19.御堂りおは乱高下する
レオくんに避けられ、城戸さんに逃げられた翌日。
私は体調不良を理由に学校を休んだ。
昨日の精神的なショックが病人のように顔色を悪くさせていたのか、私の仮病に家族はあっさり騙されてくれた。部屋のドアに貼り紙をしておいた効果が出たのかもしれない。
部屋にひきこもって考える……私は何を間違ってしまったのかということを。
でも、いくら考えても答えは出なくて。気分転換にという名目でゲームをして、つらい現実を忘れようと努めていた。
「ふふ……人がゴミのようだ……貴様らが束になってかかってきても、私には敵わないんだよ」
私は淡々と、人型クリーチャーを銃で撃つ。はい、もちろんゲームの話です。
爽快感が欲しい時は無双要素のあるゲームに限る。
大勢の怪物を撃ちまくれる高揚感……リアルでは最底辺の私だけど、ゲームの中では最強なんだぞって存分にイキれる。
「ふぅ、今日も最高のプレイができたぜ」
一仕事を終えた風を出して、出てもいない額の汗を拭ってみる。
「この最高のプレイをみんなにおすそ分けしてあげよう。へへっ、私の美技に酔いなってね」
ノーダメでクリアしたプレイ動画を、動画投稿サイトに上げる。コメントが楽しみ。ネットという居場所は、私を褒めたたえてくれるから好きだ。
「……」
……いつもはこれで充実感で満たされていたのに、心にぽっかりと空いた穴は塞がってくれない。
「なんでかな……私、何しちゃったんだろ……」
あの優しかったレオくんに避けられてしまうなんて……私が悪いことをしたに決まっている。
だけど時間を置いてみても、やっぱり理由は思い当たらなくて……どうすればいいのか、解決方法が全然思いつかなかった。
これからどうしよう……城戸さんにまで嫌われて、きっと私にクラスでの居場所なんてない。
ベッドに横になる。
無音で薄暗闇の部屋。この狭い部屋が私の安息の地であり、外界の空気は私に合わなかった。
環境に適応できない生物は淘汰されていく……きっと私は、いずれ消滅する運命なのだろう。
目を閉じる。このまま世界とおさらばできたらいいのに……。いくらそう思ったって現実は変わらなくて。神様は残酷だと思い知らされる。
意識がぼんやりとしてきた頃だった。急なノックの音で目を覚ます。
「御堂さん起きてるかな? 俺……細川だよ。城戸さんと一緒にお見舞いに来たんだ」
え……レオくん!?
な、なんでレオくんがここに!? ちょっ、待って……えっと、えっと、えっと……どどどどうすればっ!?
と、とにかく部屋を片付けなきゃ……もうっ、なんでこんなに散らかってるのっ! 散らかしたのは全部私だよ、私のバカ!
「御堂さん、部屋に入ってもいい? アタシ……御堂さんと話したいことがあるのよ」
今度は城戸さんの声……。
昨日、彼女に逃げられたショックがフラッシュバックして、変な声を漏らしてしまう。
に、逃げなければ……私は布団の中に潜り込み、身を隠した。
……いや、こんなの隠れたうちに入らないって!
