第4話 0.01%という数字の意味
未来観測室は、相変わらず無機質だった。
白い壁。
白い床。
白い天井。
感情を持ち込むこと自体が、場違いに思える場所。
椅子に腰を下ろし、生徒IDを認証する。
モニターが静かに起動した。
《個人未来予測を開始します》
淡々とした電子音声。
心拍数が、わずかに上がる。
逃げ出したい気持ちと、確かめたい気持ちが、同時に湧いた。
――見ると決めたのは、自分だ。
画面に、項目が並ぶ。
進学。
職業。
健康。
寿命。
どれも、正直どうでもよかった。
視線が、最後の項目に吸い寄せられる。
【恋愛】
一瞬、呼吸が止まった。
タップする。
ほんのわずかなロードのあと、数字が表示された。
【恋愛成立確率:0.01%】
……それだけだった。
派手な演出も、警告音もない。
ただ、冷静な数字。
「……0.01、か」
小さく、呟く。
ゼロじゃない。
でも、ほぼゼロだ。
この世界では、0.01%は「誤差」に分類される。
実質的に、起こらない未来。
モニターの下に、小さな注釈が表示された。
《統計的に非推奨》
《感情的判断による選択は、将来の満足度を低下させる可能性があります》
AIらしい、親切な忠告。
「……余計なお世話だ」
思わず、笑ってしまった。
彼女の数字が、頭をよぎる。
【0.00%】
完全な否定。
可能性すら、与えられていない未来。
それに比べれば――
「0.01%なんて、十分だろ」
声に出すと、不思議と落ち着いた。
確率が低いから、選ばない?
AIが勧めないから、諦める?
それなら、最初から「選択」なんて必要ない。
椅子から立ち上がり、観測室を出る。
廊下の窓から、校庭が見えた。
いつも通りの風景。
何も変わっていない。
それなのに、世界が少しだけ違って見えた。
――彼女は、この数字を見て、全部を諦めたのだろうか。
胸が、締め付けられる。
だから、距離を取った。
だから、期待しないようにした。
だから、誰にも近づかなかった。
「……それでも」
立ち止まり、スマートフォンを取り出す。
迷いは、もうなかった。
【話したいことがある】
少し間を置いて、続ける。
【明日、放課後。屋上で】
送信。
数秒後、既読が付いた。
返信は、すぐには来なかった。
それでも、待てた。
やがて、短い返事が表示される。
【……分かった】
拒絶じゃない。
それで、十分だった。
0.01%。
取るに足らない数字かもしれない。
でも、僕はもう知っている。
未来は、確率で決まるものじゃない。
――選ぶか、選ばないかだ。




