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14.御堂りおは盛大にやらかす

 天気デッキは最強である。

 知らない人に説明してあげよう! 天気デッキとは、とあるカードゲームのカテゴリー……ではなく、誰とでもできる話題のネタのことだ。

 天気の話なら老若男女、陰キャ陽キャ関係なく通じる話題だ。どんなに会話が苦手であろうとも、天気の話なら私でもできる!(←ここ重要)


 今までは会話の糸口すら見いだせなかったけれど、相手がレオくんなら大丈夫。安心して、ずっと一人回しするしかなかった天気デッキを、ついに開放することができた。

 これでたくさん会話することができる。約束された勝利の話題さえ使いこなせれば、私の高校生活は充実するはずだ。


「ごめん。今はちょっと……また後でね」


 ……そのはずだったのに、レオくんは私から離れてしまった。

 ま、まあレオくんだって忙しい時があるよね。うん、たまたま忙しい時に話しかけちゃった私が悪いだけ……だよね。

 そう、私は間が悪かっただけだと思いたかったのだ。

 だけど、悪い予感ほどよく当たるわけで……。


「レ、レオくん」

「ごめん。別のクラスの奴に呼ばれてて」


 次の休み時間に話しかけても。


「あ、あのレオく……」

「ごめん。先生に用事を頼まれてるんだ」


 昼休みに話しかけても。


「レオくんに話が……っ」

「ごめん。部活の助っ人を頼まれてるから行かなくちゃ」


 放課後に話しかけても、レオくんは私から逃げるようにして去ってしまった。


「……」


 いくら鈍い私でも気づく……。

 私は、レオくんに避けられている。

 どうして? 何か間違えちゃったのかな? 自分の今までの行動を振り返ってみても、答えは出なかった。

 そもそも正解がわかっているのなら、私はコミュ障なんてやっていないのだ。会話が苦手で、間違え続けてきたからこその私である。


「御堂さん、一緒に帰らない?」

「あっはい」


 城戸さんに話しかけられて、反射的に頷いてしまった。

 って、え……一緒に帰るの!?

 城戸さんは銀髪がとても綺麗で、宝石みたいな青い瞳をしていて、とてつもない美貌を持っている人だ。

 そんな人の隣に並ぶ? 学校の中だけならまだしも、こんな人とお外を歩いて大丈夫なんですか!? 私、通報されたりしませんよね!?


「御堂さんの家とアタシの家ってけっこう近いんだねー。引っ越してきたばかりならまだこの辺りのこと知らないでしょ? 案内しよっか」

「あ……はい。お、お願いします……」


 こ、断れないっ。城戸さんの笑顔を見たら断るなんてできないよ~。

 こんなにもいい人の提案を私が断れば「陰キャのくせに生意気だぞアーン?」って、みんなから袋叩きにされるに決まってる。


 ……城戸さんは気遣いをしてくれる人だ。

 私に対してこんなにも自分から話しかけてくれる人なんて、今までいなかった。

 大抵の人は、まともな返事ができない私を知ると呆れてしまうから。

 私なんかとしゃべっていると嫌気がさすだろうし、つまらないんだと思う……。

 女子校に行ってからはいじめられることはなくなったけど、友達ができないのは相変わらずだった。つまりはそういうことなのだろう。

 なのに、城戸さんは呆れずに私に話しかけてくれている。それも優しくだ。

 今日はレオくんに避けられていたから、城戸さんの優しさが身に染みる。……でも、あまり複数のグループに入れてほしくないなぁ。異分子が一人加わるだけで、空気がぎこちなくなっていくのを感じられて居た堪れなくなるから。


「御堂さん見て見て! このイヤリング可愛くない!」

「そ、そうですね。可愛くない……? ですね」


 えっと、それで……私はいつから城戸さんとアクセサリーを見ていたんだっけ?

 気がつけばキラキラしたアクセサリーが並ぶ店に入っていた。

 私には縁遠すぎて入ったことがない場所だ。陰の空気が薄すぎて酸欠になりそう……。

 近所の店を案内してもらっていたところまでは覚えているんだけど……私のデータに可愛いお店情報なんて皆無なものだから、情報の更新で記憶が飛んだのか?


「御堂さんはどんなのが好み?」


 城戸さんが小首をかしげて尋ねてくる。くっ、可愛いっ!


「いや、アクセサリー……つけたことがないので」

「そうなの? 御堂さん可愛いから似合うと思うな」


 陽キャはすぐに「可愛い」なんてお世辞を言うんだから。

 それも城戸さんレベルの美少女に言われると、余計に気を遣ってもらっているのだと思えてしまう。


「そんなことないです。私は普通……ですので」

「御堂さんレベルで普通だったらヤバイって」


 ヤバイ!? それって普通ですらおこがましいってことですか!?

 小学生の頃に容姿のことで散々からかわれてきたから自信ないのに……。極力鏡を見ないように過ごしてきたけど、やっぱり私の顔面は人を不愉快にさせてしまうのか?

 ああ……MPがどんどん削れていく……。帰ったらゲームして寝よう。うん、そうしよう。


「あら、疲れちゃったかな?」


 見れば城戸さんが困ったような顔をしていた。

 しまった。態度に疲れた自分が出ていたか。

 ああ、私はなんてことを……。城戸さんは私に気を遣ってくれていただけなのに。

 お世辞がなんだと気にしてどうするんだ。今更容姿のことなんか気にしたって仕方がないのに。そんなのどうでもいいじゃないか!

