Practice3 着陸
「離れたな・・」
私は着陸の為フラップを下げ減速する。彼にはさっき言っていた英国軍の機体がまだ見えているのだろうか。
滑走路はもう目の前だ。私はほんの少し機首を上げた。
後ろのソリが耳掻きのように地面を掻くと、前のやけに大きな車輪がガタゴトという音がした。
「減速して格納庫脇に止めろ」
「はい」
言われた通りに格納庫脇に機体を止めると、ふぅ、と大きなため息が出た。飛んだ時間は一時間ぐらいだろうか、結構疲れた。
宿舎から物部さんが歩いてくる。
「どうだった?機体の調子は」
「よかったです。エンジンも快調でしたし」
「本当?よかった」
彼女は少女のような笑顔をみせる。本当にこの人は凄い。パイロット、事務、整備。この基地を管理しているのは、ほとんど彼女なのだから。
私は機体を降りて、一宮さんと機体を押して格納庫に機体を仕舞う。
その機体を仕舞った場所の隣にはもう一機の機体が置いてあった。
「あれって、物部さんが乗っていた機体ですよね」
「機種は同じだけどな、あれはお前のだ」
「えっ」
「あと何回かこの訓練を繰り返した後だけどな」
「でも、綺麗ですね」
エンジンを包み込むために幅が大きくなったカウリングから急にスマートになって尾翼まで突き抜ける曲線美。
純白に塗装された機体には佐渡義勇軍のマークであるトキがシルエットとして赤字で描かれている。
「キ27、今のところ日本の主力戦闘機だ」
「性能は?」
「良いとは言えない。欧米ではもう着陸脚を引き込んでるからなスピードでは負ける。けれど、旋回なら他を圧倒するものがあるな」
一宮さんはポケットの中にある煙草を取り出してマッチを擦った。
「強いんですか?」
私の問いに答えようとする彼から煙草の匂いがまともにかかる。
「自分が強い状況になるように相手に仕向ける。駆け引きってやつだ。これに乗れるようになったら教えてやるよ」
あの写真の続きを自分でやるようになるのか・・楽しみだけど少し自信がない。
「ほら、宿舎に戻るぞ」
夏の眩しい日差しの中、私は彼の背中を追った。