15.尾を引いている人たち
御堂さんから丸一日距離を置いてみたけど……想像以上に心が痛んだ。
嬉しそうに俺に話しかけてくれているのに、俺が用事があると知ると明らかに落ち込んでいた。
ほとんど表情が変わっていなかったのに、雰囲気にわかりやすいほど表れていたのだ。
その代わりに、城戸さんが御堂さんを女子グループに入れようと声をかけてくれていた。
今は俺が出しゃばるよりも、女子たちに任せていた方がいいだろう。城戸さんなら事態が悪くなることはないはずだ。
「細川くん! ちょっとこっちに来て! いいから早くっ!」
「え? え? ちょっ、何っ!?」
次の日。学校に到着して上履きに履き替えて、教室に向かっている途中で城戸さんにいきなり腕を掴まれた。
勢いのまま俺を引っ張る城戸さん。体重差が大きく開いているはずなのに引っ張られているだと!?
そのままいつもの人気のない踊り場に連れて来られた。
「き、城戸さん? 朝からどうしたの?」
「どうしたの? じゃないわよ! 緊急事態よ!!」
いつも朗らかな城戸さんが、信じられないほど動揺している。
何かトラブルでもあったのか? 昨日変わったことがあるとすれば、御堂さんへの対応をお願いした件くらいしか心当たりがないんだけど。
「御堂さんと何かあったとか? それなら昨日電話なりメッセージなりで教えてくれたら良かったのに」
「あ、あんなこと……電話やメッセージで軽々しく言えるわけないじゃないっ!」
城戸さんの白い肌が真っ赤になっていく。え、何その反応?
あの城戸さんがこんなにも動揺しているなんて……一体何があったんだ。ただならない雰囲気に自然と身構える。
理由を聞かせてもらおうと待っているのに、肝心の城戸さんがなかなか口を開いてくれない。さっきまでの勢いはどこ行った?
こちらから尋ねるべきだろうか。そう思って口を開きかけたところで、ようやく城戸さんが声を発した。
「……れたの」
「え、なんだって?」
難聴になったわけでも、意地悪で言っているわけでもない。単純に城戸さんの声が小さかったのだ。
彼女はわなわなと震えながら、もう一度声を絞り出す。
「だ、だから……こ、告白されたの!」
「……ん?」
えっと……誰に? というか御堂さんの話じゃなかったの? ていうか城戸さんなら告白され慣れているだろうし、今更なんで動揺してるんだ?
わざわざ俺に言う意味もわからなくて、首をかしげてしまう。
「あーもうっ! こういう時だけ察しが悪いんだからっ!」
城戸さんがプンスカ怒っていた。今日の彼女はやけに子供っぽい。
「アタシが、御堂さんに、告白されたのよっ!」
「ほ……?」
ほわい?
脳の処理が上手くできなくて、言語がバグってしまいそうだ。え、なんて?
「昨日御堂さんに言われたのよ……ハッキリ『好きです』って……。アタシ、女子に告白されるのなんて初めてだから、どうすればいいのかわからなくなっちゃって……」
「へ、へぇー……それで、返事はしたの?」
ごめん城戸さん。木村の恋バナよりも断然先が気になってる。
「だ、だって……アタシどうすればいいのかわからなくて……返事できずに、に、逃げちゃったのよ」
「逃げちゃったんだ」
見た目がクール系の金髪美少女に告白される銀髪美少女か……。想像してみると美しい光景に見えなくもないけど、当人はそれどころじゃないだろう。
「えっと、そもそもどうしてそんなことになったんだろう? 何か前兆でもあったの?」
「前兆って言われても……。あ……そうそう、御堂さんは細川くんのことも『好きです』って言っていたわ」
「俺もなの!?」
まさかの流れ弾が飛んできた。まったく想定してなかったから飛び上がりそうなほど驚かされる。
「あれ? それってつまり……御堂さんは二股をかけようとしているということ?」
「うん、城戸さん。まずは落ち着こうか」
俺も動揺しかけたけど、自分以上に混乱している人がいれば幾分かは冷静になれるものらしい。
あわあわしているレアな城戸さんが見られたこともあり、冷静に状況を整理することができた。
「それって、恋人的な“好き”って意味じゃなかったんじゃない?」
「ふぇ?」
「じゃないと城戸さんに告白して、俺にも好きって言うのはおかしいでしょ。たぶん友達として『好きです』って意味だったんじゃないかな?」
城戸さんは固まった。見事なフリーズっぷりである。
おそらく昨日の御堂さんとのやり取りを思い返しているのだろう。
さて、その答えはいかに……。
「あ、ああぁ……アタシのバカぁ……っ」
どうやら俺の想像が当たっていそうだ。
城戸さんは思い当たることがあったのか、頭を抱えてうずくまった。この様子だと昨晩は悩みすぎてまともに眠れなかったんだろうなぁ。
「まあまあ、これで悩みが晴れたってことだろ。教室に行ったら御堂さんに昨日勘違いして逃げちゃったことを謝ろう。それで解決。俺も一緒に行くから、な?」
「うん……ありがとう細川くん」
しょんぼりと頷く城戸さんがしおらしい。今朝からレアな彼女を見られてばっかりだな。
そうやって俺たちは、御堂さんの件を軽く考えていたのだ。
教室に入って御堂さんの席を確認したが、まだ来ていないようだった。
木村と雑談しながら御堂さんが来るのを待っていたのだけど、チャイムが鳴って朝のホームルームが始まっても彼女の姿はなかった。
「御堂は今日欠席だ」
担任が朝のホームルームで淡々と告げた言葉に、昨日のことで尾を引いているのは城戸さんだけじゃなかったのだと、俺はようやく思い至った。




