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16.友達のお見舞い

 昼休み。本日二度目の階段の踊り場に、俺と城戸さんは集まっていた。


「アタシのせいよね……御堂さんが学校を休んだの、絶対にアタシが傷つけたからよね……」


 城戸さんは御堂さんが学校を休んだという事実に責任を感じていた。

 こっちが心配になるくらい落ち込んでいる。心なしか彼女の銀髪の輝きがいつもより鈍くなっているように見えた。


「そうと決まったわけじゃないって。先生が言った通り体調不良かもしれないし。それに、仮にそうだったとしたら原因は俺にあるよ。そもそも御堂さんを自立させようって提案したのは俺なんだから」


 責任で言うなら、俺は城戸さんよりも感じなきゃいけない。

「御堂さんを自立させよう作戦」の立案者は俺だ。城戸さんほどの人が失敗したというのなら、それは作戦自体に問題があったということだろうから。


「とにかく、まずは御堂さんのためにできることを考えよう」

「アタシたちにできること?」

「うん。まずは昨日のことは勘違いだった。それを早く御堂さんに伝えた方がいいと思うんだ」


 朝のホームルームで先生が言った通り、本当に風邪を引いて休んでいるだけかもしれないけど、タイミングを考えると精神的ショックが原因のように思えてならなかった。

 城戸さんが逃げたことだけじゃなく、自惚れじゃなければ俺が御堂さんから距離を置いていたことも影響を与えてしまっていたのだろう。

 俺が余計なことをしたから、御堂さんを傷つけてしまった……。


「ちょっと! 細川くんが落ち込んでどうするのよ」


 バシッと背中を叩かれる。脂肪で衝撃を吸収したから全然痛くなかったけど、落ち込みかけていた気持ちを立て直すことができた。


「あ、うん。ありがとう城戸さん」

「しっかりしてよね。それで? 御堂さんにどうやって伝えるのよ?」

「城戸さんは御堂さんの連絡先を聞いていたりは……」

「ざんねんながら、まだね……」


 俺もである。

 御堂さんとは会話でいっぱいいっぱいだったというか、なかなか踏み込んだ話をできないでいた。

 他愛のなさすぎる話題しかなく、互いのことを全然話していない。あれ以来、満員電車での密着の件も話題に上がらないので、そのやり取りに正直俺が甘えていたところもある。


「でも住所は聞いているわよ」

「城戸さん、さすが!」

「でしょう?」


 希望を見た俺たちはハイタッチを交わす。静かな階段の踊り場に小気味の良い音が響いた。


「お見舞いがてら今日の配布物を渡しに行く。理由があれば無下に追い返されることはないだろ」

「優等生で“御堂さん係”のアタシたちなら、親がいても御堂さんと顔を合わせるくらいはできるはず……よね?」

「もちろんだ。御堂さんが本当に風邪を引いていたらお見舞いの言葉を」

「昨日の件が原因だったなら、勘違いしていたことを謝りましょう」


 俺と城戸さんは頷き合う。

 やることが決まれば不安にならなくて済む。俺たちは放課後の予定を詰めていくのだった。



  ◇ ◇ ◇



 御堂さんの家は、城戸さんが住んでいる場所に近いらしい。


「確かこっちの方だったはずだけれど……」


 城戸さんの案内に任せて歩いていると、木造平屋の一軒家が見えてきた。

 古びているが手入れの行き届いていて落ち着いた印象の家だ。

 ここに御堂さんが住んでいるのか……ちょっと意外。見た目からお嬢様っぽいイメージがあったから洋風の家屋を想像していたよ。

 俺たちはインターホンの前に立つ。


「い、行くわよ」

「お、おうよ」


 なぜだかものすごく緊張する。

 大丈夫だ。俺たちにはお見舞いに来たという大義があるのだ。正義は我々にあり!

 ……ていうか、城戸さんはいつチャイムを押すの?


「……細川くん、押しなさいよ」

「え、俺? 今のは城戸さんがチャイムを押す流れだったんじゃないのか」

「だって! 昨日の今日でどの(つら)下げて会えばいいのかわからないのよ」


 城戸さんは冷静さを取り戻しているかと思っていたけど、そうでもなかったらしい。涙目で睨まれても「仕方がないなぁ」という気持ちしか湧いてこない。

 それだけ昨日逃げ出してしまったことを後ろめたく思っているのだろう。真面目な人だよね。だからこそ信頼できるんだけど。


「わかったわかった。じゃあ俺が押すから」


 そう言ってチャイムを押した。ピンポーンという聞き慣れた音が小さく聞こえてくる。


「ちょっと! 心の準備ができる前に押さないでよ! こういう時はアタシが落ち着くのを待ってからでしょ!」

「はいはい、ごめんごめん」


 城戸さんの面倒くさいところが出てきた。そんな風にテンパってくれるから俺も冷静になれているところがあるんだけども。

 インターホンからの返事を待っていると、いきなり玄関のドアがガラッと開いた。


「うちに何か用か?」


 現れたのは厳格そうなおじいさんだった。鋭い眼光が俺たちに向けられて、緊張していたのを思い出したのか心臓が一所懸命に働き出す。

 御堂さんの祖父なのだろう。彼女の見た目を考えれば、純和風のおじいさんの姿に驚かされる。

俺たちは必死に「学校のクラスメイトで、配布物を持ってきた」こと。そして「体調を心配している」ことを伝えた。


「そうか、りおの友達か」


 おじいさんは厳格そうな顔のまま頷く。口調も抑揚がないから歓迎されているのかどうかも判断がつかない。

 おじいさんはくるりと背を向け、家の中へと入ってしまう。あれ、門前払いですか?


「何をしている? りおのお見舞いに来てくれたんだろう。早く入りなさい」

「あ、はい……お邪魔します」


 わ、わかりづらい。初対面なんだし、もう少し言葉にしてくれないとわからないって。

 そんなわけで俺たちは御堂さんの家に上がらせてもらった。


「……」


 御堂さんのおじいさんにビビってしまったのか、さっきから城戸さんが俺の後ろに隠れていた。制服の裾を掴まれると歩きづらいんですけど。


「あそこがりおの部屋だ。昨日からずっと変な調子でな。声をかけてもらえるとありがたい」

「変な調子って、かなり体調が悪いんですか?」

「さあな。だが、最近の子供は心のケアってのをしなきゃならないんだろう?」

「まあ、そうですかね?」


 おじいさんの言葉から、御堂さんが休んだのはやはり精神的なショックが原因っぽいな。

 おじいさんに案内されて、御堂さんの部屋の前に来た。


「ありがとうございます」

「俺は居間にいる。何かあれば声をかけなさい」


 おじいさんは端的にそれだけ言って、この場を後にした。

 なんとなく、御堂さんはおじいさんに似ているのかなと思った。表情が乏しいところとかそっくり。


「城戸さん、ここからが本番だよ」

「わ、わかっているわ」


 おじいさんの前では大人しくしていた城戸さんが、俺の隣に並び立つ。

 さて、御堂さんとちゃんと話せるか……。

 御堂さんの部屋のドアに『入室禁止! この世の終わりにつき』という手書きの張り紙がされているのを見て、一抹の不安に襲われてしまうのだった。



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― 新着の感想 ―
これは部屋の前でエッチな会話をして。。。
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