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4.“御堂さん係”の距離感は難しい

 授業の内容に関しては、御堂さんの前の学校とあまり変わらないとのことだった。

 まずは一安心だ。先に進んでいたならともかく、遅れていたら追いつくのに時間がかかって大変だったろう。

 ただでさえ転校したばかりで、生活に慣れるのが大変なはずだ。

 御堂さんが少しでも早く学校に溶け込めるように、俺にできることならサポートしていきたい。


「えっと、御堂さん……お昼ご飯はどうする? 購買や学食を利用したかったら案内するけど」

「う、ううん……お弁当、持ってきてるから……大丈夫、です」

「そ、そっかー……何かわからないことがあったらなんでも言ってね」


 ……そう思っているのに、御堂さんとぎこちない会話しかできていなかった。

 一応男子代表として“御堂さん係”になったものの、その役割を果たしているとは言い難い状況だった。

 御堂さんから指名されたけど、その本人は俺に対して特別好意的というわけではなかった。

 無表情……というか緊張しているようで、表情や声が硬い。

 むしろ警戒されている? 人見知りからの緊張かなと考えたけど、その割には俺をじっと見つめてくる。

 心当たりがあるとすれば……やっぱり朝の満員電車で密着してしまったことだよなぁ。


 お互いに謝り合ったし、御堂さん自身もあれは不可抗力だったってわかってくれているとは思うんだけど。

 それでも感情が納得できるとは限らないのが乙女心なのかもしれない。

 俺からは決して御堂さんに触れていないし、痴漢をしようなんて考えは一切なかった。

 だけど、それは俺視点での言い分だ。

 御堂さんにとっては不可抗力とはいえ、男子と体を接触させてしまったのだ。その不快感は、きっと男の俺じゃ想像もつかない。


「レオー、いいのか?」


 悶々と考えながら教室で弁当を食べていると、対面に座っている木村が声をかけてきた。


「いいって、何が?」

「御堂さんのことだよ。ほら、一人ぼっちになってんじゃん」


 顔を向ければ、御堂さんは自分の席で小さくなって弁当を食べていた。

 御堂さんの周りに誰もいなかった。教室で食べている他のグループもそんな彼女に気づいてはいるようだったが、声をかけようとする様子はない。


「俺が余計なこと言ったから、みんな御堂さんを誘いづらくなったかな」

「いんや。御堂さんのあの感じを見てると、騒がしいノリがあんまり好きじゃないように見えるし。レオの言ったこと自体は間違いじゃなかったと思うぜ」


 木村が冷静にものを言う。午前の授業を挟んだおかげかテンションが落ち着いたようだ。


「だからって一人ぼっちが好きとは限らんだろ。転校してきた初日ならなおさらな」


 ズビシッ! と箸の先を俺に向ける木村。コラコラ、行儀が悪いぞ。

 だけど、木村が言いたいこともわかる。

 無理やりみんなの輪に入れるのは、御堂さんにとっては負担で、下手をすれば拒否反応が出るかもしれない。

 かといって、放っておいて孤立させるのも良くないよな。


「こういう時のための“御堂さん係”じゃねえの?」

「いや、ご飯を一緒に食べるんだったら女子同士の方がいいだろうよ。そのために城戸さんもいるんだしさ」

「城戸さんは購買に行ってるからいないぞー」

「え、なんで!?」


 今になって教室に城戸さんの姿がないことに気づいた。悶々と考えすぎて周りを見ていなかったみたい。


「バッカお前。今日は購買で数量限定の牛乳プリンが売ってる日だろうが」

「あー……」


 我が校に月に一度卸されている牛乳プリンは絶品だと有名なのだ。あまりの美味しさに、この牛乳プリンを目的に入学を希望する生徒がいると噂されるほどである。

 買う時は一人一個にもかかわらず、すぐに売り切れてしまうほど大人気なのだ。銀髪の美少女も、この日ばかりは狩人と化す。

 しかし、困った……。城戸さんに頼れないなら、俺が動くしかないか。

 自分から“御堂さん係”を提案したんだ。彼女の新しい学校生活をサポートするためにも、普通に話せるくらいの関係にはならないとな。


「じゃあ、行ってくる」

「おう、任せた。頑張れよー」


 木村に見送られて、俺は食べかけの弁当を持って御堂さんの席に向かった。

 小動物みたいに食事している御堂さんは、俺の接近に気がついていないようだ。声をかけて驚かせたりしないだろうか?

 一応、一定の距離を保ってから声をかけることにした。


「あのー、御堂さん」

「……何?」


 金髪を揺らしながらばっと顔を上げる御堂さん。声はそんな感じしないのに、動きだけ見たらものすごく驚いているみたいだ。

 じっと見つめられる。やや吊り目のせいか、ちょっと睨まれているように見えなくもない。怒っては……ないんだよね?


「良かったらなんだけど、一緒にご飯食べない?」


 頬が引きつらないように気をつけながら笑いかける。

 俺の顔はいろんな人から「平和顔」と言われているのだ。敵意がないことくらいは伝わるはず……だよね?


「う、うんっ。是非……どうぞ」


 御堂さんはあっさり頷いてくれた。彼女としても一人きりの昼食はいたたまれなかったのかもしれない。

 御堂さんの前の席の人の椅子を借りて、食事を再開する。俺が無言になってしまっては気を遣わせかねないので、担任やクラスメイトの紹介も兼ねて、みんなのことを話すことにした。

 これから一緒に過ごす人たちがどんな人か。すぐに覚えられるものではないだろうけど、少しずつでも知ってほしかった。


「細川くんって……誰かの好いことしか言わないんですね」

「え?」


 御堂さんの琥珀色の視線が突き刺さる。その感情までは読めなかった。

 あれ、もしかしてまずかった? まさか「良いことしか言わない奴は信用できません!」とか思われた?

 内心でうろたえていると、御堂さんは再び口を開く。


「細川くんの……大きいです。よく食べるんですね」

「え? ああ……弁当箱ね」


 急に話が変わったものだから、一瞬何を言われたか理解するのに時間がかかった。

 俺の弁当箱は大きい。クラスメイトの中でこれほど大きな弁当箱を持ってきている人はいないしな。

 御堂さんの弁当箱と比べたら、何人分あるのかわからないほどだ。そりゃあ面食らうよね。


「見た目通り、食べるのが好きなもんで」


 そう言って、ぽよんと腹を叩いてみせる。

 すると御堂さんが小さく笑ってくれた気がした。見間違いか? と、疑ってしまうほど微細な変化だったけども。


「よく食べる人……私は、す、好きですよ」

「そうなんだ。ありがとう」


 大食い番組にも需要があるし、御堂さんは食いっぷりがいい人を見るのが好きなのだろう。

 空気が柔らかくなったように感じる。御堂さんのことを少し知れて、クラスメイトとして距離を縮められたように思えた。


「レオくんと一緒にお昼ご飯を食べられるなんて、大きく前進しすぎたかも……っ」


 なぜか御堂さんがぐっと拳を握っていたけれど、きっと問題ないのだろう。

 朝の怒りが再燃して俺を殴りたくなったわけではないと……信じているからね!



  ◇ ◇ ◇



「細川くん、どうやらまずいことになってしまったわ……」


 放課後。城戸さんが重々しく口を開いた。

 彼女は顎を引いて真剣な顔をする。その表情からは事態の重さを嫌でも感じさせた。

 城戸さんの青い瞳が教室の外に向けられる。

 その視線の先には、廊下を埋め尽くすほどの生徒の大群ができていたのだった。



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