第13話:スクールライフと溶岩洞窟への招待状
日曜日の夜に国分駐屯地の黒塗り車両で実家へ送り届けられた私は、そのまま泥のように眠りこけた。
そして明けた月曜日の朝。
目覚まし時計のけたたましい電子音で跳ね起き、洗面所の鏡に向かって、私はまず自分の頭頂部を凝視した。
「……うん、寝癖はなし。耳の毛並みもよし。」
ピンと立った三角形の狐耳をブラシで丁寧に梳かし、腰の後ろから伸びるふさふさの黄金色の尻尾に手入れ用スプレーを吹きかける。
すっかり板についた朝のルーティンだ。
階段を下りてリビングに入ると、そこにはすでに見慣れた、けれど一週間前までは想像もできなかった光景が広がっていた。
「おい、あかね! 早く席に着け! 朝飯冷めちまうぞ!」
キッチンでフライパンを豪快に振っていたのは、兄の晃だった。
無駄に彫りの深いイケメンフェイスに、首からはなぜか革製のエプロンを下げている。
ダイニングテーブルの上には、トーストと目玉焼き、そして――淡いエメラルドグリーンに発光するガラス瓶が鎮座していた。
「兄ちゃん、それ……朝から何作ってんの?」
「何って、昨夜お前が持ち帰ってきた『第二層特製・紫斑毒胞子茸の脱毒エキス』と、市販のブルーベリージャムの触媒融合トーストだ。」
「毒キノコを朝食に混ぜないでよ!?」
「バカ言え! 【薬理配合】で毒素は百分の一ミリグラムも残さず中和して、疲労回復アミノ酸だけを純度百パーセントで濃縮抽出してあるんだよ! 一口食ってみろ、脳のシナプスが超伝導になるぞ!」
父と母はすっかり慣れっこになった様子で、「晃、お父さんは普通のイチゴジャムにしておくれよ。」「お母さんもマーガリンだけでいいわ。」と苦笑いしながら新聞をめくっていた。
我が家の順応スピードは、控えめに言って異常だった。
まあ、娘が狐耳の霊狐になり、息子が自宅の台所で怪しい薬品を精製する錬金術師になったのだから、いちいち動揺していては胃に穴が空いてしまうのだろう。
「あ、そうだあかね。例の『魔導変換核』……赤城のセンセから深夜に興奮気味の長文メールが送られてきたぞ。『今世紀最高の技術的特異点よ! 貴女の兄君の錬金術でもあの構造を解析してごらんなさい!』ってな。」
晃がトーストを齧りながら、ギラギラとした目でスマホの画面を見せてくる。
添付されていたのは、昨日霧島の広場で測定された電力データと、変換核の微細構造スキャン画像だった。
「兄ちゃん、これ解析できそうなの?」
「正直、今の俺のレベル(現在レベル2)じゃ構造式の半分も理解できねえ。だが、方向性は見えた。魔石の魔素を電子に変換する際の『整流触媒』……あれ、ダンジョンの特殊な鉱石を使って合金化してるっぽいんだよな。」
「鉱石……。」
「ああ。第三層は溶岩洞窟なんだろ? 高熱に晒された地脈から生み出される耐熱金属や、超伝導鉱石がゴロゴロ眠ってるはずだ。おい、あかね。今度の土曜、鉱石のサンプルをできるだけ多く、種類豊富に掘ってこい。うちの工房の設備も、それに合わせてバージョンアップさせとくからよ。」
「はいはい、善処します。……じゃあ、学校行ってくるね!」
私は制服のスカートのスリットに尻尾を通し、サキからもらった深紅の『鋼線蜘蛛の守護リボン』を左耳にパチンと留めて、玄関を飛び出した。
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二月中旬の鹿児島市街。
路面電車がガタゴトと音を立てて走る大通りには、いつも通りの日常が流れているように見える。
だが、電停のデジタルサイネージに流れる広告は、この一週間で劇的に様変わりしていた。
『ダンジョン共生時代の新基準! 家庭用簡易魔素チェッカー、大手家電量販店で予約開始!』
『あなたの適性ジョブは? 民間キャリア支援センターでステータス適性診断受付中』
『注意:霧島、美濃、旭川の立ち入り規制区域への侵入は重罪です。不審な勧誘・密猟ビジネスにはご注意ください』
日常の中に、ファンタジーの波がじわじわと、けれど確実に浸透してきている。
