6話 迷いと迷惑
ふわふわな感触
このまま寝てたい……
でも……
朝日の光が許してくれそうにない。
仕方なくムクッと頭を上げ、クチャクチャになった朱毛を手ぐしでとかしながら起き上がる。
キョロキョロ辺りを見渡した。
まだ覚醒してない頭が昨日の出来事を少しづつ思い出す。
(……夢だったらよかったのに……)
項垂れる。
「はぁあわゎ~」
ため息まじりの欠伸吐き出しながら、
体をほぐしてベットから降りた。
向かう先は脱衣室。
クローゼットがある壁を挟んだが所がそこ。
軽く支度を整えて、
いざ問題のクローゼットへ。
ノアの変態的な思考な服からまともそうな服を探し出さないといけない。見れば見るほど使えなさそうな物ばかり……
(どうして民族服とか入ってるんだよ!!)
軽く怒りを覚えながら探す。
「たくっ」
あっ声もつい出しちゃうけど、
気にしない。気にしない。
―数十分後―
やっとクローゼットから見つけたのが白いワイシャツに、ベイジュで七分丈のズボン。
これぐらいしかない。というかもう探す気力もないけどね……。
袖を通してみる。
サイズはピッタリ。だけど、ワイシャツはやっぱり透ける。
胸を隠すサラシが薄っらと見えるがまぁ問題ないだろう。
変態がいないかぎりは。
さぁノアを殴りに行くかと意気揚々と部屋を出ようとした。がドアの下に紙が挟まっていた。拾い上げて中を開く。細々と場所の名前や図が載っていた。
「魔王城のマップぽいなこれ」
きっとノアが挟んでいったんだろう。
親切なのか変な人なのかよくわからないやつだよなと苦笑がもれる。
気を取り戻して部屋を出た。
質素な造りの廊下。
魔王城というから派手な装飾をしているかと思っていたが違った。
夜歩いていた時はノアに付いていくのに気が集中していたし、夜の暗闇で気をはらってなかったので印象的だった。
とりあえず魔王の所に行かなきゃいけない気がする。
必然的にノアも居るだろうし。
先ほどの地図を片手に廊下を歩く。
さっきから同じところぐるぐる回ってる気がするけど気のせいだよかね。
自分の居場所がよく分からなくなってるなんてそんなこと。
……ありました。
確実、迷子ですよね。
来たときはスムーズに魔王所に行けたのになぁ……
今行けないってどういうことと内心ツッコミながら構わず歩き続ける。
「君、迷子でしょ」
えっ自分以外に誰もいない筈なのに可愛らしい女性の声が聞こえた。
あたふたしてちょっと取り乱した。
ちょっとだけね。
後ろに微かな気配を感じ振り向くと、身長がやや高めの女性が立っていた。
ここにいるってことは彼女も魔族なんだろう。綺麗な容姿が目立つ。
金色の髪が胸の高さまできて、後ろはポニーテールにして結いっている。
白い肌がより可憐そうに見えるが眉間にシワを寄せてイライラしてるようだ。
「君、ここに何回来れば気が済むのよ」
「えっ?」
「だからここを通るの5回目。
滅多に迷う人いないわよ!!」
初対面の人にいきなりキレられた。
見た目と中身のギャップに驚かされる。が気になる一言があった。
「あの来る数えてたってことは見てたんですか?」
「当たり前でしょ。最初はたまたまた見かけたたけだけど。
君何度も見かけるし」
苛ついた態度が急に柔らかくなって
「困ってんじゃないかと声をかけたのよ」
「あっありがとう」
「どう致しまして。
で、何処に行きたいの?」
「えっと……魔王様の所」
「あぁ逆よ逆。
ここは貴族様の客室エリアよ
魔王様の部屋は真反対側のもうちょい上の階だわ」
彼女は僕が持っている地図に指で現在位置と魔王様の部屋を教えてくれた。
「ありがとう」
「えっいや、当然のことをしたまでよ。
もう迷子にならないでね」
「気を付けます」
ペコリと頭を下げて礼をした。
早速教えてもらった道順に歩き始めた。
「ってちっ違う――!!
