5話 部屋
ノアは客室への案内人として勇者と共に来ていた。
廊下は薄暗いがそれほど暗くはなく、
落ち着いた内装をしていた。
初夏に入りはじめた季節にしては暑くはなく寧ろ、
ややひんやりとしていて心地よいくらい。
ノアが一室の前で足が止まる。
「ここが勇者の仮の部屋ですよ」
「ここ。えっ仮?」
ドアノブを回し開けるとノアはええと頷き。
「ここは客室なんで、ちゃんとした部屋が調うまではこちらでお過ごし下さいね」
ノアは微笑み、
勇者を部屋の中へ招かれる。
青ベースのシンプルな作り。
窓からは月明かりが差し込んでいる。
壁沿いに小さな化粧台がある。
向かい側にはちょっと大きめなベットが2台、
その間には小さな台にランタン(オイルランプ)が灯されている。
ここが魔王城の中だと言われない限りどこにでもありそうな宿屋の一部屋だ。
「ノア。一つ聞いていい?」
勇者はこの部屋を見て1つの違和感に気付いた。
「何でしょう?」
の声が聞こえた。
ノアはドアを閉めて勇者の隣に立った。
「照明ってこのランタンだけ?」
「はい。そうですがどうしました?」
「もしかして……
電気が通ってないとか言わないよね?」
首を傾げ腕を組む。
サラッと銀髪が流れ輝く。
「……"電気"って何でしょうか?」
「……」
えっ?えっと……
聞き間違えかな?
いやいやまさかーと、心で否定した。
「だから"電気"だよ」
「ですから"電気"って何でしょうか?」
きょとんとした表情で言われてしたまった。
「マジで!?だって"電気"だよ知らないはずなっ……!!」
はっとしてランタンを見てしまう。
柔らかな赤が部屋を優しく密かに照らしていた。
ノアは首を傾げたまま隣に立っている。
マジでなんだ!!
思わず膝をつきそうになる。
もうこうなったら膝をついて床を叩きたいくらいだ。
こっち(人間界)じゃ当たり前のように使ってるのに!!!!
あり得ないだろ!!!!
「電気知らないとか嘘だと言って!!」
「はい。嘘ですよ」
「……はぁ?」
えっ……えっえっ?
開いた口が塞がらない。
頭が真っ白になる。
うそ………嘘?
電気はあるってこと?
「……嘘って何が?」
「えっ電気ですよ」
クスクス笑い出すノアに対してついていけない僕。
「だっていきなり電気はあるかなんて聞くからビックリしましたよ」
「えっだってさっき……」
「誰も"知らない"とは言ってないじゃないですか」
面白そうだから首を傾げてみただけですよと僕を見つめたまま笑いながら言った。
僕は僕で呆気にとられてポカンとしてしまう。
「ちょっと弄ってみたくなってつい。いやぁー新鮮でした。
魔王様と同じで弄りがいがありますね」
……えっ?……
……ってことは…………。
「『騙したのか!?』」
驚きのあまり叫んでしまった。
ノアは長い耳を手で押さえた。
余程煩かったのかな
まぁ自業自得だと思う。
でもまだ笑ってますよ。
この嘘つきめ!!
眉にシワを寄せて、
ノアを見る。
「……勇者さん。顔が怖いですよ」
「もとからこんな顔です。もういいから帰って下さいよ」
ため息混じりに言うとノアもへの字に眉を曲げて
「分かりました」
一礼して背を向ける。があっと思い出したのかまた振り向き。
「そこのクローゼットはお好きに使って下さいね」
微笑み後は紳士のような態度で後を出ていた。
それまでが酷かったけどね……。
ノアも出って行ったしとやっとくつろげる。上着を脱ぎ、聖剣も下ろす。
ラフな格好になってベッドにダイブした。
ポヨンとしてなかなかいい、すぐに睡魔に襲われそうになった。
が目に入ってきたクローゼットが気になった。
クローゼットはベッドの隣にある。
でもあのノアが素直に出ていたことがちょっと気になってたし、
去り際に"好きに使って"言っていたのだ。
「怪しいよな……」
重たい体を起こしてベッドから降りる。
恐る恐るクローゼットの前に立ち、
取っ手に手をかけて引く。
開かれて目にうつったのはただの服。
いや薄暗くて余り見えないだけど……。
不意に手に取って見ると、フリルの付いた白いワンピース。
「っ!!」
別の持ってみるが真っ赤なドレスや可愛らしいピンクのスカート
インナーまでもが薄ピンク、
タンクトップがあれど可愛らしい柄入りだし更にはミニスカまであるではないか!?
「どういうことだよ!!」
愕然とした。
確かに僕は女だけど!!今の僕は男で通っているし、第一に似合わない。
とりあえず……
見かなったことにしよう。
そんでもって明日ノアに一発殴っておこう。
うん。それがいい。
自分に言い訳をして勇者は眠りについた。