学校の校門をくぐると、先週のような物々しいパトカーの姿は消え、代わりに私服警備員が数名、静かに正門脇に配置されていた。私が特級ライセンスを持つ重要人物として認定されたことで、警備体制がより目立たない形へと洗練されたらしい。
ガラガラと教室の引き戸を開ける。
「あ、笹貫さん、おはよう!」
「おはよー、あかねちゃん!」
教室に入った瞬間、複数のクラスメイトから自然に声がかかった。
先週のような「触っていい!?」「写真撮らせて!」というパニックじみた騒ぎは落ち着き、生徒たちの視線は、遠巻きの恐怖から「ちょっと特別な体質の友達」を見るような親愛の混じったものへと変化していた。
「おはよう、みんな。」
私が軽く手を振って応えると、頭の上の狐耳がぺこりと小さくお辞儀するように動いた。
それを見た女子生徒たちが「ふふ、やっぱり耳可愛いよね。」「あのリボン、手作りかな?」と小声で微笑み合っている。
「あーかーねぇぇぇーーっ!」
そして、いつものように猛烈な勢いでスライディング気味に抱きついてきたのはサキだった。
丸眼鏡を指で直しながら、私の左耳のリボンをじっくりと検分する。
「よしっ、ほつれ無し! 魔力障壁の残存率九十二パーセント! ちゃんと毎日手入れしてるわね!?」
「うん、お風呂のあと大事に手入れしてるよ。サキ、本当にありがとうね。第二層の探索でも、このリボンが余計なノイズをカットしてくれてすごく助かったんだから。」
「えっへん! 当然でしょ、私の最高傑作なんだから! ……で、聞いたわよ土曜日の件! 赤城主任から学校の美術準備室に直接電話がかかってきてさ、『貴女の細工技術、防衛研究所の外部委託枠として登録したわ!』って言われて腰抜かしたんだからね!?」
「あはは……燈さん、本当に仕事が早いというか何というか……。」
サキと笑い合っていると、予鈴のチャイムが鳴り響いた。
バタバタと生徒たちが席に着く。
今週から、時間割には文科省が定めた特別カリキュラム――『ダンジョン共生実習』が本格的に組み込まれていた。
一時間目のチャイムとともに教室に入ってきたのは、作業着姿の担任教師と、見慣れない青い制服を着た女性だった。
胸元には「内閣府・ダンジョン共生推進室」のバッジが光っている。
「はい、席に着けー。今日から週三回、外部講師の先生をお招きして、ダンジョンおよび魔素に関する基礎実習を行う。講師の白石さんだ。」
教室がにわかにざわめいた。
教壇に立った白石さんは、穏やかな笑みを浮かべながら黒板にチョークを走らせた。
『第1回:魔素の性質と、ジョブスキルの安全な行使について』
「皆さん、改めましてこんにちは。世界がファンタジーにアップデートされてから、早くも二週間が経とうとしています。皆さんの手元には、すでにステータスウィンドウという新しい可能性が開かれていますね。」
生徒たちが一斉に頷く。
「現在、日本国内においてステータスが発現した国民の割合は約七割。そのうちの約八割が【農夫】【木こり】【料理人】【見習い裁縫士】といった、生活・生産系の基礎ジョブです。政府の基本方針は、『ダンジョンを無理に攻略すること』ではありません。『魔素の恩恵を、日々の産業や生活にどう安全に取り入れるか』――いわゆる”ダンジョン共生社会の構築”です。」
白石さんが手元のプロジェクターを操作すると、全国各地の実証実験の映像が流れた。
・【農夫】のスキル【土壌活性】により、収穫時期が半分に短縮された北海道のジャガイモ畑。
・【料理人】の【味覚補正】と魔素調味料によって、塩分ゼロでも濃厚な旨味を実現した減塩食の病院食。
・【大工】の【木質強化】によって、震度7の地震にも耐えうる木造住宅の建築現場。
「うわ、すげえ……! 魔法って、モンスターを倒すためだけじゃないんだ!」
男子生徒の一人が感嘆の声を上げた。
白石さんが優しく微笑む。
「その通りです。魔素とは、自然界に新しく加わった『極めて便利なエネルギー』に過ぎません。ですが、使い方を誤れば大事故に繋がります。……例えば、クラスの中に【火炎術(初級)】や【水流操作】などの攻撃系・属性系スキルが発現した人はいませんか?」
