7話 自覚…?
時間を遡って昨夜の事。
「本当にこれでよかったんでしょうか?」
ノアにため息を吐つかれた。
勇者を客室に送った後、仕事を書斎でしていた俺のもとにわざわざ来てこれだ。
あんまり信用はしていないのだろう。
ため息を吐きたいのはこっちだっていうのに。
「仕方ないだろう。
リゼが言ってたんだから」
ノアには目を向けず黙々と机に向かい、ペンを走らせる。
「それはそうでしょうけど……
あの"リゼ"ですよ。
五分五分な気がするんですよね」
ぐちぐちと煩いので見て見れば渋った顔でまだ言うか。
目を反らし、無視して書き続ける。
「別に勇者がどうと言う訳ではなく。
約10年近く溶けなかった呪いが早々に解けるのか疑問を感じるのです」
「それは俺だって感じてる。でも信じるしかないだろあの男を。」
「ですが」
ノアは机に両手をドンッと付いた。
机が軽く揺れるし、書き途中の書類に彼の影のせいで被さる。
邪魔をしてと苛つきながら見上げてみれば、険しい表情の顔が間近に迫っていた。
「今までも大変だったじゃないですか!!お忘れですかあの事件を!!」
「……」
俺は手を止め、
ペンを机に置きノアを見据える。
「別に忘れたわけじゃない。
やつがどれだけ迷惑者か十分わかっているつもりだが」
「じゃ……」
「でも可能性がある。信じるしかないだ。
例え間違っていたとしてもなノア」
落ち着いた口調で言ったつもりだが、まだ納得したつもりはないのだろうか……。
ついた手を退かさない。
「分かってくれ、これは俺の我が儘だ」
にらみ合いが続いていたが、ノアが目を閉じ机からゆっくり離れる。
「分かりました。
でも無茶だけはしないで下さいよ」
「あぁ」
「はぁー。もう魔王様の頑固ぷりは敵いませんよ」
ノアが苦笑した。つられて俺も口元が緩む。
「よく言う。お前も十分頑固だ」
「そうですかね」
「そうだ。一緒にいてよく思いしらされるぞ。まぁ俺を止められるのもお前しかいないしな」
俺は言いきると、
さぁ仕事仕事と言ってまたペンを持ち書類を書き始める。
ノアもそんな俺を納得したのかもう口出しはしてこなかった。
その後はノアも手伝いをしてくれ、
早急の仕事だったものは思いのほか早く終わった。
「やっと終わった」
机に倒れ込むと上から笑い声が聞こえた。
顔だけそちらに向けるとノアが笑っていた。
「そうやってると本当に子供見たいですよね。夏休み終わった感じの」
「ノア」
「失礼致しました。カノン様」
笑顔から微笑みに変わりしかもこう言うときに名前で呼ぶなんて、そういうのをずるいって言うんだよな
じっーと見つめてもノアは微笑みを返すだけこっちの方が照れるし……。
目を反らし立ち上がる。
落ち着かないし、らちがあかなそうだしね。
それに今日はもう遅いから自室に戻ろう。
「お休みですか。カノン様」
「あぁ。少し片付けたらなノアはもう戻って休め明日も早いだろ」
「ですが」
「じゃ命令。早く寝ろ」
俺は机の書類やらなんやらまとめて片付け始める。
ノアは暫く見ていたものの、
渋々頷いて歩き出す。が、ドアノブに手をかけた時に
「でもリゼが関係なしにあの勇者さ…いえアンジュレッタさんは私的には好きですけどね」と言い残して書斎を去った。
ドアの閉まる音と同時に書類を落とした。
慌てて床に散らばった紙を拾い集めるがノアの一言が頭からこびりついて離れない。
『私的には好きですけどね』
(それってどう言う意味だ!!)
頭の中がパニックになるし、今更ノアの所へ行くのも失礼だろう。
もう夜中だし……。
「爆弾残しやがって」
顔を手で覆いながら呟いた。
散らばった書類は綺麗に整え、
机の上も綺麗に片付けた。が自室に戻らず、椅子に座り物思いにふけていた。
(もうあいつ何考えてるかわからない)
悩んでも答えがでないものにずっと悩んでいても、
仕方ないのに思考がどうしてもいってしまう。
どうして悩むのかも自分ではよくわかってない。
ノアが好きになったからか親友としてショックだったか。
はたまたアンジュレッタが気になったのか。
考えても答えは出ないのに。
ただアンジュレッタの事を考えるとちょっとだけ胸が苦しくなる。
それはなんでかはよくわからないけど……。
わからないことだらけで頭が痛い。
こういうに誰か物知りな…あっ!!
(そうだ。こういう時こそ!!妹に聞こう)
人間界も往き来している妹なら、こう言う感情についても詳しいかも。
それに今日帰ってきたところだからちょうどいいし。
解決の糸口を見つけたかもしれない。がこのことでちょっと気がはれた。
さっそく明日聞くことにして、とりあえず今は寝ることにしよう。
でもなんか……。
明日は明日で何かが起きそうな気がする。
平和でありますように……。
と祈って書斎を出た。