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17.言葉に誠意を込めて

「……これ、どう思う?」

「アタシ……御堂さんをそこまで追い詰めちゃったかしら?」


 御堂さんの部屋のドアに『入室禁止! この世の終わりにつき』という手書きの貼り紙がされている。

 このインパクトに戸惑わずにはいられない。

 御堂さんの現在の心境を想像してみても、俺なんかの考えが当てはまるとは思えなかった。

 城戸さんも自分を責めるというより、困惑の方が強いようだった。彼女にしては珍しく、あっけにとられたのか口をわずかに開けていたから。


「この世の終わりってのはさすがに……」


 この貼り紙を見た時の家族の反応はどんなだったんだろう?

 おじいさんはスルーしているというか……理解がある? のかな。心配はしているんだろうけど、深刻には考えていなさそうに見えた。

 しかも手書きというのがなんとも……書き殴っているような字が御堂さんの気持ちを感じる、とでも言えばいいのか。


「と、とにかくっ! 御堂さんは体調不良ではなくて、精神的なショックで学校を休んでしまった。なら、アタシたちのやることは一つよ」

「だね。これを見るに、かなり追い詰めてしまったようだから……丁寧に優しくいこう」


 俺と城戸さんはうんと頷き合う。背中に流れた冷や汗は無視した。

 俺は恐る恐るノックをする。


「御堂さん、起きてるかな? 俺……細川だよ。城戸さんと一緒にお見舞いに来たんだ」


 返事はない。

 けど、ドアの向こう側から確かな気配を感じる。ていうかドタバタって音が聞こえるんですけど。

 これ、どうすればいいのかな?


「御堂さん、部屋に入ってもいい? アタシ……御堂さんと話したいことがあるのよ」


 今度は城戸さんが優しく声をかける。

 するとドタバタとした音が止んだ。静かになったかと思いきや「ぎにゃあぁぁ」という、潰れたカエルのような呻き声が聞こえた気がした。

 城戸さんには聞こえなかったのか、真剣な様子で唇を引き結ぶ。さっきの声は本当に気のせいだったのだろう、たぶん。


「入るわよ」


 城戸さんが意を決してドアを開ける。

 女子の部屋に入ることに一瞬躊躇ったが、ここは行くしかない。何かあれば城戸さんがフォローしてくれるだろうし、心配いらないはずだ。


 カーテンが閉め切られた薄暗い部屋。足の踏む場所すらないとまでは言わないけど、けっこう散らかってるな。

 外見がクールで清楚な金髪美少女であるだけに、この部屋の惨状にはびっくりだ。

 肝心の御堂さんはといえば……いない?

 ……いや、それっぽい塊はあるのだ。それはベッドの上で布団を被り、まさにミノムシという表現がピッタリな状態だった。


「み、御堂さん?」

「……」

「おーい」

「……」


 ダメだ。呼びかけても反応がない。

 とはいえ、女子の布団を力尽くで引っぺがすわけにもいかない。

 どうしようかと悩んでいると、城戸さんが一歩前に出た。


「御堂さん、ごめんなさいっ!」


 城戸さんは勢いよく頭を下げた。薄暗い部屋でも銀髪が舞ったのが視認できた。


「アタシ……昨日は勘違いしちゃって、テンパって逃げちゃったの……。でもね、それは御堂さんのことを嫌いになったからじゃないわ」


 返事はない。布団の中から出てくる様子もない。

 それでも城戸さんは言葉を重ねる。


「アタシ、御堂さんに『好き』って言われて嬉しかったわ。女の子に面と向かってそんなこと言われたことなかったから変な風に捉えてしまったけど……今はちゃんとわかってる。アタシは御堂さんと仲良くしたいの。だから……顔を出してもらえないかしら?」


 城戸さんの切実な言葉。

 相手が布団にくるまっていても関係ない。真摯に頭を下げ続けている。

 城戸さんの必死な気持ちは伝わったはずだ。そう思っていた俺の耳に届いたのは、布団の深淵から響く震え声だった。


「……嘘だ」

「え?」


 城戸さんが顔を上げる。布団の隙間から、片目だけがギロリとこちらを覗いていた。

 昨日までの美少女オーラはどこへやら。その目からは深い闇を感じる。


「城戸さんは優しいから……私にトドメを刺さないように、嘘をついてくれているんだ……。大丈夫です……わかっています……わきまえていますから……。私は人の“輪”を乱す、禁忌の存在……。もう二度と外界には出ませんので、私に構わず皆さんは幸せになってください……」


 こじらせすぎだ! 想像以上に闇が深い。

 ……でも、それだけ御堂さんを追い詰めてしまったってことだよな。

 城戸さんが助けを求めるように俺を見た。気持ちはよくわかる。

 この状況を招いたのは俺だ。だから、俺がなんとかしなきゃいけない。

 布団に身を隠している御堂さんに、一歩近づく。


「御堂さん、俺からも謝らせてほしい。昨日は冷たくして、無視するような真似をして……ごめんなさい」


 俺は深く頭を下げる。


「……本当は、御堂さんがクラスのみんなともっと仲良くなれるようにと思って、あえて距離を置いていたんだ。城戸さんには俺がいない間のフォローをお願いしていただけで、彼女に責任はないんだ。悪いのは全部俺だ……俺の浅はかな考えが御堂さんを傷つけた。本当にごめん……っ」

「……」


 布団の塊がピクリと動いた。

 自分に「大丈夫だ」と言い聞かせて、さらに言葉を重ねる。


「俺、御堂さんに頼られて本当は嬉しかったんだよ。でも、俺ばかりに親しくするよりも、もっとクラスのみんなと仲良くできた方がいいかなって……そう思って、あんな態度を取ったんだ」

「レオくん……」


 布団の隙間から覗く目が、少し潤んだように見えた。


「でも、それは俺の都合を御堂さんに押しつけただけだった。勝手なことをしてごめん……全部、先走った俺が悪かった。だから、御堂さんは自分を責めないでほしい」


 しばらく沈黙の時間が続いた。

 俺は祈るように目を閉じて、頭を下げ続けた。


「頭を上げて、ください……」


 その沈黙を破ったのは、御堂さんのか細い声だった。

 言われた通り顔を上げると、御堂さんは布団から頭を出すところだった。ちょっとぼさぼさになった金髪が、かえって生活感があるように感じる。

 琥珀色の瞳に捉えられて、目が逸らせなくなる。


「私……迷惑じゃ、ない?」

「もちろん」


 食い気味に答える。

 俺はここが攻め時だと感じて、前のめりになってしまった。


「迷惑なんかじゃないよ。むしろ、俺は御堂さんが好きなんだ!」

「ぴゃっ……!?!?」


 御堂さんが変な声を漏らしたと同時に、ピシリッ! と空気が凍った。

 ……え、何この空気?



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