13.作戦会議
「なんで俺を一人にした!? なんでだよぉレオーーっ!!」
「うん……だからごめんて」
木村と御堂さんを二人にした後、木村にめちゃくちゃ責められた。
だって仲良くしたがっていたから……良い機会になるかなって。あ、胸倉掴まないで。体重差のせいで全然動かないんだけど。
しかし、これは問題だ。
実際にその場面を目にしたからこそ改めて思う。
木村だって、御堂さんが美少女すぎて恥ずかしくてしゃべれなくなった、というだけではないだろう。
実際にいろいろと話題を振ってみたそうなのだが、反応が全然返ってこなかったらしい。
しかも綺麗すぎる顔でクールにすましていたときたもんだ。俺の帰りがもう少し遅ければ「面白くない奴ですみません……」と謝ってしまうところだったとのこと。
コミュ力高めの木村ですらこの状態なのだ。心の弱い奴なら、御堂さんの不愛想さだけで心をポッキリ折られるかもしれない。
必要なのは御堂さんの心を開かせるほど圧倒的なコミュ力……ではなく、ちょっとやそっとじゃ心を折られないほどの強靭な精神ではなかろうか!
「で、アタシを呼び出したと?」
「城戸さんは図太そうだから、御堂さんを相手にしても大丈夫かなって」
「ふーん、細川くんって意外と言葉選ばないよねー……ぶっ飛ばすぞ」
「ご、ごめんなさい……」
笑顔には威嚇する意味があるのだと、実感として思い知った。
放課後に城戸さんと人気のない階段の踊り場で合流した。御堂さんについての話なら彼女以上の相談相手はいないだろう。
「まっ、確かに細川くんとそれ以外の人で態度が全然違うものね。アタシはまだマシな方だけど、笑いかけてもらったことはないし」
「城戸さんや他の女子でもそうなのに、俺にだけ親しげだと、そりゃあ勘違いもされるよなぁ」
そのことに御堂さん自身がまったく気づいていない。それがまた問題を大きくさせていた。
転校生、それも金髪の目立つ美少女ときたものだ。
そんな彼女が特定の男子だけに親しくしていれば、何か深い関係があるのだと思い込んでしまう人がいても不思議じゃなかった。
「むしろ細川くんは嬉しくないの? 可愛い女の子が自分にだけ特別なのって、男子ならみんな嬉しいものだと思っていたのだけど」
……嬉しくないと言ったら嘘になる。
でも、それ以上に心配の感情の方が強かった。
「前に城戸さんが言ってくれたけど、御堂さんが可愛いからこそ問題なんだよ」
「どういう意味?」
「城戸さんならわかるでしょ。可愛いからこそ注目される。それはクラスメイトのデブと仲良さそうにしているだけで噂になるんだ。もし今以上に変な噂を立てられたら……あまり良くないことになるだろ?」
城戸さんは壁に背を預けて、小さく嘆息した。
「そうね……細川くんが言いたいことはわかるわ」
新入生の時、城戸さんは今の御堂さんと同じように騒がれていた時期があった。
城戸さんの場合は彼女自身の力でなんとかできてしまったんだけど、同じ美少女として御堂さんの状況に思うところがあってもおかしくない。
「普通にしたいと考えていても、そう上手くいくとは限らないものね。どうしても周りの目を惹きつけてしまう容姿ならなおさら」
城戸さんの言う通りだ。
普通にしていても、注目されているせいで問題が勝手に大きくなることがある。
今の御堂さんならなおさらだ。みんなの目を惹いてしまう美少女が極端なことをすれば、どう思われるかわかったもんじゃない。
「だから俺は御堂さんと少し距離を取ろうと思うんだ。今のままじゃ、どうしたって俺を頼ってしまうだろうから」
頼られているなんて、自惚れにもほどがあると思う。
だけど御堂さんが俺を頼りに……いや、依存してしまっているのは否定できない。
今の御堂さんを見ていると、俺が学校を休んだだけでもパニックに陥ってしまいそうな危うさがあった。
「細川くんが距離を取る分、アタシに御堂さんのサポートをしてほしいのね?」
「話が早くて助かるよ」
御堂さんを俺だけに依存させるわけにはいかない。
彼女が本当にコミュ障だったとしても、なんとかなるはずなのだ。
この学校に度を越した悪い人なんていないし、俺の時と同じような態度を他の人の前で出すだけでも、歩み寄ってくれる人はたくさんいるはずだから。
特に同性の友達がいた方がいいだろう。男子相手だと、俺のような奴が相手でも変な噂が立ってしまう。
「そうね……今のままだと御堂さんのためにならないのかも……」
城戸さんは顎に手を当てて真剣に考えてくれる。この人もけっこう面倒見いいよね。
「わかったわ。細川くんの提案を受けてあげる。御堂さんもそろそろ細川くん個人だけじゃなくて、クラスに慣れた方がいいものね」
「良かった。苦労をかけるとは思うけど、御堂さんのことを任せるよ」
「いいわよ。同じ“御堂さん係”の仲じゃない。いつでも頼ってくれていいわ」
城戸さんがニコッと笑ってくれる。今度の笑みは安心させてくれるものだった。
◇ ◇ ◇
そんなわけで、次の日から「御堂さんを自立させよう作戦」が始まった。
作戦と言っても、俺が御堂さんから距離を取り、城戸さんにサポートしてもらいながら彼女の成長を見守るだけだ。
「あ、レオくん……お、おはよう」
「おはよう、御堂さん……」
登校して早速、御堂さんに話しかけられてしまった。接近が速すぎるっ! 金髪が目立って気づきそうなものなのに、肩が触れ合いそうな距離に近づかれるまで存在を認識できなかった。
いつもならこのまま他愛なさすぎる会話が始まってしまうんだけど……。
俺は素早く城戸さんにアイコンタクトを送る。すぐに気づいた彼女はうんと頷いてくれた。
「えっと、今日の天気は──」
「ごめん。今はちょっと……また後でね」
「え?」
会話が始まる前に、御堂さんから離れることに成功した。
「御堂さーん。こっちで一緒にお話ししようよー」
「あっはい」
すかさず城戸さんが、他の女子グループと一緒に御堂さんを誘ってくれる。
御堂さんは困惑した様子ではあったけど、城戸さんのグループに入ってくれた。よし、作戦通りだ!
御堂さんが俺だけにしか話しかけてこないから問題なのだ。
他に……それも女子の友達ができれば変な勘繰りもなくなる。そうなれば次第にクラスに馴染んでいけるだろう。
俺は御堂さんを見守りながら、自分の席に着いた。椅子に座ってから、前の席にいる木村が俺をじーっと見つめていたことに気づく。
「レオ? 何ニヤニヤしてんだ?」
「別に。御堂さんの明るい未来を想像していただけだよ」
「レオもけっこう御堂さんのこと好きだよなー」
「は……? バ、バカッ! そんなんじゃないってっ!」
木村は何を言ってんだ! そういうこと言うからみんなが勘違いするんだろうがっ!
「レオはもうちょっと自分の気持ちに正直になった方がいいぞ」
「何言ってんだ。俺はやりたいことをやってるだけだよ」
そうだ。これは御堂さんのためであり……俺が望んだことだ。
城戸さんに引っ張られて女子グループの輪に入って戸惑っている御堂さんを眺めながら、俺は自分に言い聞かせた。




