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11.御堂りおはイチャイチャしたい

 世の中の陽キャは、友達同士でイチャイチャしているらしい。


 お気に入りの漫画の評価をネットで調べてみたら、友達同士の絡みを「イチャイチャ」と表現していたし。

 リアルでも、女子校時代にクラスメイトが教室でイチャイチャしているのを実際に見かけていた。


「……」


 そういうのを思わず見つめてしまい、キモがられるのが常だった。視線が正直すぎる、悲しい陰キャの習性である。

 なぜ視線が向いてしまうのだろうかと考えて、私はイチャイチャしたい願望があるのだろうと思い至る。


 イチャイチャするということは、その人と親しいってことだ。

 きっと、あれが友達との適切な距離なのだろう。

 親しくなればなるほど距離が近くなる。考えてみれば当たり前のことだった。

 みんなが当然のように感じているであろうその近しい距離が、私には果てしなく遠く感じていた……。


「みんな、距離感ってやつをいつ学んでるんだろう……ATフィールドが見えてないのかな?」


 私は昔から引っ込み思案で、人の輪に入っていけなかった。

 どうしても気後れしてしまうというか……。私なんかが入って邪魔にならないかな? とか考えてしまい、いつだって一歩を踏み出せずにいたのだ。


「鬼ごっこしたい人、この指止ーまれ!」

「「「わーい!!」」」


 まだ幼い頃。

 みんなが笑顔で集まっているのを、私は離れたところから指を咥えて見つめているだけだった。

 私が入ってもいいのかな? 邪魔だって思われないのかな? 怒られたりしないかな? 私がいても、ちゃんと楽しいって思ってもらえるのかな?

 そんなことを、無邪気なはずの保育園時代から考えていたのだから、我ながら手に負えない。もしかしたら、あの遊びの誘いが私のラストチャンスだったのかもしれないのに。


 もし、あの時にあの指に手を伸ばしていたら……私の未来は変わっていただろうか?

 チャンスを逃した私は、誰かと遊ぶどころか人と接することすらせずに日々を過ごしていた。

 そうして長年のぼっち生活が板についてしまったのか、私にまともに話しかけてくれる人はいなかった。

 まともじゃない人を挙げれば、いじめっ子の男子たちくらいか……滅べばいいのに。

 二人組を組めと言われてもあぶれるし、グループを作ってと言われても先生の助けがなければ入れない……私みたいな生徒がいると先生は苦労するだろうな。


 わかってる…わかってはいるんだ。話しかけてくれるのを待っているだけじゃダメなんだって……。

 でも、自分から話しかける勇気がどうしても持てなかった。そんなもんが最初からあれば、教室で文学少女のフリなんてしないし、昼休みに人のいない場所を探して校内を徘徊なんかしない。

 私は人と関わるのが苦手だ。

 だって何をしゃべればいいかわからないし、しゃべるのも下手で「え、なんて?」と聞き返されるのが怖いし、何よりバカにされそうで怖かった。


 そんな私でも、友達を作ってイチャイチャしたい願望があるのだ。

 休日に誰かと遊びたいし、小粋なジョークで笑わせてみたい。そして「さすがは御堂さん!」って大勢の人から褒められたいっ!

 あれ、それってイチャイチャじゃなくてチヤホヤでは……?

 自分の気持ちに素直になるなら、どっちもされたい! 誰か私を誉めて!


 ともかく、転校したのは良いきっかけになるはずだ。

 きっと私が失敗しても、レオくんならなんとかしてくれる。


「消極的な自分とはおさらばだ……私は積極性のある女になるんだ……っ!」


 高校デビューには遅いけど、転校生としてなら再デビューが許されるはず……。

 後ろ盾を得た私に怖いものはない!

 そして、今度こそ友達をいっぱい作るんだぁーーっ!!



  ◇ ◇ ◇



 転校して二日目。私は早くもイチャイチャを体感していた。

 城戸唯花さんに手を繋いでもらったのだ。しかも彼女から積極的に、だ。

 これが陽キャか……イチャイチャまでの過程をいろいろとすっ飛ばしている気がするのに、城戸さんだから許されているのだろう。この綺麗な手で何人堕としてきたんだろうか?

