11話 迷惑な……
これまで一緒に旅をしてきた仲間。
魔王討伐のため、共に戦うと誓い。後ろを守ってきてくれた。
ときに途中で出くわしたモンスターや魔族は必ず必死に逃げ、殺さずをもっとうに一緒に居てくれた仲間。
その彼とは魔王城に入ったとたん空間が歪み僕は吹き飛ばされて、気がついたときには彼は居なく。
必死に探したけど見当たらなくて……。
僕たちは別々に別れてしまった。
もう後戻りも出来ず、不安を抱えながら進んで行くしかなかった。
(彼を……。
彼を知ってるってどいうこと!!)
僕は自分の手を強く握りしめ、手のひらが汗ばむ。
「どうして仲間のこと知ってるの?
途中で失踪したのに……」
「うーん。簡単に言うと保護した」
「……保護ってあの迷子とかのときに預かってくれる……あの施設?」
「そうそう。
それに勇者以外は俺の所に来れないようになってるからな」
「えっそれってつまり……」
恐る恐る聞くと、魔王がニヤリと口元を歪めて、
「そうつまり、もう引き離されることは決定事項ってわけだ」
その不適な笑みと魔王の言葉に僕は唖然となった。がすぐに心から沸々と怒りが沸き上がた。
(卑怯だ!!)
思わずにはいられなくて怒鳴りそうになったがなんとか堪えた。
「これでも理由があるんだぞ。
勇者と共に一行を生け捕るって言ったら言葉が悪いけど、生かして捕まえるためのだ」
「……殺さないの?」
「あぁ。俺は殺しが好かんな。って前にも言った気がするが。
でも、村まで作って保護してるからティオもそこにいるぞ」
優しい声で魔王に言われた。
驚きと共に怒りが覚めていく。
でも一つ疑問があった。
(さっきの笑みは何だったんだろう?)
魔王はニヤリとまた笑って、
「ただの悪戯だ」
「えっ今……心よっ読んだの?それに悪戯って」
「顔に書いてあった。
それに弄られるより、弄る方が面白いからな」
にこって笑う魔王が可愛らしくて、思わずきゅんっときた。が、言葉の意味を考え、その思考を振り払った。
(もう引っ掛かったりしないぞ!!)
僕が意思を固めていたときに、
「でもアンジュにお願いがあるんだ。もちろん、契約の後でいい」
さっきとは裏腹に困り顔で問いかけてきた。僕はちょっと思い当たるものの、自信がないから知らないふりおして……。
「えっ何?」
「その……ティオを止めてほしい。今大変なことが村で起きてて……」
喋りづらいのかためらいっているようなぁ。
しかも目を反らしがちに言っているけど……。
でも何か照れているようにも見える。
(気のせいかなぁ)
僕が首を傾げたときに。
「ティオが……」
「ティオが?」
「女性を口説き回っていて被害というか、迷惑というか……」
「……………はぁ!!!!」
「もう出会った女性にかたぱっしから声をかけてるらしくて」
「……あの馬鹿は!!ここまで来てまだ口説くか!!」
耐えきれず、バンッと勢いよく叩きつけて怒ってしまった。
一瞬だが魔王はビクッと肩を揺らした。がでもすぐ何事もなかったかのように僕を宥めるように微笑み。
「そんないきり立たなくても被害って言ってもそんな大きいもんじゃない」
「でも……」
「契約が終わったらちゃんとノアが案内してもらう」
大丈夫と魔王は笑って頷いた。ノアに向けてくるりと首を後ろに回し、
「頼む」
「かしこまりました」
ノアも了承していた。
「でもちょっとよろしいですか?」
「何だ?」
「実は勇者さんのお連れさんから伝言を預かってますので言ってもよろしいですか?」
ノアが一歩前に出て魔王に並び、たいした事無さそうに言うと魔王は振り返り。
「伝言?聞いてないが」
「はい。預かったのは今日の朝の事でその……言いそびれてしまいました。
申し訳ありません」
ノアが魔王に詫びをあげていたが、僕は僕でティオの事が気が気じゃなくて仕方なかった。
(いったいどうすれば1日で被害が多発すんだよ!!)
相方ながらに頭が痛くなる。
前から女たらしだとはわかってはいたけど。
自分がいないとここまで荒れるとは思ってもみなかった。
「で、伝言は?」
魔王が聞くが。つい僕も
「そっそうだよ!!内容はどうなの?」
「そんな急かさないで下さい勇者さん。
ちゃんと預かってますから」
ごほんっと声を調えてから一枚の紙を取り出し、
『親愛なるアッシュへ
俺はどうやらはぐれてしまったらしい。面目ない。
方向と魔法だけが取り柄な俺なのにな(笑)
うんで、迷った俺に親切な兄さんに会った!!
ノアって言ったかなぁ?
迷った俺を村に連れてってもらって、そのうちアッシュもくるって聞んだけど。
でも俺………。
恋の魔法にかかっちゃったみたい♡
もう、出会った彼女達が可愛くて、可愛くて。
それに……すげぇー美人さんだから口説きに行ってきます!!
もしダメでも根性で当たってくるよ★
だから、俺の恋路は邪魔しないで下さい。
アッシュはなにげにモテるんだから!!
本当邪魔しないでよね!
ティオより』
「はぁあ!!!」
ノアが読み終わると、同時に僕は叫び声をあげてしまった。
だって!!これいつも通りのあいつなんだもん。
情けなさ過ぎて正直、涙が出そうになる。
一緒に討伐しようって言ってたのになんでこうも離れただけで目的が違ってるんだろう?
僕はだただたティオに飽きれた。
魔王も伝言を聞いてから戸惑ってる様子で、
「えっとこれ……、本当に彼からなの?今までの魔術師の印象が違うけど……」
「……間違いなくティオです。この女たらし加減と、この口調は……」
「あぁ。そうなの」
魔王は魔王で納得したような、飽きれているような……。
気持ちは十分に分かるので僕と魔王はお互いに苦笑を交わした。
(でもここままじゃいけないよ)
僕は気持ちを引き締めて、「でも、このままティオを放っておけない!!今から連れてくる」と言おうとしたのにノアに遮られ、
「その必要はありませんよ」
「どういうこと?」
「どういうことだ?」
驚いたは僕だけじゃなく魔王もで、僕と声が重なった。
この驚き方からきっとこれも聞いてないんだと思うけど。
「実はもう捕まえてはいるので事実的には大丈夫ですよ。
まぁ危険人物だったからの対処ですが」
「「……」」
もともな対処でノアの仕事の手際さに感謝するよ。
ってか!!勇者一行の仲間が変態なのもどうなのかとも思うけど。
いやぁ前から思ってたけど……。
魔王は驚いていたがすぐに表情を戻し、
「でも、これで契約の話は落ち着いて出来るなアンジュ」
「まぁ確かに」
僕も頷いて見せた。
が、ノアは爽やかな笑顔で僕らに向け。
「こちらとしては焦れたいから早く契約進めてくださいね」
爽やかに見えてもどす黒オーラが見える気が……。
「わかってるよ」
魔王はへの字に口を曲げて答えていたが。
(何でも気付かないの!?)
この事に僕は軽く慌ていたが、でも口を開いたらまた余計な事を口走りしそうなので、口を固く閉じていた。
でも……。
思うんだ。僕は……。
(もうこんな城出ていきたい!!)
切に思う。