Practice2 旋回
私は離陸した機体を一宮さんが指定した周回コースに乗せた。
すると、後席の一宮さんが私に声を掛ける。
「初飛行の感想は?」
「本当に気持ちが良いです。扇風機に当たっているみたい」
扇風機、そんな言葉が出るほど上空は涼しい風が吹き渡っている。夏の日差しは地上に居るときと同じくらい強いのに。
「じゃあ方向舵を使わずに旋回してみろ。まずは右、その次に左だ」
操縦桿を右にゆっくりと倒す。すると機体は右に横転し、下降しながら旋回を始めた。
「あ、その調子で急旋回もやってくれ」
一宮さんは注文を追加する。
さらに機体を横転させ、操縦桿を引く。
「上出来だ。左も同じ要領で頼む」
「こんな感じですか?」
こんなの簡単過ぎるのでテキパキと一連の動作を復習するようにやってみる。
「OK、さっきの飛行ルートまで戻れ」
真正面には佐渡の山々が近づいてきた。そろそろ旋回して飛行場へ着陸すれば訓練終了だ。
物部さんも写真で映っていたあの頃、この山々を見たのだろうか。
「英国軍機だ」
不意に、一宮さんは私にそう叫んだ。
とっさに辺りを見渡してみたけれど、そんな影は何処にもない。
「居ませんよ、そんなの」
「見えるんだよ、俺には。相手には気付かれていないな・・」
「訓練続行だ。さっさと着陸しろ」
「その飛行機は?」
「ほっとけ、今から夕香が迎撃に出たとしても絶対に間に合わない」
その飛行機はやはり私の目で確認することは出来なかった。
一宮さんは目が利く方なのだろうか?
「黒河、」
「はい」
「お前もいつかは彼奴らを墜とす日が来る。そのために本ばっかり読んでねえで、遠くを良く見て目をできる限り良くしておけ」
「夕香さんが宿題にして出してくるんですよ」
「・・そこは相談する」
一宮さん、夕香さんには頭が上がらないんだな、たしか基地には二人しかいないって聞いたこともあった。
「夕香さんとはどんな関係なんですか?」
「えっ、それはまあ・・先輩、後輩の仲だな」
「一宮さんが後輩?」
「いや、俺が先輩だ。お前、写真みたろ、あの頃の彼女を訓練したのは俺なんだ」
「そうなんですか。でも、あんな綺麗な人すぐに取られちゃいますよ」
「・・・別に、さっきも言った通り先輩、後輩の仲だ。そこまで首を突っ込みたくない」
そこからは二人とも終始無言だった。