3.御堂りおは思い出を大切にしている
私は、人見知りが激しいコミュ障だ……。
自分でもこの欠点をどうにかしたいと思っているのだけど、人を前にすると身体が強張ってしまう。
まるでバトル漫画で巨大な気に圧倒されるモブキャラの如く。私の生存本能からくるであろう警戒心は、日常生活レベルで無駄に発揮されていた。
それがどれくらいのレベルかといえば、しゃべろうとすれば喉が引きつって、唇が震えてしまうほど。我ながらクソザコ陰キャすぎてつらい……。
そんな緊張しやすい私は、小学校の頃に男子からいじめの対象にされていた。
ひきつったような声を出すだけでからかわれて、挙動不審な動きでもしようものなら容赦なく笑われた。
それが怖くて、余計に声が出せなくなり、何をするのも怖くなってしまった。
女子は、わざわざ愛嬌のない私を助けようとはしなかった。そもそも友達がいなかったし……ちゃんとしゃべることすらできない私が悪いんだ……。
「待てよ御堂。遠藤くんがお前に用があるんだってよ」
ある日の放課後。帰り道を一人で歩いていると、私は突然複数の男子に囲まれてしまった。
まさかカツアゲか!?
漫画でしか見たことがなかった事態に直面すると、恐怖心が限界に達して指の一本も動かせなくなってしまう。
何人いたかは覚えていない。からかわれるのも笑われるのも怖くて、下ばかり向いていたから。
ただ「遠藤」という名前を聞いて無意識に身体を縮こまらせていたのは覚えている。
彼は身体が大きくて、クラスのリーダー的存在だった。私を率先していじめていたのも彼なのだ。
だから、私にとって彼は恐怖の対象でしかなかった。
「あ、あのさ……」
ヒィッ! お、お金は持っていませんよ! 学校は必要ない物を持って来てはいけない場所なんですぅ!
いじめっ子の声を聞くだけで、身体が勝手にピクリと反応してしまう。
そんなことですら笑われてしまいそうで……私は早く時間が過ぎてと、そう祈りながらぎゅっと固く目を閉じることしかできなかった。
「うぎゃああああああああーーっ! どいてどいてぇぇぇぇぇぇーーっ!!」
恐怖で縛られていた私を解放してくれたのは、そんな悲鳴じみた叫び声だった。
思わず顔を上げてしまう。この時ばかりは「からかわれてしまうかも」という考えが吹っ飛んでいた。
視界に映ったのは、坂道から転がってくる丸い……男の子?
何がどうなったらそうなるのか……男の子はものすごい勢いで坂道を転がりながら、こっちに迫ってきていた。
漫画じみた光景に、私は目が離せなくなっていた。
「な、なんだよあれ?」
「わわっ、こっちに近づいてきてる!?」
「に、逃げろっ!」
慌てて逃げ惑う男子たち。固まっているのは私と遠藤くんだけだった。
「実は、御堂に話が……あってさ」
遠藤くんは迫ってくる異変にまったく気づいていないみたいだった。注意力のなさが彼の弱点だと知った瞬間である。
「俺……御堂のこと──うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
まさにドッカーン! という音がしそうな勢いで、彼は転がってきた男子に跳ね飛ばされた。
その光景が私にはスローモーションに見えて……転がってきただけの男の子が、この最悪な状況を吹き飛ばしてくれる救世主みたいに見えたんだ。
「うわぁっ! 遠藤くーん!?」
「遠藤くんがデブに轢かれた!」
倒れた遠藤くんに駆け寄る男子たち。その慌てようを見て……性格の悪い私の胸はすっとした。
「だ、大丈夫か? 思いっきりぶつかっちゃったよな……本っっっっ当にごめん! いくらなんでも今のは俺が悪かった!」
遠藤くんを跳ね飛ばしてくれた丸い男の子は、痛そうな素振りすら見せずにぶつかった相手を真っ先に心配していた。
なんか良い人そう……。ていうか、ナイス体当たり!
心の中で感謝の舞を踊っていると、悪い空気になりそうなことに気づく。
「こ、このデブ!」
「デブのくせに遠藤くんになんてことすんだ!」
「デブなのに生意気だぞ!」
相手が私たちとそう変わらない年頃だとわかったからか、さっきの怯えようが嘘みたいに怒り出す男子たち。
「デブデブって何度も言わなくても……さすがに傷つくぞ」
丸い男の子はショックを受けていたけれど、それどころじゃないと思った。
このままじゃ、この男の子もいじめられてしまう。私を助けてくれたのに……そんなのは耐えられなかった。
「こっち!」
「え?」
私は男の子の手を取って駆け出した。必死すぎて、自分でもびっくりするくらいの大声が出た。
何か考えがあっての行動じゃない。ただ私を助けてくれた男の子が危ない目に遭う前に逃がさなければという気持ちでいっぱいだった。
「待てこらぁーーっ!!」
ヒィッ!? ムリムリムリムリぃーーっ!! 捕まったら死ぬぅ!!
