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5.美少女には苦労をさせよ(ただし限度がある)

 午後の授業も滞りなく終わり、解放感のある放課後を迎えられた。

 御堂さんの転校初日は、無事に過ごせたといっていいだろう。

 御堂さん自身が積極的な性格ではないようなので、質問されることは少なかった。

 だけど、とりあえず校舎の主要な場所への案内やクラスメイトの紹介などはできたので、“御堂さん係”として最低限の仕事は果たせたと思う。


 クラスの雰囲気も穏やかだ。

 最初は転校生のクール系金髪美少女に浮ついていたものの、あれからがっついて無用なプレッシャーをかける人はいなかった。教室の空気が落ち着いていたからか、御堂さんの緊張も少しずつ緩和されていたように感じる。

 このまま少しずつ慣れていけば、御堂さんも自分を出しやすくなるだろう。

 ポジティブに考えれば一歩前進できた。うん、順調順調。


「細川くん、どうやらまずいことになってしまったわ……」


 また明日から頑張ろう。そうやって清々しい気持ちで帰宅の途につけるかと思っていたのに、城戸さんの言葉で新たな緊張が生まれた。

 腕を組んで神妙な顔をする城戸さん。その様子に、何事かと身構えてしまう。


「あれを見て」

「あれって? って、何あの人だかりは!?」


 城戸さんが視線で指し示した方向を見てびっくりした。

 二年C組の教室の外は大勢の人でいっぱいになっていた。

 同級生だけじゃなく先輩や後輩もいるようで、しかも明らかに男子が多い。

 一体何事だ!? こんなんでどうやって帰宅すればいいんだよ……。


「いつの間に……ていうか、どうしてこんなにも大勢集まっているんだ?」

「転校生の存在は学校の一大ニュースよ。しかも超絶美少女ともなれば、こうなることは予想できていたわ」


 城戸さんはふっと、ニヒルに息をつく。

 そういえば、城戸さんも去年同じ目に遭っていたっけか。

「新入生に超絶銀髪美少女がいる」って噂になって大騒ぎしていたんだった。その時もこんな人だかりができていた気がする。


「美人だと苦労するのよね。わかるわー」


 城戸さんはやれやれと首を振る。


「経験者は語るってやつか」

「その分、ちゃんと得もあるけれどね」

「ちゃっかりしてるなぁ。城戸さんらしいけど」


 城戸さんは一年の頃から人気者ではあるけど、いつしか無駄に騒がれることはなくなっていた。

 本人が上手く立ち回ったとのことで「アタシはバランス感覚が上手いのよ」なんて言っていたっけか。俺には縁のない状況だから、そのバランス感覚とやらが何を差しているかはわからないけど。


「まあ、とりあえず御堂さんの様子を見守っておきましょうか」

「え、助けないのか?」

「御堂さんはあれほどの美人だもの。ああいった状況の切り抜け方くらい知っていてもおかしくないわ」


 美人の信頼度が高すぎる……。城戸さんはそうかもしれないけど、他の人が同じとは限らないと思うんだけど。


「安心して細川くん。御堂さんがアタシたちを頼るのなら、もちろんその期待に応えるつもりよ。でもね、最初から全部を手助けするのも違うと思うのよ」

「そうは言っても、御堂さんは転校してきたばかりなんだから……」

「細川くん、甘いわよ。甘々よ!」


 ピシャリと言われて、俺は口をつぐんだ。

 城戸さんは指を振りながら言葉を続ける。


「学校のルールを教えたり、知らない場所を案内することは大切だと思うわ。でも、人間関係までいちいち口を出すわけにはいかないでしょう?」

「うぐっ……」


 確かに……それは城戸さんの言う通りだ。

 教室の外で集まっている人たちだって、何も御堂さんを害そうってわけじゃない。

 それどころか転校生と仲良くしたいと考えているのだろう。

 そこに下心があったとしても、それこそその人たち同士の問題だ。部外者が接し方を口出しできる立場にはないのだ。

 というか、わざわざ教室に入らずに廊下で待っているのだ。そういったルールなんて誰も作っていないのに、最低限の境界線を守ってくれていると思えなくもない。

 それに木村を始めとした部活組はすでに教室からいなくなっていた。人だかりができてはいるが、通せんぼをしているわけではなさそうだ。


「……わかった。城戸さんの言う通り、見守ることにするよ」


 城戸さんは満足げに頷いた。

 美少女の苦労は美少女が知っている。

 俺には理解できようがないことだろうし、城戸さんの言い分の方が正しいんだと思う。

 さて、こんな状況で城戸さんと話し込んでしまったけど、当の御堂さんはどうしているんだろうか?

 御堂さんの席に目を向ければ、彼女は座ったままこっちをじっと見つめていた。

 何をしているんだろうか? 真っ直ぐ向けられる目からは、廊下にいる生徒の大群を意に介していないようにも見えるけど……。

 彼女はゆっくりと立ち上がって、こっちに近づいてくる。

 やっぱり人が大勢集まっているから戸惑っているのかな。俺は助けを求められる覚悟を決めて、御堂さんの言葉を待った。


「あの、レ……細川くん。それに城戸さん。今日はいろいろと教えてくださりありがとうございました」


 御堂さんがペコリと頭を下げて、上質な金髪が肩から滑り落ちてサラサラと流れる。

 日の光が丁度いい感じに入り込んでいるからか。キラキラと幻想的な光が見えたような気がした。

 それは教室の外から見てもそうだったのか、「おおっ……」といった野太い声が重なる。


「また、明日もよろしくお願いします……で、では、さようならっ」


 御堂さんはクールな無表情で別れのあいさつをして、何のためらいもなく教室の外へと出ようとする。

 あれ、それだけ? もしかして……俺たちに「さようなら」を言うためだけに、会話が終わるのを待っていたのか?


「何か策でもあるのかしら?」


 俺たちを頼るのかと思ったけど、あいさつだけして一人で行こうとする御堂さんに肩透かしさせられてしまった。

 でも、御堂さんだってこの人だかりが見えていないわけじゃないはずだ。

 城戸さんの予想した通り、きっとこの状況に慣れていて、策の一つや二つ用意しているに違いない。

 そう思って見守っていると、ついに御堂さんが教室の外に出た。


「君が転校生の御堂りおさんだよね?」

「良かったらサッカー部のマネージャーをしてくれませんか?」

「まずはお友達からお願いします! 連絡先を交換して、毎日友情を深めましょう!」


 御堂さんはあっという間に男子たちに囲まれてしまった。あれだけ目立つ金髪も、男子の壁で見えなくなった。

 この状況をどうやって切り抜けるつもりなんだ? 俺は囲まれて見えないはずの御堂さんの気配に集中した。


「え? え? えぇっ!? わ、私……私何かしましたか!?」


 俺の耳に聞こえてきたのは完全に戸惑っているだけの、か細い叫びだった。

 この反応……まさか、自分が原因で集まっていた人たちだったという考えすらなかったんじゃないか?


「ねえ、城戸さん」

「うん……」

「あれは……助けに行った方がいいんだよね?」


 城戸さんは錆びついた機械みたいにギギギと音がしそうな動きで俺に顔を向けて、こくんと大きく頷いた。

 その瞬間、俺は弾けるように駆け出した。御堂さんのもとへと突撃する。



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