20.大好きな関係(終)
「あ」
朝の満員電車で、その小さな声がやけに響いた気がした。
その声の主は金髪の女の子、御堂さんのものだった。押されるように乗車してきた彼女は、俺の腹に飛び込んできた。
初めて会った時以来となる電車でのエンカウントである。
「お、おはよう……レオくん」
「おはよう、御堂さん」
自然にあいさつを交わす俺と御堂さん。これまでのことを思えば、かなりの大進歩だった。
電車のドアがプシューと音を立てて閉まり、ガタンゴトンと動き出す。
「おっと」
吊り革に掴まっていなかった御堂さんはバランスを崩したので、俺の大きめの腹に埋もれていく。
わたわたと慌てていた御堂さんだったが、俺の腹クッションの心地良さに安心感を覚えたのか、リラックスした表情で力を抜いていく。まあいいけど。
「ご、ごめんなさい」
一応、謝る御堂さん。
だけど申し訳なさとかは感じられない。むしろ全力で俺に甘えているようにも見える。
「気にしなくてもいいよ」
俺のその一言で、御堂さんは笑顔の花を咲かせる。
眩しすぎる笑顔に、思わず顔を逸らす。まったく、美人は毒だ。
そんな美人さんに懐かれていて、嬉しくないと言えば嘘になる。
「……」
「……」
電車は進む。多少の揺れは俺のどっしりとした身体の前では無力だ。
御堂さんは俺の身体に身を預け切っている。
女子が男子相手にこれほどまで寄りかかれるのは、どれだけの信頼が必要なのだろうか?
未だに、御堂さんが俺に対して大きな信頼感を抱いている理由はわからない。
城戸さんは「細川くんだからねー」と笑っていたけど……ふくよかな方が安心感を抱かれやすいってやつか?
「御堂さん」
「なあに?」
おお……安心しきった顔で見上げられて……くっ、つくづく美人の破壊力はあなどれないな。
「制服、変わったんだなって思って」
「あ、うん……やっと新しい制服が届いたの」
見慣れたうちの学校の制服。
それを御堂さんが着ていると、とても新鮮に見えた。今まで転校前の学校の制服を着ていたから当然なんだろうけど。
なんか、ドキドキする……。
「に、似合ってるよ」
「ありがとう」
御堂さんははにかむ。こういうのは照れないんだ……。
なぜか今になって、密着しているのが気まずくなってきた。
ていうか御堂さん……油断しすぎだって! 俺とくっつきすぎだから! 腹だって感触が伝わってくるんだよ?
まあ、御堂さんが俺を痴漢と思うことはないだろう。そういう女の子だと、今は知っている。
俺たちは不可抗力の密着をしたまま、電車が目的地に辿り着くのを待った。
プシューと音を立てながら電車のドアが開く。
すぐに人の波に押されて外に出る。温もりからもようやく解放された。
「あっ」
「危ないっ」
バランスを崩してこけそうになった御堂さんの腕を、咄嗟に掴む。
「助けてくれて、ありがとう……」
琥珀色の瞳が、俺を見つめる。
「どういたしまして」
手を離すと、逆にその手を御堂さんに掴まれた。
「一緒に学校……い、行こ?」
「う、うん」
いや、会ったからには一緒に学校に行くつもりだったけど……手を取るのはなぜ?
歩き出そうとすると、思いのほか御堂さんの手に力がこもっていて、足を止める。
見れば御堂さんの顔が赤くなっていた。
今赤くなる場面だった? 手を繋いでるのは御堂さんからなのに……え、別の理由?
彼女の家に行った時の、御堂りおという女の子を見たからこそ考えが読み取れない。
「レオくん」
「ん?」
彼女は顔を赤くしたまま、満面の笑みを浮かべた。
「私、レオくんが大好き」
「うん……うん?」
え……えええええええええぇぇぇぇぇぇぇーーっ!?
唐突な告白に思考がフリーズする。
そんな俺の様子に気づかないのか、御堂さんはぐいっと手を引っ張って歩き始める。
「早く学校行こ」
御堂さんの顔は晴れやかだった。つきものが落ちたみたいな、スッキリした様子だ。
……あ、ああ! あれか! 友達として「好き」って意味ね!
なるほど……実際にやられると城戸さんの勘違いもわかるな。
「はぁ……御堂さん、ずれすぎだって」
「ん、何か言ったの、レオくん?」
「なんでもない」
俺と御堂さんは隣り合って歩く。
懐かしい手の温もりを感じながら思う。
友達というものは、たとえ面倒なものでも受け入れられてしまうんだな、と。
最後までお読みくださりありがとうございました!
俺たちのラブコメはこれからだ! ということで、これにて完結です。