そっちの道じゃないわ!!」
シャウトされた。
いや叫ばれた。
あれ?違うのと僕は足を止めて振り返った。
彼女が走ってこっちに来る。
大した距離ではないからすぐに追い付いて腕を掴まれた。
「!!」
「君見てると心配だわ。
魔王様の所連れててあげる」
「えっでも悪いよ」
「あーもう!!
つべこべ言わずに付いてきなさい!!」
ぐいっと腕を引っ張られて連れていかれる。さっきと向かっていた方向とまるで逆……。
訂正、僕はどうやら方向音痴らしいです。
二人の足音がよく響いていた。
強く引っ張られていた腕はいつの間にか外され、今は並んで歩いている。
やっぱり僕が歩いていた道順は間違っていたのだろう。
見覚えのない通路に出た。
さっきとは違って薄暗いが怖くわない。
窓から木々が生い茂っているのがよくわかる。
まだまだ歩く。
他愛もない話をしながら歩いていたが、
「君、新人さんだよね。道がわからないみたいだし」
「それてどういうこと?」
「えっ違うの?見ない顔だし。名前まだ聞いてなかったわね」
「えっ……」
(どうしよう……)
正直、戸惑った。
本名で女子ってわかるからやっぱり……と迷っていると
彼女は立ち止まり、笑って手を差し出された。
「私はレベッカよ」
「えっと……。
アッシュです」
まだ戸惑いつつも、
差し出された手に手を重ね握りしめる。
「そう。よろしくねアッシュ」
笑顔が花ように可憐で思わず、顔を赤らめてしまうほどの可愛さだ。
「うん。よろしくレベッカ」
にこにこと微笑み合うアッシュとレベッカ。
「アッシュ。一ついいかしら?」
「何?」
聞き返した瞬間に腕を引っ張られた反動を利用して抱き締めらた。
いや僕の方が若干背が高いけどって今そんなことはどうでもよくて!!
「れっレベッカ!!」
驚きを隠せないまま固まっているとレベッカは、背中に回していた手を外し僕の頬を両手で挟んだ。僕を真剣に見つめてる。
「あっあのレベッカさん?」
さっきから状況が理解出来ず、慌てていると真剣だった表情から笑みに変わり
「アッシュって男の子よね?」
「なっ何言って!?」
「なんか自信なくて。初めて会ったときに女の子に見えたから」
「そっそんなこれでも男の子ですって!!……ちょっまっひっ引っ張らないで!!」
否定した瞬間にワイシャツの裾を捲られた。腹チラを一瞬許してしまったが、咄嗟に両手で裾を押さえうまく回避出来た。
本当、不意討ちは勘弁してほしい。
いや、不意討ちじゃなくても困るんだけど……。
「冗談よ。冗談」
レベッカは笑っていたがどうだか。
油断してると危ない気がする。
気を引き締めないと!!
「でも男なら安心だわ」
「えっ?」
「魔王様に悪い虫つかないでしょ。最近多いのよ言い寄ってくるやつが」
嫌々そうに話すレベッカ。余程魔王目当ての女子が嫌なのだろう。
そもそも何故ここに魔王の話が……。
僕、関係ないし。
レベッカはまだ嫌そうに話してるし。
「だってね!!あの可愛らしい見かけと大人の中身のギャップが堪らないらしいわ。わたしもだけど」
「そうなんだ」
なんか最後可笑しなこと言ってなかったかな……。
とりあえず頷いとく。
「でもアッシュなら大丈夫よね」
レベッカは不機嫌からころっと笑顔に変わり僕の手を握りしめ
「えっえっ?何が?」
突然ふられて困惑する。
「魔王様を悪い虫から守ってあげてね」
『はぁい!?』
思わず声が裏返ってしまった。
レベッカは構わず、更に手に力を込めて
「あなたを今日から魔王様ファンクラブ推薦、魔王護様衛隊長に任命するわ」
「……」
びっくりすることが多すぎて言葉が出ない。
「よろしくね隊長さん。さぁ魔王の所へ行きますか」
固まった僕を引っ張り歩き出すレベッカ……。
折角まともな人に出会えたと思ったのに。
うぅ泣きたくなった。
だけどこの先に更なる困った人たちに出会うとはこのときの僕は思いもしなかった。