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第1話 未来を見るか、見ないか

 未来を見るのは、たぶん――誰だって怖い。


 高校の校舎の一番奥、関係者以外立ち入り禁止の表示があるその部屋は、《未来観測室》と呼ばれていた。

 白い壁、白い床、白い天井。どこか病院の診察室にも似ている。


 中央に置かれているのは、一脚の椅子と、正面の大型モニターだけ。

 そこに座って生徒IDを認証すれば、自分の人生の予測結果が表示される。


 進学先。

 適性職業。

 平均寿命。

 そして――恋愛。


 この学校に入学した全員が、例外なく一度はここを訪れることになっている。

 見るか、見ないかは自由だ。


 僕はまだ、見ていなかった。


「……まだ、決められない?」


 静かな声が、横から聞こえた。


 視線を向けると、同じ制服を着た少女が立っていた。

 黒髪を肩の少し下まで伸ばし、無駄な装飾のない眼鏡をかけている。

 表情はほとんど動かない。


「うん。まあ……そのうち」


 曖昧に答えると、彼女はそれ以上踏み込んでこなかった。


「無理に今、見る必要はないよ」


 慰めでも、急かしでもない。ただ事実を述べているだけの声。


「見ないままでも、卒業はできるし」


「……君は?」


 そう聞くと、彼女は一瞬だけ視線をモニターから外した。


「私は、もう見た」


 その答えに、胸の奥がざわついた。


「怖くなかった?」


 思ったより素直な質問が、口から出ていた。


「怖くなかった、とは言えないかな」


 でも、と彼女は続ける。


「知ってるか知らないかの違いだよ。結果は、どうせ変わらないから」


 その言葉が、なぜか胸に引っかかった。


 どうせ変わらない。

 そんなふうに言い切れるほど、未来って単純なんだろうか。


「……そうかな」


「そうだよ。このAI、外れたことほとんどないし」


 《未来適性観測AI》。通称、フォーサイト。

 人生の可能性を、高精度で予測するシステム。


「じゃあ、見た結果に納得してる?」


 その瞬間、彼女の視線がほんのわずかに揺れた。


「……納得、というより」


 小さく息を吐く。


「諦めがついただけ」


 妙に大人びた言葉だった。


 モニターには、まだ僕の生徒IDが表示されたままだ。

 ワンタップで、未来は開示される。


 けれど、指が動かない。


「無理に期待しない方が、楽だよ」


 忠告のようで、独り言のような声。


「期待しなければ、裏切られないから」


 どうして、そんなことを言うんだろう。


 そのときの僕は、まだ知らなかった。


 彼女が――

 誰とも結ばれない未来を、すでに知ってしまっていることを。

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