後ろの席の男子が、恐る恐る手を挙げた。
「あ、俺……【見習い見張り番】なんですけど、たまに指先からライターくらいの火が出せます。」
「素晴らしいですね。ですが、絶対に教室や木造家屋の中で無闇に使ってはいけません。現在の法律では、許可区域外での無届の攻撃スキル行使は、軽犯罪法違反および消防法違反に問われます。」
現実的な法律の名前が出てきて、教室にクスクスと笑いが起きた。
ファンタジーの世界になっても、日本は法治国家なのだ。
その後、実習として「ステータスのMPを意識して指先に集中させる訓練」や「魔素過敏症(魔素酔い)の初期症状と対処法」など、地に足の着いた授業がテンポよく進められていった。
授業の後半、白石さんがふと私の席に視線を向けた。
「……そして、教室の皆さんの中には、すでに高い適性を発揮している方もいらっしゃいますね。笹貫さん。」
「は、はいっ!」
急に指名され、私の狐耳がピシッと直立する。
「笹貫さんのように、優れた感覚やサポート能力を持つ方が最前線で安全を確認してくれているからこそ、私たちは後方でこうして平穏に研究や生活の応用を進めることができています。……無理のない範囲で、これからも私たちの未来のために力を貸してくださいね。」
白石さんの温かい言葉に、教室中のクラスメイトたちから、パラパラと、そして次第に温かい拍手が沸き起こった。
「笹貫、いつもありがとな!」
「ニュースで霧島のことやってたけど、無理すんなよ!」
「今度、魔素の集中方法教えてー!」
口々にかけられる励ましの声。
耳がカッと熱くなるのを感じた。
化け物を見るような目でも、遠い雲の上の存在を見るような目でもない。
「みんなのために最前線で頑張ってくれている、ちょっと足の速いクラス委員長」を見るような、素直な感謝と信頼の眼差し。
(……ああ、私、この日常を守るために潜ってるんだ。)
胸の奥がじんわりと温かくなった。
オタクとしての未知への探求心はもちろん本物だ。けれど、この温かい教室の平穏が、私の背中を支えてくれている。
「うん……! ありがとう、みんな!」
私は立ち上がり、照れくさそうに尻尾を振りながら、深々と頭を下げた。
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放課後、私はサキと一緒に旧校舎の美術準備室へと足を運んだ。
部屋に入ると、机の上には新しい機材がデンと鎮座していた。
赤城主任が防衛研究所の備品から強引に横流し……もとい、貸与してくれたという、最新型の『超音波魔導彫刻ペン』と『魔素吸着式ホットプレス機』だ。
「ふっふっふ……見てよあかね! このプレスの圧力、一般用の十倍よ! これがあれば、硬い魔鉱石の粉末を布地に圧着できるわ!」
サキが白衣(どこから持ってきたのか)を着て、鼻息荒く自慢げに胸を張る。
「サキ、すっかり職人さんだね……。」
「当たり前でしょ! 私、決めたの。将来は日本初の『国家公認・魔導細工マイスター』になって、あかねの専属装備デザイナーとして大儲けするんだから!」
「あはは、夢が大きくて素敵だよ。」
私は椅子に腰掛け、スケッチブックを開いた。
描きかけの第二層のマップの横に、新しいページをめくる。
次の土曜日に挑むことになる、『第三層』への準備だ。
「サキ、ちょっと相談なんだけど……今度の土曜日、霧島ダンジョンの第三層に潜ることになったの。」
「第三層……! 第二層の樹海をもう抜けたの!?」
「うん。それでね、第三層の環境なんだけど……”溶岩洞窟”なんだって。」
サキの手がピタリと止まった。
丸眼鏡を指で押し上げ、私の顔を凝視する。
「……溶岩? 溶岩って、あのドロドロに溶けたマグマが流れてるやつ?」
「うん。赤城主任の話だと、第三層は桜島や霧島の地下火山脈と直接繋がっていて、奥へ進めば進むほど気温が跳ね上がるらしいの。手前でも摂氏五十度、最深部じゃ百五十度を超える灼熱地獄になるかもって……。」
「百五十度ぉ!? サウナどころの騒ぎじゃないじゃない! 人間が蒸し焼きになっちゃうわよ!!」
