1号
今更だけどこのタイトルはねーよな、と思った。
「えーっと、これが『りんご』」
「『ブレザー』」
「お前わざと言ってんのか。『りんご』な、『りんご』」
「『アッポォ』」
「…………」
殴りたくなった。こいつの頭の中はどうなっているのだろう。
今朝起きて下に行くと、博士の姿が無かった。ついでに猫の姿も無いので一緒に散歩にでも行ったのだろう。猫の散歩とは聞いたことが無いが。
特に変わった事も無い朝だと思っていたら、いつもは鍵のかかっている研究室の扉が開いているのに気づいた。博士は自分以外の入室は許さなかったはずなので、閉め忘れたのだろう。几帳面な性格(といってもチャック全開だったり部屋自体はごちゃごちゃしていたり等、研究以外の事は大雑把のようだ)の博士にしては珍しい事だった。
で、その時私は気づいた。いや、気づいてしまったのだ。電源が入れっぱなしの状態で研究室の中央に置かれている1号に。
その後の私の行動については言うまでも無い。ちなみに博士からは『研究室の中の物は絶対にいじるな』と言われていたので、何もいじらずに1号に言葉を教えてやっている。セーフだよね、博士?
しかし小一時間ほど色々な単語を教えてやっているが、おそらく何一つ1号の脳内には浸透していないと思われる。そもそも私は1号の電源のオンオフ管理しかし行った経験が無く、何をどうしてやればいいのかもわからないのだ。なのでとりあえず博士が1号と話しているときのようにやってみてはいる。
博士と1号の対話している時には毎回思うのだが、こんな事に意味はあるのだろうか? 『こんな事』とは、博士自信が一人で1からロボットを、それもただのロボットじゃなく、人格を持つロボットを作ろうとしていることだ。そういうロボットを作り出すことなら、そこらの大企業が遥かに優れている。もちろん趣味としてロボット製作を持つ人も多く存在するが、『人格』を個人が作ろうとするのは馬鹿げているのだ。
しかも、博士はそれを百も承知らしい。本当、何を考えているのか掴めない人だ。何故そこまで固執するのだろう? 「人」を作り出すことが悪い事だとは思っていないが、もし1号がこのまま長い年月を……下手をすると壊れるまで中途半端な、未完成の「生」を続けることになる可能性がある事を考えると、多少なりとも胸が痛む気がする。
「……なんでだろうね、ホント」
「『なんでだろう』」
「それは大昔の芸人じゃん」
「ナイスツッコミ」
「おっ、初めてマトモに喋りやがったなコイツ……って、初成立会話がこんなのか……」
早く完成させてやりたい。たとえ何年もかかっても。初めてそう思った。
「サンキュー」
「心を読んだだと!?」
「イングリッシュフォーエバー」
意味が分からない。バグったのだろう。
結局博士は黄昏時まで帰ってこなかった。何処に行ってたのか聞くと、猫の元気が無かったので病院へ行ってたとのことだった。猫が単に機嫌が悪かっただけらしいのは良かったが、連絡くらい入れろよダメオヤジめ。やはり変なトコでテキトウだった。
あまりに慌てて戸締り諸々を忘れていたらしい。研究室の扉が開きっぱなしだったのもそのせいだろうが、言わない方がいいだおる。あの後研究室の扉は閉めておいたのでバレてはいない。1号に妙な変化が無ければ言いいのだが。
「いやー、悪かった。猫たんの具合が悪そうでなー」
「『たん』って付けんな。風呂沸かしてあるから入って来い」
「チェッ、お前が俺の立場でも同じ事しただろ?」
「否定はしないし出来ないが戸締りだけはするよ。いいから風呂に……」
「はいはいッ」
もう時間も遅い。夕飯はカップラーメンでいいか。