 こうやって私と一緒にいてくれる。それだけで充分嬉しいことなんだから。


「……もっと、のんびり歩こっか」

「う、うん」


 アクセサリー屋を出て、城戸さんと手を繋いで道を歩く。

 って……手!? なんかナチュラルに手を取られちゃったけど……私今、城戸さんと手を繋いでる!

 い、いいのかな? 学校でもギリギリだったのに、外でなんて……私、逮捕されたりしない?

 もう頭の中はしっちゃかめっちゃかだ。美少女の相手がこんなにも疲れるものだと知らなかったよ。

 私の思考がどうなっていようとも、足は止まらないわけで。城戸さんに手を引かれるがまま歩いていると公園に到着した。

 けっこう広い運動公園らしく、散歩やランニングを楽しんでいる人たちがいた。インドア派の私には縁のない場所だった。私、縁のない場所だらけだな。


「御堂さんは学校に慣れてきた?」

「ぼ、ぼちぼち……」


「ぼちぼち」ってなんだ? 自分で言ってて意味がわからないよ。もう少し語彙力がほしい……。


「ふふっ。レオくんには慣れてきたみたいだものね」


 ニコッと笑いかけてくれる彼女の顔を、私は直視できなかった。

 今日を迎える前までなら自信を持って頷けただろう。

 でも、今日のレオくんは私を避けていた……もしかしたら私をうざいって思ったのかもしれない。

 そう考えるだけで胸が締めつけられるみたいに痛くて……つらくて泣いてしまいそうだった。


「……」


 言葉が、出てこない。

 レオくんに距離を置かれてしまって、それをどうやって繕えばいいのかわからない。

 きっと悪いのは私で、でも理由がわからなくて……どうすればいいのか見当もつかなかった。


「ねえ御堂さん」


 城戸さんの優しい声が降ってくる。

 こんなにいい人を待たせるなんて私って奴は。せめて沈黙してしまったことを謝らないと。

 そう口を開きかけた私を、城戸さんの言葉が止めてしまった。


「焦らなくていいわ。御堂さんのペースでいいの。何を思っているのか、ゆっくりでいいから教えて? アタシはちゃんと聞くから」

「城戸さん……」


 なんて、いい人なのだろう……。

 きっと城戸さんは聖女なのだ。私がどんな罪人だろうとも、きっと彼女なら許してくれる。

 そう思うと、胸が少し楽になった気がした。

 おかげで考えが整理できそうで、気持ちも落ち着いてきた。

 すぐに話したかったけど、陰キャの喉は瞬発力に劣るようで、しゃべり始めるのに少し時間がかかってしまった。


「私、は」

「うん」


 最初からつっかえてしまったけど、城戸さんは優しく頷いてくれる。

 それに安心した私は、今思っていることを城戸さんにぶちまけることにした。


「私……レオくんが好きですっ」

「うん……うん?」


 一度言い始めてしまえば口が回るようで、次々と言葉が溢れてくる。


「私は今の学校に来る前にレオくんに会っていて、それが私にとって特別な思い出で……彼と再会できた時は運命だと思いました。だからずっとレオくんと一緒にいたくて、一緒にいたいって思っていたんですけど……今日はあまりしゃべれなくて、それがとても悲しくて……。レオくんが私から離れるなんて考えてなかったから、もうどうしていいかわからなくなっていて……っ」

「ス、ストップ! 御堂さん、ちょっと落ち着こうか」

「はっ!?」


 あれ、城戸さん戸惑ってる?

 しかも何か考え込んでいるような……。な、何かまずかった? もしかして変なことを口走った?

 そこで私ははっとした。


「城戸さん! 私、城戸さんのことが好きです!」

「え……ええぇっ!?」


 レオくんに避けられてしまったことは目下の悩みだ。

 でも、今私の目の前にいるのは城戸さんなのだ。

 どうせぶちまけるのなら、今いない人じゃなくて、私の話を聞いてくれている人への気持ちを話すべきだ。それが誠意ってものだろう。


「城戸さんは優しくて、可愛くて、こんな私にとても親切にしてくれて……ものすごく感謝しているんです」

「え、えっと……」

「だから!」

「ひゃうっ!?」


 繋いでいた城戸さんの手を、両手で包み込む。

 まずは城戸さんのことをちゃんと見ないと。

 こんなにも親切にしてくれる人なんていなかった。できれば、そんな城戸さんと友達になりたい。

 だから、私が城戸さんを好意的に見ているのだとちゃんと伝える。しっかり伝わるように真剣に彼女の目を見つめ続けた。

 お願い、私と友達になって! その強い意思を、目力に込めた。


「あ、あの……」


 城戸さんの顔がみるみる赤くなっていく。

 そして、私と見つめ合っていた目が……逸らされた。


「い、いきなりそんなことを言われても……こ、困るわっ!」

「あっ」


 城戸さんは手を振り払い、私を置いて駆け出してしまった。

 手を伸ばしても届かなくて……私は公園でぽつんと立ち尽くすしかできなかった。


「……」


 や、やってしまった!!

 タイミングが早すぎたのか? もうちょっと段階を踏んでいかなきゃいけなかったのか?

 私はまた……友達を作るのを失敗してしまったのか?


「レオくんに避けられ、城戸さんに逃げられ……私はどうすればいいんだ」


 呟いてみても答えが出るはずもなく。都合よく賢者が現れることもなかった。

 最初はレオくんがいるからと楽観視していたけれど、やっぱり私なんかに充実したスクールライフなんて送れるはずがないんだ……っ。

 こうして、私は決して訪れない青春に絶望して、灰となったのでした……完。



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