サキが悲鳴を上げて頭を抱えた。
「自衛隊の耐熱防護服もあるんだけど、私、耳と尻尾が出てるでしょ? 普通の防護服だと隙間から熱気が入ってきちゃうし、何より熱風で耳が火傷したら索敵ができなくなっちゃう。」
「それは一大事よ……! あかねの可愛いお耳が丸焦げになんてされたら、私が末代まで呪われちゃうわ!」
サキは腕を組み、唸り声を上げながら部屋の中をウロウロと歩き回った。
そして、パッと閃いたように作業机の引き出しを開けた。
「あかね、第二層で採ってきた『水霊の魔鉱石』と、泉の底の『星光砂』……まだ残ってるわよね!?」
「うん、兄ちゃんに少し分けたけど、私の手元に拳大のが二個と、砂が一瓶あるよ。」
「それよ! あれ、【万象識別】で『高熱伝導遮断』と『水属性魔素吸蔵』って特性が出てたじゃない! あれを極限まで微粉末に粉砕して、鋼線蜘蛛の糸と一緒に織り込むの! そうすれば――『絶対冷却・耐熱イヤーカバー』が作れるはずよ!」
「イヤーカバー……! 耳当て!?」
「そう! 耳の根元からすっぽり覆って、内部に冷気を循環させるの! ついでに尻尾用の遮熱ラップバンドも編んであげる!」
サキの指先が、目にも留まらぬ速さで動き始めた。
超音波彫刻ペンで青い鉱石をガリガリと削り、ホットプレス機で蜘蛛糸の繊維へと魔素鉱粉を定着させていく。
カシャン、カシャンと心地よい機械音が夕暮れの準備室に響く。
オタク友達が、私の命を守るために全身全霊で知恵を絞ってくれている。その横顔を見つめながら、私も自分の役割を果たすべく、手元のスケッチブックに第三層の環境シミュレーションを書き込んでいった。
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一週間はあっという間に過ぎ去った。
月曜から金曜まで、学校でしっかり授業を受け、放課後はサキと装備の開発、夜は自宅のキッチンで兄の晃とポーションの調合実験。
晃の錬金術レベルはついに【3】に上がり、月光苔と浄魔草の配合比率を最適化したことで、傷を治すだけでなくスタミナを急速回復させる『中級活力治癒薬』の錬成に成功していた。
そして――迎えた土曜日の早朝。
霧島前線ベースキャンプの広場は、午前六時の冷え切った朝霧に包まれていた。
だが、研究棟の前に立つ私たちの装備は、これまでとは一線を画していた。
「……似合うな、お嬢さん。なんだか雪国の妖精みたいだぜ。」
熊倉二曹が豪快に笑いながら親指を立てた。
私の頭の上、左右の狐耳には、サキが五日間の放課後をすべて費やして作り上げてくれた、薄い水色の上品なイヤーカバーが装着されていた。
表面には銀色の幾何学模様が刺繍され、内側からはひんやりとした心地よい冷気が絶え間なく耳元を包み込んでいる。
『名称』:氷糸の水霊耳覆い(試作二号)
『品質』:上質(Bランク)
『製作者』:サキ(見習い細工師)
『効果』:摂氏二百度までの外部熱気を完全遮断。装着者の聴覚感度を維持したまま、熱中症・熱気吸入ダメージを無効化。MP微量消費により冷気循環。
腰の後ろの尻尾にも、同じ水色の遮熱バンドが等間隔に巻かれ、熱風で毛先が焦げるのを防ぐ仕様になっている。
さらに、私のタクティカルベストのポケットには、晃が徹夜で作ってくれた『中級活力治癒薬』が六本、整然と並んでいた。
「熊倉二曹、あかねさんをからかうのはそこまでにしなさい。……ですが、素晴らしい装備です。民間の技術開発スピードが、防衛省の研究班を完全に追い抜いていますね。」
橘一尉も、新しく支給されたシルバーグレーの耐熱仕様プレートキャリアのベルトを締め直しながら感嘆の声を漏らした。
熊倉二曹のタワーシールドにも、防衛研究所の突貫工事によって、第二層の『水霊の魔鉱石』を粉末にして焼き付けた耐熱セラミックコーティングが施されている。
「ふふふ……準備万端ね、探索班の諸君!」
カタカタとキャスターの音を響かせ、白衣に身を包んだ赤城燈主任がやってきた。
寝不足なのか目の下にうっすらクマができているが、眼鏡の奥の琥珀色の瞳は爛々と燃え盛っている。
