Practice1 離陸
入隊を希望して1ヶ月後、私は休日を利用し練習機一○式艦偵による訓練をする。勿論、親の反対を押し切って。
初飛行は何一つない青空の中に入道雲が居座り、蝉が仕切りに鳴いている真夏に行われた。
教本通り、計器、燃料をチェックしてスイッチを入れてエンジンをスタートさせる。
「吹き上がりがいいな。あんなポンコツをよく整備したもんだ」
後席にいる一宮さんはエンジンの爆音が格納庫を包むなか、私にそう叫ぶ。
この練習機は物部さんが訓練を修了してからずっと埃を被っており、エンジンが不調だったが、物部さんが徹夜で整備した甲斐あって、見違えるほどに良くなった。
「はい!そうですね!」
と、私も声を張り上げてそういった。
「教本通りにやれ。まずは滑走路まで出るんだ」
スロットルを五割程度まで上げると機体がゆっくりと砂利道を走り始めた。
車なんかより、その走りは堅実なもので、ガタガタと揺れるその感じがとても良い。
私は方向舵を使い滑走路の離陸位置に機体を止めた。
「離陸する前に、エルロンが動くか確認しろ」
私は羽根を見ながら、操縦桿を押し、引き、左、右へと倒す。ちゃんと羽根の一部が動いている。大丈夫そうだ。
「大丈夫です」
「フラップを下げろ」
声と同時にフラップが下がる。
「スロットルを上げろ、8割でいい」
スロットルを上げるとさっきと同じように機体が砂利道を走り始める。
さっきよりも振動が激しく、そして力強い。馬にでも乗っているような感じだ。
いつの間にか私は操縦桿を引いていた。振動がスッと止まり、私と練習機はふわりと浮いた。
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