 さすがは陽キャ中の陽キャだ。

 他の生徒とはオーラが違うように感じる。廊下を歩いているだけで人が道を譲ってくれる……き、気持ちいい~。

 手を繋いでいるおかげで、私も城戸さんと同じ目線で陽キャの世界を見られた。

 城戸さんにかかれば、私みたいな陰キャを簡単に陽の者にできるのだろう。銀髪が眩しくて仕方がない。一生ついて行きたいです。


「あっ、レオくん」


 教室に入るとレオくんと目が合った。

 城戸さんと手を繋いだおかげで気が大きくなり、私は普段の自分じゃ出せないであろう瞬発力で動き出していた。

 陽キャは積極性が大事……他の人には恥ずかしくても、レオくんなら絶対に怒ったりバカにしたりしないから安心して話しかけることができた。

 それでも緊張する……。心臓がバクバク鳴って、勢い余って口から飛び出そう……。

 下を向かないように身体に力を入れて、レオくんだけを見つめる。優しそうな瞳が、私を映しているように見えた。


「お、おはよう……っ」


 言った! 言えた! 言ってしまった!

 でも声が小さすぎたのだろう。レオくんは私を優しく見守ってくれているだけだった。

 たぶん失敗した……でも、やっぱりレオくんは怒ったりバカにしたりしなかった。

 ただ黙って私を見つめていてくれる。その安心感がリトライする勇気をくれた。


「レオくん……おはよう」

「あ、うん……おはよう、御堂さん」


 今度は、ちゃんとあいさつを返してくれた。

 この時の溢れんばかりの気持ちをどう表現すればいいのか……。感情が爆発してどうにかなりそうだった。

 あいさつをする。みんなにとっては小さな一歩かもしれないけれど、私にとっては歴史的な一歩だったのだ。


「よし……できた。私ちゃんとあいさつできた……っ」


 心の中でシャンパンファイトしながら喝采を上げる。勝者は私だ!

 私はやり切った自分を褒めまくりながら、そそくさと席に着く。

 レオくんと城戸さんのおかげで大きく成長できた気がする……ありがとう二人とも。私とイチャイチャしてくれて、ありがとう!



  ◇ ◇ ◇



 緊急事態が発生した……っ!

 本日最初の授業を終えてレオくんの席に目を向けたら、彼の姿が見えなくなっていたのだ。

 慌てて教室を見渡してみれば、城戸さんと二人で教室から出るところだった。よりにもよって城戸さんも!?


「……」


 私はパニックになった。

 今のところクラスでまともに話せそうなのが、レオくんと城戸さんだけだったのだ。

 その二人が同時にいなくなってしまうだと!? こ、心細くて仕方がない……。


「……」


 他のクラスメイトと仲良くなりたい願望がないわけじゃない。むしろ仲良くなりたい!

 そしてイチャイチャしたい! さらには褒めてもらいたい!!

 けど、レオくんがいないと失敗した時のことを想像して怖くなってしまう……。

 おかしなことを口走って変な空気にでもなれば大惨事だ。これ以上黒歴史を増やすわけにはいかない。

 一人ずつならまだなんとか……なるかどうかはわからないんだけど。大勢に囲まれることにさえならなければ大丈夫だと思いたい。あの状況は今の私じゃレベルが足りなさすぎる。

 早く~。二人とも早く帰ってきて~。一人は怖いよ~。


「…………」


 私は陰キャバリアを張った。

 話しかけないでオーラを全力で放つ。みんな私のオーラ量に震えろ!

 ……こういう時のために本でも持ってくれば良かったかな。小説は苦手だけど、自分の世界に入ってる感じが作りやすいんだよね。

 それか素数でも数えようか? 孤独な数字は私と相性がいいんだ。

 心の中であらゆる暇潰しを試していたら、ようやくレオくんが教室に戻ってきた。


「……っ」


 た、助かったぁ~。

 レオくんの存在を確認できて、私は心の底から安心した。

 陰キャ脱却は目標だけど、それはレオくんがいたからこそ生まれた選択肢だ。

 まだまだ彼がいないと私はダメそうだ……。お願いだから見捨てないでと、強く念を送らずにはいられなかった。



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これは陰キャの重症ですな〜
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