかもしれへんし、お泊り肝試しと思うことにしよ。麻紀だけは嫌そうやったけど、どうにもならへんことはわかってるようやった。
「ほな、とりあえず建物に入ろか。まず、門が開くかどうかやな。」
「それも大丈夫や!ピッキングも心得てる。錆びてたら665も持ってきたから安心や!」
どこでそんなもん手に入れたんや・・・それに、そない仰山、どこに入ってるんや。まあ、今はそれには触れんとこ。
今まで最後尾ばっかり歩いてた順が、一気に門の前までダッシュして、門を押したり引いたりしとる。俺らも後を追いかけた。
「あかんわ。やっぱり鍵がかかってるみたいで、開かへん。」
すると、麻紀が、
「あんた、まさか押すか引くしかしてへんのちゃうやろな。」
「ギクッ!」
おいおい!自分で声に出して『ギクッ!』っていうやつ初めて見たわ!麻紀は順の軍手を奪うと、力任せに門をスライドさせた。すると、ガリガリ言いながら門がちょっと開いた。そこからは俺らも協力して引っ張った。どうやら門に鍵はかかってへんかった。
「っていうか、下に車輪ついてるやん!見たらわかるやろ!」
麻紀のツッコミはもっともやけど、それは言い過ぎやろ・・・
「麻紀ちゃん!ええ観察眼や!助手にどないや?」
「あほか!絶対嫌やし。」
そんなやりとりを終えると、俺らは敷地内に足を踏み入れた。建物の入り口までは30メートルくらいやろか。石畳が入り口まで敷き詰められてて、庭らしきスペースには、多分噴水やと思われる池が今は水も無く雑草が一面を埋めてた。