「第二層のポータル開通によって、第三層へのアタックはかつてないほどスムーズに行えるわ。……改めて、第三層のブリーフィングよ。」
燈さんがホログラムプロジェクターを起動する。
空中に浮かび上がったのは、赤と黒で塗りつぶされた、禍々しい地下洞窟の断面図だった。
「第三層:環境コード『溶岩洞窟』。フロア数は全四フロア。奥へ進めば進むほど地熱が上昇し、最奥の第4フロアでは、マグマの湖が広がっているわ。生半可な耐熱装備では靴底が数分で溶け落ちる過酷な環境よ。」
燈さんが画面をタップし、鉱石のアイコンを拡大する。
「けれど、あかねちゃん。ここは貴女にとって……そして我が国の産業にとって、文字通りの『宝の山』よ。」
「宝の山……鉱石ですね?」
「その通りよ! 超高熱と地脈の魔素が何重にも圧縮された第三層の岩盤には、地上では絶対に生成されない超常の鉱石が大量に結晶化しているわ。高純度の『火霊の魔鉱石』、未知の耐熱金属『真紅鉄』、そして魔力を通すことで超伝導状態になる『熱伝導結晶』……! これらは、先週貴女が持ち帰った『魔導変換核』の量産化、そして送電網の革新に不可欠な素材なのよ!」
燈さんが私の手を取り、鬼気迫る笑顔で握りしめてきた。
「掘ってきなさい、あかねちゃん! 掘って、掘って、掘り尽くすのよ! 一グラムでも多くの新鉱石を私の研究室へ持ち帰りなさい! 貴女のツルハシの一振りが、日本のエネルギー自給率を百分の一パーセント押し上げるのよ!!」
「あ、はい……! 頑張って掘ってきます……!」
相変わらずの狂気的な熱量に圧倒されつつも、私はしっかりと頷いた。
採取専門サポーターの腕の見せ所だ。薬草の次は、鉱石の採掘。オタクとして、素材図鑑の鉱石ページが埋まっていく快感に勝るものはない。
「あ、燈さん。一つ気になってたんですけど……第三層の次の『第四層』って、どんな環境なんですか?」
私のふとした問いに、燈さんはフッと悪戯っぽく口元を緩め、プロジェクターの表示をさらに下層へとスクロールさせた。
「あら、気が早いわね。でも、教えてあげるわ。……第三層の灼熱地獄を抜けた先、第四層の環境コードは――」
画面にパッと広がったのは、どこまでも続く、爽やかなエメラルドグリーンの光景だった。
「――『大草原』よ。」
「……草原?」
熊倉二曹が目を丸くした。
「おいおい、地下の洞窟を潜っていったら、溶岩の次に草原が出るってのか? 順番がめちゃくちゃじゃねえか。」
「ダンジョンに地表の物理法則を当てはめるのがナンセンスなのよ。星の内側に、広大な空と大地が折り畳まれていると考えなさい。第四層は、第二層の樹海をも遥かに超える、見渡す限りの大草原エリアよ。風が吹き抜け、未知の獣や巨大な鳥型モンスターが生態系を作っているわ。……まあ、そこへ行くには、まず今日の第三層を完全に踏破しなければならないけれどね。」
灼熱の溶岩洞窟を抜けた先に待つ、果てしない地下の草原。
その未知の光景を思い浮かべただけで、私の胸はトクンと心地よく跳ね上がった。
「よし。ブリーフィング終了だ。全員、ゲート前へ整列!」
橘一尉の凛とした号令が響く。
私たちは第二層ポータルへの直通ゲートの前へと歩みを進めた。
「あかねさん、体調は?」
「万全です! 友達が作ってくれた耳当て、すごく涼しくて快適です!」
「おう、俺の耐熱シールドもバッチリだ。溶岩のトカゲだろうが火の玉だろうが、全部跳ね返してやるぜ!」
熊倉二曹がドスンと盾を構える。
私は腰のベルトにしっかりと固定された、自衛隊特製のチタン合金製ピッケルと採取用タガネの手触りを確かめた。
リュックには、サキが作ってくれた耐熱保存ケースと、兄の特製ポーション。
学校のみんなの温かい応援と、家族の支えが、私の全身に満ちている。
「橘隊、霧島第一ダンジョン第三層・先行攻略任務――突入!」
橘一尉の声とともに、私たちは青白い光のゲートへと足を踏み入れた。
目指すは、灼熱の溶岩洞窟。
そして、その奥深くに眠る、世界を変える未知の鉱石たち。
私の狐耳が、地下深くから吹き上がってくる熱い地脈の鼓動を、確かに捉えていた。