「入るわよ」
ドアの開く音で「ヒィッ」と喉の奥で悲鳴が上がる。
二人分の気配を感じ取る。緊張しすぎて見なくても人のオーラを察知できるようになったのか、どっちがレオくんでどっちが城戸さんかがわかってしまう。
「み、御堂さん?」
「……」
「おーい」
「……」
レオくんが話しかけてくれているのに、耳を塞ぎたくてたまらなかった。
せっかく優しくしてくれているのに……また何か失敗して、避けられるのが怖い……。
「御堂さん、ごめんなさいっ!」
今度は城戸さんの声。
どうやら昨日のことを謝っているみたい。彼女の声は優しくて、誠実さがあった。
「アタシ、御堂さんに『好き』って言われて嬉しかったわ。女の子に面と向かってそんなこと言われたことなかったから変な風に捉えてしまったけど……今はちゃんとわかってる。アタシは御堂さんと仲良くしたいの。だから……顔を出してもらえないかしら?」
だからこそ、信じられなかった。
胸の奥の何かが弾けて、勝手に口が動き出す。
「……嘘だ」
「え?」
「城戸さんは優しいから……私にトドメを刺さないように、嘘をついてくれているんだ……。大丈夫です……わかっています……わきまえていますから……。私は人の“輪”を乱す、禁忌の存在……。もう二度と外界には出ませんので、私に構わず皆さんは幸せになってください……」
口を動かせば動かすほど落ち込んでいって、最後の方は考えていなかったはずのことまで言ってしまった。
でも、きっと心の底ではそう思っていたんだ。自分は人の輪に入れないって。そういう存在じゃないんだって。
そして、私がいないのに幸せそうにしている人たちを、少なからず憎らしく思っていた。自分の心の狭さが露わになった気がして、涙が出そうになる。
「御堂さん、俺からも謝らせてほしい。昨日は冷たくして、無視するような真似をして……ごめんなさい」
レオくんの声。それだけで安心感が広がりそうになる胸を、力尽くで押さえる。
「でも、それは俺の都合を御堂さんに押しつけただけだった。勝手なことをしてごめん……全部、先走った俺が悪かった。だから、御堂さんは自分を責めないでほしい」
もう関わっちゃダメだ……そう決めようとしていたのに、レオくんの言葉であっさり手のひらを返したくなる。
布団の隙間から二人を確認すれば、レオくんも城戸さんも頭を下げたままだった。私が何も言わなくて、沈黙の時間が続いても、その体勢を続けていた。
やっぱり良い人たちなんだ……。悪気があって無視したわけでも、逃げたわけでもないのに、こんなにも本気で謝ってくれている。
「頭を上げて、ください……」
なのに、向き合うどころか顔を出さないのは失礼すぎる。私は心の中で「えいやっ!」とかけ声を上げて布団から顔を出した。
「私……迷惑じゃ、ない?」
二人にここまでさせておきながら、私の不安が完全になくなったわけじゃなかった。
これは自分でも卑怯だと思う。
レオくんに「迷惑なんかじゃないよ」って言ってほしくて、それだけのために尋ねた言葉だったから。
「もちろん」
予想通り、レオくんが力強く肯定してくれる。
「迷惑なんかじゃないよ。むしろ、俺は御堂さんが好きなんだ!」
「ぴゃっ……!?!?」
だけど、次の言葉はまったく予想もしていなかった。
考えるよりも早く、脳に直接衝撃を叩き込まれた。一気に顔が熱くなって、何も考えられなくなる。
ま、まさか……今がそういうイベントのタイミングってやつ!?
ここは「私も好き」って言った方がいいのか? たった一言でレオくんと両想いになれるとか……なんてお手軽なんだ!
今こそがチャンス……ここで行かなきゃ女が廃る! たった一言「私も好き」って口にするだけで、老後までずっとレオくんと一緒にいられるんだ!
言え……言うんだ私! 勇気を出すんだよ、御堂りお!!
「御堂さん、落ち着いて聞いて。今のは昨日、御堂さんが城戸さんに言った『好き』と同じ意味であって……決して不純な動機で口にした言葉じゃないんだ」
「……不純」
レオくんから出た「不純」という単語が、天元突破しそうになっていた私のテンションをあっさりかき消した。
そんな私を、レオくんは必死に説得してくれる。それがまた嬉しくて、下を向きそうになっていた顔を再び上げる。
レオくんが真剣に言葉を重ねれば重ねるほど、私の心が満たされていく。私はどうしようもないほどに彼を求めていた。
「どんな御堂さんでも、このでっかい腹で受け止めてやらあ」
そして最後に、ふくよかなお腹をぽよんと叩きながらそう言われて、昔のことを思い出して笑ってしまった。
ああ、やっぱり……レオくんが好きだ。
この日、私に正真正銘の友達ができた。しかも二人も。私の人生において最大の功績である。
「レオくんレオくん」
「ん、どうしたの?」
「あの……お腹プニプニしても、いい?」
「え……」
許可してもらえた。さっきお腹が揺れていたのを見てから触りたかったんだよね。
レオくんのお腹のプニプニは最高の感触だった。これが友達の特権か……最高すぎるっ!