いじめっ子たちが追いかけてくる。命の危機を感じて、私は一〇〇%中の一〇〇%の全力疾走で逃げた。
怖い……でも、なぜか同時に安心感も抱いていた。
それはきっと、私の手を握り返してくれる温かな感触があったからかもしれなかった。
──その後、私たちは無事に逃げ切れた。
そして丸い男の子……レオくんと話をして、私の心は救われた。あの日を境にいじめもなくなったのだから、私にとってレオくんは本物の救世主だ。
たった一日の……時間にすればたった数時間だけの出会い。
だけど私にとっては衝撃的で、輝かしくて……生涯忘れられない、大切な日になったのだ。
◇ ◇ ◇
そんなレオくんと、高校に転校して、運命的な再会を果たした。
(でも、どうしようっ! 私のこと変態って思ってないかな……っ)
再会した場所は、学校じゃなくて電車の中だったけれど……姿が成長して変わっていても、すぐに気づけた。
満員電車で仕方がなかったとはいえ、レオくんに抱きついてしまった……。
懐かしい匂いと感触で思わず浸ってしまっていたのだ。この安らぎを与えてくれる感じはレオくんみたいだなって思っていたら、本当に彼本人だったなんて……これが運命か!
それだけでも頭の中がいっぱいなのに、いざ転校したクラスがレオくんと同じで……私の思考回路は簡単にショートしてしまった。
運命様がバーゲンセールをしすぎて、レオくんへの接し方を見失ってしまったのだ。良いことがありすぎるとろくなことにならねえ……。
息をつく間もないまま、今度は大勢の新しいクラスメイトに囲まれて質問攻め……私のライフはもうゼロよっ!
こんな調子で新しい学校生活をやっていけるのだろうか?
そう心配しながら次の休み時間を迎えると、意外なことにまた囲まれるような事態にはならなかった。
「ねえ御堂さん。ちょっと提案があるんだけどいいかな?」
「あっはい」
一人だけ、私の席に銀髪の可愛い女の子が来た。
あまりの可愛さに「ほえ~」と口を半開きにしてしまう。これが陽キャの波動か……。
彼女は城戸唯花さん。どうやらクラスの代表として私に話しかけてくれたらしい。
「──というわけで、御堂さんが新しい環境に慣れるまで私ともう一人の女子でサポートしようと思うんだけど……どうかな?」
「あっはい」
やばっ……城戸さんに見惚れていて、ちゃんと話聞いてなかった。だってこの人、存在そのものがキラッキラしてるんだもん。
えっと……転校生の私にいろいろ教えてくれるってことでいいのかな? 本物の陽キャは優しいって本当だったんだね。
「私な……んかのために、わざわざありがとうございます……城戸さんはや、優しいんですね」
よし、ちゃんとお礼を言えた! ちょっと噛んだけど……偉いぞ私!
緊張する私とは対照的に、城戸さんは自然体で微笑む。か、可愛い~っ! ていうか眩しいっ! 浄化されるぅーーっ!
「違うの。これはね、細川くんが提案してくれたことなのよ」
城戸さんは「あっちにいるのが細川くんね」と教えてくれる。
そして私は、心の底から溢れ出る感情を爆発させてしまいそうになった。
「~~っ!?」
感情を声に出さないようにと、なんとか我慢できた。
教えてもらわなくても知っていた。
細川レオくん……大きくなっても、私は彼を見間違えることはなかったから。
(また、私を助けてくれるんだね……)
レオくんに気にかけてもらえたことが嬉しくて……ちょっと泣きそうになる。
小学生の頃……それも、たった一日だけの出会いだったのだ。きっと彼は私のことなんか覚えていないだろう。
だからこそ嬉しかった。覚えていなくても、私に手を差し伸べてくれるあの丸い男の子がそのままでいてくれたから。
「あの、城戸さん。ワガママを言ってもいいですか?」
「うん。遠慮しないでなんでも言ってね」
明るい笑顔が眩しすぎる! 陰の者には城戸さんの光は強すぎますって。
それでも、私の意思は変わらない。
「その、私にいろいろと教えてくれる人ですけど……レオく……じゃなくてっ、細川くんにもお願いできますか?」
レオくんみたいに、転がってくる勢いでというわけにはいかないけれど。
今度は私から近づいていきたい。だってレオくんは絶対に忘れられない……特別な男の子なんだから。
レオくんと再会できた偶然を、ちゃんと運命にするために。私は頑張りたかった。
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