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10.好意の理由

 一時間目の授業を終えて、俺と城戸さんは人気(ひとけ)のない階段の踊り場にいた。

 呼び出されたのはもちろん、御堂さんの態度の変化についてだ。

 転校してきたばかりの美少女が、俺の時だけ笑顔になるなんて……城戸さんじゃなくても気になるだろう。


「つまり……細川くんと御堂さんが初めて出会ったのは、教室じゃなくて満員電車の中だったわけね?」

「はい……」


 俺は城戸さんに、御堂さんとの出会いを包み隠さず話した。

 不可抗力の密着をしてしまったことを……そして、なぜかそのことで御堂さんに感謝されてしまったことも、全部だ。

 城戸さんは直感が鋭い。下手に嘘をつくと後でとんでもない目に遭う気がしたのだ。


「うーん、なるほど……わからないわね」

「だよねー」


 電車での密着だけなら、不可抗力の事故というだけの話なんだけど。それをきっかけに御堂さんが俺に親しげに接してきた理由が繋がらない。


「逆に、満員電車で密着したことは関係なかったんじゃない?」

「御堂さんから切り出してきたのに? その事実を無視するのはさすがにできないって」

「そうなのよねぇ……。でも、だとしたらあの笑顔と『レオくん』呼びは何なのよ? 御堂さん、アタシ相手でも無表情なのに」


 それがわかっていれば俺だってこんなに戸惑っていない。

 俺と城戸さんは揃って「うーん……」と悩ましい唸り声を上げる。


「ていうか、城戸さんはよく俺の話を信じてくれたね」

「御堂さんと身体が接触しちゃったこと? もしかしてアタシに『痴漢だーーっ!』って責められると思った?」

「いいや、城戸さんはそういうのをちゃんと見抜いてくれると思っていたから、心配してなかったよ。他の奴だったらそうはいかなかっただろうけどね」

「そ、そう……」


 城戸さんは自分の銀髪を触りながらそっぽを向く。俺の考えていたことを外して恥ずかしかったのだろう。

 そんな彼女を見ないフリをしながら、俺は「だけど」と続ける。


「御堂さんの態度が変わりすぎて、そもそも話を信じてもらえるのかなって……だって密着したことを責められるかと思えば、感謝されて親しくなるなんて嘘みたいだろ」

「そうね。御堂さんが特殊な性癖でもなければあり得ないでしょう」

「……」

「……」


 特殊な性癖……か。

 転校してきたばかりで、俺たちは彼女のことをまだよく知らない。絶対にないとは断言できなかった。


「細川くんっ、へ、変なことを考えてはダメよっ!」

「か、考えてないって! というか城戸さんから言ったことじゃないか」


 俺は完全に無実である。

 特殊な性癖をさらけ出している御堂さんの姿とか……お、思い浮かべてなんかないんだからねっ!


「そもそも御堂さんが細川くんに好意的になる理由ならあるじゃない」

「え、何かあったっけ?」


 御堂さんに好かれる理由なんて全然思いつかないんだけど……。

 わかっていない俺に、城戸さんはやれやれと首を振りながら教えてくれた。


「昨日の放課後、大勢の男子に囲まれていた御堂さんを助けたでしょ? ああいうの、女子はキュンとくるものよ」


 言われて昨日のことを思い出す。

 同時に彼女の手の感触も思い出して……ほんの少し心臓の鼓動が速くなった。


「確かにそうかもしれないけど、助けてくれたのは城戸さんも一緒だろ?」

「もうっ! 身体を張ったのは細川くんでしょ。アタシはみんなの注意を引きつけただけなんだから。自分のしたことに少しは胸を張りなさいよ」


 納得し切れないけど、下手に反論すると怒られそうなので頷いておく。

 女子のピンチを助けて好意的な態度に変わる……。フィクションではよくあるシチュエーションだけど、何か引っかかるような気がする。

 都合が良すぎるというか、その割には御堂さんの感情が重く感じるというか……おっと、俺が「重い」なんて言ったら失礼だな。たしなめるように自分の腹を撫でる。


「あー……でも確かに。御堂さんが俺に対して親しげな話し方になったのはその後からだったかも」

「そうでしょうそうでしょう。アタシは乙女心をよくわかっているんだからね」


 ドヤ顔をする城戸さんだった。まあ、俺の下手な想像よりは信憑性が高いのは事実だろう。


「まっ、とにかく一人でも御堂さんと仲良くできる人ができて良かったわ」

「俺の方は戸惑っているままなんだけどね……」

「可愛い女子に懐かれたんだから役得じゃない。文句を口にするなんて贅沢よ」


 まあ、もしクラスの男子たちの前で文句を口にしようものなら、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃないもんな。みんな美少女に対して一喜一憂しすぎだろ。

 さて、そろそろ教室に戻らないと次の授業が始まってしまう。

 城戸さんが階段に足をかけたところで、何か思い出したかのように振り返る。


「そういえば、御堂さんのことでもう一つあるんだけど」

「ん?」


 城戸さんは重々しい口調で続ける。


「御堂さん……自分のことを可愛いと気づいていないみたいなのよ」

「……はい?」


 え、それって重要な話?


「よくわかっていないみたいな顔しているわね」


 城戸さんにじとーっと見つめられて、俺は思わず自分の顔を触って確認してしまう。木村にも言われたけど、そんなに顔に出やすいのか?


「わかっていないようだからハッキリ言うけど、重要な話よ。美人が自分の可愛さに気づいていないのは、けっこう危険なことなんだから」

「危険って……そんな大げさな」

「大げさなんかじゃないわよ。美人は人を惹きつけるけど、その全員に悪い人がいないとは限らないんだからね」


 冗談とかではないらしい。

 城戸さんの表情が真剣なものだったから、俺は茶化すこともできなかった。


「どうやら今まで女子校に通っていたみたいでね。たぶんそれで男子の目に鈍感なのよ。自分に向けられる下心にもまったく気づいていないみたいだったから」

「そっか。だから昨日の放課後も大勢の男子に囲まれて戸惑っていたのか」


 女子校に通っていたのなら、そういった経験がなくても不思議じゃない。

 男子そのものがいなかった環境なら、免疫がなくても当然か。


「だからね、細川くん。御堂さんのこと、注意して見ててあげてね」

「城戸さんはすっかり御堂さんの保護者が板についてるね」

「コラ、茶化さないの。それを言ったら細川くんだって“御堂さん係”なんだからね。言い出しっぺなのだから責任持ちなさい」

「うん、わかったよ」


 俺たちは今度こそ教室へ戻った。


「…………」


 教室に戻ると、無表情の御堂さんが凛と背筋を伸ばして席に座っていた。

 ただ座っているだけなのに、とてつもない存在感だ。金髪がきらめいていて、近寄りがたいほどの孤高のオーラを放っていた。


「……っ」


 そんな彼女と目が合う。

 すると御堂さんはニコッと可愛らしく笑った。


「なんかもう……御堂さんって細川くんのこと好きなんじゃないの?」


 俺の後ろから城戸さんがぽつりと呟く。

 そういう変に意識させるようなことを言わないでほしい。美少女のデリカシーどこ行ったんだよ。



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お世話好きな二人
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